日本野球における始球式
始球式(しきゅうしき)とは、スポーツ(主に球技)における試合開始前のセレモニーである。主催者や来賓など現役選手以外の人物が務めることが多い。
本項目では日本野球における始球式について記述する。
概要[編集]
日本では、投手役の人がマウンドから打者に対して1球(稀に数球)投球する。試合開始直前に始球式が行われるケースが多く、この場合投手役の人は先攻チームの1番打者に対して投球し、また捕手を含めた守備も後攻チームの先発メンバーが務めることになる。
記録に残っている最古の始球式は1908年11月22日にアメリカの大リーグ選抜チームと早稲田大学野球部の試合における大隈重信の始球式とされる[1]。大隈重信の投球はストライクゾーンから大きく逸れてしまったが、早稲田大学の創設者、総長、政治家である大先生の投球をボール球にしてはいけないと考えた早稲田大学の1番打者・山脇正治がわざと空振りをしてストライクにした。これ以降、打者は投手役に敬意を表すため、投球がボール球でも絶好球でも空振りをすることが慣例となった[1]。これらの日本式の始球式はその後アジアの国々だけでなく、アメリカでもこの方式で実施するケースが出てきている。
しかし、始球式の投球を空振りしないこともある。北海道日本ハムファイターズ時代の新庄剛志 (SHINJO) の数例[2]や川崎宗則等のように打ちにいった例、1964年7月22日オールスター第3戦での山内和弘による見逃し(捕手との雑談が原因)[1]など。また、平野恵一のように空振りをしたつもりが結果的にはバットに当たってしまったというハプニングもある[3]。
高校野球[編集]
センバツ大会は開幕試合の始球式では1975年の第47回選抜高等学校野球大会以降文部省(2001年以降は文部科学省)の大臣が投手役を務める(ただし、何度か始球式が中止になったことがある)。夏の甲子園大会の始球式では1997年の第79回全国高等学校野球選手権大会までは文部省(2001年以降は文部科学省)の大臣が投手役を務めることが多かった。旧制中学時代野球部に所属していた愛知揆一が文部大臣時代に行った始球式では、外角低めにストライクとなる球を投げた[4]。また第85回全国高等学校野球選手権大会(2003年)で小泉純一郎が高校野球大会史上初となる現職首相による始球式を行い、ど真ん中へのストライクを投じた。
1998年の第80回全国高等学校野球選手権大会以降は高校球児が務めることが多く、特に2006年8月6日の夏の甲子園の始球式では、前年に人命救助をした久美浜高校の野球部員4名が始球式を務めたため、投手役のほか、打者役と捕手役も同校の選手が務めた。このほか、上空のヘリコプターから投下されたボールをグラウンドで拾って投手役に渡す役も設定された。
2018年8月5日から8月21日まで16日間(8月19日の休養日を除く)開催された第100回全国高等学校野球選手権記念大会では、甲子園レジェンド始球式が毎日行われ、松井秀喜・桑田真澄・佐々木主浩・太田幸司などかつて高校球児として夏の甲子園大会で活躍した、元野球選手の合計18人がそれぞれ参加しプレーボール直前でボールを放り投げていた[5]。
プロ野球[編集]
中継テレビ局で放送しているバラエティ番組やドラマ、または球団スポンサーのCMの出演者をはじめ、芸能人が宣伝の一環として行うケースが増えている。球団のレトロ企画として往年の名選手(投手出身者に限らない)が行う場合や、異競技交流の名目として野球以外のアスリートが行う場合、地域密着を目指して球団ファンクラブの会員が行うケースもあり、多様化が進んでいる。引退選手の最終試合の始球式を選手の子息などが務めることもある。また打者が打席に立たないアメリカ方式や、来賓が投手役ではなく打者役(2名の場合は両方)になる始球式が行われるケースもある。2010年3月27日にはタレントの磯山さやかが捕手役を務めるという異例の始球式が行われた[6]。2016年4月24日には、タレントの稲村亜美が「始球式」と「始打式」を1人で行った。また稲村・上杉あずさ・長谷川玲奈など、野球やソフトボールなどの経験のある女性タレントが100km/h前後の球を披露することも増えている[7]。
現職首相によるプロ野球公式戦の始球式は、1957年3月30日に岸信介が、開幕戦となる巨人対国鉄戦でおこなったのが初めてで[8][9]、2019年現在まで唯一の事例である。
芸能人が宣伝の一環として行うケースにおいて、次のトラブル事例がある。
- 2019年4月27日、楽天生命パーク宮城で行われたパシフィック・リーグ公式戦東北楽天ゴールデンイーグルス(楽天)対千葉ロッテマリーンズ(ロッテ)の始球式に登板した鈴木奈々が、試合開始に備えて守備位置等についている選手を顧みず、なかなか投球動作に入らない、モーションを途中でやめるなどの行為を繰り返して試合開始時間を4分ほど遅らせることとなり[10][11]、スポンサーの太子食品工業(本社 : 青森県-公式サイト)が謝罪メッセージを出した[12]。
詳細は「遅延始球式」を参照
- その他
独立リーグの四国アイランドリーグplus・愛媛マンダリンパイレーツは、2011年8月26日の徳島戦(松山中央公園野球場)の試合前にファンやスポーツ少年団の選手らにより「最大人数で行う始球式」に挑戦した。111組222人が成功を収め、ギネス世界記録に認定された[13][14]。
脚注[編集]
- ↑ a b c 幸運社 『意外と知らないもののはじまり』 PHP文庫、2002年、p.249。ISBN 4-569-57841-1。
- ↑ “やっぱり輝いてた金色バットでファンを魅了”. 新庄カウントダウン プロ野球 : nikkansports.com 日刊スポーツ2005年7月24日紙面. (2005年7月24日)
- ↑ “こじるりノーバン 平野恵バット当てる”. デイリースポーツ. (2014年9月13日)
- ↑ 朝日新聞1975年8月
- ↑ スター、再び夢舞台へ 甲子園レジェンド始球式、全日程で実施 第100回全国高校野球朝日新聞 2018年7月7日
- ↑ “磯山さやか、ウエディングドレスでプロ野球史上初のキャッチャーでの始球式に!荻野貴司選手の球を見事キャッチ!”. シネマトゥデイ (2010年3月27日). 2015年5月29日確認。
- ↑ 今どき始球式は可愛さより“速さ” 稲村亜美、NGT長谷川ら“本格派”ズラリ
- ↑ 宇佐美徹也『宇佐美徹也の記録巨人軍65年』説話社、2000年、p.98[1]
- ↑ 【1957】日本の現職の総理大臣としては初めて始球式登板! - 野球太郎twitter
- ↑ 新田日明 (2019年4月29日). “鈴木奈々の〝遅延始球式〟がプロ野球界に与えた悪影響”. ウェッジ. 2019年6月19日確認。
- ↑ “鈴木奈々始球式で試合開始遅れ…スポンサーが謝罪「準備・説明不足を深く反省」”. 2019年6月19日確認。
- ↑ “太子食品公式Twitter” (2019年4月27日). 2019年6月19日確認。
- ↑ プレス・パイレーツ2011年9月19日付
- ↑ “236人同時に始球式、ギネスに認定/松山”. 四国新聞. (2011年8月27日) 2017年1月27日閲覧。