国鉄711系電車
国鉄711系電車 (こくてつ711けいでんしゃ)は、日本国有鉄道が設計、開発した近郊形交流電車である。
概要[編集]
北海道でのみ運用された日本で最初の在来線の営業用交流専用電車である。車体構造は国鉄153系電車後期型とほぼ同じで、車体幅は2900mmで裾は絞られている。前照灯はシールドビームである。2扉デッキ付セミクロスシートである。クロスシートの幅とシートピッチは急行形と同様である。ロングシートは戸袋窓の部分にのみ設置されている。客用窓は二重窓で一段上昇窓である。便所の向かい側には洗面所が設置されるなど、急行形に近い設備である。暖房能力は強化される一方、冷房化はされなかった。
登場の経緯[編集]
函館本線小樽駅から旭川駅を交流電化する際、この区間に運用される電車をどうするか問題となった。国鉄415系電車や国鉄457系電車といった電車は既に実用化されていたが、北海道の酷寒、豪雪にどう対処するかであった。耐寒耐雪装備の車両としてはキハ22、キロ26、キハ56、キハ27があったが、気動車とは異なる事情が電車にあった。ただ単に国鉄457系電車の暖房を強化して客用窓を二重化するだけではいかなかった。
制御方式[編集]
抵抗制御で直流電動機を駆動する電車は構造が簡単で、19世紀から1960年代まで採用されていた。しかし、抵抗器に流れる電流は熱として捨てられていたので、電力の節約のために抵抗器を使わない方式を採用することになった。サイリスタのようなパワー半導体デバイスが実用化されると抵抗器を機械的な開閉器を使用して切り替えず、半導体スイッチが入ったサイリスタ位相制御で直流電動機を駆動する国鉄711系電車が登場した。これは北海道での使用に際し、雪が抵抗器の機械的接点に入って開閉器に支障が出ないよう、雪切室を設けるとともに行った耐寒耐雪装備である[1]。
起動加速度は1M2T編成において1.1km/h/sで、これは国鉄80系電車2M3T編成をも下回る性能だったが、当時の道央の列車事情も鑑みると十分な性能であった。
番台区分[編集]
- 900番台: 1967年に2両×2編成、計4両製造され、札幌に配置された。試作車。
- 0番台: 1968年に3両×8編成+1両、計25両製造され、札幌に配置された。
- 50番台: 1969年に3両×10編成、計30両製造され、札幌に配置された。Tc車は0番台の続き番号。
- 100,200番台: 1980年に3両×17編成+4両、計55両製造され、札幌に配置された。Tc車のうちトイレ・洗面所有りの車両は200番台となった。
運用[編集]
登場当初はその設備から函館本線で急行列車に使用され、札幌 - 旭川間ノンストップの「さちかぜ」にも用いられた。2015年3月限りで全運用を終了。
なお、廃車の途中で900番台のみを廃車にした際、半端の100番台クハを0番台クハと差し替えて運用したこともあった。
近い世代の車両[編集]
- 国鉄485系電車 - 特急用
- 国鉄403系電車 - 本州以南用
- 国鉄115系電車 - 直流用
- 国鉄キハ40形気動車 - 気動車
関連項目[編集]
参考文献[編集]
- 堀孝正『パワーエレクトロニクス』オーム社出版局2002年2月25日第1版第7刷発行
- 酒井善雄『電気電子工学概論』丸善株式会社
- 力武常次、都築嘉弘『チャート式シリーズ新物理ⅠB・Ⅱ』数研出版株式会社新制第11刷1998年4月1日発行
- 矢野隆、大石隼人『発変電工学入門』森北出版株式会社2000年9月13日第1版第4刷発行
- 西巻正郎・森武昭・荒井俊彦『電気回路の基礎』森北出版株式会社1998年3月18日第1版第12刷発行
- 電気学会「電気学会大学講座電気機器工学Ⅰ」社団法人電気学会2002年1月31日14刷発行
- 電気学会『電気施設管理と電気法規解説9版改訂』電気学会
- 天野光三・前田泰敬・三輪利英『第2版図説鉄道工学』丸善株式会社2001年3月25日発行。
- 椹木亨、柴田徹、中川博次『土木へのアプローチ』技報堂出版1999年1月25日3版1刷発行。