津久井龍雄

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津久井 龍雄(つくい たつお、1901年明治34年)2月4日 - 1989年平成元年)9月9日)は、国家社会主義者、政治評論家[1]

高畠素之の門下。昭和初期に建国会愛国勤労党急進愛国党などを組織して大衆運動を展開、天皇中心主義の下、最低賃金制や8時間労働制などを主張した。その後、言論活動に転じた[2]

来歴[編集]

1901年2月4日、栃木県那須郡大田原町上町(現・大田原市)で津久井彦次郎の長男として生まれる[3]。大田原中学校、高輪中学校を経て、1922年3月早稲田大学専門部英文科入学[4]。同級に横光利一友田恭助らがいた。在学中『萬朝報』の懸賞論文に「杉森孝次郎論」が一等入選[3]。1924年3月同中退[4]。大学中退後、大阪今日新聞社に入社。演説会に来阪した同社顧問の高畠素之と出会う[3][5]。高畠の門下に入り、大衆社に加盟、石川準十郎矢部周らと国家社会主義者として活動を始める[6][7]読売新聞日本新聞の記者を経て、1926年2月に赤尾敏らと建国会を創立、高畠の推薦で書記長に就任した[3][4]

高畠の死去で1929年6月に建国会を脱退し[3][4]、1930年2月に天野辰夫らと愛国勤労党を結成、中央委員に就任した[8]。同年8月に愛国勤労党を脱退し、急進愛国労働者総連盟を組織、児玉誉士夫らと急進愛国党を結成、党首に就任した[8][1]。1931年3月、全日本愛国者共同闘争協議会(日協)を結成、書記主任、1932年1月常任委員に就任した[4]。1931年5月、井上準之助蔵相脅迫事件で検挙され、10月に脅迫罪で懲役3ヶ月の地裁判決を受ける[8][4]。同年9月、大川周明を会長とする日本社会主義研究所を創立[8]、雑誌『日本社会主義』(のち『国家社会主義』)を創刊した[9]。また同年6月、内田良平大日本生産党に入党し[10]、同年12月に大日本青年同盟を組織、会長に就任した[11][4]。1932年1月に大日本生産党中央執行委員に就任したが[4]、後に離れ、1933年7月に赤松克麿らと国民協会を結成、常任理事・出版部長に就任した[8]。同年9月にその実践団体である青年日本同盟を結成、会長に就任し、月刊誌『国民運動』や『青年日本新聞』を発行した[7][10]。1935年10月、国民協会を改組、総務長に就任した[8]。1936年に維新制度研究会、1937年7月に赤松克麿と日本革新党を結成、党務委員に就任した[10][12]。1940年1月、東京政学会を結成した[10]

日中戦争が始まった頃から実践活動を離れ、ジャーナリストとして新聞・雑誌で言論活動を展開する。1937年『やまと新聞』に入り、主筆に就任[6]、戦時下において軍部の独善性を批判した[5]。『やまと新聞』副社長、読売新聞論説委員、NHK論説放送委員を歴任[6]。1942年、第21回衆議院議員総選挙に大東亜同志会委員長として出馬したが落選した[8]。1943年3月大日本言論報国会常務理事・総務部長、同年8月同会理事に就任した。1943年10月、第一期東京都会議員に選出された[4]

敗戦後は公職追放となったが、1951年8月に解除され[4]、同年10月に赤尾敏の大日本愛国党結成に参加、1952年4月に赤尾らと東方会を結成した[10][1]。1953年1月、鶴島三郎国論社を創立、社長に就任し[4]、機関紙『国論』を発行した。廃刊後も国家社会主義者として文筆活動を続けた[5]。1955年に都市議員団の一行と新中国を訪問し、中華人民共和国を高く評価したため、右翼から批判されるなど賛否両論を呼んだ[6][5]。1957年4月、日中友好協会杉並支部を結成、支部長、1959年理事に就任した。1959年4月、国論調査会を創立、理事長に就任。1962年10月、小島玄之国民運動研究会に加盟。1965年11月、日本同盟相談役に就任[8]

1989年9月9日、心筋梗塞のため東京都世田谷区の病院で死去、享年88歳[13]。著書に『日本国家主義運動史論』(1942)、『右翼』(1952)、『私の昭和史』(1958)、『証言昭和維新』(1973)、『異端の右翼』(1975)などがある。

著書[編集]

単著[編集]

  • 『コントの実証哲学』 事業之日本社(社会経済思想叢書)、1926年
  • 『ファスシズム伊太利とムッソリーニ』 自由評論社(フアスシズム叢書)、1927年
  • 『国家社会主義問答』 政治批判社、1930年
  • 『日本的社会主義の提唱』 先進社、1932年
  • 『フアッシズムと日本主義』 大日本青年同盟本部(日青パンフレツト)、1932年
  • 『日本主義の基礎理論』 大日本青年同盟本部(日青パンフレツト)、1933年
  • 『日本精神と政党政治――附・政党政治に対する諸家の批判』 国民運動社(国民運動パンフレツト)、1933年
  • 『日本主義運動の理論と実践』 建設社、1935年
  • 『課題を衝く』 作品社(作品文庫)、1938年
  • 『世界再建と東洋の理想――評論集』 山雅房、1939年
  • 『時局の周辺――感想随筆集』 興亜文化協会、1939年
  • 『日本の運命』 今日の問題社、1939年
  • 『戦争の背後のもの――評論』 八元社、1940年
  • 『新体制期の構想』 東洋経済新報社、1940年
  • 『文化と政治』 桃蹊書房、1941年
  • 『革新と建設』 育生社(新世代叢書)、1941年
  • 『国内体制と政治力――金融問題研究会第五回座談会速記録』 述、金融問題研究会編、経済書籍、1941年
  • 『日本国家主義運動史論』 中央公論社、1942年
  • 『伝統と創造』 日本放送出版協会(ラジオ新書)、1943年
  • 『日支国交史論』 昭和刊行会(日本政治研究)、1943年
  • 『大西郷』 昭和刊行会、1943年
  • 『救國自治の提唱』 玄同社(明日への叢書)、1946年
  • 『祖国に生きる』 東南書房(現代人の教養)、1952年
  • 『右翼』 昭和書房、1952年
  • 『右翼開眼――中共と日共』 拓文館、1956年
  • 『私の昭和史』 東京創元社、1958年
  • 『証言昭和維新』 新人物往来社、1973年
  • 『津久井龍雄氏談話速記録』 日本近代史料研究会(日本近代史料叢書)、1974年
  • 『異端の右翼――国家社会主義とその人脈』 新人物往来社、1975年

編著[編集]

  • 『日本政治年報 昭和17年第1輯』 昭和書房、1942年

訳書[編集]

  • プラトーン『社会哲学新学説大系 第11巻 理想国』 新潮社、1925年/新潮社(新潮文庫)、1937年
  • ジョン・スチュワート・ミル『社会哲学新学説大系 第21巻 宗教と功利主義』 新潮社、1927年

脚注[編集]

  1. a b c 20世紀日本人名事典
  2. 伊波新之助「津久井竜雄さん 9月9日没(人・流れ雲)」『朝日新聞』1989年9月16日付夕刊3面(らうんじ)。
  3. a b c d e 高橋正衛「津久井竜雄」『日本近現代人名辞典』670頁。
  4. a b c d e f g h i j k 『日本近現代人物履歴事典』368頁。
  5. a b c d 『右翼民族派・総覧 平成3年』273-274頁。
  6. a b c d 判沢弘「津久井龍雄」『現代人物事典』847-848頁。
  7. a b 笠井忠「津久井龍雄」『近代日本社会運動史人物大事典 3』448頁。
  8. a b c d e f g h 『右翼・民族派事典』287頁。
  9. 有島学「津久井竜雄」『日本歴史大事典 2』1110頁。
  10. a b c d e 『最新 右翼辞典』410-411頁。
  11. 上田泰輔「津久井竜雄」『現代日本人物事典――20世紀Who's who』674頁。
  12. 横川光正「津久井龍雄」『日本史大事典 第4巻』 1077頁。
  13. 「津久井竜雄氏死去」『朝日新聞』1993年9月10日付朝刊31面(1社)。

参考文献[編集]

  • 『日本歴史大事典 2』 小学館、2000年。
  • 『平凡社大百科事典 9 (タイスーツン)』 平凡社、1985年。
  • 『日本史大事典 第4巻』 平凡社、1993年。
  • 朝日新聞社編 『現代人物事典』 朝日新聞社、1977年。
  • 朝日新聞社編 『「現代日本」朝日人物事典』 朝日新聞社、1990年。
  • 猪野健治編著 『右翼民族派・総覧 平成3年』 二十一世紀書院、1990年。
  • 伊波新之助 「津久井竜雄さん 9月9日没(人・流れ雲)」『朝日新聞』1989年9月16日付夕刊3面(らうんじ)。
  • 臼井勝美、高村直助、鳥海靖、由井正臣編 『日本近現代人名辞典』 吉川弘文館、2001年。
  • 旺文社編 『現代日本人物事典――20世紀Who's who』 旺文社、1986年。
  • 鹿野政直、鶴見俊輔、中山茂編 『民間学事典 人名編』 三省堂、1997年。
  • 近代日本社会運動史人物大事典編集委員会編 『近代日本社会運動史人物大事典 3』 日外アソシエーツ、1997年。
  • 国史大辞典編集委員会編 『国史大辞典 第9巻 (たかーて)』 吉川弘文館、1988年。
  • 三省堂編修所編 『コンサイス日本人名事典』 三省堂、2009年、第5版。
  • 社会問題研究会編著 『右翼・民族派事典』 国書刊行会、1976年。
  • 新潮社辞典編集部編 『新潮日本人名辞典』 新潮社、1991年。
  • 日外アソシエーツ編 『20世紀日本人名事典』 日外アソシエーツ、2004年。
  • 秦郁彦編 『日本近現代人物履歴事典』 東京大学出版会、2013年、第2版。
  • 平凡社教育産業センター編 『現代人名情報事典』 平凡社、1987年。
  • 堀幸雄 『最新 右翼辞典』 柏書房、2006年。

関連文献[編集]

  • 猪野健治 『日本の右翼』 筑摩書房(ちくま文庫)、2005年。
  • 思想の科学研究会編 『共同研究転向 5 戦後篇 上』 平凡社(東洋文庫)、2013年。
  • 判沢弘 『土着の思想――近代日本のマイノリティーたち』 紀伊國屋書店(紀伊國屋新書)、1967年。
  • 福家崇洋 『戦間期日本の社会思想――「超国家」へのフロンティア』 人文書院、2010年。