既得権益
既得権益(きとくけんえき、英語: vested interest)とは、ある個人または集団が歴史的経緯により維持している権益(権利とそれに付随する利益)のこと。
用法[編集]
その辞書的な定義と異なり、 倫理的にそぐわない特権としてその社会的集団を批難するときによく使用される。
集団または個人が活動すると、存続している限り、それだけ勢力も拡大していくはずなので、大抵何らかの既得権益を保持するようになる。
既得権益を成立させている要因は、その集団の持つ総資本量であったり、コネであったり、互恵状態になれる集団同士の寡占的な協力関係であったり、その集団の構成員の多さであったり、詐欺的な脅迫であったりと多様である。
問題点[編集]
社会の中で富(資本)は、集団や個人の実力や正確な評価に対して適切に分配されなければならないが、1度既得権益が生まれると、既得権益そのものが更なる富を獲得する力となるため、既得権益の有無や大小だけで富の分配が大きくなされてしまい、結果として実力や正確な評価に対する富の分配が行われなくなる。
既得権益によって獲得された資本そのものが、更なる資本を得るための力を持ち、資本余裕ができるとリスクも取りやすくなるため、既得権益はより一層強靭化する。
このような既得権益をもつこと自体によって得られる富の獲得は、社会の中の非合理的な資本分配であり、実力や正確な評価が報われないために社会に歪みや無気力が発生する。
格差は適切に発生するのは問題ないが、あくまで実力や正確な評価に比例してなされるべきものであり、既得権益によって保護された力で分配されるべきではない。現在では既得権益が拡大し強固になる一方で、非合理的な格差も拡大している。
既得権益の例示として頻出される事象[編集]
- 絶対数が多く(=政治家の票に結びつく)、国家権力により手厚く保護されている官僚・公務員
- 政治家・官僚の天下りや利権ができている特定の企業や団体
- 莫大な資金そのものの力を背景にして市場を操作して利益を獲得してしまう金融機関
- 価格操作ができてしまうほど寡占化している業界そのものや企業
- 社会に1つあれば十分に運用可能な独占的な営利団体(著作権一括管理業、広告代理店、インフラ事業など)
- 中小企業を自社たちの都合で支配して有利に物事を進行させる大企業
- 全国に票田を持ち、コメの流通を支配する農協
- 参入障壁が作られ保護されているマスメディアなどの団体
- 日刊新聞紙の発行を目的とする株式会社の株式の譲渡の制限等に関する法律により国内外の投資家による株式の買収から保護される新聞社
- 放送法により地上波の開設は寡占状態にある放送局(テレビ局・ラジオ局)
- 上記の新聞社と放送局とのクロスオーナーシップにより新規参入が困難な報道機関
- ごり押しや採用権を操作するほどの権限を持った芸能団体
- 組織票が見込める業界団体
それぞれ別の既得権益を保有する異なる社会的団体が、相手の権益を奪取し自分たちの権益を拡大させようとし、先方の保持する権益を相互に「既得権益だ」と非難しあうという状況も見受けられる。
現代では既得権益というと、大企業や巨大団体などがその典型として考えられがちであるが、中小企業や個人事業主が既得権益を持っていることがある。例えば街中の古くからの商店街に見られる一見ほとんど集客のない店が、実情は古くから取引がある企業や団体への納品などで売上の大半を占拠しているような例も多く、これらも十分に既得権益であるといえる。
また、既得権益は恵まれた階層・グループが持っているものとも限らない。例えば明治維新の際の解放令によって士農工商穢多非人(官吏・武士・農民・職人・商人・賎民・穢多・非人)から四民平等(華族・士族・卒族・平民・新平民)とされた。被差別部落の賎民・穢多・非人も平民・新平民となり同時にそれまで行わされていた(業務独占していた)河原者と呼ばれる皮革加工業などの独占権が失われる事となり困窮したという事例もある。