木村敏

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木村 敏(きむら びん、1931年昭和6年)2月15日 - 2021年令和3年)8月4日)は、精神科医、精神病理学者。京都大学名誉教授、京都博愛会病院顧問、河合文化教育研究所主任研究員・所長[1]。元・日本精神病理学会理事長、日本社会精神医学会理事。ドイツ精神神経学会、ドイツ現存在分析学会の外人特別会員[2]

人物[編集]

精神医学分野における京都学派の一人で[3]笠原嘉中井久夫宮本忠雄安永浩らとともに日本の精神病理学第2世代を代表する人物[4]。臨床現場に身を置きながら精神病理の人間学的研究に取り組み、独自の自己論、身体論、時間論、生命論を構築した。精神病理学のみならず思想・哲学の世界にも影響を与え、その業績は国際的に評価されている。精神医学が取り扱ってきた問題を哲学的に考える「臨床哲学」という分野を提唱し、精神医学と哲学の学際的研究交流の場として、2000年から2018年まで「河合臨床哲学シンポジウム」を毎年1回主宰した[5]。初期の著書『自覚の精神病理』(紀伊國屋新書、1970年)、『分裂病の現象学』(弘文堂、1975年)などでは、もの/こと、主語/述語、ノエマ/ノエシスなどの対概念を用い、「あいだ」を軸にした自己論を展開した[6][7][8]。『自己・あいだ・時間』(弘文堂、1981年)、『時間と自己』(中公新書、1982年)、『直接性の病理』(弘文堂、1986年)では、人間の時間の流れを躁うつ病患者の「ポスト・フェストゥム(あとの祭り)」、てんかん者や境界性人格障害者の「イントラ・フェストゥム(祭りのさなか)」、統合失調症(精神分裂病)患者の「アンテ・フェストゥム(祭りのまえ)」の3つに分類した[9][10][11]。90年代以降は主として生命論を展開した[9]ハイデッガー西田幾多郎から大きな影響を受けている[3][7]。「こと」や「あいだ」という概念を重視する木村人間学は廣松渉丸山圭三郎の関係主義的な哲学と共通性があるといわれる。

経歴[編集]

受賞歴[編集]

  • 1981年 - 第3回シーボルト賞(西ドイツ[2]
  • 1985年 - 第1回エグネール賞(スイス・エグネール財団)[2]
  • 2003年 - 『木村敏著作集 第7巻 臨床哲学論文集』に対し第15回和辻哲郎文化賞(学術部門)[16]
  • 2010年 - 『精神医学から臨床哲学へ』に対し第64回毎日出版文化賞(自然科学部門)[17]
  • 2012年 - 第30回京都府文化賞功労賞[18]

著書[編集]

単著[編集]

  • 『自覚の精神病理――自分ということ』(紀伊國屋書店[紀伊國屋新書]、1970年、新装版1978年)
    • 新書版『自分ということ』(第三文明社[レグルス文庫]、1983年)
    • 文庫版『自分ということ』(筑摩書房[ちくま学芸文庫]、2008年)
  • 『人と人との間――精神病理学的日本論』(弘文堂、1972年/弘文堂[弘文堂選書]、1976年)
  • 『異常の構造』(講談社[講談社現代新書]、1973年)
    • 文庫版『異常の構造』(講談社[講談社学術文庫]、2022年)
  • 『分裂病の現象学』(弘文堂、1975年)
    • 文庫版『新編 分裂病の現象学』(筑摩書房[ちくま学芸文庫]、2012年)
  • 『自己・あいだ・時間――現象学的精神病理学』(弘文堂、1981年)
    • 文庫版『自己・あいだ・時間――現象学的精神病理学』(筑摩書房[ちくま学芸文庫]、2006年)
  • 『時間と自己』(中央公論社中公新書]、1982年)
  • 『直接性の病理』(弘文堂、1986年)
  • 『人と人とのあいだの病理』(河合文化研究所[河合ブックレット]、発売:進学研究社、1987年)※第4刷(1993年)の発売元は河合出版
  • 『あいだ』(弘文堂[弘文堂・思想選書]、1988年)
    • 文庫版『あいだ』(筑摩書房[ちくま学芸文庫]、2005年)
  • 『分裂病と他者』(弘文堂、1990年)
    • 文庫版『分裂病と他者』(筑摩書房[ちくま学芸文庫]、2007年)
  • 『形なきものの形――音楽・ことば・精神医学』(弘文堂、1991年)
  • 『生命のかたち/かたちの生命』(青土社、1992年、新装版1995年、第3版2005年)
  • 『偶然性の精神病理』(岩波書店、1994年)
    • 文庫版『偶然性の精神病理』(岩波書店[岩波現代文庫]、2000年)
  • 『心の病理を考える』(岩波書店[岩波新書]、1994年)
  • 『分裂病の詩と真実』(河合文化教育研究所、発売:河合出版、1998年)
  • 『木村敏著作集(全8巻)』(弘文堂、2001年)
    • 「1 初期自己論・分裂病論」
    • 「2 時間と他者/アンテ・フェストゥム論」
    • 「3 躁鬱病と文化/ポスト・フェストゥム論」
    • 「4 直接性と生命/イントラ・フェストゥム論」
    • 「5 精神医学論文集」
    • 「6 反科学的主体論の歩み」
    • 「7 臨床哲学論文集」
    • 「8 形なきものの形を求めて」
  • 『関係としての自己』(みすず書房、2005年)
  • 『臨床哲学の知――臨床としての精神病理学のために』(今野哲男聞き手、洋泉社、2008年/言視舎、2017年)
  • 『精神医学から臨床哲学へ』(ミネルヴァ書房[シリーズ「自伝」my life my world]、2010年)
  • 『臨床哲学講義』(創元社、2012年)
  • 『あいだと生命――臨床哲学論文集』(創元社、2014年)
  • 『からだ・こころ・生命』(講談社[講談社学術文庫]、2015年)※木村敏編『からだ・こころ・生命』(河合文化教育研究所[河合ブックレット]、1997年)の文庫版。
  • 『木村敏対談集1 臨床哲学対話 いのちの臨床』(青土社、2017年)
  • 『木村敏対談集2 臨床哲学対話 あいだの哲学』(青土社、2017年)

共著[編集]

編著[編集]

  • 『分裂病の精神病理 3』(編、東京大学出版会、1974年)
  • 『てんかんの人間学』(編、東京大学出版会、1980年)
  • 『躁うつ病の精神病理 4』(編、弘文堂、1981年)
  • 『分裂病の人間学――ドイツ精神病理学アンソロジー』(編・監訳、医学書院、1981年)
  • 『異常心理学講座(全10巻)』(土居健郎笠原嘉宮本忠雄共同責任編集、みすず書房、1987-1992年)※2巻と7巻は未刊。
  • 『精神分裂病――基礎と臨床』(松下正明岸本英爾共編、朝倉書店、1990年)
  • 『内省の構造――精神病理学的考察』(編、長井真理著、岩波書店、1991年)
  • 『シリーズ精神科症例集1 精神分裂病I――精神病理』(責任編集、中山書店、1994年)
  • 『シリーズ精神科症例集4 躁うつ病II・非定型精神病』(井上令一共同責任編集、中山書店、1994年)
  • 『シリーズ精神科症例集3 躁うつ病I』(井上令一共同責任編集、中山書店、1995年)
  • 『文化における〈自然〉――哲学と科学のあいだ 日独文化研究所シンポジウム』(芦津丈夫大橋良介共編、人文書院、1996年/日独文化研究所、発売:人文書院、2006年)
  • 『からだ・こころ・生命』(編、河合文化教育研究所[河合ブックレット]、発売:河合出版、1997年)
  • 『生命の文化論――日独文化研究所シンポジウム』(芦津丈夫、大橋良介共編、日独文化研究所、発売:人文書院、2003年)
  • 『文化における〈歴史〉――日独文化研究所シンポジウム』(芦津丈夫、大橋良介、高橋義人共編、日独文化研究所、発売:人文書院、2006年)
  • 『文化における〈時間〉――日独文化研究所シンポジウム』(大橋良介、高橋義人、谷徹共編、日独文化研究所、発売:燈影舎、2010年)

訳書[編集]

  • エドヴィン・フィッシャー『ベートーヴェンのピアノソナタ』(佐野利勝共訳、みすず書房、1958年、新装版1978年)
  • L.ビンスワンガー『精神分裂病(1・2)』(新海安彦、宮本忠雄共訳、みすず書房、1959-1961年)
  • ヴィクトール・E・フランクル『フランクル著作集 7 識られざる神』(佐野利勝共訳、みすず書房、1962年)
    • フランクル『フランクル・セレクション 3 識られざる神』(佐野利勝共訳、みすず書房、2002年)
  • ヨハン・クーグラー『脳波学入門――その理論と実際』(菊知龍雄共訳、文光堂、1965年)
  • T.G.ゲオルギアーデス『音楽と言語――ミサの作曲に示される西洋音楽のあゆみ』(音楽之友社[ムスルジア全書]、1966年)
    • 文庫版『音楽と言語』(講談社[講談社学術文庫]、1994年)
  • ビンスワンガー『現象学的人間学――講演と論文(1・2)』(荻野恒一、宮本忠雄共訳、みすず書房、1967年、新装版2019年)
  • ヴァイツゼッカー『ゲシュタルトクライス――知覚と運動の一元論』(浜中淑彦共訳、みすず書房、1975年、新装版1995年、新装版2017年、2022年)
  • H.テレンバッハ『メランコリー』(みすず書房、1978年、改訂増補版1985年)
  • W.ブランケンブルク『自明性の喪失――分裂病の現象学』(岡本進島弘嗣共訳、みすず書房、1978年)
  • アンリ・エレンベルガー『無意識の発見――力動精神医学発達史(上・下)』(中井久夫共同監訳、弘文堂、1980年)
  • H.テレンバッハ編『精神医学治療批判――古代健康訓から現代医療まで』(長島真理、高橋潔共訳、創造出版、1985年)
  • ハイデッガー[著]、メダルト・ボス編『ツォリコーン・ゼミナール』(村本詔司共訳、みすず書房、1991年)
  • V.vヴァイツゼッカー『病因論研究――心身相関の医学』(大原貢共訳、講談社[講談社学術文庫]、1994年、新装版1997年)
  • ヴァイツゼッカー『生命と主体――ゲシュタルトと時間/アノニューマ』(訳・註解、人文書院、1995年)
  • ヴィクトーア・フォン・ヴァイツゼッカー『病いと人――医学的人間学入門』(新曜社、2000年)
  • ヴィクトーア・フォン・ヴァイツゼカー『パトゾフィー』(みすず書房、2010年)
  • ヴォルフガング・ブランケンブルク『目立たぬものの精神病理』(小林敏明鈴木茂渡邉俊之和田信訳、生田孝共同監訳、みすず書房、2012年)
  • ヴィクトーア・フォン・ヴァイツゼカー『自然と精神/出会いと決断――ある医師の回想』(橋爪誠岸見一郎伊藤均訳、丸橋裕共同監訳、法政大学出版局[叢書・ウニベルシタス]、2020年)

監修[編集]

  • 『講座生命 '96 vol.1 生命の思索』(中村雄二郎共同監修、哲学書房、1996年)
  • 『講座生命 '97 vol.2』(中村雄二郎共同監修、哲学書房、1997年)
  • 『講座生命 '98 vol.3』(中村雄二郎共同監修、哲学書房、1998年)
  • 『講座生命2000 第4巻〈特集〉共通感覚論の可能性』(中村雄二郎共同監修、河合文化教育研究所、発売:河合出版、2000年)
  • 『講座生命2001 第5巻〈特集〉「場所」をめぐって』(中村雄二郎共同監修、河合文化教育研究所、発売:河合出版、2001年)
  • 『講座生命2002 第6巻〈特集〉臨床哲学の可能性』(中村雄二郎共同監修、河合文化教育研究所、発売:河合出版、2002年)
  • 『講座生命2004 第7巻〈特集〉自己──視点の交錯の中で』(中村雄二郎共同監修、河合文化教育研究所、発売:河合出版、2004年)
  • 『身体・気分・心──臨床哲学の諸相』(坂部恵共同監修、河合文化教育研究所、発売:河合出版、2006年)
  • 『〈かたり〉と〈作り〉──臨床哲学の諸相』(坂部恵共同監修、河合文化教育研究所、発売:河合出版、2009年)
  • 『空間と時間の病理──臨床哲学の諸相』(野家啓一共同監修、河合文化教育研究所、発売:河合出版、2011年)
  • 『「自己」と「他者」──臨床哲学の諸相』(野家啓一共同監修、河合文化教育研究所、発売:河合出版、2013年)
  • 『臨床哲学とは何か──臨床哲学の諸相』(野家啓一共同監修、河合文化教育研究所、発売:河合出版、2015年)
  • 『生命と死のあいだ──臨床哲学の諸相』(野家啓一共同監修、河合文化教育研究所、発売:河合出版、2017年)
  • 『人称をめぐって──臨床哲学の諸相』(野家啓一共同監修、河合文化教育研究所、発売:河合出版、2019年)

関連文献[編集]

  • 木村敏、柄谷行人「〈他者〉そして〈言語ゲーム〉の共有」『現代思想』1985年11月号(青土社、1985年)
    • 柄谷行人『ダイアローグⅢ』(第三文明社、1987年)
    • 柄谷行人『柄谷行人対話篇Ⅱ 1984-88』(講談社[講談社文芸文庫]、2022年)
  • 別冊文藝編集部編『現代思想の饗宴――あるいは思想の世紀末』(河出書房新社、1986年)
  • 廣松渉『知のインターフェイス――廣松渉学際対話』(青土社、1990年)
  • 佐藤幹夫『木村敏と中井久夫』(言視舎[飢餓陣営せれくしょん]、2014年)
  • 檜垣立哉『日本哲学原論序説』(人文書院、2015年)
  • 『現代思想 2016年10月臨時増刊号 総特集=木村敏――臨床哲学のゆくえ』(青土社、2016年)
  • 山竹伸二『こころの病に挑んだ知の巨人――森田正馬・土居健郎・河合隼雄・木村敏・中井久夫』(筑摩書房[ちくま新書]、2022年)
  • 檜垣立哉『日本近代思想論――技術・科学・生命』(青土社、2022年)

出典[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]