小松隆二
小松 隆二(こまつ りゅうじ、1938年 - )は、社会政策学者。慶應義塾大学名誉教授、東北公益文科大学名誉教授[1]。専門は公益学、ニュージーランド学、社会政策[2]。
経歴[編集]
新潟県五泉市生まれ[3]。1961年慶應義塾大学経済学部卒業。1963年慶應義塾大学大学院経済学研究科修士課程修了。慶應義塾大学経済学部助手[4]。1964-1966年アメリカ合衆国・イリノイ大学に留学[5]。1967年慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了。1969年慶應義塾大学経済学部助教授。1972年「企業別組合の生成 : 企業別組合成立史論」で経済学博士(慶應義塾大学)。1976年慶應義塾大学経済学部教授[4]。1981-1982年ニュージーランド・カンタベリー大学に留学[5]。1993年慶應義塾常任理事(1998年まで)。1999年学校法人白梅学園理事。のち理事長代行、理事長。2001年慶應義塾を定年退職[4]。東北公益文科大学初代学長(2008年まで)[6]。東北公益文科大学ニュージーランド研究所初代所長[7]。東北公益文科大学教授[8]、学外研究員[9]、社会福祉法人小松福祉会理事長も務めた[10]。
人物[編集]
もともとは日本労働運動史の研究者だったが[10]、のちにニュージーランドや公益学の研究にも取り組んだ。
二村一夫、兵藤釗、中西洋、池田信らとともに、1960年代に歴史研究の分野で革命運動に結びついた「労働運動史」研究から史料に基づく事実ベースの「労資関係史」研究への転換を担った世代の1人[11]。『企業別組合の生成』(御茶の水書房、1971年)で企業別組合が戦後に成立したという通説を批判し、すでに戦前に有力な企業別組合が成立していたとし、これが戦後の企業別組合形成の基盤になったとした[12][13][14]。『大杉栄全集』(現代思潮社、1964-1966年)、『幸徳秋水全集』(明治文献、1968-1973年)の編集に携わり、「日本におけるアナキズム運動の終焉――戦前昭和期の足跡」(『現代と思想』第3号、1971年3月)などアナキズム関係の論文も多数ある[15]。
1993年に日本ニュージーランド学会を設立し[10][3]、初代会長(1994-2006年)、顧問(2012年-)を務めた[16]。日本ニュージーランド学会の設立、東北公益文科大学図書館のニュージーランド文庫の設置、多数の書籍の執筆などの功績により、2016年6月にニュージーランド政府よりニュージーランド・メリット勲章(New Zealand Order of Merit)を授与された[2][3]。
「公益学」の創始者であり、体系化の中心的・先導的役割を果たした[17]。1998年の小松の論文「公益学のすすめ」(『三田評論』(第1002号、1998年5月)が「公益学」を取り上げた初の文献であるとされる。2000年に設立発起人代表として日本公益学会の設立に参加した。2001年に「公益学」に取り組む初の大学として設立された東北公益文科大学の初代学長に就任した[18]。小松とともに公益学を牽引した間瀬啓允は小松の著書『公益学のすすめ』(慶應義塾大学出版会、2000年)、『公益の時代――市場原理を超えて』(論創社、2002年)、『公益とは何か』(論創社、2004年)を「公益学三部作」と名付けている[17]。
著書[編集]
単著[編集]
- 『企業別組合の生成――日本労働組合運動史の一齣』(御茶の水書房、1971年)
- 『日本アナキズム運動史』(青木書店[青木新書]、1972年)
- 『社会政策論――批判と再構成』(青林書院新社[青林双書]、1974年、改訂1979年)
- 『理想郷の子供たち――ニュージーランドの児童福祉』(論創社、1983年)
- 『社会政策』(慶應通信、1985年、改定1993年)
- 『難民の時代――国際交流と日本人』(学文社[模索する人間関係シリーズ]、1986年)
- 『大正自由人物語――望月桂とその周辺』(岩波書店、1988年)
- 『イギリスの児童福祉』(慶應通信、1989年)
- 『現代社会政策論』(論創社、1993年)
- 『ニュージーランド社会誌――理想郷の過去・現在・未来』(論創社、1996年)
- 『公益学のすすめ』(慶應義塾大学出版会、2000年)
- 『公益の時代――市場原理を超えて』(論創社、2002年)
- 『公益とまちづくり文化――「公益の故郷」山形から』(慶應義塾大学出版会、2003年)
- 『公益とは何か』(論創社、2004年)
- 『変革期におけるニュージーランドの公益政策・活動の総合的研究』(東北公益文科大学、2006年)
- 『公益の種を蒔いた人びと――「公益の故郷・庄内」の偉人たち』(東北出版企画、2007年)
- 『新潟が生んだ七人の思想家たち』(論創社、2016年)
- 『戦争は犯罪である――加藤哲太郎の生涯と思想』(春秋社、2018年)
- 『日本労働組合論事始――忘れられた「資料」を発掘・検証する』(論創社、2018年)
- 『新居格の生涯――自治を最高の基礎として』(論創社、2023年)
共著[編集]
- 『労使関係論講義』(関口功、二瓶恭光共著、青林書院新社[青林講義シリーズ]、1981年)
- 『共創のまちづくり原論――環境革命の時代』(白迎玖、小林丈一共著、論創社、2010年)
- 『共創カウンセリングの理論と実践――ひきこもり・不登校の人々と明るい未来のために』(中野晃男、冨田來共著、論創社、2011年)
編著[編集]
- 『社会福祉論』(佐藤茂子共編、相川書房、1976年)
- 『難民問題入門』(編著、論創社、1981年)
- 『日本労務管理史 3 労使関係』(高橋洸、二神恭一共編著、中央経済社[日本労務学会経営労働双書]、1988年)
- 『続・現代史資料3 アナーキズム』(編・解説、みすず書房、1988年)
- 『障害学生の支援――新しい大学の姿〜AHEAD日本会議より』(冨安芳和、小谷津孝明共編、慶應義塾大学出版会[シリーズ共生]、1996年)
- 『教育・就労・医療の最前線』(エドワード・R・スカーヌルス、ジョン・クレーゲル、キャサリン・S・フィチテン、テレンス・R・ドーラン著、小谷津孝明、冨安芳和共編、慶應義塾大学出版会[講座人間と福祉 : 障害者とともに]、1998年)
- 『先進諸国の社会保障2 ニュージーランド・オーストラリア』(塩野谷祐一共編、東京大学出版会、1999年)
- 『障害者・家族・専門家の共働』(ジョン・W・オブライエン、スティーブン・J・テイラー述、小谷津孝明、冨安芳和共編、慶應義塾大学出版会[講座人間と福祉 : 障害者とともに]、1999年)
- 『市民社会と公益学』(公益学研究会共編、不磨書房[市民カレッジ]、発売:信山社、2002年)
- 『大学地域論――大学まちづくりの理論と実践』(伊藤眞知子共編著、論創社、2006年)
- 『大学地域論のフロンティア――大学まちづくりの展開』(伊藤眞知子、大歳恒彦共編著、論創社、2007年)
監修[編集]
- 『現代の経済と消費生活――協同組合の視角から』(白井厚共同監修、コープ出版、1994年)
- 『下中彌三郎労働運動論集――日本労働運動の源流』(平凡社、1995年)
出典[編集]
- ↑ 新居格の生涯―自治を最高の基礎として 紀伊國屋書店
- ↑ a b 2018年第4回情報交換会(PDF)東北公益文科大学、2018年8月29日
- ↑ a b c こだいらMIX 2016年11月5日放送回 FM西東京
- ↑ a b c 「小松隆二教授略歴・著作目録」『三田学会雑誌』第93巻第4号、2001年1月
- ↑ a b 小松隆二『理想郷の子供たち――ニュージーランドの児童福祉』論創社、1983年
- ↑ Ⅱ.沿革と現況(PDF)東北公益文科大学
- ↑ 澤邉みさ子「日本ニュージーランド学会・東北公益文科大学ニュージーランド研究所編著『「小さな大国」ニュージーランドの教えるもの』」『東北公益文科大学 総合研究論集』第27号、2015年1月
- ↑ 公益とまちづくり文化 紀伊國屋書店
- ↑ 【東北公益文科大学ニュージーランド研究所創立 10 周年記念シンポジウム】 (PDF)東北公益文科大学
- ↑ a b c 二村一夫「《編集雑記》18 (2009年1月~ )」
- ↑ 金子良事「人事管理・労使関係・経営 ゴードン『日本労使関係史』(PDF)」『日本労働研究雑誌』第58巻第4号、2016年4月
- ↑ 丸山啓輔「企業別労働組合の新たな役割 : 戦後の企業別労働組合形成背景および経営に対する役割とそのための留意点(PDF)」『日本橋学館大学紀要』第3号、2004年
- ↑ 仁田道夫「第五章 労働組合(PDF)」、仁田道夫、久本憲夫編『日本的雇用システム』、ナカニシヤ出版、2008年
- ↑ 金子良事「工場委員会から産業報国会へ:企業別組合生成の論理(PDF)」『大原社会問題研究所雑誌』№.664、2014年2月
- ↑ 小松隆二『日本アナキズム運動史』青木新書、1972年
- ↑ ホーム 日本ニュージーランド学会
- ↑ a b 小野英一「『公益学のすすめ』(PDF)」『公共研究』第10巻第1号、2014年3月
- ↑ 小野英一「「公益学」の成立と体系化(PDF)」『公共研究』第8巻第1号、2012年3月