元徴用工訴訟

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徴用工訴訟問題(ちょうようこうそしょうもんだい、英: Wartime labor)は、第2次世界大戦中に朝鮮半島から日本工場炭鉱などに労働力として、集められた人々を「徴用工」と呼んでいる。労働力には企業を通じた募集された場合と、国民徴用令を適用した動員とがあった。なお日本の外務省は「旧朝鮮半島出身労働者問題」と呼んでいる。

概要[編集]

日本が1910年(明治43年)から1945年(昭和20年)まで朝鮮半島を植民地にしていた時代に、募集または徴用により日本で労働を強いられた、として韓国人の元徴用工やその遺族らが日本企業などに賠償を求めた訴訟である。

判決は原告側勝訴となり、日本企業の資産売却に向けて韓国司法が手続を遂行しているが、日韓関係重視の保守派の尹錫悦政権は政治解決を模索している。しかし、原告側はあくまで日本企業の資産売却遂行を求めており、政権交代で国内問題に転化することも予想される。

日本政府の立場[編集]

昭和40年(1965年)の「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定」(日韓請求権協定)は、請求権に関する問題が完全かつ最終的に解決されたとしている[1]。そして、日韓請求権協定は署名日以前に生じた全ての請求権について、いかなる主張もすることができないことを定めている。韓国大法院の2018年10月30日及び11月29日の地判決は、1965年の日韓請求権協定に明らかに反しており、日韓関係の法的基盤を覆すのみならず、戦後の国際秩序への重大な挑戦であると日本政府は言明する。

日本政府は新日鉄住金(現日本製鉄)訴訟の原告側が申請した同社の資産差し押さえの効力を韓国地裁が認めたため、日本政府は強く反発し、日本企業が不利益を被らない措置を韓国政府に求めている。

対日請求要綱と議事録[編集]

1965年(昭和40年)に締結された日韓請求権協定の交渉過程における、当時の議事録を外務省は2019年7月29日に公表した。要綱には元徴用工らへの補償請求が明記されていた。日本側代表が個人への支払いとするかを確認したところ、韓国側は韓国が日本に請求して韓国国内では国内措置を取ると言明した。当時、韓国に供与した5億ドルには、徴用工分の支払いも含まれているとした[2][3]

なお、韓国政府は過去に2度、元徴用工らに請求権協定を踏まえた個人補償を実施している。朴正熙政権は2年間で8万4千人余りに現金を支給した[4]。盧武鉉政権も2008年以降に追加支払を行った。

韓国大法院等の判決[編集]

2018年10月30日及び11月29日,韓国大法院(最高裁判所)は、日本企業で70年以上前に働いていた旧朝鮮半島出身労働者の請求を認め,複数の日本企業に対し,慰謝料の支払を命じた[5]。2018年10月30日の判決では、「日帝強制徴用損害賠償請求事件」13名全員の合議体判決は11対2であった。多数派は個人の請求権は韓国で被告(新日鉄住金)を相手に訴訟を提起することはできるとした。少数意見の2名は国家間協定の韓日請求権協定に基づいて原告、すなわち個人の請求権も権利の行使が制限されるとし、企業に代わって韓国政府が補償すべきであるとした[6]2018年11月29日、韓国大法院2部(主審パク・サンオク大法官)は11月29日、故パク・チャンファンら強制徴用被害者と遺族23人が三菱重工業に対して起こした損害賠償請求訴訟で、各8000万ウォンを賠償するよう命じる原審を確定させた[7]

2019年1月11日、ソウル高等裁判所民事第19部は「イ」が日立造船を相手取って起こした損害賠償訴訟で5000万ウォン(約480万円)を賠償せよ」と判決を出した。日立造船は消滅時効が完了して損害賠償責任がないと主張したが、「消滅時効の完了を主張して不法行為による損害賠償債務の履行を断るのは信義誠実の原則に反する権利濫用」であるから許されないと判示した[8]

大法院の判決は、そもそも日韓請求権協定の範囲内に、元徴用工らの加害企業に対する慰謝料請求権は含まれていないとしている。そのため、外交保護権の放棄もしていないという判断となっている。

徴用工差別はあったか[編集]

徴用工を含めた朝鮮半島出身労働者の賃金体系を研究する韓国・落星台経済研究所の李宇衍研究員は、当時の炭坑の賃金台帳などから朝鮮人と日本人の賃金格差はなく、むしろ優遇されていたと指摘する[9]。ジュネーブの国際連合欧州本部で7月2日開催のシンポジウムで発表した。

元徴用工訴訟に関する経過[編集]

2012年[編集]

  • 5月 - 元徴用工が新日本製鉄と三菱重工業をそれぞれ相手取った訴訟の上告審で、韓国最高裁が1965年の日韓請求権協定では個人請求権は消滅していないと判断し、原告敗訴の両訴訟を高裁に差し戻す。

2013年[編集]

  • 7月 - ソウル高裁が新日鉄住金に、釜山高裁が三菱重工に、それぞれの差し戻し審で賠償命令判決を下し、両社は上告する。
  • 12月 - 判決確定による日韓関係悪化を懸念した当時の朴槿恵大統領の指示で、大統領府や最高裁の幹部らが判決遅延などを協議する会議が開かれたとされる(2018年に韓国メディアの報道による)。

2018年[編集]

  • 10月27日 - 韓国検察が最高裁の所属機関である法院行政所林鍾憲次長を逮捕する。
  • 10月30日 - 元徴用工らが新日鉄住金に損害賠償を求めた訴訟で、韓国最高裁が賠償を命じる初の確定判決が下る。
  • 11月13日 - 韓国の李洛淵首相が対応をめぐり、日韓関係専門家らの意見聴取を行なう。
  • 11月29日 - 韓国最高裁が三菱重工業に元徴用工らへの賠償を命令する。
  • 12月4日 - 新日鉄住金を訴えた原告側が同社に協議要請する。12月24日までに無回答ならば年内に資産差し押さえ手続きに入ると表明する。
  • 12月14日 - 文在寅大統領が訴訟問題をめぐり、「両国民の敵対感情を刺激しないような慎重かつ節制した表現が必要である」と強調する。
  • 12月20日 - 元徴用工や遺族合計1103名が韓国政府に対して補償を求めて提訴する。
  • 12月24日 - ソウルで日韓協議。新日鉄住金側が原告側が設定した回答期限までに回答せずに迎える。

2019年[編集]

  • 1月2日 - 2018年末に新日鉄住金の資産差し押さえ手続きに着手したと原告代理人が表明する。
  • 1月6日 - 差し押さえに向けた動きへの具体的措置の検討を関係省庁に支持したと安倍晋三内閣総理大臣が発表する。
  • 1月8日 - 大邱地裁浦頂支部が差し押さえ申請を認める決定をしたと表明する。
  • 1月9日 - 日本が日韓請求権協定に基づく政府間協議を韓国に要請するが、韓国は回答せずに終わる。
  • 1月24日 - 韓国検察が梁承泰・前最高裁長官を逮捕する。
  • 5月20日 - 日本が第3国の委員を含む仲裁委員会の開催を韓国に要請するが、韓国は回答せずに終わる。
  • 6月19日 - 韓国が日韓両国企業の出資を柱とした解決案を提示するが、日本側は拒否する。
  • 7月2日 - 原告の支援団体は、日本製鉄(旧新日鉄住金)の資産売却が早くて12月になる見込みを示した[10]
  • 7月16日 - 韓国政府高官は日本政府が求めている仲裁手続きに応じない意向を示した[11]
  • 7月23日 - 元徴用工訴訟の原告側弁護団が三菱重工業の資産売却を裁判所に申請した[4]。三菱重工業の商標権と特許権の売却手続きを進めるものとみられる。
  • 8月 - 日本政府が韓国をホワイト国(優遇対象国)から外すことを決定。
  • 12月 - 韓国の文在寅大統領と安倍首相が中国成都で会談し、韓国の責任で元徴用工問題の解決策を示すように求める。

2020年[編集]

  • 6月上旬 - 韓国の地裁支部が資産差し押さえ命令に関する「公示送達」の手続きを開始する。

2022年[編集]

  • 4月18日 - 三菱重工業が手続き無効の再抗告を提起。
  • 7月 - 尹錫悦政権に交代した韓国外務省が問題解決に向けた政府の取り組みを説明する意見書を最高裁に提出。
  • 8月25日 - 「韓日歴史正義平和行動」が、早期の日本企業資産現金化を求めデモ行進。

2023年[編集]

  • 1月12日 - 韓国外務省が韓国企業出資の財団による補償金肩代わりの公開討論会を開く。一方、元徴用工の一部およびその支援者は、当事者の日本企業による補償金支払いと日本政府の直接の謝罪が必要として、討論会に参加せず、政府案に反発して街頭デモを実施。

関連項目[編集]

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