2021年J1第22節・第12節 川崎フロンターレ対名古屋グランパス
この項目では、2021年4月29日に豊田スタジアムで行われたJ1リーグ 第22節および5月4日に等々力陸上競技場で行われたJ1リーグ 第12節の川崎フロンターレ対名古屋グランパスの試合について述べる。以下文中において「第1試合」は第22節、「第2試合」は第12節を意味する。
概要[編集]
2021年のJ1リーグでは、その時点で1位・川崎フロンターレと2位・名古屋グランパスのホームとアウェイの試合日程が連続する形で開催された[1][2]。同一カードの連戦はリーグ史上2度目で、1位・2位の直接対決は史上初であった[1][3]。なお、この両日には他の試合は組まれていなかった[1][4]。
これは最初から予定して組まれたものではなく、当初は名古屋がホームの第22節は他の試合と同じ7月11日、川崎がホームの第12節は本来5月1日・2日の予定であったものがゴールデンウィーク期間にAFCチャンピオンズリーグ2021の試合が集中開催される可能性があったため5月12日に変更することが1月22日時点で発表されていた[5]。その後、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により3月18日にAFCチャンピオンズリーグ2021の日程が6月・7月に変更されることが決定し、それに伴って第22節が前述の理由により試合日程が空いていたゴールデンウィーク期間の4月29日に、第12節は本来の開催予定日に近い5月4日に変更されることが3月31日に発表され[6]、偶然的に異例の首位攻防戦が生まれた[1][3]。
両チームの前シーズンおよび今シーズン前節までの成績は以下のとおり。
順位 | クラブ | 試合 | 勝点 | 勝利 | 引分 | 敗戦 | 得点 | 失点 | 得失点差 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 川崎フロンターレ | 34 | 83 | 26 | 5 | 3 | 88 | 31 | +57 |
2 | ガンバ大阪 | 34 | 65 | 20 | 5 | 9 | 46 | 42 | +4 |
3 | 名古屋グランパス | 34 | 63 | 19 | 6 | 9 | 45 | 28 | +17 |
4 | セレッソ大阪 | 34 | 60 | 18 | 6 | 10 | 46 | 37 | +9 |
5 | 鹿島アントラーズ | 34 | 59 | 18 | 5 | 11 | 55 | 44 | +11 |
順位 | クラブ | 試合 | 勝点 | 勝利 | 引分 | 敗戦 | 得点 | 失点 | 得失点差 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 川崎フロンターレ | 12 | 32 | 10 | 2 | 0 | 30 | 8 | +22 |
2 | 名古屋グランパス | 12 | 29 | 9 | 2 | 1 | 16 | 3 | +13 |
3 | サガン鳥栖 | 12 | 23 | 7 | 2 | 3 | 17 | 5 | +12 |
4 | 横浜F・マリノス | 10 | 21 | 6 | 3 | 1 | 20 | 8 | +12 |
5 | セレッソ大阪 | 12 | 20 | 6 | 2 | 4 | 18 | 13 | +5 |
1位・川崎は鬼木達が率いて5年目で、前シーズンはリーグ記録を大幅に更新する勝点83の圧倒的な成績で優勝、総得点88もリーグ記録を更新していた[7]。今シーズンは12試合無敗で30得点を挙げ2位に10点差をつけてリーグトップで、攻撃に圧倒的な強みを持っていた[8]。
2位・名古屋はマッシモ・フィッカデンティが率いて3年目で、開幕から指揮した前シーズンは3位、総失点28はリーグ最少でリーグ史上4位の成績、無失点試合17はリーグ記録に並んでいた[9]。今シーズンは12試合のうち10試合が無失点、連続無失点試合・無失点継続時間のリーグ記録を更新するなど[3][10]、圧倒的な堅守を武器としていた[8]。
なお、2020年の両チームの対戦成績は1勝1敗[8]。川崎が無敗・10連勝で迎えた第12節ではホームの名古屋が1-0の無失点で勝利して川崎の11連勝を阻止[11]、第23節ではホームの川崎が3-0で名古屋に圧勝していた。今シーズンの2連戦でも川崎が攻めて名古屋が守る展開が予想され[8]、今シーズンの行方を左右する首位決戦は「矛盾対決」などと呼ばれ注目された[3][12]。
第1試合を目前にフィッカデンティがのどの痛みを訴え、リーグ規約に基づき試合に参加する全選手・スタッフに新型コロナウイルス感染症への感染の有無を調べる抗原検査を実施し、判定保留となったフィッカデンティは第1試合を欠場する[12][13][14][15]。第1試合終了後にリーグ規約に基づきフィッカデンティを含む選手・スタッフ54人にPCR検査を実施[13]、翌30日にフィッカデンティのPCR検査での陽性判定が発表された[14]。名古屋は大一番を2試合とも指揮官抜きで臨むことを余儀なくされ、試合中の指揮はコーチのブルーノ・コンカが執った[12]。なお、第1試合ではフィッカデンティと電話を通じて指示を受けていた[13][15]。
第1試合[編集]
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ホームの名古屋は基本スタイルを貫いた布陣[15]。対する川崎は怪我から復帰したジョアン・シミッチと旗手怜央をスタメンに起用した[2][15][16]。
名古屋の守備の特徴はセンターバックと守備的ミッドフィールダーの4人がポジションをずらさずに守ることにあったが、川崎は序盤から右サイドの家長昭博が左サイドに移るなど左右のバランスを崩すことで守備を揺さぶることを試みた[15][17]。一方で名古屋は攻守にわたって消極的な立ち上がりとなり、川崎は隙を見逃さずゴール前に強く速いボールを送りこんでいった[4][18][19][20][21]。
それが結実したのが開始3分、三笘薫がペナルティエリア左角からドリブル突破でチャンスを作ると、レアンドロ・ダミアンのポストプレーから旗手怜央が先制点を挙げる[1][2][16][21]。名古屋は出会い頭の失点により動揺し、試合は川崎ペースで進む[2][15][16]。10分には、またも左サイドに流れた家長昭博のクロスをレアンドロ・ダミアンが頭で決めた[1][16][21]。
2点をリードした川崎はさらに強く速いボールを送ることで名古屋選手を自陣に釘付けにし、名古屋ボールになるとすぐにプレッシャーをかけてパス回しを封じていった[19]。名古屋はロングボールをマテウスや相馬勇紀に繋いでのカウンターを試みるが、1本のパスで川崎の守備を突破することはできなかった[19]。23分には右コーナーキックからレアンドロ・ダミアンが頭で決めて3点差となる[1][16][21]。
早くも3点を追う展開となった名古屋は30分に成瀬竣平と長澤和輝を投入し、アンカーの米本拓司に稲垣祥と長澤和輝を並べる4-3-3に変更する[2][15][22][23][24]。中盤の人数が増えたことで名古屋のボール保持時間が増え、結果的に川崎の攻撃も抑制され攻守において盛り返す[22][24]。しかし名古屋の戦術変更を受けて川崎は従来のショートパス主体の攻撃へと切り替え、これにより戦況は再び川崎優位に傾く[23]。84分には遠野大弥が追加点を挙げ[17][23]、4-0で川崎が勝利する。
第2試合[編集]
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ホームの川崎は第1試合と同じメンバーを起用[21][25]。一方の名古屋は第1試合のスタメンから4人を変更し[18][25]、川崎と同じ4-3-3を試合開始から使用することでマークの関係性を明確化して守備面を修正して第2試合に臨んだ[4][20][24]。
名古屋はミッドフィールダーの3人が高い位置からの激しくプレスして川崎の攻撃を阻害し、マテウスを起点に攻撃を仕掛け、序盤の主導権を握る[1][18][20][21][24][25]。対する川崎は第1試合とは違い序盤から積極的に追ってくる相手を見ると、守備を固めた中央を避け、サイドを利用したパスワークやカウンターで着実にチャンスを作り[25]、セットプレーでの得点を狙っていく[4][21]。この際、攻守で重要な吉田豊とマテウスのいる右サイドを重点的に攻めることで、名古屋がカウンターを仕掛けにくい状況を作っていた[26]。
得点は31分、田中碧が蹴った左サイドのコーナーキックをジェジエウが頭で決めて川崎が先制する[1][18][24][25]。そのまま川崎の1点リードで前半を終えるが、シュート数の差はわずか1本で展開としては拮抗していた[24]。
後半に入ると名古屋はプレッシャーを強めて前がかりに攻撃を仕掛けるが、川崎はそれを利用してさらに攻勢を強める[25][27]。50分、センターライン付近で山根視来が保持したボールを左サイドに展開、最後は三笘薫のクロスに山根視来が合わせて2点目を決める[18][25][26][27]。59分には前線からのプレッシャーで名古屋守備陣のミスを誘い、丸山祐市のオウンゴールで3点目を奪う[18][25][27]。
3点を追う展開になった名古屋はそのまま第1試合のように大敗する可能性もあったが立て直し[26][28]、65分に森下龍矢と齋藤学、72分に柿谷曜一朗とガブリエル・シャビエルと攻撃的な選手を相次いで投入する[4][25]。川崎も何度も攻め込むがフィニッシュまでは繋がせず、セカンドボールは名古屋が拾うようになり徐々に名古屋ペースに傾いていく[27]。73分には齋藤学がチャンスを作り、最後は森下龍矢のクロスに稲垣祥が合わせて1点を返す[25][28]。次いで83分、マテウスがフリーキックを直接決めて1点差に追い上げる[25][28]。
1点差になった段階で、川崎のパスワークが狂い始める[28]。これは直近の数試合でも見られた傾向で、終盤に攻撃的な選手を下げることで気持ちが緩むと考えられた[28]。89分に川崎は塚川孝輝を投入、アンカー2人を置く4-2-3-1に変更してゴール前のスペースを消すことを狙う[28]。さらに終了間際にはコーナー付近でボールキープして時間を稼ぐなどし[4][27]、3-2で川崎が勝利した。
首位攻防戦として期待された連戦は川崎の連勝で勝点差は9に広がり、川崎の強さが際立つ結果となった[4][28]。
脚注[編集]
- ↑ a b c d e f g h i 浅田真樹 (2021年5月7日). “偶然生まれた「チャンピオンシップ」が川崎と名古屋にもたらしたもの”. sportiva. 2021年5月7日確認。
- ↑ a b c d e “川崎が最強の盾を粉砕!(1)“名古屋のプラン”を破壊した「鬼木監督の勝負采配」”. サッカー批評Web (2021年4月30日). 2021年4月30日確認。
- ↑ a b c d “J1最強「矛盾対決」川崎F対名古屋GW異例の2連戦 指揮官修正力がカギ”. 日刊スポーツ. (2021年4月27日) 2021年5月7日閲覧。
- ↑ a b c d e f g 後藤健生 (2021年5月6日). “対名古屋2連勝で川崎がリードを広げる。連戦ならではの面白さを満喫できた首位決戦”. J sports. 2021年5月7日確認。
- ↑ “2021年シーズンのJ1日程が決定!!ACL組は4月から5月にかけての試合が変則日程に”. ゲキサカ (2021年1月22日). 2021年5月7日確認。
- ↑ “2021明治安田生命J1リーグ 試合日程変更のお知らせ” (プレスリリース), 日本プロサッカーリーグ, (2021年3月31日) 2021年5月7日閲覧。
- ↑ “勝ち点83、26勝、88得点、得失点差57…王者川崎フロンターレがさらなる記録更新”. FOOTBALL CHANNNEL (2020年12月19日). 2021年5月8日確認。
- ↑ a b c d “「最強の矛盾対決」川崎vs名古屋(1)1試合平均「2.5得点」と「0.25失点」のスペシャル・ワン”. サッカー批評Web (2021年4月27日). 2021年5月7日確認。
- ↑ “カテナゴヤ!不動守備陣で最多17完封/最少失点王”. 日刊スポーツ. (2020年12月26日) 2021年5月8日閲覧。
- ↑ ““823分無失点”破った豪快ヘッド弾! 鳥栖FW林大地が「勢いを持って飛び込めた」理由”. ゲキサカ (2021年4月18日). 2021年5月7日確認。
- ↑ 超WORLDサッカー (2021年1月11日). “【J1クラブ通信簿/名古屋グランパス】堅守を武器に過去2シーズンの悪夢を払拭し躍進”. Yahoo!ニュース. 2021年5月8日確認。
- ↑ a b c “J1名古屋 フィッカデンティ監督指揮執れず のどの痛み訴え”. NHK NEWS WEB (2021年4月29日). 2021年5月7日確認。
- ↑ a b c “【J1名古屋】川崎との天王山直前にフィッカ監督がのどの痛みを訴え不在に 試合はベンチと電話をつないで指示”. 中日スポーツ. (2021年4月29日) 2021年5月7日閲覧。
- ↑ a b “【J1名古屋】フィッカデンティ監督PCR陽性 選手、スタッフ全員陰性も濃厚接触者を調査…川崎戦では不在”. 中日スポーツ. (2021年4月30日) 2021年5月4日閲覧。
- ↑ a b c d e f g ““最強の盾”名古屋が崩壊!(1)川崎はどのように赤鯱の堅守を崩したのか”. サッカー批評Web (2021年4月30日). 2021年4月30日確認。
- ↑ a b c d e “【J1川碕】天王山第1ラウンド4発圧倒…名古屋の「最強盾」をあっけなく打ち砕いた”. 中日スポーツ. (2021年4月29日) 2021年5月7日閲覧。
- ↑ a b “川崎が最強の盾を粉砕!(2)家長昭博が大一番で見せた「異例のウォーミングアップ」”. サッカー批評Web (2021年4月30日). 2021年4月30日確認。
- ↑ a b c d e f “【J1名古屋】「川崎相手には通用しなかった…」自慢の堅守も“崩壊” 直接対決2連敗に「何をするべきかを見つめ直す」”. 中日スポーツ. (2021年5月4日) 2021年5月7日閲覧。
- ↑ a b c 後藤健生 (2021年5月1日). “【J1分析】名古屋vs川崎のGW2連戦(1)豊田に響いた「音」と「最大の敗因」”. サッカー批評Web. 2021年5月6日確認。
- ↑ a b c 後藤健生 (2021年5月5日). “川崎vs名古屋「決戦の勝敗を分けたもの」(1)セカンドレグ「名古屋の変貌」”. サッカー批評Web. 2021年5月6日確認。
- ↑ a b c d e f g 後藤健生 (2021年5月5日). “川崎vs名古屋「決戦の勝敗を分けたもの」(2)2戦目に「レフェリーの笛」が増えた理由”. サッカー批評Web. 2021年5月6日確認。
- ↑ a b ““最強の盾”名古屋が崩壊!(2)むなしく響いた「下げるな!」の掛け声”. サッカー批評Web (2021年4月30日). 2021年4月30日確認。
- ↑ a b c 後藤健生 (2021年5月1日). “【J1分析】名古屋vs川崎のGW2連戦(2)中4日での「5月4日」再戦に向けて”. サッカー批評Web. 2021年5月6日確認。
- ↑ a b c d e f “川崎、名古屋に連勝!(1)事前に想定していた「もらったファールの生かし方」”. サッカー批評Web (2021年5月5日). 2021年5月6日確認。
- ↑ a b c d e f g h i j k “天王山の首位攻防戦は川崎フロンターレが2連勝。終盤に名古屋が猛追するも届かず | Jリーグ”. DAZN (2021年5月4日). 2021年5月7日確認。
- ↑ a b c “川崎、名古屋に連勝!(2)サイド攻略を呼び込んだ「試合中の対峙分析力」”. サッカー批評Web (2021年5月5日). 2021年5月6日確認。
- ↑ a b c d e 後藤健生 (2021年5月5日). “川崎vs名古屋「決戦の勝敗を分けたもの」(3)最終盤のマテウスに見た「名古屋の底力」”. サッカー批評Web. 2021年5月6日確認。
- ↑ a b c d e f g “川崎、名古屋に連勝!(3)川崎がここ数試合で見せる「後半のペースダウン」”. サッカー批評Web (2021年5月5日). 2021年5月6日確認。