アメリカン・マフィア

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アメリカン・マフィア英語: American Mafia)は、北米で一般的にイタリアン・アメリカン・マフィア(Italian-American Mafia)、マフィア(the Mafia)、モブ(the Mob)と呼ばれる[1][2][3]、高度に組織されたイタリア系アメリカ人の秘密犯罪組織、組織犯罪集団である。組織のメンバーからはコーザ・ノストラ(Cosa Nostra、イタリア語で「我らのもの」を意味する)、アメリカ政府からはラ・コーザ・ノストラ(La Cosa Nostra、LCN)と呼ばれることが多い。組織の名称は本来のマフィア(コーザ・ノストラ、シチリア・マフィア)に由来する。当初はアメリカのシチリア系移民によって結成されたシチリア・マフィアから派生した組織であったため、本来は単にアメリカで活動するシチリア出身のマフィアの集団を指す。しかし、次第にシチリア・マフィアから半独立した別組織に発展し、最終的にはアメリカやカナダで活動する非シチリア系のイタリア系移民やイタリア系犯罪組織(ニューヨーク・カモッラなど)を包含・吸収するようになった。北米では口語でイタリアン・マフィア(Italian Mafia)、イタリアン・モブ(Italian Mob)と呼ばれることが多いが、これらの用語は別組織だが関連性があるシチリア・マフィアや他のイタリアの組織犯罪集団、他国のイタリア系犯罪組織を指して使われることもある。

アメリカのマフィアは、ニューヨークイーストハーレム(イタリアン・ハーレム)やローワーイーストサイドブルックリンなどの貧しいイタリア系移民街ゲットーで誕生した。19世紀後半から20世紀初頭にかけて、シチリアをはじめとする南イタリアからイタリア系移民が相次ぎ、アメリカ東海岸の他の地域やいくつかの大都市圏(ニューオリンズ[4]シカゴなど)でも台頭した。シチリア・マフィアをルーツとするが、アメリカでは独立した組織である。アメリカにいるカンパニア人やカラブリア人などのイタリア人犯罪集団、独立したイタリア系アメリカ人の犯罪者たちはシチリア系のマフィアと合体し、北米の汎イタリア系マフィアを形成した。アメリカン・マフィアは現在、シチリア・マフィアやカンパニアのカモッラ、カラブリアのンドランゲタなどイタリアの組織犯罪集団とさまざまな犯罪行為で協力している。アメリカン・マフィアの最も重要な単位は、マフィアを編成する個別の犯罪組織として知られている「ファミリー」である。個別の単位を表現するために「ファミリー」という名が付いているが、実際の家族でのグループ分けでは無い[5]

マフィアは現在、アメリカ北東部、特にニューヨークフィラデルフィアニュージャージーピッツバーグバッファローニューイングランドボストンプロビデンスハートフォードで最も活発に活動している。シカゴでも活発な活動を続けており、カンザスシティデトロイトミルウォーキークリーブランドセントルイスのようなアメリカ中西部の都市圏でも重く強い存在感を示している。これらの地域以外では、フロリダラスベガスロサンゼルスでも非常に活発に活動している。ペンシルベニア州北東部ダラスデンバー、ニューオーリンズ、ロチェスターサンフランシスコサンノゼシアトルタンパでは、マフィア・ファミリーが以前はもっと大きな規模で存在していた。現在も規模は小さいが存続している。これらの地域の地方的なファミリーはもはや以前と同じ規模では存在していなかったり、子孫が犯罪行為に関わり続けていたりする一方で、他の地域では近隣の都市から来たより強いファミリーが事業を支配し、統合が進んでいる[6] 。マフィアの最盛期には、全米で少なくとも26都市にコーザ・ノストラのファミリーが存在し、他の都市にも多くの分派や協力者がいた。ニューヨークには5大ファミリーとして知られるガンビーノルッケーゼジェノヴェーゼボナンノコロンボの5つの主要なマフィア・ファミリーが存在する。アメリカン・マフィアは、長い間、アメリカの組織犯罪を支配してきた。各ファミリーは自分の縄張りを持ち、独自に活動する一方、全国的な調整は有力ファミリーのボスで構成されるコミッションが監督している。マフィアの活動の大部分はアメリカ北東部とシカゴに限られ、他の犯罪集団の数が増加しているにもかかわらず、アメリカの組織犯罪を支配し続けている[7][8]

組織構造[編集]

アメリカン・マフィアは厳格な階層型の組織構造で運営されている。起源とするシチリア・マフィアの組織構造と似ているが、近代のアメリカン・マフィアの組織構造は1931年サルヴァトーレ・マランツァーノが作り上げたものである。彼は5大ファミリーを作り、それぞれにボス、アンダーボス、カポ、ソルジャー(すべて純粋なイタリア系アメリカ人)を置き、アソシエイトはイタリア系でなくともよいとした[9][10][11]。マフィアに加入したものはみなメイドマン(Made man)と呼ばれる。これは彼らが裏社会では手出しが出来ない存在であり、彼らに危害を加えると報復されることを意味する。アソシエイトを除くマフィアの全てのメンバーは、ファミリーの正式なメンバーに認められる(made)。ボス、アンダーボス、コンシリエーレの3つの最高位から構成されるのがアドミニストレーション(administration)である。アドミニストレーションの下に複数人のカポレジームが置かれ、カポレジームはソルジャーやアソシエイトで構成されるクルー(crew)を率いている。カポレジームはアドミニストレーションへの報告を行い、企業で言えば中間管理職に相当する。ボスが決定を下したとき、ボスが直接実行者に指示を出すことはほとんどなく、指揮系統を通じて実行者に指示が出される。こうすることで実際に犯罪を行った下級メンバーが逮捕されたり、捜査されたりしても、組織の上層部は法執行機関の目を逃れ、もっともらしい否認をすることができる。

ときには、ファミリーの指導者の地位に他の役職も存在する。よくあるのは、ボスが刑務所に入ったとき、ファミリーの責任を分担するために設置される裁定委員会である(通常は3人か5人のメンバーで構成される)。これは警察の注意を1人のメンバーからそらすのにも役立つ。ジェノヴェーゼ・ファミリーのリーダーだったフィリップ・ロンバルドは、1960年代に警察の目を本当のボスから逸らすためにフロントボスという役職を作った。1988年にヴィンセント・カファロによってこの策略は暴露されたが、1992年にヴィンセント・ジガンテストリートボスという役職を作って復活させた。ジガンテはファミリー・メッセンジャーという役職も作った。

  • ボス – ボスはファミリーの長であり、通常は独裁者として君臨し、ときにはドンやゴッドファーザーとも呼ばれる。ボスは全事業の分け前を受け取る。事業はファミリーとその地域を占拠するファミリーのメンバー全員が引き受ける[12]。ファミリーによっては、ボスがカポレジームの投票によって選ばれることもある。票が同数の場合はアンダーボスが投票しなければならない。かつてはファミリーのメンバー全員でボスを決めていたが、1950年代後半にはこのような集まりは通常あまりに多くの注目を集めた[13]。実際はこれらの選挙の多くが1986年のジョン・ゴッティの選挙のような必然的な結果をもたらすと見なされている。サミー・グラヴァーノによると、地下室で会合が開かれ、その間、全員のカポが検査され、背後にゴッティの部下が不気味に立っていた。そしてゴッティがボスだと宣言されたという。
  • アンダーボス – アンダーボスは通常はボスによって任命され、ファミリーの第2位に位置する。ファミリーの日常的な業務を取り仕切ったり、最も収益性の高い事業を監督したりすることが多い。通常はボスの取り分を引いたファミリーの収入から何割かを受け取る。ボスが収監されたとき、通常は優先的に代理ボスとなり、論理的に後継者と見なされることが多い。
  • コンシリエーレ – コンシリエーレはファミリーのアドバイザーであり、ときにはボスの右腕と見なされる。紛争の調停役となったり、他のファミリーや敵対する犯罪組織、重要な仕事上の協力者との会合でファミリーの代表もしくは補佐官の役割を務めたりすることが多い。実際にはファミリーのアドミニストレーションの第3位に位置し、伝統的にはファミリーで誰よりも尊敬を集め、組織の内情に精通している古参メンバーである。ボスは信頼できる親友や個人的な顧問を公式のコンシリエーレに任命することが多い。
  • カポレジームカポ) – カポレジームは彼に直属するソルジャーのグループであるクルーの責任者である。各クルーは通常10~20人のソルジャーと多くのアソシエイトで構成される。カポはボスによって任命され、ボスまたはアンダーボスに報告を行う。カポは自分(と自分の手下)の稼ぎから何割かをボスに渡し、殺人を含む割り当てられた仕事に責任を持つ。労働組合搾取では、通常はカポが組合支部への潜入をコントロールする。カポが十分な力を持てば、ときには上位者よりも大きな力を振るうことができる。アンソニー・コラーロのように、ボスが死んだときに通常のマフィアの組織構造を無視してファミリーを率いることもある。
  • ソルジャー – ソルジャーはマフィア全般もしくは特定のマフィア・ファミリーに受け入れられたメンバーであり、純粋なイタリア系でなくてはならない(ただし、今日では多くのファミリーが父親側の半分だけイタリア系であることを求めている)。メンバーになった後は手出しが出来ない存在になる、つまりソルジャーを殺す前にそのソルジャーのボスの許可が必要になる。ファミリーが新しいメンバーを受け入れることを意味する「本を開く」とき、メイドマンは前途有望なアソシエイトを新しいソルジャーに推薦することがある。ソルジャーはファミリーの主要な労働者であり、通常は暴行、殺人、恐喝、脅迫などの犯罪をはたらく。その見返りとして、上位者から収益性の高い事業が与えられ、ファミリーの人脈や力を最大限に活用することができる。
  • アソシエイト – アソシエイトはマフィアのメンバーではないにもかかわらず、ファミリーのために働く者のことである。アソシエイトには兵士と同じような仕事をする者から単なる使い走りまで、ファミリーのために働く広範囲な人々が含まれる。マフィアへの志願者(connected guys)は自分の価値を証明するところからスタートする。ファミリーは新しいメンバーを受け入れると、イタリア系の最良のアソシエイトを評価し、ソルジャーに抜擢する。アソシエイトは違法な取引の仲介をしたり、ときには警察の注意を実際のメンバーからそらすために薬物を扱ったりもする。単にファミリーと取引のある人々(レストランのオーナーなど)であったり、腐敗した労働組合の代表や実業家であったりする場合もある[13]。非イタリア系はこれより先に進むことはできないが、マイヤー・ランスキーバグジー・シーゲルマレー・ハンフリーズミッキー・コーエンフランク・ローゼンタールガス・アレックスバンピー・ジョンソンフランク・シーランジミー・ホッファジェイク・グージックジェラルド・ウィメットジェームズ・バークなど、多くの非イタリア系のアソシエイトがそれぞれのファミリーで大きな力を振るい、実際のマフィアのメンバーから尊敬を集めた。

マフィア・ファミリーの一覧[編集]

以下はアメリカ合衆国で活動したマフィア・ファミリーの一覧である。なお一部のファミリーは、他の地域でもメンバーやアソシエイトが活動している。組織はこれらの地域に限定されるものではなく、ボナンノ・ファミリーバッファロー・ファミリーはそれぞれリズート・ファミリーコトローニ・ファミリー[14][15][16]ルッピーノ・ファミリーパパリア・ファミリー[17][18]などカナダのいくつかの一派にも影響を及ぼしていた。

組織名 英語の組織名 活動拠点
ブファリーノ・ファミリー Bufalino crime family ペンシルベニア州北東部
シカゴ・アウトフィット Chicago Outfit イリノイ州シカゴ
クリーブランド・ファミリー Cleveland crime family オハイオ州クリーブランド
ダラス・ファミリー Dallas crime family テキサス州ダラス
デカヴァルカンテ・ファミリー DeCavalcante crime family ニュージャージー州北部
デンバー・ファミリー Denver crime family コロラド州デンバー
デトロイト・パートナーシップ Detroit Partnership ミシガン州デトロイト
5大ファミリー
 ボナンノ・ファミリー
 コロンボ・ファミリー
 ガンビーノ・ファミリー
 ジェノヴェーゼ・ファミリー
 ルッケーゼ・ファミリー
The Five Families
 Bonanno crime family
 Colombo crime family
 Gambino crime family
 Genovese crime family
 Lucchese crime family
ニューヨーク州ニューヨーク
カンザスシティ・ファミリー Kansas City crime family カンザス州カンザスシティ
ロサンゼルス・ファミリー Los Angeles crime family カリフォルニア州ロサンゼルス
マガディーノ・ファミリー Magaddino crime family ニューヨーク州バッファロー
ミルウォーキー・ファミリー Milwaukee crime family ウィスコンシン州ミルウォーキー
ニューオーリンズ・ファミリー New Orleans crime family ルイジアナ州ニューオーリンズ
パトリアルカ・ファミリー Patriarca crime family ニューイングランド
フィラデルフィア・ファミリー Philadelphia crime family ペンシルベニア州フィラデルフィア
ピッツバーグ・ファミリー Pittsburgh crime family ペンシルベニア州ピッツバーグ
ロチェスター・ファミリー Rochester crime family ニューヨーク州ロチェスター
サンフランシスコ・ファミリー San Francisco crime family カリフォルニア州サンフランシスコ
サンノゼ・ファミリー San Jose crime family カリフォルニア州サンノゼ
シアトル・ファミリー Seattle crime family ワシントン州シアトル
セントルイス・ファミリー St. Louis crime family ミズーリ州セントルイス
トラフィカンテ・ファミリー Trafficante crime family フロリダ州タンパ

出典[編集]

  1. Albanese, Jay S. 『The Italian-American Mafia』 Oxford University、2014年doi:10.1093/oxfordhb/9780199730445.001.0001。ISBN 9780199730445
  2. La Cosa Nostra in the United States”. ncjrs.gov. United Nations Archives. 2016年12月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年8月5日確認。
  3. Dickie, John 『Cosa Nostra: A History of the Sicilian Mafia』 Macmillan、2015年、5頁。ISBN 9781466893054
  4. Mike Dash 『First Family』 Random House、2009年。ISBN 9781400067220
  5. Roberto M. Dainotto (2015) The Mafia: A Cultural History pp.7-44 ISBN 9781780234434
  6. Italian Organized Crime”. Organized Crime. Federal Bureau of Investigation. 2010年10月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年8月7日確認。
  7. Barrett, Devlin; Gardiner, Sean (2011年1月22日). “Structure Keeps Mafia Atop Crime Heap”. The Wall Street Journal. https://www.wsj.com/articles/SB10001424052748704115404576096392318489246 2017年3月5日閲覧。 
  8. Gardiner, Sean; Shallwani, Parvaiz (2014年2月24日). “Mafia Is Down—but Not Out”. The Wall Street Journal. https://www.wsj.com/articles/SB10001424052702304626804579363363092833756 2017年3月5日閲覧。 
  9. “A Chronicle of Bloodletting”. Time. (1971年7月12日. http://www.time.com/time/subscriber/article/0,33009,902999-1,00.html 2012年10月31日閲覧。 
  10. Dash, Mike 『The First Family: Terror, Extortion, Revenge, Murder, and the Birth of the American Mafia』 Ballantine Books、New York、2010年、384–386。ISBN 978-0345523570
  11. Burrough, Bryan (2005年9月11日). “'Five Families': Made Men in America”. The New York Times. https://www.nytimes.com/2005/09/11/books/review/11burrough.html 2017年2月5日閲覧。 
  12. Abadinsky, Howard. Organized Crime. 7th ed. Belmont, California: Wadsworth/Thomson Learning, 2003.
  13. a b Capeci, Jerry. The Complete Idiot's Guide to the Mafia. Indianapolis: Alpha Books, 2002
  14. Lamothe, Lee. Humphreys, Adrian. The Sixth Family: The Collapse of the New York Mafia and the Rise of Vito Rizzuto. pg.27–29 Archived 2014-06-22 at the Wayback Machine.
  15. Auger and Edwards The Encyclopedia of Canadian Organized Crime p.63.
  16. Capeci, Jerry 『The complete idiot's guide to the Mafia』 Alpha Books、Indianapolis, IN、2004年、2nd。ISBN 1-59257-305-3
  17. Four charged in 2018 stabbing at mobster Nat Luppino's home”. Welland Tribune (2019年5月2日). 2019年5月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年5月4日確認。
  18. Schneider p.292

参考・引用文献[編集]

  • Arlacchi, Pino (1988). Mafia Business: The Mafia Ethic and the Spirit of Capitalism, Oxford: Oxford University Press. ISBN 0-19-285197-7.
  • Chubb, Judith (1989). "The Mafia and Politics", Cornell Studies in International Affairs, Occasional Papers No. 23.
  • Critchley, David (2008). The Origin of Organized Crime: The New York City Mafia, 1891–1931. New York: Routledge.
  • Dainotto, Roberto M. 『The Mafia: A Cultural History』 Princeton University Press、2015年、239頁。ASIN: 1780234430。ISBN 9781780234434
  • Dash, Mike. The First Family: Terror, Extortion and the Birth of the American Mafia. London, Simon & Schuster, 2009.
  • Servadio, Gaia (1976). Mafioso: A History of the Mafia from Its Origins to the Present Day. London: Secker & Warburg. ISBN 0-436-44700-2.

関連文献[編集]

外部リンク[編集]