全米トラック運転手組合
International Brotherhood of Teamsters(略称:IBT、通称:Teamsters Union / Teamsters)は、アメリカ合衆国、カナダ、プエルトリコで運輸・流通産業を中心に専門職と非専門職、民間部門と公共部門を問わず、あらゆる職種の労働者を組織する労働組合[1]。日本語では全米トラック運転手組合(通称:チームスターズ)と訳されることが多く、北米トラック運転手組合、国際トラック運転手労働組合、全米運輸労働組合、チームスター、チームスター組合、チームスターズ労組などと訳される場合もある。teamsterは家畜が引いた荷車の御者やトラック運転手を意味する名詞。組合員数は約140万人(2021年)。戦略的組織化センター(SOC)とカナダ労働会議(CLC)に加盟している。本部はワシントンD.C.。
概要[編集]
1898年に結成されたTeam Drivers International Union(TDIU)と1902年に結成されたTeamsters National Unionが、1903年にアメリカ労働総同盟(AFL)の指導者サミュエル・ゴンパーズの仲介で合併し、International Brotherhood of Teamsters(IBT)が結成された。1909年にInternational Brotherhood of Teamsters, Chauffeurs, Stablemen and Helpers of Americaに改称したが[2]、1940年に元の名称に戻した[3]。旧称は日本語で「国際トラック・自動車運転手・倉庫労働者・助手友愛会(IBTCWH)」[4]または「全米トラック運転手・乗用車運転手・倉庫労働者・運転助手の国際労働組合」などと訳される[5]。
1957年から1971年に会長を務めたジミー・ホッファは、20世紀後半のアメリカで最も物議を醸した労働組合指導者と言われる[6]。在任中から独裁的な運営やマフィアとの癒着が問題視された一方で、労働者の待遇改善、中産階級の育成に大きく貢献した[7]。ホッファが会長に就任した直後の1957年12月、IBTは組織犯罪に関わる汚職事件でアメリカ労働総同盟・産業別組合会議(AFL-CIO)から除名された。1964年1月にトラック運送業者協会との間に45万人の組合員と1万6千の運送会社を対象とする「全国貨物輸送基本協定」(NMFA)を締結した[2][8]。ホッファは1964年に陪審員買収の罪で懲役8年、1967年に組合の年金基金をマフィアに不正に融資したとして謀議、郵便詐欺、電信詐欺の罪で懲役5年の有罪判決を受け、1967年に収監された。1971年末にリチャード・ニクソン大統領の恩赦で1980年までの組合活動禁止を条件に出所したが、1975年に失踪し、1982年に死亡宣告された。マフィアに殺害されたと考えられている。
1985年にRICO法に基づく捜査で複数のマフィア系幹部が逮捕された[9]。1986年に大統領直轄の組織犯罪委員会が「1950年代以来、組織犯罪の影響下にある」と認定した[9]。1989年に司法省がIBTに対する監視措置を開始し、25年後の2015年にマフィアとの関係や汚職腐敗が大きく一掃できたとして監視措置を終了させた[10]。この間、1987年にAFL-CIOに再加盟した。1991年に会長職を代議員を通してでは無く組合員が直接選ぶ最初の選挙が行われ、改革派の「民主的労組を目指すチームスターズ」(TDU)が支持するロン・ケリーが会長に選出された[3][11]。ケリー会長の下、1997年8月にユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)に対しパート労働者の正社員化を要求する大規模なストライキで勝利を収めた[3][9]。しかし、その直後に「民主党系のコンサルタントを選挙参謀として雇い、組合資金を自己の選挙に不正に流用した」という理由で1996年の会長選挙の無効、ケリーの再選挙立候補資格の剥奪が決定され、裁判所と司法省もこれを支持した[9]。1998年11月に実施されたやり直し選挙では、ジミー・ホッファの実子で弁護士のジェイムズ・P・ホッファが会長に選出された[9]。
SEIU(全米サービス従業員労働組合)やIBTなどAFL-CIO傘下の主要5組合は、組織化の取り組みが不十分であるなどとAFL-CIOを批判し[12]、2005年6月に「勝利のための変革連合」(Change to Win Coalition、CWC)の結成を発表した[13]。2005年7月のAFL-CIO大会時にSEIUとIBTはAFL-CIOから脱退した。続いてUFCW(全米食品・商業労働組合)、CJA(大工・指物師合同友愛会)、UFWA(全米農業労働者組合)もAFL-CIOから脱退した[12]。2005年9月にCJA、IBT、LIUNA(国際建設労働組合)、UNITE-HERE(縫製・繊維労組・ホテル・レストラン従業員組合)、SEIU、UFWA、UFCWの7組合は「勝利のための変革」(Change to Win)を結成した[13]。のちに同組織は「戦略的組織化センター」(Strategic Organizing Center、SOC)に改称した。
2021年11月に新執行部が選出され、TDUと共闘する改革派が四半世紀ぶりに執行部の多数を占めた。2022年3月にショーン・オブライエンが会長に就任した[11][14]。
歴代会長[編集]
- 1903: コーネリアス・シェイ(Cornelius Shea)
- 1907: ダニエル・J・トービン(Daniel J. Tobin)
- 1952: デイヴ・ベック(Dave Beck)
- 1957: ジェイムズ・R・ホッファ(James R. Hoffa)
- 1971: フランク・フィッツシモンズ(Frank Fitzsimmons)
- 1981: ジョージ・モック(George Mock)※臨時会長
- 1981: ロイ・ウィリアムズ(Roy Williams)
- 1983: ジャッキー・プレッサー(Jackie Presser)
- 1988: ウェルドン・マティス(Weldon Mathis)※臨時会長
- 1989: ウィリアム・J・マッカーシー(William J. McCarthy)
- 1991: ロン・ケリー(Ron Carey)
- 1997: トム・サーバー(Tom Sever)※臨時会長
- 1998: ジェイムズ・P・ホッファ(James P. Hoffa)
- 2022: ショーン・オブライエン(Sean O'Brien)
出典[編集]
- ↑ WHO ARE THE TEAMSTERS? International Brotherhood of Teamsters
- ↑ a b TEAMSTERS VISUAL TIMELINE International Brotherhood of Teamsters
- ↑ a b c Teamsters Union ブリタニカ百科事典
- ↑ タイム・ライフ編、平野勇夫訳『マフィアの興亡』同朋舎出版、1994年、241頁
- ↑ 「世界の労働組合 チームスターズ(全米運輸労働組合)」『国際労働運動』No.398、2009年10月1日
- ↑ 重要な労働組合指導者たち:ジミー・ホッファ Cross Currents
- ↑ 「チームスターズ、ジッミー・ホッファ元会長から学ぶべきもの」JILAFメールマガジンNo.575、2020年1月15日
- ↑ 小林英夫「1960年代から現在にいたるアメリカ労働組合運動とその解釈(中) : アメリカ労働史論の研究(10)」『関西大學經濟論集』第34巻第5号、1984年11月
- ↑ a b c d e 小林由知「米国チームスターズ会長追放に見る反動攻勢」労働総研ニュース通巻112号、1997年7月1日
- ↑ 「全米トラック運転手組合(チームスターズ)への政府による監視措置が終了」JILAFメールマガジンNo.299、2015年3月4日
- ↑ a b アレクサンドラ・ブラックベリ「チームスターズ労組改革派が執行部に」レイバーノーツ、2021年11月19日
- ↑ a b 労働運動の再生:アメリカ 解説/AFL-CIOの分裂とその背景 独立行政法人労働政策研究・研修機構、2005年9月
- ↑ a b 「勝利のための変革(Change to Win)」が創設大会開催 独立行政法人労働政策研究・研修機構、2005年11月
- ↑ 「チームスターズに新会長、戦闘的路線でアマゾン組織化に意欲」JILAFメールマガジンNo.651、2021年11月24日