増税問題

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増税問題(ぞうぜいもんだい)とは、政府が国家予算の財政状況に対し、税率を上げたり新しい税を課したりする「増税」によって、税収の増加を図ろうとすることに関わる諸問題。税制改革財政再建と並行して議論されることが多い。

政府の仕事[編集]

税金は、国民から見ると「自分たちが公的サービスの費用として政府に支払っているお金」と理解できる。別の言い方をすると「国民経済(GDP)から政府に分配された所得」であり、GDPを増やすための支出をすることが政府の仕事だといえる。支出の改善は地方自治体でもできるが、収入を増やすという点については国がどうにかするしかなく、国が担うべき分野にしっかりと取り組まなければならない。

国民経済の目的とは「国民の需要を満たすこと」である。公共事業のほとんどは、直接的には赤字となる。黒字になるのであれば、民間企業がやるべきである(病院経営や水道事業などは過渡期にあると考えられる)。政府が多少の借金(財政赤字)を抱えていても、名目GDPが成長し税収も増えていれば、安全で豊かに暮らすことができる。しかし、デフレを放置してその状況下で増税をすれば、名目GDPを縮小させ減収になり、デフレから抜け出せず財政は悪化を続ける。そもそも「誰かの負債は、誰かの資産」であり、「国債による政府の負債は、国民の資産」である。デフレを放置し国民経済の基盤である供給能力を縮小させることこそが将来世代にツケを残す行為であり、財政赤字を解消するための増税は国民に借りたお金を国民自身に払わせる行為であるともいえる。

公務員の人件費高騰や人件費総額の増大に関して、行政の関与は本来は最小限に抑えるべきで、市場の失敗が見られる分野に限るべきだとの見方もある。18世紀にアダム・スミスは、国家が担うのは「国防・警察・司法・社会インフラの整備・国民の公的教育」などに限定するべきだとするいわゆる「夜警国家論」を唱えている。政府は、社会的弱者の排斥が起こらないようにする責務を負いながらも、自由経済に多くの制限を加えるべきではない。個人よりも組織や法人を保護するための法人税減税などは、政府や国会議員がGDPを増加させるための企画や仕事をせず、財政赤字を見直すことなく公務員に義務と責任を負わせていることの現れだといえる。国民感情としては、議員の定数や歳費の削減等、自らの身を削る痛みを分かちあった行動も求められている。

日本の増税問題[編集]

日本は、1970年代の高度成長期やオイルショックのころより財政の不均衡が指摘されてきていた。プラザ合意やいわゆる(東京の地価でアメリカ全土が買えるといった)日本の土地神話に基づくバブル経済が始まった1986年以降社会保障費も増え続けて、平成になった1989年には消費税が導入された。GDPが急成長しているにもかかわらず政府の負債が増えず民間が極端なペースで負債を膨らませている状態が経済のバブル化であるが、1990年に入りバブルは崩壊した。しかし政府はさらに緊縮財政を開始し、1997年に税率を「3%」から「5%」に上げる際には「福祉目的税」といった取り扱いも議論され、その後2000年に介護保険制度、2003年には障害者の支援費制度が始まった。現在でもGDP及び出生率の向上はなく、やはり公的部門で社会保障費を増やし続けなければならない事態が続いている。

昭和に入ったころの日本と平成の日本は合わせ鏡のように似ている。バブル崩壊、大震災、金融危機、毎年のように変わる政権、長期のデフレーション、更には戦争に向かおうとする様子などが見られる。当時も、深刻なデフレに悩んでいる最中に、政府が増税や緊縮財政などの「デフレ促進策」に走っていた。加えて、日本国民にはGDPや税金、国債やバブル崩壊、TPP参加による規制緩和などに関する情報が正しく伝わっていないこと、他国にまで助けを求めなければならないような状態である「財政破綻」の意味を誤解させられていることも問題となっている。企業がデフレに怯えて内部留保としてお金を溜め込んでいることは問題ではあるが、自国通貨建ての対内債務でデフォルトを起こした国はない。

なお、平成に入ってからの国会や政府では、「独身税」や「携帯電話税」や「パチンコ換金税」や「国際観光旅客税」や「森林環境税」が話題に挙がったりしている。消費税について税率を上げると、行政運営の負担や歳出も増え、他の税との関連でも結果的に増収とならないのではないかとの指摘もある。

増税と緊縮財政による欧州の惨状[編集]

外貨建てバブルが崩壊した例として、アイルランドの不動産バブルは典型的な事例といえる。1990年以降の日本のように、各地の不動産プロジェクトがストップしてゴーストマンションが乱立し、銀行の不良債権問題が深刻化した。しかし日本と違い、アイルランドは自国民ではなく共通通貨であるユーロ相場で外国から資金を注入せざるを得ず、大手銀行を救済するために公的資金を注入しインフレを恐れて投資拡大に躊躇した結果、失業率の急上昇と物価の下落といったデフレすなわち恐慌に突入した。あらためて考えると、ドイツのインフレ率を最優先するユーロはドイツに都合がいいようにつくられたシステムとなっている。ドイツやフランスなどはいわゆるPIIGS諸国に緊縮財政(増税)を求めていたが、アイルランドは2004年から2007年までの財政収支は黒字であってもGDPや税収が増えることはなかったため、結果2010年の財政収支は対DGP比で32%もの凄まじい赤字まで急降下して、負債の返済をあきらめ2010年11月にIMFなど国際機関に支援を要請し、事実上破綻した。その他、ギリシャでも2010年5月に同様の事態となっていた。

大規模災害に対する復興増税の非合理性[編集]

2011(平成23)年3月の東日本大震災に対し、日本の財務省などは「復興のためにも、増税やむなし」といった典型的なフレーズを使う。しかし、災害に対して増税を実施した国はなく、経済活動の萎縮を避けるため、普通の国は減税を実施する。自然災害の復興費用は短期の増税ではなく長期の建設国債で調達するほうが合理的であり、また、用途を限定した目的税ではなく普通税として増税する理由も不可解と言える。それでも財務省や新聞が「増税」フレーズを振りまくのは、「軽減税率のセット」によって天下り先を確保する仕組みである。

2012年8月に消費税を10%へ引き上げる法案が国会を通過したが、当初の民主党案では所得税の最高税率の引き上げや相続税の課税強化、資本所得課税の軽減廃止といった富裕層への課税強化でバランスを図っていた。消費税引き上げだけでは財政再建を実現できないことは誰の目にも明らかであるが、それらが先送りされてしまったことで、再増税が見込まれ痛税感だけが残り租税抵抗も強まるばかりである。

増税問題の解決策[編集]

過去の過ちを認めたくないがために間違いを継続するというのは愚かな行為であり、政府が「成長につながらない支出」を続ける限りGDPは増加せず、さらに増税を要する悪循環は繰り返される。雇用の改善や社会保障系の支出の見直しによる経済成長こそがすべての解である。

悪事を働かないと分かっている相手を信用することはたやすい[1]。悪事を働くか否かにかかわらず相手を信用する場合を信頼とすると、日本社会は悪事を働きにくくした安心の社会と位置づけられる。戦後及び高度成長期以降、産業構造が変化して自営業や家族経営が減少し、女性の専業主婦化が進んでいった。村八分ルールなど裏切りに対するペナルティが存在し、「育児・保育、養老・介護」といった本来は政府が担当すべき領域にことごとく女性のシャドウ・ワークが当てはめられた。日本的経営の三種の神器と呼ばれる「終身雇用制度・年功序列制度・企業別労働組合」は労働者の忠誠を確保し、社会全体が家族主義的に編成されてきた。日本の官僚制と統治構造においても、戦前の「天皇の官吏」という位置づけが戦後には清廉潔白な信頼できる者の「天下り」というシステムに代わり、政府への安心の重要な基礎でもあった。しかし、政治面でのスキャンダルや汚職事件が相次いで起こり、1990年代を通じて政府への安心も劇的に失墜した。

日本経済再生の処方箋としては、「ビジョンに基づいた体系性のある政策」「外需や供給サイドも重視した経済政策」「財政再建」「政府と日銀の緊密な連携」が挙げられる。2009年の衆議院選挙では、自民党へのアンチテーゼとして民主党が圧勝した。しかし、民主党のマニフェストは政策のプライオリティが明確でなく、相互間の矛盾も散見された。「公共事業の削減ありき」ではなく、出発点としての確固たる国家観や哲学から個別政策が導かれるべきである。また「社会保障制度改革での受益に見合った負担」を踏まえた成長戦略が政府により示されなければならない。政治家の質の低下は日本人の民度が落ちていることも含まれていることを自覚しつつ、有効需要の創出につながる公務員増強を実施すべきで、官僚の天下りや政府の貯蓄増加のための増税路線を改めなければならない。若者の雇用の安定と少子化の解消も喫緊の課題となっている。

要するに、「教育改革」を通じて、ソフト面でもハード面でも「国民が豊かで安全に暮らせる環境」を実現する社会基盤整備を粛々と実行すればいいのである。

脚注[編集]

関連項目[編集]

参考文献[編集]

  • 増税のウソ(三橋貴明、青春出版社) ISBN 978-4413043380
  • 消費税が日本を救う(熊谷亮丸、日経プレミアシリーズ) ISBN 978-4532261610
  • 日本の「お金の流れ」を変える!大阪維新の真相(髙橋洋一、中経出版) ISBN 978-4806144632
  • 日本財政転換の指針(井手英策、岩波新書) ISBN 978-4004314035