FM補完中継局
FM補完中継局(エフエムほかんちゅうけいきょく)とは、AM放送のラジオ番組を同一エリアでFMでサイマル放送するための中継局である。
概要[編集]
FM補完中継局が全国的に広まったのは2014年からで、2011年7月24日の地上アナログテレビ放送終了に伴い、従来アナログテレビ放送が使用していたVHF帯域のうち90.1MHzから94.9MHzまでの帯域を中波放送の補完放送に使用できるようにする方針が策定され、運用を開始したのが契機である。
あくまでも中波放送を補完するための中継局であって、コールサインは持たず、親局送信所扱いもされない。
ちなみに、それ以前にも日本海や東シナ海を通じて伝搬する外国波の混信対策として、富山県の北日本放送[注 1]、NHK沖縄放送局の西表島祖納中継局、ラジオ沖縄、琉球放送が中波放送の難聴取補完のFM波中継局の運用を始めている。
中波放送はその性質上、広範囲に電波を飛ばし、アースを引くために広大な敷地が必要な円筒型アンテナの送信所[注 2]が必要な上、敷地確保のため、送信所を湿地帯など地盤の弱い場所に置く傾向が強い。そのため大規模な地震災害等で放送の継続が困難になる恐れがあること、広大な敷地と大規模な送信施設の維持管理に多額の費用を要する運用上の問題[注 3]や、海外混信以外に電子機器などから出る高調波雑音[注 4]による聴取難やコンクリート建築物で電波が遮られる聴取難の問題がある。
このため、近年のラジオ聴取者の減少も踏まえ、中波放送を終了して現在は補完のFM放送へ完全移行する動き[注 5]を見せ始めている。また、NHKでも中波放送の1波削減の経営計画が出されている。
批判等[編集]
しかし、AM送信所の存廃が民放局任せであることや総務省の介入[注 6]がないことから、中波ラジオ愛好者(BCL)から、災害時の有用なセーフティネットの一つが失われることへの不安が叫ばれおり、またテレビのデジタル移行時において「地デジ難民」が生じたように、非受益者が生じる可能性がある。
また夜間の電離層反射による遠距離受信の醍醐味が味わえなくなることからも反感の意見がある。
AM中継局の停波実験[編集]
中波放送を終了してFM放送へ移行する第一歩として、2024年(令和6年)2月より一部地域で中波中継局の一部を一定期間にわたって停波し、FM補完放送のみで運用する実証実験が実施されている[注 7]。
全AM送信所休止を予定しているのは、山口県の山口放送や佐賀県のNBCラジオ佐賀で、山口[注 8]、佐賀[注 9]両県では自県の民放AM放送休止が予定されており、茨城放送や福井放送などでは親局以外のAM中継局の休止が予定されている。
- 2024年2月開始
- 2024年4月開始
- 南海放送 新居浜、八幡浜、宇和島局 - 半年間
- 山口放送 山口、岩国局 - 翌年1月末まで
- 2024年5月開始
- 山口放送 下関局 - 翌年1月末まで
- 2024年7月開始
- 2024年8月開始
注[編集]
- ↑ 北日本放送は中継局開設以前にもテレビの音声多重放送の空き時間に副音声でAM番組をサイマル放送していた。
- ↑ 京都放送久御山ラジオ送信所やFMと兼用の石川県の野々市ラジオ送信所のようにテレビのような自立鉄塔アンテナもある。
- ↑ 他に日本では旧郵政省の方針で地方民放局で5kWを超える親局の設置が規制される「小出力局分散配置」の方針を貫いて、太平洋等の海上伝搬を活かせない問題もあるが、これはクローズアップされていない。
- ↑ パソコンが代表的だが、気動車やVVVF制御電車の起動時も高調波が被ることが多い。
- ↑ HBCラジオ、STVラジオ、秋田放送ラジオの3局は完全移行しないことを表明する一方、東海ラジオ放送はAM送信設備を補完として存置することを表明している。
- ↑ いうなれば、NHK第2の300kW以上の大出力送信所の配置のように「AM喪失難民」が生じないように、存続し、かつ大出力化するAM局の放送局配置の立案を行って民放局任せの存廃を牽制すること。
- ↑ 但し、東海ラジオについては、飛騨北部、東紀州の4中継局でFM補完中継局未整備やAM親局代替不可と判断され、実験参加を却下された。
- ↑ 但し、福岡県や中国放送、大分放送、南海放送の親局や山陰放送の益田中継局が停波実験に参加しないことから、実害は少ないと思われる。
- ↑ 但し、福岡県や熊本放送の親局や長崎放送の島原、平戸中継局が停波実験に参加しないことから、実害は少ないと思われる。