平井正治
平井 正治(ひらい しょうじ、1927年11月3日 - 2011年2月8日)は、民衆史研究家。
人物[編集]
「釜ヶ崎の歩く辞書」[1]、「釜ヶ崎の生き字引」、「釜ヶ崎のフィールドワークの第1人者」と呼ばれた日雇労働者[2]。1961年より大阪・釜ヶ崎に居住。三畳のドヤに住み、昼は日雇労働、夜は歴史の研究、休日は史跡の調査という生活を送った。労働運動の闘士でもあった。主著は『無縁声声――日本資本主義残酷史』(藤原書店、1997年)。2010年刊行の新版には作家の高村薫、ノンフィクション作家の稲泉進が特別寄稿している[3]。
戸籍名は平井正治ではない。1952年施行の住民登録法・外国人登録法に反対したため住民登録をせず、釜ヶ崎に来てから平井正治と名乗り始めたという[4]。
経歴[編集]
大阪市南区日東町(現・大阪市浪速区日本橋)で教材屋の長男として生まれる。戦時統制で教材屋が倒産したため小学校は4年までしか行けず、丁稚奉公、金属工場の見習工、教材屋組合の倉庫、大林組の飯場などで働く。働きながら青年学校、大日本飛行協会近畿連合滑空訓練所に通い、1943年3月舞鶴海兵団に入団。海軍工廠で水雷の火薬を詰める作業をする。敗戦後は大阪に帰り、日本青年共産同盟(民青の前身)に加盟。1945年12月松下電器産業(現・パナソニック)に入社、日本共産党に入党。松下電器労働組合木工支部青年部長、書記長、本部理事を務める。1951年2月朝鮮戦争の反米ビラを所持していたため占領目的阻害で逮捕され、松下電器を解雇。党の専従地区委員となるが、1954年冬に反党分子として査問・リンチを受け除名。数ヵ月後に自己批判書を提出すれば除名を取り消すと持ち掛けられたが復党せず、京都の映画撮影所で働く。1960年の安保闘争、三井・三池闘争に個人で参加。
1961年8月の第一次釜ヶ崎暴動を契機として大阪・釜ヶ崎に移り、港湾労働者となる。1966年7月の港湾労働法の施行で大阪港登録港湾日雇労働者となり、港湾労働者の組合を結成。全港湾大阪港支部執行委員、副委員長を務める。1969年全港湾建設支部西成分会の結成に協力。80年代半ばに港湾労働を退職[5]。「関西新空港はいらんど百人委員会」(1983年結成)、1983年の大阪築城四百年祭反対運動、1987年の天王寺博覧会反対運動、「大阪・中国人強制連行をほりおこす会」(1994年結成)など、住民運動・社会運動にも参加。
「なにわ民衆史を歩く会」の研究員で、戦跡の保存活動に取り組んだ[6]。1998年6月の「平和都市枚方を考える会」主催フィールドワーク、2003年8月の「人類館事件」100周年記念イベントの「学術人類館」跡地周辺フィールドワーク[7][8]、同年12月の第3期釜ケ崎ボランティア養成講座のフィールドワーク(釜ケ崎の形成史をたずねて)などで案内人を務めた[9]。1939年の禁野火薬庫爆発事故、1952年の枚方事件などの「戦跡めぐり」は「勝手知ったる独壇場であった」という[7]。
2011年2月8日に自宅のアパートで死去、83歳。警察は身元不明者扱いとし、2ヶ月後に遺体を返還、4月10日に通夜、11日に告別式が釜ヶ崎「ふるさとの家」で執り行われた。5月7日に「平井さんを偲ぶ会」が阿倍野区民センターで行われた[10]。
著書[編集]
- 『無縁声声――日本資本主義残酷史』藤原書店、1997年、新版2010年
分担執筆[編集]
- 辛基秀、柏井宏之編『秀吉の侵略と大阪城――ちょっと待て!「大阪築城400年まつり」』第三書館、1983年
- 藤原書店編集部編『震災の思想――阪神大震災と戦後日本』藤原書店、1995年
- 『大阪市の100年』刊行会編『目で見る大阪市の100年(上・下)』郷土出版社、1998年
脚注[編集]
- ↑ 西村秀樹『大阪で闘った朝鮮戦争――吹田枚方事件の青春群像』岩波書店、2004年、222-223頁
- ↑ 小柳伸顕「書物で読む釜ヶ崎」『桃山学院大学キリスト教論集』第48号、2013年
- ↑ 無縁声声 〈新版〉 日本資本主義残酷史 平井正治藤原書店
- ↑ 平井正治『無縁声声――日本資本主義残酷史』藤原書店、1997年、15-16頁
- ↑ 平井正治『無縁声声――日本資本主義残酷史』藤原書店、1997年、338頁、「…僕は港湾労働を退職して十余年になるけれど、…」
- ↑ 大阪フィールドワーク コース3 〈日本-在日-韓国〉ユースフォーラム・ジャパン
- ↑ a b 追悼・平井正治さん 反戦・反基地ブログ
- ↑ 城田愛、金城宗和、仲間恵子、新里健、町田宗博「在日ウチナーンチュのアイデンティティ」『移民研究』2号、2006年3月
- ↑ 釜ケ崎ボランティア養成講座のご案内 釜ケ崎のまち再生フォーラム
- ↑ 和田喜太郎「平井正治さんを悼む」関西共同行動ニュースNo56
主要参考文献[編集]
- 平井正治『無縁声声――日本資本主義残酷史』藤原書店、1997年
関連文献[編集]
- 杉原達「なにわ民衆史の生き字引―平井正治さんのこと」『機』69号、1997年
- 原口剛、稲田七海、白波瀬達也、平川隆啓編著『釜ヶ崎のススメ』洛北出版、2011年
- 酒井隆史『通天閣――新・日本資本主義発達史』青土社、2011年
- 鈴木武編集『釜ヶ崎と共に生きて――平井正治追悼集』2012年
- 杉原達「「働人」平井正治における歴史との向き合い方――労働運動と民衆史と」、杉原達編著『戦後日本の〈帝国〉経験――断裂し重なり合う歴史と対峙する』青弓社(日本学叢書)、2018年