水力発電
水力発電(すいりょくはつでん)とは、水が高地から低地に移動する際の位置エネルギーを水車などによって力学的エネルギーに変え、さらに電気エネルギーに変える発電のことである。
概要[編集]
化石燃料を使わないエネルギー変換方法の一つで再生可能エネルギーに分類される。
水力発電草創期に見られた水路を利用した水路式発電とダムを使用するダム式発電およびダム水路式発電に分かれる。
勾配の大きい河川の上流部に建設されるダムを利用するものは大規模であり、水路式は上流部に堰を設けて流路を作る中規模なものから、側溝程度の水量でも発電できる小規模のものまである。
電力が余剰の夜間に上流部の高地に水を汲み上げ、翌日の位置エネルギーを確保する揚水発電もある。
水力学[編集]
理論水力[編集]
出力は水の流量と落差で決まる。水量Q[m3/s]の水が有効落差H[m]の位置から落下したとき、1秒間あたりの仕事量は水1m3の重量が1000kgとすると次の式で表される。
P0=1000QH[kg・m/s] - (式1-1)
上式で1kg・mの仕事量は9.8Jに相当し、1000J/sは1kWに等しいから(式1-1)を電力の単位に置き換えると
P0=9.8QH[kW] - (式1-2)
となる。このP0を理論水量という。
ベルヌーイの定理[編集]
高さH[m]の位置にある水が落下するとき、高さh[m]の点における水のもつエネルギーは、位置エネルギー、圧力エネルギー、運動エネルギーに分かれる。これらのエネルギーの総和はH[m]で持っていたエネルギーに等しい。
水量Q[m/s3]、流体の単位体積あたりの重量w[kg/m3]、流速v[m/s]、重力加速度g[m/s2]、単位面積に作用する圧力をp[kg/m2]とすると、
位置エネルギー+圧力エネルギー+運動エネルギー=最初の水のもつエネルギー
である。これを式にすると、
で上式の両辺を割ると、
[m]
この式をベルヌーイの定理という。水力発電では落差を持ってそれぞれのエネルギーを示すことができる便利な式である。
上式で、hは位置水頭、p/wは圧力水頭、v2/2gは速度水頭という。
ダム[編集]
日本の河川法ではダム本体の高さが15m以上の河川の水を貯留、取水するための施設と定義されており、高さが15mに満たない貯留・取水施設は「堰」と扱われる。以下、ダムの種類を記す。
重力式コンクリートダム[編集]
名前の通りコンクリートを主材料にして建設されるダムで、ダムそのものの重さでダム湖の水圧に耐える。丈夫なコンクリートを使用して建設するため、地震や洪水に強い。
中空重力式コンクリートダム[編集]
見た目は重力式コンクリートダムに似ているが、ダムの内部が巨大な空洞になっているのが大きな特徴。ダム内部に巨大な空洞が存在するため、コンクリートの使用量を減らせるのがメリットだが、型枠が複雑で建設に大きな手間がかかる。
アーチダム[編集]
アーチ型をしているダムで、ダム湖からかかる水圧をダム本体両脇の山の岩盤で支える。丈夫な地盤がないと建設できない上、構造も複雑だがコンクリートの使用量を抑えることが出来る。
重力式アーチダム[編集]
重力式ダムとアーチダムを組み合わせたダムで、ダム湖からかかる水圧をダム本体両脇の山の岩盤とダムそのものの重さで支える。
マルチプルアーチダム[編集]
アーチを複数連ねた形式のダム。地震に弱い。
バットレスダム[編集]
止水壁をコンクリート製のバットレスで支えるダム。
アースダム[編集]
ダム本体を土で建設するダムで、最も古典的な工法。ダム湖側本体表面をコンクリートで覆うか、ダム中心部に遮水ゾーンを設けて漏水を防ぐ。材料の関係で越流に非常に弱いため、洪水時の放水口はダム本体から離れた場所に建設することが多い。
ロックフィルダム[編集]
岩石や土砂で建設されるダム。アースダム同様ダム湖側本体表面をコンクリートで覆うか、ダム中心部に遮水ゾーンを設ける。
建設[編集]
ダム式発電はダム湖に沈む集落の住民への補償、ダムや発電所建設のための道路の建設などのために多額の費用がかかり、山間部を開発することで森林破壊を伴う現地の生態系の影響はありうる。
だが、発電に燃料を使わないので化石燃料を節約できる発電方法の1つとして、側溝程度の小規模水力発電装置が、太陽光発電、燃料電池と共に再生可能エネルギーとして見直されつつある。