チャールズ・ブラント
チャールズ・ブラント(英語:Charles Brandt、1942年[1] - )は、アメリカ合衆国の法曹界出身の作家。元デラウェア州検事総長代理、デラウェア州法廷弁護士協会会長。マーティン・スコセッシ監督、ロバート・デ・ニーロ主演のギャング映画『アイリッシュマン』(2019年)の原作となったノンフィクション作品『I Heard You Paint Houses』(邦題:アイリッシュマン、2004年)を執筆した。
経歴[編集]
祖父母はイタリア移民[2]。ニューヨーク市のスタテンアイランドで生まれ、3歳のときにクイーンズ区に引っ越す[3]。1959年スタイヴェサント高校卒業[4]。叔父のフランク・ゾゾラ教授の援助でデラウェア大学に入学[5]。高校11年生のときに教師から作家としての才能を指摘されたため、大学では英語を専攻した。大学卒業後は1963年から1年間クイーンズ区の中学校の英語教師をした後、ニューヨーク市の福祉調査員となり、配属されたイーストハーレムではマフィアと接触した[3]。
1969年ブルックリン法科大学卒業[2]。同大学で法学博士号を取得[6]。デラウェア州で殺人事件担当の捜査官、検察官となり、尋問で手腕を発揮し[1][3]、1974年にはデラウェア州検事総長代理にまで昇進した[5]。1976年に退官して法律事務所を開業し、のちに医療過誤専門の弁護士となった。同業者から「全米最優秀弁護士」、「デラウェア州最優秀弁護士」の1人に選ばれ、デラウェア州法廷弁護士協会および米国法廷弁護士協会デラウェア州支部の会長に選出された[2]。また13年間にわたって最高裁判所の委員を務め、弁護士による倫理違反の調査にあたった[7]。
1988年にルー・ラッツィという刑事を主人公にした警察小説『黙秘権』を刊行して執筆活動を開始した[1]。この小説は当時のロナルド・レーガン大統領から称賛を受けた[8]。しかし、法廷弁護士として多忙であったため引退するまで執筆をせず、引退後の2004年にノンフィクション作品『I Heard You Paint Houses』(邦題:アイリッシュマン)を刊行した[3]。出版社のサイモン&シュスターは、2000年までにいとこのカーマイン・ゾゾラの助けを借りてプロの作家になったと紹介している[5]。
『I Heard You Paint Houses』はラッセル・ブファリーノ(ブファリーノ・ファミリーのボス)とジミー・ホッファ(全米トラック運転手組合会長)の右腕だったフランク・シーランへのインタビューに基づくノンフィクション作品。同書に記載された1975年に失踪したジミー・ホッファと1972年に射殺されたジョーイ・ギャロ(コロンボ・ファミリーのカポ)を殺したというシーランの告白はその事実性をめぐって賛否両論を巻き起こした。同書は14ヶ国以上で出版され、ニューヨーク・タイムズのベストセラー第4位となった[2]。同書の成功を受け、2007年に元FBI潜入捜査官のジョー・ピストーネとの共著『ドニ―・ブラスコ――未決着の仕事』を刊行した。ジョーから元FBI特別捜査官のリン・デヴェッキオを紹介され、2011年にリンとの共著『われらが得た勝利』を刊行した[9]。2019年に『I Heard You Paint Houses』を原作としたマーティン・スコセッシ監督、ロバート・デ・ニーロ主演の映画『アイリッシュマン』が公開された。ブラントも製作の一部に関わっている[3]。
人物[編集]
- フランク・"アイリッシュマン"・シーランとは、1981年にシーランが労働搾取の罪をめぐる裁判でブラントを代理人に雇ったことで接点が生じた。1991年にシーランは健康上の理由での仮釈放を申請する際に再びブラントを雇った。同年にブラントはシーランへのインタビューを開始したが、2回目以降のインタビューは拒否された。約8年後の1999年3月にシーランからの連絡でインタビューが再開され、シーランが死去する2003年12月まで約5年間続いた[10]。
- 1963年のケネディ大統領暗殺事件はマフィア全国委員会の陰謀であったと結論付けている[11]。
- 取り調べ及び反対尋問の技術に関する講演家、著述家としても知られる[7]。
- ノンポリだが、民主党と共和党の双方の委員長から党員として州知事に立候補しないかと打診されたことがある[7]。
- 鄭曼青に師事して太極拳を学んだ[2]。
著書[編集]
- Brandt, Charles 『The Right to Remain Silent』 St Martins Pr、1988年。ISBN 978-0370312132。
- 土屋政雄訳『黙秘権』新潮社[新潮文庫]、1992年。ISBN 978-4102390016
- Brandt, Charles 『I Heard You Paint Houses: Frank "The Irishman" Sheeran and the Inside Story of the Mafia, the Teamsters, and the Final Ride of Jimmy Hoffa』 Steerforth、2004年、ハードカバー。ISBN 978-1586420772。[12]
- 高橋知子訳『アイリッシュマン(上)』早川書房[ハヤカワ文庫 NF]、2019年。ISBN 978-4150505493。
- 高橋知子訳『アイリッシュマン(下)』早川書房[ハヤカワ文庫 NF]、2019年。ISBN 978-4150505509。
- Brandt, Charles & Pistone, Joseph D. 『Donnie Brasco: Unfinished Business』 Running Press、2007年。ISBN 978-0762427079。
- DeVecchio, Lin & Brandt, Charles 『We're Going to Win This Thing: The Shocking Frame-up of a Mafia Crime Buster』 Berkley、2011年。ISBN 978-0425229866。
- Brandt, Charles 『Suppressing the Truth in Dallas: Conspiracy, Cover-Up, and International Complications in the JFK Assassination Case』 Post Hill Press、2022年。ISBN 978-1637583159。
脚注[編集]
- ↑ a b c ESCRITORESCharles Brandt Historia-Biografia
- ↑ a b c d e Bio Charles Brandt
- ↑ a b c d e “The Irishman”: An Interview With The Author (Spoiler Alert: He’s A Lawyer) North Carolina Bar Association
- ↑ チャールズ・ブラント著、高橋知子訳『アイリッシュマン 下』ハヤカワ文庫NF、2019年、203頁
- ↑ a b c Suppressing the Truth in Dallas Simon & Schuster
- ↑ 『アイリッシュマン 下』著者紹介
- ↑ a b c 『アイリッシュマン 下』209-210頁
- ↑ 『アイリッシュマン 下』227-228頁
- ↑ 『アイリッシュマン 下』260-267頁
- ↑ 『アイリッシュマン 下』220-222頁
- ↑ 『アイリッシュマン 下』305頁
- ↑ 2005年にペーパーバック版(ISBN 978-1586420895)、2016年にペーパーバックの増補版(ISBN 978-1586422387)が刊行された。邦訳は2016年刊のペーパーバック版の翻訳。