黒川弘務在任延長問題
黒川弘務在任延長問題(くろかわひろむざいにんえんちょうもんだい)とは、令和2年(2020年)5月に問題化した日本の政治問題である。内閣や法相の判断で次長検事や検事長らを最長66歳まで、検事総長は最長68歳まで特例として留任できるとする案を検察庁法改正案に盛り込み、国家公務員の定年を延長する国家公務員法改正案の束ね法案として3月に通常国会に提出。しかし法曹界などから「検察の独立を根底から覆す」と強い反対が出たため政治問題化した。これは1月に異例の措置で決めた当時の黒川東京高検検事長の定年延長を後付けで正当化しようとしているとの批判もあった。
概要[編集]
経歴[編集]
- 2018年
- 8月 - 人事院が65歳まで国家公務員の定年引き上げを求める意見書を、国会と内閣に提出。
- 2019年
- 2020年
- 1月17日 - 内閣法制局と人事院が、検察官の定年延長運用について解釈変更を了承(1月24日まで)。
- 1月31日 - 黒川弘務東京高検検事長の定年(2月7日まで)を半年間延長する閣議決定が安倍晋三首相により行なわれる。
- 2月10日 - 野党議員が国家公務員法の定年延長制は検察官に適用されないとする1981年の政府答弁と、閣議決定の矛盾を国会で指摘する。
- 2月13日 - 安倍首相が検察官の定年延長に関し、「国家公務員法の規定が適用されると解釈することとした」と答弁し、法解釈変更に言及する。
- 3月13日 - 検察官の定年延長を可能とする検察庁法改正案を含む国家公務員法改正案を閣議決定する。
- 5月8日 - 野党が欠席する中で、衆議院内閣委員会で国家公務員法改正案が実質審議入りする。これに対してツイッターなどで著名人らの抗議が急拡大する。
- 5月11日 - 安倍首相が国会で「恣意的な人事が行なわれるといった懸念は全く当たらない」と強調する。
- 5月15日 - 松尾邦弘元検事総長らが検察庁法改正案に反対する意見書を法務省に提出する。野党が武田良太行革担当相の不信任決議案を衆議院に提出する。
問題点[編集]
与党[編集]
与党はそもそも、答弁が全くできていないからその点から問題化している。
- 武田良太「(野党の質問に対し)法務省に聞いてほしい」
- 森雅子「(特例を想定するケースとして)捜査が長期間にわたり、後継者に引き継げば適切な検察権の行使が困難になる場合」「(野党が特例用件の明確化を求めたのに対し)新たな人事院規則に準じて作りたい。現時点で人事院規則が定められていない」
検察庁法改正案は本来、森が所管しているが、他の法案とまとめた「束ね法案」として国家公務員法改正案に一本化したため、公務員制度を担当する武田が内閣委員会で答弁することになっている。
何が問題なのか[編集]
- 検察の独立性が崩壊し、信頼が失墜する可能性がある。
- 検察を弱体化して、時の政権の意のままに動く組織になってしまう可能性。
- 三権分立主義の否定につながりかねない危険性を含む可能性。
- 政治権力の検察への介入を正当化し、政権の意に沿わない検察の動きを封じ込め、検察の力を削ぐことを意図している可能性。
- 時の政権が検察の人事権を握り、起訴や不起訴の決定にまで干渉を受けるようになる可能性。
- 時の政権や政府の都合で、捜査権の行使を抑制する恐れが出てくる可能性。
- 渦中の人となっている黒川は安倍首相と大変近く、この法案が通過すれば首相官邸が検察幹部人事に介入することができるようになる可能性。
野党[編集]
新型コロナウイルスで日本が一大事な時に、火事場泥棒的に成立させようとしているとして反対している。野党は改正案に全面的に反対しているではなく、役職定年の特例部分、つまり在任延長部分を削除するなら改正案に応じると述べている。
批判[編集]
この改正に関しては多くの批判が噴出している。黒川弘務宛にもカッターナイフの刃や紙が入った封筒が届いていたことが5月14日までに判明している。この脅迫状によると「(黒川が)大阪地検に圧力をかけて(森友問題や文書改竄問題などを)不起訴にした」などと印字されており、「次の検事総長だと」「国民をなめんじゃねえ」などの記載もあったという。
終幕[編集]
政府与党は相次ぐ批判を受けて、国会での成立を断念。さらに黒川が賭け麻雀をしていた疑惑が週刊文春に報じられて、黒川は訓告処分を受けて辞職することになった。