玉城素

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玉城 素(たまき もとい、1926年5月9日[1] - 2008年9月14日)は、日本の朝鮮問題研究家[2]、評論家[3]。元至誠堂編集長、アジア経済研究所嘱託研究員、現代コリア研究所理事長[4]北上夷(きたがみ えびす)の筆名を持つ[1]

経歴[編集]

東京府(現・東京都渋谷区)生まれ、宮城県出身[1]。マルクス経済学者の玉城肇の3人息子の内の次男で、兄は歌人の玉城徹、弟は農業経済学者の玉城哲[5]。東京都立第一中学校(現・東京都立日比谷高等学校)卒業[6]。1946年日本共産党に入党[7]旧制第二高等学校(現・東北大学)の日共キャップとして活動[8]。1947年旧制二高中退、以後1955年まで東北地方にて日共中堅幹部として活動[3]。日共宮城県委員[4]、宮城県北部地区委員長を務め[9]、武装闘争路線下の3年間は日共の非公然組織「山村工作隊」の活動にも従事した[10]。共産党員として活動する中で在日朝鮮人と接したことが後の北朝鮮研究の原点となった[11]

1955年日共を離党[7]。1956年から東京の出版社に勤務、編集者を経て、1960年にフリーの著述業となり[4]金三奎主宰の『コリア評論』などに執筆。1960年代から1970年代に『コリア評論』の編集に参画[12]。1984年に日本朝鮮研究所(1986年から現代コリア研究所)の雑誌『朝鮮研究』が『現代コリア』に改称してから同誌の編集に参画[13]。1984年時点で株式会社麹町企画顧問も務めていた[1]。1994年時点で現代コリア研究所理事長、『現代コリア』編集委員、NK会幹事[12]

2008年9月14日[13][14][15]、肝臓癌のため死去[8]、82歳。同年11月1日に「玉城素さんを偲ぶ会」が東京・吉祥寺で開かれ、林建彦(東海大学名誉教授)、黒田勝弘(産経新聞ソウル支局長)、惠谷治(早稲田大学客員教授)、佐藤勝巳(現代コリア研究所前所長)、高世仁(ジャーナリスト)ら約50名が集まった[11][10]

業績[編集]

日本における北朝鮮実証研究の先駆者、第一人者として知られる。代表作に『金日成の思想と行動』(1968年)、『朝鮮民主主義人民共和国の神話と現実』(1978年)、『北朝鮮破局への道』(1996年)がある。論文「日本における朝鮮戦争観」(1967年刊『朝鮮戦争史』所収)で韓国の侵略により朝鮮戦争が始まったとする、当時知識人の間で信じられていた「北侵説」を先駆的に否定した[8]。日共離党後にアジアの共産主義運動への興味から金日成研究を開始し[11]、『金日成の思想と行動』は日本における金日成批判の先駆となった。『朝鮮民主主義人民共和国の神話と現実』では北朝鮮政府が発表する統計や宣伝物を批判的に検討し同国経済の画期的な研究書となった[8]

ジャーナリストの高世仁は、「古い友人たちの話から、私が玉城さんの業績で画期的だと印象に残った」こととして以下の4点を挙げている。

  1. 「早い段階で、朝鮮戦争は北朝鮮が仕掛けたと結論づけたこと。」
  2. 「朝鮮戦争の際、国連安保理ソ連が欠席したすきに韓国への国連軍派遣が決まるのだが、これがソ連の遠謀だったと見抜いたこと。」[10]
  3. 「61年に朴正熙が起こした政変を、将来展望を持った「革命」だと評価したこと。」
  4. 文化大革命開始直後に、毛沢東が思想的創造性を失ったと断言したこと。」[16]

評論家・編集者の太田昌国は、玉城の著書『民族的責任の思想』(1967年)について「帝国主義と民族の問題」を提起した数少ない本であり、日本人の植民地支配責任や戦争責任を思想化したことを評価している[17]

人物[編集]

著書[編集]

単著[編集]

  • 『日本学生史』 三一書房(三一新書)、1961年
  • 『民族的責任の思想――日本民族の朝鮮人体験』 御茶の水書房、1967年
  • 『金日成の思想と行動――アジアにおけるマルクス・レーニン主義』 コリア評論社、1968年
  • 『朝鮮民主主義人民共和国の神話と現実』 コリア評論社、1978年
  • 『朝鮮半島の政治力学』 論創社、1981年
  • 『北朝鮮破局への道――チュチェ型社会主義の病理』 読売新聞社、1996年
  • 『玉城素の北朝鮮研究――金正日の10年を読み解く』 晩聲社、2009年

共編著[編集]

  • 『東京の政治学』 今正一共著、至誠堂(至誠堂新書)、1966年
  • 『渡日韓国人一代』 金鍾在述、図書出版社、1978年
  • 『産業の昭和社会史12 土木』 日本経済評論社、1993年
  • 『北朝鮮――崩落か、サバイバルか』 渡辺利夫共編著、サイマル出版会、1993年
  • 『朝鮮総聯の研究――あなたの隣の「北朝鮮」』 共著、宝島社(別冊宝島)、1995年

訳書[編集]

  • 『中国共産主義批判――社会主義と戦争』 カリデリ著、山口房雄共訳、論争社、1961年
  • 『ユーゴスラビア社会主義』 山口房雄、松田宏共編訳、合同出版社、1963年
  • 『くたばれ自動車――アメリカン・カーの内幕』 J.キーツ著、至誠堂(至誠堂新書)、1965年

監修[編集]

  • 『間組百年史』 2冊、間組百年史編纂委員会編、間組、1989-1991年
  • 『北朝鮮Q&A100』 NK会編、亜紀書房、1992年、全訂版1994年

分担執筆[編集]

  • 『日本資本主義の新段階――高度成長は曲り角か シンポジウム』 平和経済計画会議(平和経済シリーズ)、1962年
  • 『東京の行政と政治――東京市政論』 チャールス・A.ビーアド著、都政調査会訳編、東京都政調査会、1964年
  • 『<11時02分>NAGASAKI』 東松照明著、写真同人社、1966年
  • 『朝鮮戦争史――現代史の再発掘』 民族問題研究会編、コリア評論社、1967年
  • 『国語教材研究講座高等学校現代国語 第3巻』 増淵恒吉監修、有精堂出版、1967年
  • 『現代のエスプリ 第23』 至文堂、1969年
  • 『明治の群像 9 明治のおんな』 紀田順一郎編、三一書房、1969年
  • 『日本のマルクス主義者』 鈴木正編、風媒社、1969年
  • 『日本写真史――1840-1945』 日本写真家協会編、平凡社、1971年
  • 『日本の思想家 中』 朝日ジャーナル編集部編、朝日新聞社(朝日選書)、1975年
  • 『冷戦後の北東アジア――新たな相互関係の模索』 大西康雄編、アジア経済研究所(研究双書)、発売:アジア経済出版会、1993年
  • 『北朝鮮の延命戦争――金正日・出口なき逃亡路を読む』 関川夏央、惠谷治、NK会編、ネスコ、発売:文藝春秋、1998年/文藝春秋(文春文庫)、2001年
  • 『私の娘を一〇〇ウォンで売ります』 張真晟著、ユン・ユンドウ訳、晩聲社、2008年
  • 『南北朝鮮統一はどうなるか 2』 野副伸一研究代表、亜細亜大学アジア研究所(アジア研究所・アジア研究シリーズ)、2004年
  • 『南北朝鮮統一はどうなるか 4』 野副伸一研究代表、亜細亜大学アジア研究所(アジア研究所・アジア研究シリーズ)、2006年

脚注[編集]

  1. a b c d 紀田順一郎ほか編『現代日本執筆者大事典77/82 第3巻(す~は)』日外アソシエーツ、1984年、304-305頁。
  2. 玉城素編『産業の昭和社会史12 土木』 日本経済評論社、1993年。
  3. a b 日外アソシエーツ編『新訂 現代日本人名録2002 3.そ~ひれ』日外アソシエーツ、2002年、556頁。
  4. a b c 朝日新聞社編『朝日年鑑 1994年版』朝日新聞社、1994年、110頁。
  5. 高橋五郎「私の現代中国学の方法 ―中国における土と農からの考察―」『ICCS現代中国学ジャーナル』12巻1号、2019年6月。
  6. 今正一、玉城素『東京の政治学』至誠堂(至誠堂新書)、1966年。
  7. a b 大畑裕嗣「フレーミングの別の顔と経路依存性 : 1960年代の日本人による日韓会談反対運動を事例として」『大原社会問題研究所雑誌』699号、2017年1月。
  8. a b c d 花房征夫「玉城素の北朝鮮研究」『現代韓国朝鮮研究』第10号、2010年11月。
  9. 郡山吉江『冬の雑草』現代書館、1980年。
  10. a b c d 玉城素さんを偲ぶ会 高世仁の「諸悪莫作」日記、2008年11月1日。2019年10月25日閲覧。
  11. a b c 久保田るり子「【集う】玉城さんを偲ぶ会」イザ!ニュース、2008年11月1日。 島田洋一ブログ (Shimada Yoichi blog)、2008年11月2日。2019年10月25日閲覧。
  12. a b 『外交フォーラム』68号、1994年5月。
  13. a b c 玉城素さんを悼む 佐藤勝巳 (2008.10.10) 現代コリア、2019年9月30日。2019年10月25日閲覧。
  14. a b 玉城素氏を悼む 河信基の深読み、2008年12月28日。2019年10月25日閲覧。
  15. a b 玉城素さん、9月14日に亡くなっていた。 ザ大衆食つまみぐい(遠藤哲夫のブログ)、2008年9月27日。2019年10月25日閲覧。
  16. 玉城素さんを偲ぶ会 2 高世仁の「諸悪莫作」日記、2008年11月2日。2019年10月25日閲覧。
  17. 太田昌国「シリーズ《60年代の思想》を読む⑥「帝国主義と民族の問題」を捉える方法を先駆的に示す玉城素の『民族的責任の思想』 御茶の水書房・1976年発行(現在絶版)」『ピープルズ・プラン研究』3巻3号、2000年7月。
  18. 玉城素(青狼との距離-7)|朝鮮文化資料室安部南牛のブログ)、2019年8月7日。2019年10月25日閲覧。

外部リンク[編集]