ノストラダムス
ノストラダムス(Nostradamus, 1503年12月14日 - 1566年7月2日)は、「ノストラダムスの大予言」として世界的に有名な予言書の著者、医師、占星術師。本名はミッシェル・ド・ノートルダム(Michel de Nostredame)で、よく知られるノストラダムスの名は姓をラテン語風に綴ったものである。
概説[編集]
南フランスのサン=レミ=ド=プロヴァンスに生まれる。祖父はイタリアからフランスに移住し、ユダヤ教からキリスト教に改宗したという。モンペリエ大学で医学を学んで医師になり、後年『化粧品とジャム論』(1555年)、『ガレノス釈義』(1557年)などを著す。他方で、四行詩によって未来の出来事を暗喩したのだという『ミシェル・ノストラダムス師の予言集』、通称『レ・サンチュリ Les Centuries 』(『百詩篇集』)を著し、ノストラダムスの名で1555年に刊行した。
彼の残した予言詩は非常に曖昧で、何を言っているのか分かりづらいうえに、誤植も多かった。しかし、毎年刊行していた暦書類で予言者としての名声をある程度確立していたこともあり、彼の予言書は次第に信奉者を増やしていった。1559年にフランス国王アンリ2世が事故死したときには、それを予言していたとする詩の解釈をノストラダムスの知人が行っており、ノストラダムスもその知人の解釈を紹介する形で宣伝した。
ノストラダムスの信奉者によると、ノストラダムスは、フランス革命、リンカーンの暗殺、アドルフ・ヒトラーの台頭、第二次世界大戦などのその後の世界史を激しく揺り動かした大事件を詩によって予言しているのだという。しかし、詩は極めて曖昧に書かれており、基本的に「いつ、何が起こるか」を記載しているものではない。事件が起こった後で千篇の詩の中から「これはこの事件の予言ではないか」「予言に間違いない」と、「解釈者」がそれらしい暗喩を探し出してきて採り上げているだけに過ぎないのだと批判する論者も少なくない。
また、純粋に詩作品として文学的・歴史学的な分析を試みる専門的研究も(主としてフランス語圏において)少なからず見られるようになっている。
日本への影響[編集]
日本では主に戦後、仏文学者の渡辺一夫(『フランス・ルネサンスの人々』)や澁澤龍彦、推理作家の黒沼健らによって簡単な紹介が行なわれていた。1970年代にフリーライターの五島勉が、「1999年の七の月」に「アンゴルモアの大王」を蘇らせる「恐怖の大王」により世界が滅亡するという予言詩の解釈を紹介したことで非常に有名となった(『ノストラダムスの大予言』祥伝社、1973年)。当時、素朴にこの予言を信じた若者も少なくなく、オウム真理教事件にも少なからず影響を与えたと指摘されている。
2001年のアメリカ同時多発テロ事件が起こった際には、その衝撃の大きさから「あれこそが恐怖の大王だったのではないか」と、日本やアメリカなどでノストラダムスの名前を再び思いおこした人々も見られたように、1999年を過ぎた今でもその信奉者は絶えない。
1999年初土俵の朝青龍明徳ことドルゴルスレン・ダグワ・ドルジが横綱になり、優勝回数が増えていくと、「アンゴルモアの恐怖の大王」とはドルジのことではないかと好角家の間で話題になった。
名前の表記について[編集]
ミシェル・ド・ノートルダムが本格的な著述活動に入るのは1550年頃からであり、ミシェル・ノストラダムスというラテン語風の表記をまじえた筆名を用いるのはこの頃以降のことであったとみなされている。公刊されたものとして現在確認できる最古のものは、1555年向けの暦書の表紙に書かれているものである(公刊されたものに限らなければ、現存最古は手稿『オルス・アポロ』に書かれた署名である)。日本語文献の中には学生時代から用いていたとするものもあるが、史料的に裏付けることができない(一応、『1525年にエクス=アン=プロヴァンスで出版されたミシェル・ノストラダムスの四行詩』と題する17世紀末頃の瓦版は現存するが、このオリジナルが1525年に刊行されたと見なせる史料的裏付けは皆無である)。
若い頃、モンペリエ大学の入学宣誓書ではミカレトゥス・デ・ノストラ・ドミナ(Michaletus de Nostra Domina)という正式なラテン語表記をとっている(ただし、このミカレトゥスは、ミシェルを愛称化した上でラテン語表記したものである)。
ミシェル・ド・ノストラダムスという筆名をノストラダムス本人が使ったことはない。これは、もともとは同時代の偽者(ノストラダムス2世)が用いていた表記であるが、ノストラダムスの実弟ジャン・ド・ノートルダムの著書(1575年)や元秘書ジャン=エメ・ド・シャヴィニーの著書(1596年)では、ノストラダムス本人のことが「ミシェル・ド・ノストラダムス」と表記されてしまっている(この種の誤用の現在確認できる最古のものは、1556年10月14日付で暦書に与えられた特認の文面である)。
参考文献[編集]
- ピエール・ブランダムール校訂 『ノストラダムス予言集』 ISBN 4000018086
- 樺山紘一 村上陽一郎 高田勇 共編 『ノストラダムスとルネサンス』 ISBN 4000018094
- 竹下節子 『ノストラダムスの生涯』 ISBN 4022572213
- ジェイムズ・ランディ 『ノストラダムスの大誤解―イカサマまみれの伝説43の真相』 ISBN 4872334590
- 山本弘 『トンデモ ノストラダムス本の世界』 ISBN 4896913264 ISBN 4796615253
- 山本弘 『トンデモ大予言の後始末』 ISBN 4896914694
- 志水一夫 『トンデモ・ノストラダムス解剖学―本当のことを、みんな知らない』 ISBN 488718493X
- 田窪勇人「日本におけるノストラダムス受容史」『ユリイカ』1999年2月号、青土社