トロンボーン
トロンボーン(trombone)は、金管楽器の一つで、スライド型の長いU字管に曲がった平行でストレートな管を組み合わせた構造を持つのが特徴の中低音域の楽器で、低音域から中音域を受け持つ金管楽器。イタリア語・英語・フランス語ではTrombone、ドイツ語でPosaune(ポザウネと読む)、中国語では长号(長號)、ロシア語ではТромбон。そもそもラッパはイタリア語でTrombaであるが、より大きなものを表す際に語尾変化によって派生語を生み出す拡大辞“-one”を付けたのが語源であり、Tromb(a) + one = Tromboneは「大ラッパ」という意味に該当する。略称は「Tb」,「Trb」,「Tbn」,「Pos」などが見られるが、「Tb」だと“Tuba”の略記と、「Trb」だと“Tromba”の略記と混同されうるため、特にクラシック音楽の分野では「Tbn」または「Pos」の略記が推奨される。口語ではボントロ、ボーン、トボンと略されることもある。英語が敵性語とされた戦時中の訳語は「曲り抜き差し長ラッパ」。
形状[編集]
概要[編集]
管の先端にあたるベルは広がりが急で、円周が大きく、ベルが生み出す音はダイナミックで、大きな音で吹いたときに金属的で明るく華やかで力強い音がする。
スライドは、外管と内管からなり、外管を右手で操作して肘を曲げ伸ばしてスライドを伸縮・押し引きさせる。音高を変える仕組みは、スライド式で、スライド管を伸縮させてピッチを自由に変えることができるのが利点で、操作が簡単な楽器である。音高の位置は、根元の位置・高い音から順に、半音ずつ管を伸ばしながら、第1ポジション、第2ポジション、第3ポジションというように、番号を付けて呼び、スライドが引き伸ばされる。ポジションで音高を調節する。スライド管のポジションの位置と奏者の息の力の強さが組み合わさって、音高が決まる。他の楽器でいう「運指」を、トロンボーンでは「ポジション」に当たる。ピアノの鍵盤は、各半音の切れ目がはっきりあり、ピアノの隣同士の音程は、半音の関係であり、これに対して、トロンボーンは、スライドにより、無段階に音の高さやチューニングが滑らかに変わるので、各半音のつなぎ目を滑らかに出せるので、決められたポジション以外の位置では、半音の更に半分の四分音・微分音、その更に半分の八分音などの全てのチューニングといった細かい音高の調整が可能である。
管の長さ、管の開き方は、3分の2が円筒管で、残りの3分の1が円錐管になっている。スライドを伸ばしてポジションを遠ざけると音が低くなり、管の長さが長くなる。トロンボーンのスライドのポジションの位置は、ギターやエレクトリックベースと同じ原理である。
F管アタッチメント[編集]
構造上の設計は、B♭管に低音域拡張のための1m程度の渦巻き型の迂回管のF管アタッチメントのロータリーバルブが装着されていて、「テナーバストロンボーン」と呼ばれる。テナーバストロンボーンのバルブの構造は、シングルロータリーバルブである。F管アタッチメントは、完全4度音を低くする長さのバルブである。レバー(ロータリーレバー)の操作は親指で、レバーを操作することにより、息は渦巻き型の管を迂回し、管全体の長さが長くなり、音程が完全4度下がり、B♭管がF管に変わる。レバーを操作しない時は、テナーの音域、レバーを使用中はバスの音域である。B♭管(テナートロンボーン)の最低音よりも低い音が出せ、音域がテナートロンボーンより低音側に4度広く、バスの音域まで拡大され、ロータリーバルブの使用により、テナートロンボーンの遠いポジションの音を近い替えポジションで吹くことができ、遠いポジションが不要で、スライドアクションに苦労することがあまりなく、より早いパッセージに対応でき、低音域のトリルにおいて効果を発揮しやすく、操作性が向上し、演奏が楽になる。スライドは、チューニングスライドとも解釈される。F管アタッチメントは、バスの音域の付加で、テナー(高音側)の部分はB♭管、バス(低音側)の部分はF管であり、この2つの管を使い分ける。遠いポジションは、自然倍音(後述)の最低音だけで吹くことになる。
トロンボーンの各部では、スライドポジションの位置は、B♭管で最大7段階・7等分、F管はB♭管よりポジションが1つ欠けていて、F管で最大6段階・6等分までで、すなわち、ポジションの最低音は、B♭管で7ポジ、F管で6ポジということになる。各管でスライドのポジションの位置の間隔が異なる。F管のみのポジションでは、出せない音が「F#1(約92.5Hz)」の1個存在するので、F管で「F#1」はノーポジションとなり、F管では完全な半音階が出せない。よって、テナーバストロンボーンの調性の仕組みは、「B♭/Fセミダブル」。F管アタッチメントの機能の仕組み・構造は、セミダブルホルンやユーフォニアム、ピストン式チューバのコンペンセイティングシステムと同じで、セミダブルと同じ調性の設計・仕組みである。B♭管のテナーとF管のバスを合体させて組み合わせたもので、1本の楽器で2つの管が組み込まれたもので、音域名は、低音域~中音域に渡り、低音パートとメロディーライン両方対応できる。
ロータリーキャップ(ローターキャップ)は、外すときは左回り、閉める時は右回りに回す。ロータリーの裏側には、F管レバー連結棒があり、レバー連結棒の向きは、レバーを押さないときであるB♭管は左、レバーを押してF管にしたときは右になる。
テナーバストロンボーンの音域名は、低音域~中音域に渡り、全体的にはバリトンの音域に相当し、低音パートとメロディーライン両方対応できる。テナーバストロンボーンは、バスの音域まで持っているので、低音楽器でありながら、メロディーを担当する中音域まで演奏することができる。
レバー | 調子 |
---|---|
× | Bb、テナーの音域 |
〇 | F、バスの音域 |
- 〇…レバーを押したとき
- ×…レバーを押さないとき
ポジションとピッチ[編集]
第1ポジションは基本音である。楽器自体は、構造上はB♭管であるが、記譜するときは移調楽器ではなく実音(原調)で記譜される。つまり実音楽器で、「in C」であり、トロンボーンの「ド」は実音「ド」で、オクターブも同じである。このB♭管は、第1ポジションでシ♭に対する自然倍音列という理由による。
ポジションのピッチは、各1つのポジションで、息の力の強さの変更で、いくつもの音を出すことができる。ポジションのピッチは、第1ポジションの固定で考え、高い音から順に、B♭管では、B♭3、A♭3-20セント、F3、D3、B♭2、F2、B♭1、F管では、F3、E♭3-20セント、C3、A2、F2、C2、F1と並んでいる。B♭管で第1ポジションにおける最低音は、B♭1で、それ以上低い音は、出すことがほぼ不可能である。テナーバストロンボーンの音域は3オクターブ弱あり、最低音は、F管の2倍音(後述)の一番長いポジション=第6ポジションで、C1(約65.41Hz)で、テナー(B♭管)の部分のみの最低音は、B♭管の2倍音の第7ポジションで、E1(約82.41Hz)で、最高音は、B♭管の8倍音の第1ポジションで、B♭3(約466.16Hz)がギリギリ出せる音である。F管の音域の広さはB♭管より低音側に半音狭く、F管は補正管で、近いポジションで低音域を補うシステムで、スライドのピッチの補正を行うことができる。テナーバストロンボーンの音域は、C1(約65.41Hz)~B♭3(約466.16Hz)。各ポジションに目印は付いていないので、チューニングして、ポジションの位置を覚えれば、実音と見た目の位置を頼りにして感覚で操作することにより、音程が合う。テナーバストロンボーンの製品番号は、「YAMAHA YSL-640」。テナーバストロンボーンの音域を他の楽器で表すとチェロに当たる。
トロンボーンの音色はトランペットと同様、明るく輝かしく、華やかで、金属的で力強い響きで迫力があり、エネルギーを表現し、音色が最も目立つ存在である。テナーバストロンボーンは、男性の声の音域を持ち、男性的な音が特徴。
トロンボーンの各自然倍音列の音域の音程は、ポジションが7段階の場合は、減5度(増4度、半音6個、鍵盤7個)で、ポジションが6段階の場合は、完全4度(半音5個、鍵盤6個)となる。
以下に、ポジションと出せる音の対応を示す。横方向はポジションで、縦方向は息の強さの変更により音高が変わるものである。
同じポジション・同じ指使いの運指・同じ管の長さで、息の力の強さの変更により吹いたときに出る音高の変わり方は、トロンボーンの自然倍音列である。自然倍音列については、「倍音」という名前が付いているが、ここで注意しなければならないのは、トロンボーン及び金管楽器の自然倍音列は、基音に整数次倍音を複合した音色が、倍音単体・倍音1つのソロの音高の配列に近い並びで鳴るもので、純正律の倍音と一致せず、自然倍音列は、7倍音を除いて、平均律寄りの差が0セント=平均律の並びで鳴る。楽器の自然倍音列の呼び方は、「第~」は付けずに、「○倍音」と呼ぶ。「倍音」だけの場合は、基音に整数次倍音を複合した音色で、「音色が含まれる倍音成分」のことである。
倍音の音程は、第5倍音は、純正律では長3度より13.686セント狭いが、金管楽器の自然倍音列では、5倍音は、純正律ではなく、平均律の長3度、つまり0セントの長3度である。金管楽器の自然倍音列の周波数比は、3倍音=2.997、5倍音=5.04、6倍音=5.993、7倍音= 7.045であり、7倍音を除いて平均律であることがわかる。金管楽器の自然倍音列における第1倍音・基音は「ペダルトーン」と呼ぶが、ペダルトーンは、テナーバストロンボーンでは出すことができない。
テナーバストロンボーンの各ポジションで出せる自然倍音列の音域は、B♭管とF管両方とも、最低音は2倍音、最高音は8倍音である。
テナーバストロンボーンのB♭管の第1ポジションの自然倍音は、基音・ペダルトーンはB♭0(約58.27Hz)で、B♭0(約58.27Hz)に対する自然倍音である。
自然倍音列の第7倍音は、整数次倍音とほぼ同様、平均律よりかなり低いため、自然倍音列の7倍音は、ポジションがわかりにくいので、あまり使わない。
B♭管の自然倍音は、トロンボーンでは第1ポジションでシ♭に対する自然倍音列、それ以外の金管楽器では、ピストンバルブやロータリーレバーを何も押さないときである開放の状態「運指番号は0」がシ♭に対する自然倍音列である。
トロンボーンは実音楽器「in C」であり、実音楽器のときは、黒鍵の音名は、bで統一する音はBb,Eb,Abの3つで、#で統一する音はF#,C#の2つで表す。
※オクターブ表記を使った音名=英語音名とする
- テナーバストロンボーンのB♭管のポジション
自然倍音列\ポジション | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
8倍音 | Bb3 | A3 | Ab3 | G3 | F#3 | F3 | E3 |
7倍音 | Ab3-20セント | G3-20セント | F#3-20セント | F3-20セント | E3-20セント | Eb3-20セント | D3-20セント |
6倍音 | F3 | E3 | Eb3 | D3 | C#3 | C3 | B♮2 |
5倍音 | D3 | C#3 | C3 | B♮2 | Bb2 | A2 | Ab2 |
4倍音 | Bb2 | A2 | Ab2 | G2 | F#2 | F2 | E2 |
3倍音 | F2 | E2 | Eb2 | D2 | C#2 | C2 | B♮1 |
2倍音 | Bb1 | A1 | Ab1 | G1 | F#1 | F1 | E1 |
- テナーバストロンボーンのF管のポジション
自然倍音列\ポジション | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 |
---|---|---|---|---|---|---|
8倍音 | F3 | E3 | Eb3 | D3 | C#3 | C3 |
7倍音 | Eb3-20セント | D3-20セント | C#3-20セント | C3-20セント | B♮2-20セント | Bb2-20セント |
6倍音 | C3 | B♮2 | Bb2 | A2 | Ab2 | G2 |
5倍音 | A2 | Ab2 | G2 | F#2 | F2 | E2 |
4倍音 | F2 | E2 | Eb2 | D2 | C#2 | C2 |
3倍音 | C2 | B♮1 | Bb1 | A1 | Ab1 | G1 |
2倍音 | F1 | E1 | Eb1 | D1 | C#1 | C1 |
テナーバストロンボーンのポジションは、B♭管では全ての音を出せるが、F管は、B♭管より1つ欠けているため、F管のポジションでは出せない音が1個あり、「F#1」である。テナーバストロンボーンの各管の音域は、B♭管のみの音域は、テナートロンボーンと同じで、E1~B♭3、F管のみの音域は、C1~F1、G1~F3で、F#1のみ出せない音となる。そのため、テナーバストロンボーンの調性の仕組みは、「B♭/Fセミダブル」であることがわかる。 余談で、F管の迂回管のチューニング管を長く引き伸ばすと、F管が0.5半音下がり、最低音は約61.74HzのB♮0まで出せる。
トロンボーンのAの音は、スライドを抜いた第2ポジションになるので、ピッチを正しく合わせにくい。
スライド[編集]
管の中央部を構成するスライドは、内管と外管の二重になっていて、トロンボーンのスライドを外すと、内管が出てくる。その内管の先端部分は、とても鋭利で、指を切ってしまう事さえある。スライドの外管の上のほうを見ると何やら、得体のしれない小さなものがくっついている。これは、スライドロックで楽器を持ち歩いている時にスライドが抜けて外管が落ちてスライドに傷をつけるのを、防ぐためにある。でもこれは、あまり乱暴に扱うと、すぐに取れてしまうので、注意!!!スライドの先端部分に、石突きが付いている。石突きは、U字管の先端に付いたゴム製の黒い突起のことである。これは、楽器をずっと持っていると、腕が疲れてしまうので、楽器を軽く置きたい時に便利である。スライドはトロンボーンの命であり、スライドを下に向けて持つときに、誤って凹ませないようにするという目的もある。
スライド内管は、ニッケルシルバー(洋白)に銀メッキ仕上げでできている。スライドの先端部には、ウォーターキーが付いている。ウォーターキーには、ロングタイプもある。ロングウォーターキーは、手前で楽に操作できる。
バストロンボーン[編集]
総論[編集]
トロンボーンには、トランペットのようなピストンが無い。しかし例外もある。それは、トロンボーンの同属楽器で、少し大きくて、普通のテナーバストロンボーンよりも重たい「バストロンボーン」と呼ばれる、種類のトロンボーンである。略して、俗に「バストロ」とも書かれる。テナーバストロンボーンとは明確に異なる楽器である。
バスという音域名が付いているものの、管の長さはテナーバスと同じB♭管がベースになっている。テナーバスのB♭管の自然倍音の最低音や、F管の最大ポジションの最低音より更に低い音を出すという低音域拡張の機能を付けるため、もう1種類以上管をプラスしたもので、調の切り替えのためのロータリーバルブを2個装着してダブルロータリーにし、更に長い迂回管を加えて管を延長し、管全体・ボア・ベル、マウスピースを更に太くしたもので、機能を向上させ、楽器全体を一回り大きくしたもの。ベルの直径は24cm。ボアサイズは14.3mmである。B♭管/F管の切り替えを基本・ベースに、F管より長いD管、更にはG♭管(F#管)が付いている。F管の部分の長さだけでは、最低音は2倍音の一番遠いポジション=第6ポジションの音で、C1(約65.41Hz)のままで、「B♭管/F管」のみでは、B♭管のペダルトーンの最高音の半音上のB♮0(約61.74Hz)が出せず、出すことができない低音が生じるので、その間の音を半音で埋めるための管で補うため、もう1つ迂回管が必要になる。管の周り具合が、比較的複雑になっていて、機能や操作も複雑になり、低音域で様々なポジションの可能性が広がる。2個のロータリーバルブにより、スライドを動かす数が少なくても、様々な音が出せる。
オフセットタイプとインラインタイプの2種類がある。オフセットタイプは、「B♭管、F管、D管」の3つの管、つまりセミトリプル、インラインタイプは、「B♭管、F管、D管、G♭管(F♯管)」の4つの管となる。G♭管(F#管)は、F管より半音高いもので、インラインタイプのみ存在するので、G♭管(F#管)は任意である。D管は、F管より半音3個低く、管の長さの調性から見たら一番低い音高の調性である。管の長さの調性は、一番高い音から順に、B♭管、G♭管(F#管)、F管、D管で、一番低い管はD管となる。オフセットタイプとインラインタイプ両方で共通する管は、B♭管、F管、D管で、プラスされた低い管は、一番低い管であるD管のみである。基本となるのはオフセットタイプが標準である。記譜する時はこれも同じく実音楽器である。バストロンボーンの各ポジションで出せる自然倍音の音域は、最低音はB♭管のみペダルトーン、B♭管以外は2倍音、最高音は全ての管で6倍音までである。B♭管のペダルトーンの最高音の半音上のB♮0(約61.74Hz)が出せる管は、D管のみである。D管により、低音域を補うことができ、自然倍音のうち、B♭管のペダルトーンの最高音とF管の2倍音の最低音の間を半音階で埋めることができるようにするためである。
オフセットタイプ[編集]
オフセットタイプは、調子=B♭/F/D(セミトリプル?)。F管の回路の中に更にロータリーを追加したもの。下が第1ロータリーバルブ、上が第2ロータリーバルブ。第1レバーは上、第2レバーは下。ロータリーバルブが縦に2段になっている。2個目の第2バルブが第1バルブの管(F管)に付いてて、第2バルブ単独で押した場合はB♭管のまま変わらず、作用しない。第2バルブが、第1バルブを操作したときだけ変調が機能するタイプ。ロータリーバルブが作動していない状態であるB♭管時には、1つのロータリーしか通っていないので、抵抗感が少ない。管の切り替えは2種類のみとなる。ロータリーを使用しない状態⇒B♭管、第1ロータリー⇒F管、第1+第2ロータリー(2つのロータリーバルブを同時に押した場合)⇒D管になるが、第2ロータリー単独で押した場合はB♭管のまま変わらない。オフセットタイプは、バストロンボーンのスタンダードタイプであり、初心者にも向く。製品番号は、「YAMAHA YBL-620G」。中には、特別な工具の使用無しで、第2バルブセクションを取り外すことができるタイプ=第2バルブ取外し式になっていて、必要なときだけダブルロータリーにするものもある。第2バルブを取り外すことでシングルロータリーになるタイプのバストロンボーン。製品番号は「YAMAHA YBL-822(G)」。
第1レバー | 第2レバー | 調子 |
---|---|---|
× | × | Bb |
〇 | × | F |
× | 〇 | Bb |
〇 | 〇 | D |
- 〇…レバーを押したとき
- ×…レバーを押さないとき
インラインタイプ[編集]
インラインタイプは、調子=B♭/F/G♭(F#)/D。B♭/F管をベースに、切り替えバルブが2つ取り付けたもの。第2バルブが主管に沿っていて、ロータリーバルブが両方とも直列に並んでいるシステム。右が第1ロータリーバルブ、左が第2ロータリーバルブ。第1レバーは上、第2レバーは下。第2バルブが独立しているので、2個のバルブそれぞれを押した時と、両方押した時の3種類の調性に切り替えが可能。ロータリーバルブが作動していない状態であるB♭管時にも2つのロータリーを通っている。ロータリーバルブが2個ともそれぞれ単体で使用可能であり、調性の切り替えがオフセットより1つ多く、ポジションの切り替えが格段に増えている。ロータリーを使用しない状態⇒B♭管。第1ロータリー⇒F管、第2ロータリー⇒G♭管(F#管)、第1+第2ロータリー(2つのロータリーバルブを同時に押した場合)⇒D管。インラインとは、「直列」という意味。レバーの動きの変化は、B♭⇔F、B♭⇔G♭(F#)、B♭⇔D、G♭(F#)⇔D切り替え可となる。複数の調性の管を備えているので、曲の転調に対応できる。種類の管から好みのポジションを選ぶことができる。インラインタイプは、ハイレベルな演奏者向けで、バストロンボーンの上級者モデルである。上級機種のみ用いられる。製品番号は、「YAMAHA YBL-830」。
第1レバー | 第2レバー | 調子 |
---|---|---|
× | × | Bb |
〇 | × | F |
× | 〇 | Gb(F#) |
〇 | 〇 | D |
- 〇…レバーを押したとき
- ×…レバーを押さないとき
ポジションと音の関係[編集]
バストロンボーンのスライドポジションの位置は、D管は最大5段階・5等分、G♭管(F#管)は最大6段階・6等分になっている。ポジションのピッチは、第1ポジションの固定で考え、一番低い管であるD管の場合、高い音から順に、A2、F#2、D2、A1、D1、G♭管(F#管)は、C#3、Bb2、F#2、C#2、F#1、B♭管は、F3、D3、B♭2、F2、B♭1、B♭0、F管は、C3、A2、F2、C2、F1と並んでいる。バストロンボーンの音域は、最低音は、B♭管のペダルトーンの一番遠いポジション=第7ポジションの音で、E0(約41.2Hz)であり、最高音はB♭管の6倍音の第1ポジションの音で、F3(約349.23Hz)で、3オクターブ+半音ある。バストロンボーンでは、F管以外のロータリーバルブを使ったときと使わないときでは、音域の違いが大きくなる。オフセットタイプとインラインタイプ両方とも、音域は全く同じである。
バストロンボーンのB♭管のみのポジションでは、自然倍音のペダルトーン〜2倍音の間に、出せない音が「B♮0(約61.74Hz)〜Eb1(約77.78Hz)」の5個存在するので、B♭管で「B♮0(約61.74Hz)〜Eb1(約77.78Hz)」はノーポジションとなる。
- バストロンボーンのB♭管のポジション
自然倍音列\ポジション | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
6倍音 | F3 | E3 | Eb3 | D3 | C#3 | C3 | B♮2 |
5倍音 | D3 | C#3 | C3 | B♮2 | Bb2 | A2 | Ab2 |
4倍音 | Bb2 | A2 | Ab2 | G2 | F#2 | F2 | E2 |
3倍音 | F2 | E2 | Eb2 | D2 | C#2 | C2 | B♮1 |
2倍音 | Bb1 | A1 | Ab1 | G1 | F#1 | F1 | E1 |
ペダルトーン | Bb0 | A0 | Ab0 | G0 | F#0 | F0 | E0 |
- バストロンボーンのD管のポジション
自然倍音列\ポジション | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
---|---|---|---|---|---|
6倍音 | A2 | Ab2 | G2 | F#2 | F2 |
5倍音 | F#2 | F2 | E2 | Eb2 | D2 |
4倍音 | D2 | C#2 | C2 | B♮1 | Bb1 |
3倍音 | A1 | Ab1 | G1 | F#1 | F1 |
2倍音 | D1 | C#1 | C1 | B♮0 | Bb0 |
- バストロンボーンのGb管(F#管)のポジション
自然倍音列\ポジション | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 |
---|---|---|---|---|---|---|
6倍音 | C#3 | C3 | B♮2 | Bb2 | A2 | Ab2 |
5倍音 | Bb2 | A2 | Ab2 | G2 | F#2 | F2 |
4倍音 | F#2 | F2 | E2 | Eb2 | D2 | C#2 |
3倍音 | C#2 | C2 | B♮1 | Bb1 | A1 | Ab1 |
2倍音 | F#1 | F1 | E1 | Eb1 | D1 | C#1 |
アルトトロンボーン[編集]
普通のトロンボーンより一回り小型で、テナートロンボーンより高い音域を担当する楽器で、E♭管が一般的だが、古くはF管も作られた。人間の声と溶けやすい独特な響きがする音色。アルト声部を受け持つトロンボーン。オーケストラ、ソロ、室内楽、バロック音楽、ルネサンス音楽、古典派の作品、宗教音楽、アンサンブル、ミサ曲でよく使われる。教会音楽の合唱曲各声部の補強のために用いられる。吹奏楽では用いられない。E♭管アルトトロンボーンには、B♭管アタッチメント付きの迂回管や、トリルキイと呼ばれるD管アタッチメント付きの迂回管を持つものもある。
音楽的な役割[編集]
クラシック音楽[編集]
- オーケストラ
編成は主に、トロンボーン3本(アルト・テナー・バス各1、またはテナー2・バス1)で構成され、パート表記はそれぞれ1st、2nd、3rdである。また、ロマン派以降の作品では、チューバを加えた4声で1編成と捉えられる事が多い。1st、2ndパートと3rdパートで役割が異なる場合もある。オーケストラや吹奏楽では、セクションの組み合わせとしては、第1・第2トロンボーンをテナーバストロンボーン、第3トロンボーンをバストロンボーンとする組み合わせが一般的である。
多様な役割を担っている。ハーモニーを奏でたり、他パートとユニゾンすることによって旋律を引き立たせる役割を持つ。強奏時には、オーケストラ全体を圧倒する威力を発揮する。また、美しいコラールも奏でる。反面、ホルンやトランペットなど他の金管楽器に比べると、独奏をする場面が非常に少ない。
- アンサンブル
金管五重奏などでは、主に中低音を担当している。また、同種の楽器によるアンサンブルが非常にさかんな楽器の1つであり、最も一般的な形態がトロンボーン四重奏である。
- ソロ楽器(独奏楽器)として
独奏者、独奏曲のどちらにも恵まれておらず、一部の演奏家が精力的にレパートリーを拡大しているものの、ソロ楽器としての一般的な認知は低い。バルブで音を変える他の楽器に比べると早いパッセージが苦手なことがその大きな理由である。ただし現代では重音奏法や超高音域・低音域、素早いパッセージなど特殊奏法の開拓が幅広く行なわれている。
- その他
西洋の教会においてトロンボーンは活躍しており、教会専属のトロンボーン奏者もいる。
ジャズ[編集]
ジャズではディキシーランド・ジャズの頃からすでに代表的な地位を確立し、ビッグバンドのホーン・セクションの一員としてだけでなく、独奏楽器としても活躍の場も多かった。そしてその後のスウィング・ジャズなどの時代ではバンド内の主役楽器として活躍していたが、ジャズのスタイルが変化していくにつれて、次第に主役としての地位を他の楽器に渡すことになる。駒野逸美など若い世代の奏者も活躍している。
外部リンク[編集]
- ヤマハ トロンボーン|ドルチェ楽器
- トロンボーン音域表 - 楽器解体全書
- インラインとオフセット|バストロンボーン
- トロンボーン - (7)ポジション
- トロンボーン|ミンソクのブログ
- バルブ付きの楽器では、ポジションが変わる
- 第1ポジションから第7ポジションまでそれぞれ出せる音は、音符で表すとこうなります。
- [1]
- [2]
関連項目[編集]
吹奏楽で一般的に使われる楽器 |