年功序列
年功序列(ねんこうじょれつ)とは、職場で働き続けた年数や年齢が増すに従って給料や地位が上がっていくシステムのことで、終身雇用、企業別労働組合と並んで「三種の神器」と呼ばれる日本型雇用の典型的なシステムである。日本の正社員の多くは20世紀においてはこのシステムに則って働くことが多かった[1]。
概要[編集]
この制度下では若年層は職務内容に比して薄給を強いられるため、年齢に係らず能力相応の賃金を得られる企業や国に人材が流出してしまう。若く、能力が高いほど、実際の職務と評価との乖離が大きくなるため、年功序列制度を避ける結果となる。日本のIT人材の平均年収は598万円、アメリカ合衆国のITエンジニアは平均年収1,157万円、韓国のIT人材の平均年収は498万円、インドは533万円、中国のIT人材の平均年収は354万円、タイ王国は192万円。しかし、インドでは6,000万円台の年収、中国や韓国でも3,000万円台、タイでも2,000万円台の人もいて、日本の優秀なIT人材が海外に流出する[2]。対照的に、無能な人材はとりあえず年功序列制度に従っておけば一定の昇給は見込めるので、自分はサボりたいんだという考えの人々にとってはありがたがられているかもしれない。
階級社会においては、階級では判断できない要因(特に経験が物を言う場合)等において経験(場数)の判断が重要視される場合がある。特に経験年数が低い幹部の判断でなく状況を知り尽くした古株のベテランによる判断が正しい例が多く、一概に階級だけで判断するのは愚の骨頂的な事例も多い[3]。
サラリーマン以外における年功序列[編集]
日本の政界にも一種の年功序列制度が存在するが、政界の場合は選挙での当選回数が基準となり、「当選回数至上主義」などと呼ばれる。この場合、当選前の経歴はごく一部の例外を除いて考慮されず、元県知事でも元事務次官でも親の秘書あがりの世襲議員でも「当選1回」とみなされる。
各省庁の大臣は、当選回数が衆議院議員は5回以上、参議院議員は3回以上が目安であるとされるが[4]、サイバーセキュリティー担当大臣がパソコンを使えなかったり、IT担当大臣がはんこ議連の会長だったり、ちぐはぐな人員配置を招く原因となっていると指摘されている[5]。
元警察庁長官・内閣官房副長官の後藤田正晴が衆議院当選2回で入閣した際には「異例の抜擢」とされた(当選5~6回で初入閣というのが相場)。また、後藤田が初当選のころ、世襲で出馬して若くして当選回数を重ねていた橋本龍太郎はかなり年上の後藤田のことを「後藤田君」と呼んでいた。元自治事務次官・鹿児島県知事3期の後に参議院議員になった鎌田要人は、参議院当選2回の間一度も大臣になれずに引退しており、このように当選前の経歴を考慮してもらえない例がむしろ普通であった。
日本相撲協会・日本将棋連盟の理事長・会長も、「その時点での元横綱・元大関の古参年寄」「元名人クラスの長老棋士」が就任するのが普通だが、相撲・将棋・囲碁などには師弟関係の要素もあるため一概に弊害ばかりとはいえない(たとえば理事長・会長の師匠が健在な協会員だと相互の関係が難しい。相撲協会では1960年代以降、理事長の師匠が健在だった時期は三重ノ海の武蔵川が理事長だった短期間だけであり、三重ノ海の師匠は当時すでに協会を退職していた。将棋連盟でも1970年代中期の塚田正夫の会長時代以降、「会長の師匠」が健在だったことも「タイトル歴のない会長」も例がない)。将棋の場合、河口俊彦(将棋ライター・将棋棋士七段)によると「信用できるのは(盤上で)強い棋士」という感覚が棋士には根強く存在するという。ただし、相撲の場合現役時代の実績や弟子育成の実績等で差を詰めたりする余地はある。先代武蔵川の出羽の花は元前頭で理事長になった。
サラリーマン社長[編集]
経営学が発達し、どう経営すれば高い付加価値が得られるかの方法論が確立され、ある程度までなら適切に企業マネージメントできる。ところが日本では年功序列による内部昇格で経営者に就く人が多く、十分な適正の無い人が企業経営している。自社を成長させる自信の無い人が経営しているから企業が成長できない。経済動向を決定するのは消費者であって、政府はそれを側面支援する役割しかない。日本はこれから人口減少し市場は縮小するが、企業は、より需要のあるビジネスにシフトするためにM&Aで規模を拡大する選択肢があり、それを実現するために設備投資する資金がある。ドイツでは、債務超過を放置した経営者は処罰されるが、日本では市場縮小で設備投資が無駄になるリスクを恐れて何も投資しない[6]。
疑問[編集]
年功序列が日本企業の特徴であったかどうかについて、異論もある。実際に、以前からいつまでも出世できない「万年ヒラ社員」、主任どまりの「万年主任」、「窓際族」などの言葉がある通り、かつての日本企業も全くの年功序列とは言い難い面があった。また、欧米企業も賃金は勤続年数に応じて上昇する傾向がある。従って、年功序列が日本企業の特徴ではなかったのではないかとの意見も強い。
年功序列制度が採用されている背景には「歳を取るとともに経験や知識が増え、結果的により能力の高いものが上につく」という説明がなされているが、それならば能力給にした場合でも年功序列給の場合と結果的に変わらなくなるはずである。むしろ理論上、能力給にした場合、歳とともに能力も上がったものは上に、そうでないものは下に、若年者でも能力のあるものは上に、そうでないものは下になり、結果的に能力給のほうが年功序列よりもよい結果が得られるのではないかという疑問の声がある。
関連項目[編集]
脚注[編集]
- ↑ 『知っておきたい! 働く時のルールと権利』籏智優子著。2010年4月。P14
- ↑ (株)幻冬舎発行、加谷珪一著「貧乏国ニッポン」49~50ページ
- ↑ 特に警察や消防・自衛隊や海上保安庁のような階級社会においては、上級の階級を持つ若年昇任者が下位のベテランの者に意見を求めてその判断を尊重する例が多く、また優秀と目される指揮官の多数はベテランの経験に基づく意見を尊重しそれを糧にしている例が多い。若年昇任の幹部等が下手に階級を逆手にベテランの者に横暴な態度を取る例があれば、部下からの信頼を一気に損ねた例も多々ある。民間の会社においても、大卒等の学歴により若年昇任した課長職の社員がベテランの社員に助言を受けるなどの例もある
- ↑ 2020年7月14日中日新聞朝刊23面
- ↑ (株)ポプラ社発行、池上彰、増田ユリヤ著「コロナ時代の経済危機」97ページ
- ↑ (株)幻冬舎発行、加谷珪一著「貧乏国ニッポン]187~191ページ