アンソニー・サレルノ
アンソニー・サレルノ(英語:Anthony Salerno、1911年5月1日 - 1992年7月27日)は、アメリカ合衆国のマフィア。1981年から1987年にニューヨークの5大ファミリーの1つ、ジェノヴェーゼ・ファミリーのフロントボスを務めた。葉巻とフェドーラ帽を愛用していたことで知られ、肥満体からファット・トニー(Fat Tony)というニックネームを持っていた。
人物[編集]
ニューヨーク市マンハッタン区のイーストハーレムで生まれ、ジェノヴェーゼ・ファミリーの116番街クルーに属した。1965年にカポレジーム、1972年にコンシリエーレ[1]、1976年にアンダーボスとなった[2]。1981年3月31日にフランク・ティエリが死亡した後、ファミリーのボスとなった。しかし、今日の大半の専門家の間では、60年代後半からはフィリップ・ロンバルド、80年代初頭からはヴィンセント・ジガンテが実質的にファミリーを支配し、ティエリやサレルノはフロントボス(見せかけのボス)に過ぎなかったと考えられている[3]。サレルノは生まれ育ったイーストハーレムにあるパルマ・ボーイズ社交クラブを拠点としていた。1週間のうち月曜日の朝から木曜日の朝まで3日間をクラブで過ごし、『ゴッドファーザー』に登場するヴィトー・コルレオーネさながら、近所の人々の尊敬を集め、彼らが持ち込んだ相談に対応していた[4]。サレルノに会ったことがあるマイケル・フランゼーゼ(コロンボ・ファミリーのカポ)は、サレルノにはトップとしての存在感があったと回想している[4]。
1985年2月25日、ラケッティアリング活動の反復を通じたコミッションの業務の遂行とラケッティアリング活動の共謀、コンクリート打設工事に関する強要罪と賄賂罪でポール・カステラーノ(ガンビーノ・ファミリーのボス)、アンソニー・コラーロ(ルッケーゼ・ファミリーのボス)、フィリップ・ラステリ(ボナンノ・ファミリーのボス)ら8人のマフィアとともに起訴された(コミッション裁判)[5]。1986年11月19日に有罪判決を受け、1987年1月13日に100年の禁固刑と24万ドルの罰金刑を言い渡された。
この間の1986年3月21日、マンハッタンの高層ビルのコンクリート上部構造施工の入札を操作し、不動産デベロッパーやコンストラクション・マネジメントに対して詐欺を働いたなどとして、サレルノをはじめとするジェノヴェーゼやクリーブランド・ファミリーのメンバーと実業家ら14人がラケッティアリングなどの罪で起訴された。起訴内容には1981年の全米トラック運転手組合(チームスターズ)会長選挙でロイ・ウィリアムズの選出を不正に支援したことも含まれる[6]。1988年5月4日、建設工事の不正入札、恐喝、賭博を含む大規模なラケッティングを監督したとして有罪判決を受けた。同年10月13日、ラケッティアリングの罪で70年の禁固刑と37万6000ドル以上の罰金を言い渡され、政府によると数千万ドルに上る違法事業で得た総利益の半分を放棄することも命じられた[7]。チームスターズ会長選挙でロイ・ウィリアムズとジャッキー・プレッサーを不正に支援したこと、1980年にジョン・シモーネ殺害を手配したこと(シモーネはフィラデルフィア・ファミリーのカポで、コミッションの許可なくアンジェロ・ブルーノ殺害に関与した)などでは無罪となった[8]。
1988年4月29日、長年にわたってサレルノの右腕だったヴィンセント・カファロが上院公聴会において、サレルノがジェノヴェーゼのボスであったと思われているが、実際はフロントボスであったと証言した。カファロによると、1960年代にヴィト・ジェノヴェーゼがフィリップ・ロンバルドに支配権を譲った。ロンバルドはトーマス・エボリをフロントボスにし、1972年にエボリが死亡するとフランク・ティエリをフロントボスにした。1980年代初頭からサレルノがボスであると一般に認識されるようになったが、実際のボスはロンバルドだった。1981年にサレルノは脳卒中で倒れ、ロンバルド、ヴィンセント・ジガンテ、ルイス・マンナ、サヴェリオ・サントラによって「引きずり下ろされた」。同年にロンバルドが引退してジガンテがボス、サントラがアンダーボス、マンナがコンシリエーレになったが、ジガンテはサレルノがボスであるように見せかけ続けたという[2]。
1992年7月27日、ミズーリ州スプリングフィールドの連邦刑務所収容者医療センターで脳卒中の合併症のため死亡した[9]。80歳だった。糖尿病、脳卒中、前立腺癌の疑いなど多くの健康問題を抱え、1989年5月から医療センターに入院していた[10]。
映画[編集]
2011年に公開されたジョナサン・ヘンズリー監督の映画『キル・ザ・ギャング 36回の爆破でも死ななかった男』では、ポール・ソルヴィノがトニー・サレルノを演じた。
2019年に公開されたマーティン・スコセッシ監督の映画『アイリッシュマン』では、ドメニク・ランバルドッツィがファット・トニー・サレルノを演じた。
出典[編集]
- ↑ jawp:en:116th_Street_Crew
- ↑ a b 『Organized Crime: 25 Years After Valachi(PDF)』Congressional Information Service、1988年、868-870頁
- ↑ Andy Petepiece「Mobology scholar Andy Petepiece's review of I Heard You Paint Houses by Charles Brandt July 25, 2004」 MOLDEA.COM
- ↑ a b 『フィアーシティ: ニューヨーク対マフィア 2. ゴッドファーザーのテープ』Netflixオリジナルドキュメンタリー、2020年
- ↑ U.S. INDICTMENT SAYS 9 GOVERNED NEW YORK MAFIA The New York Times、1985年2月27日
- ↑ REPUTED MOB LEADER AMONG 15 INDICTED ON RACKETEERING COUNTS The New York Times、1986年3月22日
- ↑ Salerno, Now Serving 100 Years, Gets 70 More in Bid-Rigging Case The New York Times、1988年10月14日
- ↑ Salerno and 8 Found Guilty As Racketeers The New York Times、1988年3月5日
- ↑ Anthony (Fat Tony) Salerno, 80, A Top Crime Boss, Dies in Prison The New York Times、1992年7月29日
- ↑ Ex-Mobster `Fat Tony' Salerno The Seattle Times、1992年7月29日