移調楽器
移調楽器(いちょうがっき)とは、実際に鳴る音(実音)とは異なる音高(記音)を楽譜に記載するのが通例となっている楽器のことである。これらは楽譜側の都合であって、楽器側に由来する特徴ではない。移調譜。英語ではtransposing instrument。音域を調性に合わせた楽器。自然倍音の基音がハ長調以外の楽器。記譜音と実音の音程差が、1度やオクターブ以外であるもので、その調性を決定づける楽器。楽譜上で、調号を変えて記譜されるもの。楽譜上の音高と実音の音高が一致しない楽器。このとき、楽譜上の音高を記音、実際の演奏の音高を実音という。楽器の管の長さの違いによって、調性が変わる。
移調楽器における音名は、英語音名、ドイツ音名両方とも読める。調性表記は、楽器名とその調子を明記する。
管楽器では、管のサイズが異なる楽器を同じ指使いで演奏することで、同じメロディーが移調されて演奏できる構造のものがある。これを逆手に取って、楽譜上の音をあらかじめ移調しておくことにより、異なるサイズの楽器を同じ指使いで演奏できるようにしたのが移調楽器のシステムである。一方、楽器ごとに移調して記譜する必要があるため作編曲者にとって大きな負担となるほか、絶対音感保有者にとっては指使いが同じになるメリットよりも記音と実音が異なることによる脳内の混乱のほうが大きいという弊害もある。
リコーダーなど、移調楽器と同様の構造を持っているにも関わらず、実音で記譜される楽器もある。
ただし、トロンボーン、ユーフォニアム、チューバは、調性は楽器自体が移調楽器であるのにも関わらず、楽譜上では実音で記譜されるため、移調楽器ではなく実音楽器とみなされる。これらを含めた移調楽器は、「楽器の調性」と呼ばれる。
種類・一例[編集]
- C管(シーかん、ツェーかん) - ハ調。C調。ハ調管。実音と記音が同じ。または、オクターブ単位のシフトで移高・移動されて記譜されることもある。実音と記譜音の音程差がオクターブだけ変わる。ドがドになる実音で書かれたもの。実音楽器ともいう。ピアノの鍵盤で、ハ長調の幹音列を持っている楽器。ピアノの鍵盤のドをドと読んだもの。オクターブが異なる場合は、オクターブ楽器? 国際式ではドイツ語音名読みで「ツェーかん」と読むのが主流(?)であり、ヤマハ式では英語音名読みで「シーかん」と読む。
- F管(エフかん) - ヘ調。F調。実音より5半音低い音(あるいはこれをオクターブ単位のシフトで移高した音)で記譜される。ホルンでは、実音の下のファが上のドになるもの。ホルンに使われる。
- B♭管(ビーフラットかん)、B管(ベーかん) - 変ロ調。B♭調。実音より2半音高い音(あるいはこれをオクターブ単位のシフトで移高した音)で記譜される。楽譜上の「ド」を吹くと、実音「シ♭」が出るもの。音階順「ド.レ.ミ.ファ.ソ.ラ.シ.ド」の運指で音を出すと、実音は変ロ長調の音階「シb.ド.レ.ミb.ファ.ソ.ラ.シb」が出るもの。文字上では英語音名を使用して「B♭管」、発音上は、国際式ではドイツ語音名読みで「B管(ベーかん)」と読むのが主流であるが、音名表記で、単に「B」とだけ書くと、英語音名は「シ♮=ロ音」、ドイツ音名では「シ♭=変ロ音」であり、「シ♭=変ロ音」「シ♮=ロ音」かどっちか迷ってわからなくなる。「シ♮=ロ音」は、英語音名はBであるが、「シ♭=変ロ音」は、ドイツ音名ではBが使われているので、移調楽器の表記に限って、「B」という音名表記を使った「B管」の名称は使えない場合がある。移調楽器における「シ♭=変ロ調」に限定したい場合は、移調楽器の表記に限って、「シ♭=変ロ調」は、ドイツ音名は使わずに、英語音名の「B♭管(ビーフラットかん)」のみを用いて表記した方が、誤解を防ぐことになり、曖昧さなく回避できる。下欄を参照。同様に、ヤマハ式、楽器のカタログのスペック表では、英語音名で「B♭管」と表記している。調子の明記=ドイツ音名は使わずに、英語音名で「調子=B♭」と書く。
B♭管は、クラリネット、バスクラリネット、ソプラノサックス、テナーサックス、トランペット、コルネット、フリューゲルホルン。
- E♭管(イーフラットかん)、Es管(エスかん) - 変ホ調。E♭調。実音より3半音低い音(あるいはこれをオクターブ単位のシフトで移高した音)で記譜される。こちらも文字上では英語音名を使用して「E♭管」、発音上は、国際式ではドイツ語音名読みで「Es管(エスかん)」と読むのが主流。主に、サクソフォンに使用される。アルトサックス、バリトンサックスに使用される。調子の明記は、英語音名で「調子=E♭」と書く。
- H管(ハーかん) - ロ調。H調。実音より半音高い音で記譜される。フルートの場合は移調楽器ではなく、ただ単に最低音がHの音まで出るフルートを指す。H管が移調楽器ではないのはトロンボーンと同様。C管のフルートに比べて音域が最低音側に半音広がったもの。クラリネットなどで移調楽器としてのH管が指定された楽曲もあることにはあるが、非常に稀である。H管はフルートのみ存在する。H管は、事実上存在しないと思う。こちらは逆に英語音名で「B管(ビーかん)」「B♮管(ビーナチュラルかん)」と書かれることは無い。やはり、「シ♭=変ロ調」との混同を避けるためである。移調楽器の表記に限って、「シ♮=ロ調」はドイツ音名の「H管(ハーかん)」のみを用いて表記した方が、誤解を防ぐことになり、ロ音を曖昧さなく回避できる。調子の明記も同様、ドイツ音名で「調子=H」と書く。下欄を参照。
- G管(ジーかん、ゲーかん) - ト調。G調。実音より4度低い音。アルトフルートのみ存在する。国際式ではドイツ語音名読みで「ゲーかん」と読むのが主流(?)であり、ヤマハ式では英語音名読みで「ジーかん」と読む。
- D管(ディーかん、デーかん) - ニ調。D調。トランペット、バストロンボーンに使われる。国際式ではドイツ語音名読みで「デーかん」と読むのが主流(?)であり、ヤマハ式では英語音名読みで「ディーかん」と読む。
- point
移調楽器における音名は、英語音名、ドイツ音名両方とも読めるので、「シ♭=変ロ調」「シ♮=ロ調」との混同を避けるには、移調楽器の表記及び楽器の調性の表記に限って、「シ♭=変ロ調」は英語音名の「B♭管(ビーフラットかん)」、「シ♮=ロ調」はドイツ音名の「H管(ハーかん)」を用い、曖昧さなく回避できる。「B♭管(ビーフラットかん)」=絶対「シ♭=変ロ音」、「H管(ハーかん)」=絶対「シ♮=ロ音」。参照ページは、アルファベットの「B」か「H」を参照。楽器のキイ名称の表記は、Bは英語音名のBで、「シ♭=変ロ音」ではなく「シ♮=ロ音」である。
ドイツ音名のB(ベー)は「シ♭=変ロ音」になるが、英語音名のB(ビー)は「シ♮=ロ音」になるため、音名のBや、「シ♮=ロ音」と「シ♭=変ロ音」の2つの音名は、統一されていないと思い、混乱を招く原因となり、紛らわしく、ややこしいので要注意。アルファベット順に音階を並べるときは、Aに当たる音はラなので、ラから並べ、音名の「ABCDEFG」は、「ラシドレミファソ」になり、日本語音名は「イロハニホヘト」となる。「イロハニホヘト」は、英語音名は「ABCDEFG」で、アルファベット順であるが、ドイツ音名は「AHCDEFG」で、「シ♮=ロ音」だけアルファベット順ではない。これはまさにドイツ音名は一部が変則的なルールになっている。
移調楽器における調性の表記は、トランスポーズ0でハ長調(C調)とすると、+1=Db調、+2=D調、+3=Eb調、+4=E調、+5=F調、+6/-6=F#調/Gb調、-5=G調、-4=Ab調、-3=A調、-2=Bb調、-1=H調となる。前述したように、「変ロ調=英語音名のBb」「ロ調=ドイツ音名のH」のみ用いる。「変ロ調=in Bb」、「ロ調=in H」となる。
トランペット、コルネット、クラリネットは、他の調のものも存在する。Bb管とC管の比較では、実音が同じ音高を鳴らすには運指が異なる。
楽譜上同じ高さの「ド」であっても、クラリネットの「ド」とホルンの「ド」とアルトサックスの「ド」とフルートの「ド」は、実音は全部違う。