電気自動車
電気自動車(でんきじどうしゃ、略:EV)とは、電気モーターを用いた電動力で走行し、主に外部電源で充電を行う自動車のことである。
本ページでは軽自動車以上の規格の四輪車について主に記載する。
概要[編集]
燃料の代わりに電気を使用し、エンジンの代わりにモーターが駆動力を生み出す自動車である。レシプロエンジンなど内燃機関で走る車と比較し、駆動系がシンプルにできるという特徴がある。モーターと駆動用バッテリーやその制御回路を合わせて「パワーユニット」と呼ぶこともある。燃料の代わりに使用される電気はバッテリーに貯蔵されており、重量物であることなどから主に車両の下部に設置されている。
給油口の代わりに充電口からバッテリーを充電できるようになっており、通常の充電のほか急速充電も可能になっている。
ガソリンやディーゼル燃料を使用する車に比べて航続距離が短く、特に長距離は苦手とされていた。しかし現在はバッテリー性能の進化や省電力化・最適化が進み、以前よりも航続距離が伸びてきている。また、レンジエクステンダー(発電機)搭載式のモデルはより航続距離を延ばせるほか、従来の液体燃料を補給することで航続距離の延長も可能である。
エンジンやトランスミッションは持たないため、クリープ現象は無い。赤信号で止まっているときに、ブレーキを離しても、車は動かない状態になっている。そのため、信号無視の防止、交通事故の防止につながる。トランスミッションが無いという関係から見て、車のスペックの検索条件で書く場合は、「ミッション及び足踏みペダル:AT/CVT」となる。
電気自動車のチェンジレバーでは、「P,R,N,D,B」となっており、そのうち、「B」はエンジンブレーキの代わりになるものである。
なお、日産の電気自動車においてはあえてクリープ現象を再現しており、AT車やCVT車からの乗り換えにおいて違和感を感じさせないようにしている(特に日産はクリープがなかったころのCVTを採用したことがあり、クリープがないことで不評を買ったこともあった)。
特性[編集]
短所としては「バッテリーが重い」「エネルギー容量が少ない」がある。これを逆手に取ったのが電動フォークリフト(バッテリーフォークリフト)である。
フォークリフトは、前方に貨物を載せるフォークがあるため、それなりの重量がないと前にずっこける(転倒する)。ところが電動フォークリフトは、カウンターウェイトとして座席後部にある電池が使える。しかも電気式モーターなので、クラッチなどの変則機関抜きでフォークも使えて取り回しがよい。電気自動車なので排気ガスも出ないため、冷蔵・冷凍倉庫でも使える。生鮮市場では市場が開いている時間は限られているので充電期間は確保でき、直線の長距離走行の必要もない。
そんなわけで、日本製の電動フォークリフトは電気自動車の道祖といえる。
長所[編集]
- モーターは内燃機関と違い回転速度によるトルクの変化が少なく、変速機を単純化又は省略できシンプルな構造である。
- 逆転させる場合、モーター電流の向きを変えれば良いので、逆転ギアの機構や逆転機構も不要で経路途中の逆向き走行も容易。
- 走行の際に排気ガスを出さない。機関を冷却するためのラジエーターやウォーターポンプなどが不要となる。ただし、消費電力相応の排気ガスが発電所で出ていないとは限らない。
- 騒音や振動が少ない。
- 燃料が不要である(発電用電力やレンジエクステンダーを除く)。
- 電力を多量に貯蔵できるので、災害時などに電気自動車から電力を賄うことも可能(一部車種)。
短所[編集]
- 給油が不要と言っても、充電に必要な電力は外燃機関による発電が中心であり、原子力や再生可能エネルギーだけで走行しているわけではない。
- 航続距離のために多くのバッテリーを搭載することで車両が重く、航続距離に影響が出ている。
バッテリー[編集]
- 電気自動車の短所はほぼバッテリーであり、2000年代までは電池重量あたりの出力が低いことが最大のネックとなっており、低速短距離走行かつ火気厳禁箇所での使用も多いフォークリフトが一番電気自動車化が進んでいると言ってよい状況だった。このボトルネックの解消に向けて日々軽量化や長寿命化の研究開発が進められている。(全固体電池など)
- 2023年現在の電気自動車用のバッテリーは、リチウムイオンバッテリーが主流になっている。
- 内燃機関より出力低下の時間が短いため、走行可能な距離が短すぎる傾向がある。
- 内燃機関は排熱が使い放題なので暖房の熱源には不自由しないが、電気自動車は利用できるほどの排熱がなく、暖房にはバッテリーの電力を使わなければならない。電力を暖房に使えば短い走行距離は更に短くなる。
- 事故時に感電の危険がある。
- 急速充電技術は進んでいるものの、充電に長い時間を要する。
- バッテリーは劣化していくものであり、いずれ交換が必要になる部品である。しかし交換には金銭的・労務的コストが多く発生する。
- 急速充電のみを使用している場合、バッテリーの劣化を早めることがある。
- バッテリーにが損傷した場合、発火する可能性もある。
- 付近に充電設備がない場合、自宅に充電設備を設置する必要がある。
今後の課題[編集]
- 走行距離を伸ばすために、軽量化やより出力の高いバッテリーの開発が必要である。
- 充電するための施設を普及させる必要がある。或いは、電気を使い果たしたバッテリーを充電済みのバッテリーと短時間で交換できるような施設が必要である(カートリッジ式バッテリーを搭載したEVの模索は行われている)。
電気自動車の普及によって生じる課題[編集]
- 電気自動車が普及するようになり、電気自動車を前提とした法規制などが進めば自動車メーカーの事業の大幅な方向転換が求められるといわれている。
- ほぼ同時進行しているプラスチック削減の動きとあいまって原油の需要が減少し、産油国は新規の収益開拓が必要となる。
普及に向けて[編集]
- 2010年代末以降、従来以上の温室効果ガス排出規制が求められ、欧州の主要国が、相次いでガソリンエンジン車やディーゼルエンジン車の廃止計画を策定しつつある。
- 2017年度よりレギュラー化した、テレビ東京系の「出川哲朗の充電させてもらえませんか?」は、訪問先で充電を重ねながら、電動バイクで旅をする番組で、電動バイクの普及や長所の宣伝になっている。
- なお、EV出遅れ組として批判を浴びていたトヨタであるが、2021年にEVとして15車種の展開を予告。2030年までに30種350万台のEVを販売するという戦略を発表した。
- レストモッドのひとつとして、旧車のパワートレーンをEVに置き換える手法がある。2023年に開催された東京オートサロンにおいて、トヨタ自動車がAE86(レビン)をEVコンバートした「AE86 BEV Concept」を発表した。
- 脱ガソリン車としてEVシフトに意欲的だったEUであるが、内燃機関の新車販売禁止を条件付きで緩和するなど停滞の兆しを見せている。
その他[編集]
- 関西電力は立山黒部アルペンルートで運用していたトロリーバスを廃止して電気バスを導入した。屋根上にパンタグラフを載せ、剛体架線に接触させる蓄電池車両と同様な方法で充電している。
- 月に行った最初の乗用車は電気自動車[1]。
- 通常の電車ではなく蓄電池電車が電気自動車の鉄道車両版にあたる。
- マツダが同社のEVであるマツダ・MX-30にレンジエクステンダーとしてロータリーエンジンを搭載したモデル「MX-30×Rotary-EV」を2023年9月より予約受注を開始した。なお、純粋なEVではないものの外部充電に対応しており、エンジンの発電力のみで駆動する点からシリーズ式プラグインハイブリッドEVなどと呼ばれている。
沿革[編集]
- 電気自動車の歴史は内燃機関で走行する自動車よりも古く、既に19世紀後半には登場していた。太平洋戦争末期の東京都では電気バスが登場していた。
- 1950年代に日本の都市部で普及したトロリーバスは法的に無軌条電車に分類されるが、見方を変えると常に架線集電を行う乗合自動車と見ることができる。