88鍵のピアノの音域外の音
88鍵のピアノの音域外の音(88けんのピアノのおんいきがいのおと)では、一般的な88鍵のピアノの音域〔A-1(下二点い、27.5Hz)~C7(五点ハ、約4186.01Hz)〕に入っていない周波数の音高を持つ音色についての項目である。88鍵のピアノの音域外の基音周波数の音高。
概論[編集]
現代のピアノにおいて88鍵が標準的であるのは、この音域(A=440Hzとした場合、周波数は最低音で27.5Hz、最高音で約4186.01Hz)が実際使用可能な楽音をギリギリ認識できる限度であるためだといわれている[1]。88鍵のピアノの最高音は、音感(音程感)として認識できる上限である。これ以上音域を拡大しても、低音側はゴロゴロとした唸りで、響きがパイプオルガンの重低音の周波数と同じで重苦しく安全性を欠くものとなり、高音側はキンキンとした耳障りなノイズでほとんど理解できない音程感となり、簡単にはどれを聴いてもほとんど同じような音名に聴こえてしまう(unintelligible[incomprehensible] pitch)。重低音を補強しても、高音域を増やしても両方とも音程感は不可解で、特に高音側はオクターブの判別も不可解である。しかしながら、主に他の音と共鳴させて豊かな音を響かせるために、この音域を超えた鍵を持つピアノも一部で作られている。
電子ピアノにおける伴奏スタイルでは、中には88鍵ピアノの最低音より半音下(約25.96HzのAb-1/G#-1)か全音下(約24.5HzのG-1)まで超える周波数の音高が使われているものもある。
88鍵ピアノの鍵盤に載っていない音を出す指定はブゾーニ(ピアノ協奏曲)、スクリャービン(ピアノソナタ第6番)、バルトーク(ピアノ協奏曲第2番)、ボルコム(12の新しい練習曲集)ほかに該当例がある。長らくピアノの鍵盤の拡張はメーカーにとっても議論の種であったが、21世紀に入ると音域拡張が本格化した。
音域を拡張したピアノで出せる周波数の音色[編集]
2018年現在音域を拡張したピアノでは、次のようなモデルがある。
- ディヴィッド・ルービンシュタイン・ピアノ
- ベーゼンドルファー[3]
- 97鍵(C-1~C7)
- スチュアート・アンド・サンズ[4]
- ステファン・ポレロ[5]
- 97鍵(F-1~F7)
- 102鍵(C-1~F7)
- クリス・メーネ -ザ・ストレート・ストラング・グランド・ピアノ[6]
- 90鍵(G-1~C7) ラヴェルのピアノ独奏作品「水の戯れ」および「夜のギャスパール」に対応。
ベーゼンドルファーは超低音のみの拡張で、白鍵の上面を黒く塗って奏者の混乱を防ぐ措置がとられているものがある。一方、スチュアート・アンド・サンズやステファン・ポレロなどのものは、超高音・超低音共に拡張しており、拡張音域の鍵盤の見た目は他と変わらない。3メートル越えのBorgato Grand Prix 333とFazioli F308は音域拡張を行っていない。
かつて88鍵を超えるピアノを作っていたメーカー[編集]
その他の楽器での例[編集]
※全て実音
ピアノ以外の楽器で、通常のピアノで出せない超高音の周波数が出る例[編集]
- ピッコロ - 最高音Eb7[10](拡張音域)
- ソプラニーノリコーダー - 最高音D7(拡張音域)
- クライネソプラニーノリコーダー - 最高音D7
- グロッケンシュピール - 最高音F7[11](一部モデル)
- 風鈴 (一部モデル)
- チェレスタ - 最高音F7[12]
- アンティークシンバル - 最高音F7(一部モデル)
- 鍵盤付きグロッケンシュピール - 最高音G7[13](一部モデル)
- ヴァイオリン属のような弦楽器の場合、理論上は高音域は無限に出せるため、サルヴァトーレ・シャッリーノはLe ragioni delle conchiglieで指定している[14]。
逆に通常のピアノで出せない超低音の周波数が出る楽器[編集]
サブコントラバスの音域名に相当する。
- シンセベース(一部モデル) - 最低音F-1(低音域拡張、またはオクターブシフト変更)
- オクトコントラアルトクラリネット - 最低音Eb-1
- オクトバス - 最低音C-1
- ハイパーバスフルート - 最低音C-1
- オクトコントラバスクラリネット - 最低音Bb-2
- サブコントラバスチューバ - 最低音Bb-2
- パイプオルガンの最低音の基音周波数 - 約16.35Hzのドであり、このドは、ノーマルの音高である8フィートの音色ではノートナンバー12(C-1)、オルガンの音色ではノートナンバー24(C0)
音域が非常に広く、超高音・超低音の両方とも扱える例[編集]
- MIDIでは、ノートナンバー0~127で、C-2(約8.18Hz)からG8(約12543.9Hz)までを扱える。ノートナンバー69の基音周波数は440Hz。電子ピアノや電子キーボードの類は、トランスポーズやオクターブシフト機能が使える場合、仕様上発音可能な音域の外の音が鍵盤の範囲内に入ることがあり、その音を発音すべき場合はオクターブ折り返して(発音可能音域に最も近い同名の音に置き換わって)発音される(例えば発音可能音域を88鍵のピアノの音域(A-1~C7)として、ピアノの鍵盤の最低音より半音下の音であるG#-1を発音すべき場合、実音G#0として発音される)が、現在発売されているものはMIDIの全音域を発音できることが多い。MIDIではピッチベンドを使えばノートナンバーを変えずに2オクターブまで上下させることができるので、これも考慮に入れれば実質C-4(-24)からG10(151)まで扱える計算になる。シンセサイザーの発音可能音域は、高低ともに無限である。
- パイプオルガンは、物によって音域がまちまちであるが、超低音では最低で128フィートのC-3が出せる巨大なものが存在する。楽器で正規の方法で出せる楽音としては、このC-3は史上最低の音と思われる。もっとも人間の耳で音程を感じることは到底不可能と思われるし、実際の音楽で使われることも皆無に等しいと思われる。ただ、超大型オルガンには備え付けられているものの、現実的には64フィートあるいは32フィートまでが備え付けられていることが多い。超高音については、1フィートのストップを備えるオルガンはもう珍しくなく、C9の音を出せるものは普通に存在する。それより更に1オクターブ高いC10は実際に設置する場合実現不可能であろうと思われるが、ヴァーチャル・オルガンなら可能である。
通常のパイプオルガンの最低音の基音周波数は約16.4Hzである。 パイプオルガンの音色は、ノートナンバー69(A3)の基音周波数は通常220Hzである。
- グアテマラのマリンバで最大のものは、137の音板を持つ11オクターブ以上のもので、複数の奏者で演奏する。
- モスキート音 - 周波数約8kHz〜17kHz程度。モスキート音は、全く理解できない音程感である。モスキート音の最高音は、MIDIのノートナンバーの範囲外の周波数を含む。
- 88鍵の音域外のピアノで、実用的な音域=90鍵
─黒鍵────白鍵─── ──────┐ C7 ──────┤ B6 Bb6■──┤ A6←3520Hz Ab6■──┤ G6 F#6■──┤ F6 ──────┤ E6 Eb6■──┤ D6 C#6■──┤ C6 ──────┤ B5 Bb5■──┤ A5←1760Hz Ab5■──┤ G5 F#5■──┤ F5 ──────┤ E5 Eb5■──┤ D5 C#5■──┤ C5 ──────┤ B4 Bb4■──┤ A4←880Hz Ab4■──┤ G4 F#4■──┤ F4 ──────┤ E4 Eb4■──┤ D4 C#4■──┤ C4 ──────┤ B3 Bb3■──┤ A3←440Hz Ab3■──┤ G3 F#3■──┤ F3 ──────┤ E3 Eb3■──┤ D3 C#3■──┤ C3 ──────┤ B2 Bb2■──┤ A2←220Hz Ab2■──┤ G2 F#2■──┤ F2 ──────┤ E2 Eb2■──┤ D2 C#2■──┤ C2 ──────┤ B1 Bb1■──┤ A1←110Hz Ab1■──┤ G1 F#1■──┤ F1 ──────┤ E1 Eb1■──┤ D1 C#1■──┤ C1 ──────┤ B0 Bb0■──┤ A0←55Hz Ab0■──┤ G0 F#0■──┤ F0 ──────┤ E0 Eb0■──┤ D0 C#0■──┤ C0 ──────┤ B-1 Bb-1■──┤ A-1←27.5Hz Ab-1■──┤ G-1 ──────┘
関連項目[編集]
脚注[編集]
- ↑ “ピアノのマメ知識: ピアノの鍵盤数が88鍵から増えないわけは?”. 楽器解体全書. ヤマハ. 2020年1月1日確認。
- ↑ “R-371”. www.pianosrubenstein.com. 2019年12月28日確認。
- ↑ “model 290.”. boesendorfer.jp. 2019年12月28日確認。
- ↑ “range_of_the_piano”. www.stuartandsons.com. 2019年12月28日確認。
- ↑ “stephenpaulello”. www.stephenpaulello.com. 2019年12月28日確認。
- ↑ “the Straight Strung Grand Piano”. www.chrismaene.be. 2019年12月28日確認。
- ↑ “Petrof P1 Orchestra”. www.besbrodepianos.co.uk. 2018年12月22日確認。
- ↑ “Petrof P1 Orchestra”. webcache.googleusercontent.com. 2018年12月22日確認。
- ↑ “Grand Piano Models”. boesendorfer.jp. 2019年12月28日確認。
- ↑ Levine=Mitropoulos-Bott, The Techniques of Flute Playing II Piccolo, Alto and Bass Flute, Baerenreiter ISBN 3-7618-1788-6, p.44
- ↑ “Thomann Orchesterglockenspiel THGS3.0”. www.thomann.de. 2019年12月28日確認。
- ↑ “celesta-modelle”. www.celesta-schiedmayer.de. 2019年12月28日確認。
- ↑ “yamaha-cel-56pglc-keyboard-glockenspiel”. www.percussionsource.com. 2018年12月12日確認。
- ↑ “Sei quintetti, 1984-1989 p.77”. www.worldcat.org. WorldCat. 219-12-28確認。