古井由吉
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古井 由吉(ふるい よしきち、昭和12年(1937年)11月19日 - 令和2年(2020年)2月18日)は、日本の小説家、ドイツ文学者。代表作は『杳子』、『聖』『栖』『親』の三部作、『槿』、『仮往生伝試文』、『白髪の唄』など。精神の深部に分け入る描写に特徴があり、特に既成の日本語文脈を破る独自な文体を試みている。
来歴[編集]
東京府出身。既婚者。
東京大学独文科卒業後、ブロッホなどドイツ文学の翻訳を手掛け、大学でドイツ語を教えた。30歳代で作家に専念する。そして山の中で出会った青年と病んだ女子大生の恋愛を幻想的に描いた「杳子」で昭和46年(1971年)に芥川賞を受賞した。
作家の黒井千次、小川国夫と共に内向の世代と呼ばれて、芥川賞選考委員を務めるなど、現代の日本文学の中心的存在となった。主な作品に「蕣」(これは谷崎潤一郎賞を受賞)、「仮往生伝試文」(読売文学賞)、「白髭の唄」(毎日芸術賞)、「山躁賦」など多くの作品がある。
古井は酒場で多くの作家を集めて定期的に朗読会を開催していた。また、大の競馬好きでもあった。その作風は濃密な文体で、人間の狂気や生死を見つめるなど日常の深部を掘り下げるものが多く、「魔術的」と評されており、読者や他の作家から称賛された。ただ、晩年になると自らの老いのためか、老いを見つめる作品やエッセーなどを多く手掛けている。
令和2年(2020年)2月18日午後8時25分、肝細胞癌のため、東京都世田谷区の自宅で病死した。82歳没。
著書[編集]
小説[編集]
- 『円陣を組む女たち』中央公論社 1970年 のち文庫 短編集
- 『男たちの円居(まどい)』講談社 1970年 のち文庫、のち「雪の下の蟹・男たちの円居」講談社文芸文庫 短編集
- 『杳子・妻隠(つまごみ)』河出書房新社 1971年 のち河出文芸選書、新潮文庫 短編集
- 『行隠れ』河出書房新社 1972年 のち集英社文庫 長編
- 『水』河出書房新社 1973年 のち集英社文庫、講談社文芸文庫 連作短編集
- 『櫛の火』河出書房新社 1974年 のち新潮文庫 長篇
- 『聖』新潮社 1976年 のち「聖・栖」新潮文庫 短編集
- 『女たちの家』中央公論社 1977年 のち文庫 長編
- 『哀原(あいはら)』文藝春秋 1977年 短編集
- 『夜の香り』新潮社 1978年 のち福武文庫 連作短編集
- 『栖(すみか)』平凡社 1979年 のち「聖・栖」新潮文庫 連作長編
- 『椋鳥』中央公論社 1980年 のち文庫 短編集
- 『親』平凡社 1980年 連作長編
- 『山躁賦(さんそうふ)』集英社 1982年 のち集英社文庫、文芸文庫 連作短編集
- 『槿(あさがお)』福武書店 1983年 のち文庫、講談社文芸文庫 長編
- 『グリム幻想-女たちの15の伝説-』 パルコ出版 1984年(絵本・挿画東逸子)
- 『明けの赤馬』福武書店 1985年 短編集
- 『眉雨(びう)』福武書店 1986年 のち文庫 短編集
- 『夜はいま』福武書店 1987年 短編集
- 『仮往生伝試文』河出書房新社 1989年、新装版2004年 のち講談社文芸文庫 長編
- 『長い町の眠り』福武書店 1989年 連作短編集
- 『楽天記』新潮社 1992年 のち文庫 長編
- 『陽気な夜まわり』講談社 1994年 短編集
- 『白髪の唄』新潮社 1996年 のち文庫 長編
- 『木犀の日 自選短編集』講談社文芸文庫 1998年。以下が収録作品
- 「先導獣の話」「椋鳥」「陽気な夜まわり」「夜はいま」「眉雨」「秋の日」「風邪の日」「髭の子」「木犀の日」「背中ばかりが暮れ残る」
- 『夜明けの家』講談社 1998年 のち文芸文庫 連作短編集
- 『聖耳(せいじ)』講談社 2000年 のち文芸文庫 連作短編集
- 『忿翁(ふんのう)』新潮社 2002年 長編
- 『野川』講談社 2004年 のち文庫 長編
- 『辻』新潮社 2006年 のち文庫 連作短編集
- 『白暗淵(しろわだ)』講談社 2007年 のち文芸文庫 連作短編集
- 『やすらい花』新潮社 2010年 連作短編集
- 『蜩の声』講談社 2011年 のち文芸文庫 連作短編集
- 『鐘の渡り』新潮社 2014年 連作短編集
- 『雨の裾』講談社 2015年 連作短編集
- 『ゆらぐ玉の緒』新潮社、2017年 短編集
- 『この道』講談社、2019年 連作短編集
随筆・評論など[編集]
- 『東京物語考』岩波書店 1984年、岩波同時代ライブラリー 1990年
- 『招魂のささやき』福武書店 1984年
- 『裸々虫記』講談社 1986年
- 『「私」という白道』トレヴィル 1986年
- 『日や月や』福武書店 1988年
- 『ムージル-観念のエロス』(作家の方法)岩波書店 1988年
- 増訂版 『ロベルト・ムージル』岩波書店 2008年
- 『魂の日』福武書店 1993年 ※ただし「長篇作品」と表記
- 『半日寂寞』講談社 1994年
- 『折々の馬たち』角川春樹事務所 1995年
- 『神秘の人びと』岩波書店 1996年
- 『山に彷徨う心』アリアドネ企画 1996年
- 『ひととせの 東京の声と音』日本経済新聞社 2004年
- 『聖なるものを訪ねて』ホーム社(発売:集英社) 2005年 - ※掌編小説十二編も併録
- 『詩への小路』書肆山田 2005年、講談社文芸文庫、2020年 - ※リルケ『ドゥイノの悲歌』など本人訳詩も併録
- 『始まりの言葉』(双書 時代のカルテ)岩波書店 2007年
- 『漱石の漢詩を読む』岩波書店 2008年
- 『人生の色気』新潮社 2009年
- 『半自叙伝』河出書房新社 2014年、河出文庫、2017年
- 『楽天の日々』キノブックス 2017年
共著[編集]
- 『フェティッシュな時代』(田中康夫との対談)トレヴィル 1987年
- 『対談集 小説家の帰還』(講談社 1993年)
- 『遠くからの声』(佐伯一麦との対談)新潮社 1999年
- 『色と空のあわいで』(松浦寿輝との往復書簡)講談社 2007年
- 『言葉の兆し』(佐伯一麦との往復書簡)朝日新聞出版 2012年
- 『文学の淵を渡る』(大江健三郎との対談)新潮社 2015年 のち文庫
集成[編集]
- 『古井由吉全エッセイ』作品社(全3巻) 1980年
- 第1巻 日常の"変身"
- 第2巻 言葉の呪術
- 第3巻 山に行く心
- 『古井由吉作品』河出書房新社(全7巻) 1982-1983年
- 第1巻 『円陣を組む女たち』『男たちの円居』
- 第2巻 『杳子・妻隠』『行隠れ』
- 第3巻 『櫛の火』『水』
- 第4巻 『女たちの家』『夜の香り』
- 第5巻 『聖』『栖』『哀原』
- 第6巻 『親』『椋鳥』
- 第7巻 エッセイ・翻訳(「愛の完成」『誘惑者』部分)
- 『古井由吉自撰作品』河出書房新社(全8巻) 2012年
- 第1巻 『杳子・妻隠』『行隠れ』『聖』
- 第2巻 『水』『櫛の火』
- 第3巻 『栖』『椋鳥』
- 第4巻 『親』『山躁賦』
- 第5巻 『槿』『眉雨』
- 第6巻 『仮往生伝試文』
- 第7巻 『楽天記』『忿翁』
- 第8巻 『野川』『辻』『やすみしほどを』(「やすらい花」収録)
翻訳[編集]
- 世界文学全集 第56 ブロッホ「誘惑者」 筑摩書房 1967年。新版「筑摩世界文学大系64 ムージル ブロッホ」1973年
- 世界文学全集 第49 ムージル「愛の完成、静かなヴェロニカの誘惑」 筑摩書房 1968年。岩波文庫 1987年