石牟礼道子
石牟礼 道子(いしむれ みちこ、昭和2年(1927年)3月11日 - 平成30年(2018年)2月10日)は、日本の作家。代表作は水俣病患者を描いた『苦海浄土』。
来歴・人物[編集]
熊本県天草郡宮野河内村(現・天草市)生まれ。家業は石工。生後間もなく水俣町(現・水俣市)に移り住み、水俣町立実務学校(現・熊本県立水俣工業高等学校)を卒業。
太平洋戦争中から戦後にかけて国民学校の代用教員を勤める。退職後の昭和22年(1947年)に結婚し、主婦業の傍ら執筆活動を開始する。昭和28年(1953年)に歌誌『南風』の会員となる。昭和33年(1958年)に谷川雁らとサークル村の結成に参加する。当時、高度経済成長から経済や科学が発達していたが、そのために公害も発生し、水俣市では四大公害病の一つに数えられる水俣病が発生する。
石牟礼は昭和34年(1959年)に水俣病患者の姿に衝撃を受け、翌年から水俣病をテーマとした「空と海のあいだに」の連載を始める。昭和44年(1969年)に「空と海のあいだに」をもとにした『苦海浄土――わが水俣病』を講談社から単行本で刊行した。この作品は大きな反響を呼び、昭和45年(1970年)に第1回大宅壮一ノンフィクション賞に選ばれたが、石牟礼は「水俣病患者を描いた作品で賞を受けるのに忍びない」と受賞を辞退した。昭和48年(1973年)には「アジアのノーベル賞」といわれるマグサイサイ賞を受賞した。
水俣病患者の支援運動にも関わり、昭和43年(1968年)に水俣病対策市民会議の結成に尽力した。昭和44年(1969年)の水俣病第1次提訴以降、患者らによる原因企業チッソとの自主交渉に参加し、水俣病を告発する会の結成に尽力した。
だが、40歳代半ばから左目の視力を失い、70歳代後半からはパーキンソン病を患い闘病生活を続ける。平成14年(2002年)には水俣病をテーマに現代文明を批判する新作能「不知火」を発表した。平成25年(2013年)には天皇と共に熊本県を訪ねた皇后に対して事前に手紙をしたためるなどして天皇・皇后と患者らの面会実現に尽力した。
平成30年(2018年)2月10日午前3時14分、パーキンソン病による急性増悪のため、熊本市東区の介護施設で死去。90歳没。
人物像[編集]
- 慎ましい人物で、自分が患者やその家族らの重荷になることを嫌い、支援活動では常に謙虚に振舞っていたという。
- 代表作である苦海浄土について「誰よりも自分自身に語り聞かせる、浄瑠璃のようなもの」と説き、一方で「悲劇に材を求める限り、それはすなわち作者の悲劇でもある」と述べていたという。
- 現在、経済の発達と共に自然破壊が進んでゆく日本に対し、「どこまで落ちていくのか。風土の声を後世に残さなければ」と危ぶんでいたという。
著書[編集]
単著[編集]
- 『苦海浄土――わが水俣病』 講談社、1969年/講談社(講談社文庫)、1972年/埼玉福祉会(大活字本シリーズ)、1987年
- 『流民の都』 大和書房、1973年
- 『天の魚』 講談社、1974年
- 『天の魚――続・苦海浄土』 講談社(講談社文庫)、1984年
- 『潮の日録――石牟礼道子初期散文』 葦書房、1974年
- 『草のことづて』 筑摩書房、1977年
- 『椿の海の記』 朝日新聞社、1977年/河出書房新社(河出文庫)、2013年
- 『石牟礼道子――椿の海の記』 日本図書センター(人間の記録)、1999年
- 『西南役伝説』 朝日新聞社、1980年/朝日新聞社(朝日選書)、1988年/洋泉社(MC新書)、2009年
- 『常世の樹』 葦書房、1982年
- 『樹の中の鬼――対談集』 朝日新聞社、1983年
- 『あやとりの記』 福音館書店(福音館日曜日文庫)、1983年/世織書房、1995年
- 『陽のかなしみ』 朝日新聞社、1986年/朝日新聞社(朝日文庫)、1991年/埼玉福祉会(大活字本シリーズ)、1997年
- 『乳の潮』 筑摩書房、1988年
- 『海と空のあいだに――石牟礼道子歌集』 葦書房、1989年
- 『不知火ひかり凪』 筑摩書房、1989年
- 『花をたてまつる』 葦書房、1990年
- 『十六夜橋』 径書房、1992年/筑摩書房(ちくま文庫)、1999年
- 『葛のしとね』 朝日新聞社、1994年
- 『食べごしらえおままごと』 ドメス出版、1994年/中央公論新社(中公文庫)、2012年
- 『蝉和郎』 葦書房、1996年
- 『形見の声――母層としての風土』 筑摩書房、1996年
- 『水はみどろの宮』 平凡社、1997年
- 『天湖』 毎日新聞社、1997年/上下、 埼玉福祉会(大活字本シリーズ)、2005年
- 『アニマの鳥』 筑摩書房、1999年
- 『潮の呼ぶ声』 毎日新聞社、2000年
- 『石牟礼道子対談集――魂の言葉を紡ぐ』 河出書房新社、2000年
- 『煤の中のマリア――島原・椎葉・不知火紀行』 平凡社、2001年
- 『はにかみの国――石牟礼道子全詩集』 石風社、2002年
- 『妣たちの国――石牟礼道子詩歌文集』 講談社(講談社文芸文庫)、2004年
- 『不知火――石牟礼道子のコスモロジー』 藤原書店、2004年
- 『石牟礼道子全集・不知火』全17巻・別巻1、藤原書店、2004 - 2014年
- 『花いちもんめ』 弦書房、2005年
- 『最後の人――詩人高群逸枝』 藤原書店、2012年
- 『蘇生した魂をのせて』 河出書房新社、2013年
- 『祖さまの草の邑』 思潮社、2014年
- 『霞の渚――石牟礼道子自伝』 藤原書店、2014年
- 『神々の村――苦海浄土 第2部』 藤原書店、2014年
- 『花の億土へ』 藤原書店、2014年
- 『不知火おとめ――若き日の作品集1945-1947』 藤原書店、2014年
- 『石牟礼道子全句集――泣きなが原』 藤原書店、2015年
- 『ここすぎて水の径』 藤原書店、2015年
- 『苦海浄土――全三部』 藤原書店、2016年
- 『花びら供養』 平凡社、2017年
- 『完本春の城』 藤原書店、2017年
共著[編集]
- 『死なんとぞ、遠い草の光に――水俣、ショアー、阪神大震災のことなど』 岡田哲也、季村敏夫共著、震災・活動記録室(記録室叢書)、1996年
- 『言葉果つるところ』 鶴見和子共著、藤原書店、2002年
- 『ヤポネシアの海辺から――対談』 島尾ミホ共著、弦書房、2003年
- 『死を想う――われらも終には仏なり』 伊藤比呂美共著、平凡社(平凡社新書)、2007年
- 『言魂』 多田富雄共著、藤原書店、2008年
- 『母』 米良美一共著、藤原書店、2011年
- 『なみだふるはな』 藤原新也共著、河出書房新社、2012年
- 『遺言――対談と往復書簡』 志村ふくみ共著、筑摩書房、2014年
- 『詩魂』 高銀共著、藤原書店、2015年
- 『水俣の海辺に「いのちの森」を』 宮脇昭共著、藤原書店、2016年
- 『現代作家アーカイヴ2 自身の創作活動を語る』 武田将明、飯田橋文学会編、谷川俊太郎、横尾忠則、筒井康隆共著、東京大学出版会、2017年
受賞歴[編集]
- 1973年 - マグサイサイ賞(『苦海浄土』)
- 1993年 - 紫式部文学賞(『十六夜橋』)
- 2002年 - 2001年度朝日賞
- 2003年 - 2002年度芸術選奨文部科学大臣賞(『はにかみの国 石牟礼道子全詩集』)
- 2013年 - エイボン女性大賞
- 2014年 - 第8回後藤新平賞、第32回現代詩花椿賞(『祖さまの草の邑』)