知床観光船沈没事故
知床観光船沈没事故(しれとこかんこうせんちんぼつじこ)は、令和4年(2022年)4月23日に北海道の知床半島沖(カシュニの滝付近)で発生した遊覧船の事故である[1]。
概要[編集]
2022年4月23日午後1時13分ごろ、「知床遊覧船」が運航する小型観光船「KAZU 1(カズワン)」の乗員から「船首部分が浸水し、沈みかかっている」と、救助を要請する118番通報があった[2][3]。船は北海道斜里町の知床半島西部沖を航行中であった[2]。第1管区海上保安本部(小樽市)によると、乗っていたのは子ども2人を含む乗客24人と乗員2人の計26人[2]。海上保安庁などが現場海域を捜索しているが、23日午後9時30分現在、観光船は消息を絶ったまま発見されておらず、乗員・乗客26人は行方不明となっている[4]。
また、このうち14人が見つかったが、その後死亡が確認された(子ども一人を含む )[5]。
遺体がロシアの領海(北方領土方面)に流された可能性もあるとされるが、この事故はよりにもよって2022年のウクライナ軍事侵攻の真っ只中に発生しており、よって関係が悪化しているロシアと協力して遺体を探すことは難しいと見られていたが、ロシアは遺体の捜索に関しては日本側に了承の返事をしている。
5月24日、カズワンは水深120メートルから20メートルまで引き揚げられたが、再度海中に落下して沈没。今度は以前より深い水深180メートルの海底に沈んだという。
5月26日、専門業者日本サルヴェージは、曳航中に落下したカズワンを釣り上げた。
6月1日朝、カズワンが網走港で陸揚げされ、同日午後に献花を希望する乗客家族に公開された。なお、船底の左側後方に亀裂のような損傷があることも判明している。
事故に対する疑問、あるいは異常な点[編集]
この事故には様々な疑問点が指摘されている。数が多いので注意する事。
- 事故を起こしたKAZU Ⅰは、午前10時に出航して午後1時に帰港する予定だった。つまり3時間の予定だったはずなのだが、乗員から最初の連絡があったのは午後1時13分と3時間を過ぎており、この時点でおかしい。仮に事故を起こしていなくても、3時間が過ぎて帰港していない時点で、会社は何も対処してなかったということになる。
- 事故前後当時の現場海域は約3メートルの高波と強風で、地元漁業者が操業を見合わせたほどである。地元漁業者の多くは出漁せず、漁業者の1人は「しけるのが分かっていたから、みんな早めに漁をやめて帰ってきた。それなのに観光船は出て行き、ちょっと無謀ではと思った」と話している。当時は沖合から知床半島に向かって風が吹いており、危険性を指摘する声もあった。観光船は滝などを見せようと、沿岸近くを航行することがあり、知床で観光船を運航する会社関係者は「岸に近いほど波が高くなって危険。まさかこの天気で船を出すなんて」と明かしたほどである。
- 今回、事故を起こしたKAZU Ⅰの54歳の船長の男Aは、過去に2回も事故を起こして業務上過失往来危険の容疑で書類送検されている。1度目は2021年5月に浮遊物に衝突する事故(乗客3人が軽傷)、2度目は6月11日に航行中に座礁し、自力で港に戻るトラブルを起こしている。
- 観光船を運行する同業者は当日の朝、KAZU Ⅰの船長Aに出航をやめるよう進言し、Aは「はい」と答えたにも関わらず、出航したという。
- 2021年6月の座礁事故で船体に亀裂が入っていたとされ、それが他者により目視で確認できるほどであったにも関わらず、全く修理をしなかった。事故当時も修理しないまま出航した可能性が極めて高いと見られている。
- 事故を起こした船長の男Aは、2020年に知床遊覧船に雇われ、別の船の甲板員を務めた後に船長になったのは2021年からだという。しかし、操船させてすぐに2回も事故を起こしている。2021年まで5年間船長を務めた男性(事故当時は51歳)の証言によると「実際操船させて、すぐ事故起こしているので、運転スキルとかそういうレベルじゃない」とまで酷評している。
- カズワンは2021年4月21日、つまり事故が起こるわずか2日前に、行政指導による安全点検をクリアしている。点検が杜撰だったのか甘かったのかは不明。
- 知床遊覧船はいわゆるブラック企業だったとされている。当初は地方の名士が社長になり、その道のプロや専門家が雇用されているなど、同業者の中でも特に安全な事で知られていたらしい。しかし、事故が発生する2、3年ほど前に社長が桂田精一に代わると、突然従業員を全て解雇するという異常な行為を起こした。一説に従業員を安く使いたかったのだという。しかしこの行為は同業者ですら疑問視しており、それから同社は事故を頻繁に起こすようになった。前船長は「やっぱりやったか」と証言しているほどで、事故を起こした船長の男の技量はそれだけ未熟だった可能性が高い。なお、船長の男Aは事故の少し前にSNSで「世の中銭やっ。ブラック企業で右往左往」ともらしていた。
- 事故を起こした知床遊覧船は、事故から2日経ってようやく会社による公式の会見を行なっている。
- 2021年6月に現在の船長の男Aが事故を起こし、船をあげて修理している状態だった際の状況を前船長は見ているが、それによると船にある亜鉛版を2年前のまま変えていなかったとされる。これは毎年変えるものであり、亜鉛板は船体の腐食を防ぐために貼り付けるもので、船体の代わりに亜鉛板が腐食してくれる役割を果たしている。元船長が会社に在籍していたときは、事務所に長く勤めていた人がいたので手直しもできていたし、手に負えなければ業者がやっていたが、現在の社長である桂田が就任してからは全く対処がされていない状態だったという。
- 前船長は現在の社長・桂田精一について、「船のことも、海のことも知らない」「お金にだらしない人。銀行で金を借りていたけど、去年、おととしくらいから経営が上手くいかずに、常に『お金がない』と話していた」「波があって出航をやめたときも、社長には『何で出さないんだ』と言われていた」「経営は厳しく『銀行からお金が借りられない』と言っていた」と証言している。
- 桂田は4月27日の会見で、「条件付き運航で天気が悪くなった場合は、船長の判断で戻ってきていただくことを長年やっている」などと発言している。これは本当に海のことを何にも知らないど素人の発言である。当然のことながら、安全管理規程というものが定められて、各事業者が船の出航可否のルールを海上運送法に基づき作成し、事業開始日までに国交省に提出する義務があり、違反した場合には行政処分の対象となる可能性がある。また、桂田の発言を受けて斉藤鉄夫国交大臣は、「(桂田は)数字についてあやふやな受け方をしている場面があったが、数字を明記した安全管理規程があり、その徹底を常に指導しているところです。“条件付き”はあり得ないものだと考えている」と批判している。
- 船長のAが海上保安庁に通報した際、客の携帯電話を使った可能性が極めて高く、遊覧船には無線や電話などの連絡手段がほとんど存在しない異常事態だったと見られている(沈没海域は電波の通信が悪く、ドコモしか繋がらない状態だったという)。
- 4月29日に桂田は経営するホテルの従業員に対し、SNSで「(観光遊覧船は)深い所をまわるので、水が漏れるような座礁はしない。ただ、クジラに当たったり、突き上げられると穴が空く可能性はある」として、確たる裏付けがないまま、事故原因は高波や座礁ではなく、鯨あるいは何らかの動物との衝突と主張したとされる。さらに桂田は「船が予定通り(午後1時に)戻れれば、(波高は)1メートル前後の許容範囲内だったことがわかります」と記した。続けて、事故があった4月23日のウトロ漁港の気象データを送信し、正午の波高が0.69メートルだったことを示した。ただ、実際には午後1時の波高は1.88メートルで、予定通りに戻っていても、コース上の波高は同社の運航基準で定めた1メートルを超えていた可能性がある。桂田は4月27日の記者会見で当日の運航について「今となれば、判断は間違っていた」と謝罪したが、会見2日後に送ったこのメッセージでは運航判断などを自己正当化しているとも取れる。さらにメッセージでは「マスコミは面白がり物語を作ります。なるだけテレビを見ないで」とも記していた。
- 桂田は船のことも海のことも知らないと周りから証言されているが、地元の同業者によると「(桂田が)船乗っているのを見たことない」という。なお、遊覧船を運航するためには運航管理者の資格が必要であるが、桂田は被害者の家族に当初はカズワンの船長であるAが運航管理者であると偽って説明していた。さらに言うと、船の運航管理者になるには「海上運送法施行規則」があるが、桂田はこの法律上の要件を満たさないまま運航管理者を務めていた可能性が高いとされている。
- 6月14日、桂田が運航していた「知床遊覧船」の事業許可を取り消すのを前に、同社側に釈明の機会を与える聴聞を国交省北海道運輸局が実施したが、桂田や同社側の人間は誰も出席しなかった。それどころか桂田は「(自己責任が)当社のみにあるとするのはおかしい。国にもある」などという不服を申し立てる社長名義の陳述書を提出した。陳述書はA4サイズで数ページにわたり、事故原因に関する記述や社長らが聴聞を欠席した理由の説明などは無く、運輸局が指摘した法令違反を一部認めない部分などがあったとされる。
ネットにおける反応[編集]
ネットなどでは、知床遊覧船がいわゆるブラック企業で、社長によるワンマン、放漫経営などが明らかになるにつれ、船長に対する同情的な意見が出始めている。それに対して、社長に対しては批判が集中している。被害者家族に対する説明会で「足を組んだりしていた」などの証言、遊覧船に関する安全管理の余りの杜撰さなどが次第に明らかになっており、さらに社長が記者会見を開いた際にも船長に罪をなすりつけるような発言をしており、これらは「死人に口なし」としてむしろ責任を押し付けているとして批判が集まっている。
また、沈没船の名前が「kasu Ⅰ」「Kuzu Ⅰ」などと揶揄されている。
影響[編集]
事故により、各都道府県の観光船に対して一斉に検査が進められている。また、新型コロナウイルスの影響からようやく立ち直ろうとしていた矢先に発生したこと、さらにゴールデンウィーク前に発生したことから、観光業界に大きな悪影響を与えることは避けられないものと見られる。