筑高体操
筑高体操(ちっこうたいそう)とは、福岡県立筑紫丘高等学校で1952年から行われている体操。
男子生徒全員が上半身裸の状態で行い、主に大運動会で披露される[1]。
2022年10月14日付の西日本新聞朝刊1面に「男子全員が上半身裸」で体操させられることを問題視する記事が1人の生徒の告発をきっかけに掲載された[2][注 1]
。
この記事は全国的に話題となり、Yahooニュースの総合アクセスランキングで1位となったり、Twitterで一時トレンド入りするなどし、「人権侵害」「時代錯誤」などと指摘され、「炎上」状態となった。
中高生から支持を集めるすぎやま先生はこの問題をTikTokやYouTube、Instagramなどでこの問題を取り上げた動画を公開し、筑紫丘高校の体制を厳しい言葉で非難した[3]。動画の再生回数は約140万回。
概要[編集]
筑高体操は男子生徒全員がはちまきと短パンだけを身につけて行い、毎年9月の大運動会で披露される。男子生徒は独特なリズムと抑揚の号令に合わせて、一糸乱れぬ体操を繰り広げる。体操との名前はついているものの、ラジオ体操とは違い、筋力トレーニングの動きに近い。演技時間は約5分間。
考案まで[編集]
筑高体操は志和繁猪校長(当時)の「修猷、福高にないものをつくれ」という言葉を受けて、1951年に体育教師がマスゲームや旧海軍の体操を参考に考案した。翌1952年11月の大運動会で初披露されて以来、2022年まで70年間にわたって大運動会で披露されてきた[1]。
筑高体操の炎上[編集]
新聞報道・インターネットでの炎上[編集]
2022年10月14日付の西日本新聞朝刊1面に「男子全員が上半身裸」で体操させられることを問題視する記事が掲載され[2]、この記事がインターネットでも配信されたことから、筑高体操は炎上し、著名人や政治家も含め、多くの人が意見をネット上で表明したが、その多くは批判的なものだった。
岡崎琢磨による批判[編集]
筑紫丘高校卒で推理作家の岡崎琢磨は10月15日にTwitter上で意見を表明し、筑高体操の廃止を求めた。[4]
「筑高体操やん!私大嫌いでしたし、20年前から時代錯誤だと思ってました。まだやってたんだ。やめなやめな、もうそういう時代じゃない。」 「私は母校の人たちは大好きだったから高校にはいい印象しかありませんが、男尊女卑と性役割を強調する運動会とか、喉潰すまで叫ばされるパワハラ応援団とか、隠れトランスジェンダー等に配慮のない筑高体操とか、伝統や風潮は何もかも嫌いでした。20年前からおかしいって言ってたのにまだやってんのね。」
原田まさみつによる批判[編集]
筑紫丘高校卒で大野城市市議会議員の原田まさみつは10月16日にFacebook上で意見を表明し、着衣したうえで、性別に分けずに実施するよう求めた。[5]
「筑紫丘高校には筑高体操という上半身裸で男子のみが行う体操があり、体育の授業で覚えて運動会で発表します。母校の生徒は真面目な人が多くて、嫌々ながらもきちんと覚えて運動会では揃った演技になっていたと記憶しています。伝統とは得てして時間が経つと今を生きる人間の感覚とはそぐわないものになります。悪しき風習として切り捨てるのか、伝統として残すのかは判断が難しいですので、個別に考える必要があります。今回の件に関しては、私も嫌々やらされていた口ですが、卒業後には懐かしい思い出の一つになっていたので、廃止するには寂しさを感じます。学校生活の教育は決して学問だけではなく、規律を学ぶ側面があるので、その意味では卒業生として継続を望みます。上半身裸の部分は時代の要請で体操服を着るのが妥当かなと思います。また、同じ流れで男子だけでなく女子の実施も検討すべきでないかと。」
鳥羽和久による批判[編集]
寺子屋ネット福岡代表の鳥羽和久は10月14日にTwitter上で意見を表明し、筑高体操等を批判した。[6]
「上半身裸の体育祭と理不尽に高圧的な校歌指導、福岡の高校ではまだやってる。「諸刃の剣」ではなくもっとけちょんけちょんにバカにする大人がいてもいいはず。私はクソだと思う。」
本田由紀による批判[編集]
東京大学大学院教授で教育学者の本田由紀は10月15日にTwitter上で意見を表明した。[7]
「「伝統には悪い面も良い面もある。今は変革期にあり、子どもたちが納得しているのか、丁寧に学校内で話し合うことが不可欠だ」様々な規範がアップデートされているいま(日本はものすごく遅れているが)、「伝統」の正当性は非常に低下している」
松岡宗嗣による批判[編集]
ライターでLGBTが専門の松岡宗嗣は10月15日にTwitter上で意見を表明し、筑高体操を批判した。[8]
「炎天下で裸をさらすこと、パワハラのような高圧的な”指導”、これらに合理的な理由はなく、ただ「先輩もそうだった」から。こうした「男らしさ」が評価され、安易に「伝統」とされること自体が、女性や性的マイノリティを抑圧し、さらに男性自身をも呪い、蝕んできた。男なのだから上半身裸くらい晒せなければおかしい、という規範は、例えばトランスジェンダーなどの生徒に対し苦痛を与え、そもそも(性別に関わらず)自分の身体は大切であり、誰に見られてもよいかは自分で決められるという、身体の安全や性的な自己決定を軽視することにつながる。これは他者の性や身体への軽視にも繋がりかねないし、男性の性被害の矮小化にも繋がる。記事に「友達の中には、ガリガリの細い体形や色白の体を気にしている人も」とあるように、ルッキズムの問題も指摘できる。これは翻って男性が他者の身体や見た目をジャッジする加害性の強化にもつながってしまう。」 「こうした非合理的な男らしさの規範、その有害性は多岐にわたる。たかが「運動会」かもしれないが、安易な「伝統」の名の下に抑圧を続けるのではなく、むしろ男性自身の性や身体が大切にされることによって、他者への加害を防ぎ、他者を大切にすることにもつながっていくのではないかと思う。」
フィフィによる批判[編集]
エジプト出身でタレントのフィフィは10月14日にTwitter上で意見を表明し、筑高体操を批判した。[9]
「確かに、男子も性的な目で見る人もいるからなぁ…てか、これはなんの意味があるの?そこよ。伝統だから続けてるだけ?」 「“何でもかんでも意味を求めちゃいかん。ただ元気ですアピールかもしれないし、たかだか、上半身裸だろ、海行けば裸だよ”リプがきたが、海水浴は強制ではない。」
加治将一による批判[編集]
作家で個人投資家の加治将一は10月14日にTwitter上で意見を表明し、筑高体操を批判した。[10]
「オワコン日本!戦前か?信じられん!」
すぎやま先生による批判[編集]
10月23日にはすぎやま先生がTikTokで動画を公開し、学校の体制を猛烈に批判した。動画によると、すぎやま先生のところには複数の生徒からDMが来ていた。すぎやま先生の動画内での主な主張は以下の通り。
「そもそもさ、上半身裸で演技することが素晴らしいことだとしたら、先生方、あなた方がまずやってみてくださいよ。」
「先生方だって上半身裸で踊れって言われたら恥ずかしいですよね。私は恥ずかしいよ。」
「だったらやらせるな。だったらやらせんなよ、生徒に。おかしいだろ。自分がやらされて嫌なことを生徒にやらせるっておかしいだろ、教育者として。なんで自分が恥ずかしいことを生徒にやらせるんだよ。それが教育ですかね。教育者のやることだと思いますか。」
「裸を見られて恥ずかしくない子もいるかもしれないけど、見られるのが本当に嫌な子もいるの、LGBT関係なく。人間はだれしも嫌なことを他人から強要されない、そういう権利を持ってるんだよ。上半身を見られるのが嫌だと思っている子は見られない権利があるの。この学校の先生、全員人権意識なさすぎですよ、はっきり言って。」
「違和感感じない教師は教師を辞めろ。やめた方がいいよ、本当に。おかしいから、感覚が。人権感覚が欠如してる、マジで。」
「この問題の根底にあるのは、男子は女々しいことを言うなっていう、男子に対する圧力なんですよ。男だったら泣くな、男だったら細かいことを言うな、男だったら我慢しろ、男だったら裸になっても恥ずかしがるな。何かにつけてそう言われるんですよ、男って。それで苦しんでいる男性めちゃくちゃたくさんいるんですよ。でも言えない。だって言ったら、男のくせにって言われるから。」
「この学校の先生方さ、保護者の皆さん、地域の皆さん、あなたに良心というものがあるのなら、こんな糞(クソ)みたいな伝統は今すぐ辞めさせませんか。」
「苦しんでる子、学校に行きたくない子、太っててからかわれていじめられてる子、死にたいほどつらい思いしている子、いるんですよ。それ学校が率先してやることですか。もう一度、考えてみてください。」
福岡県教育委員会の対応[編集]
筑紫丘高校を所管する福岡県教育庁の体育スポーツ健康課は2022年4月に、学校関係者から「体操は長年の伝統で、大切なものというのは理解できるが、本当に嫌な人もいる」との相談を受け、「運動会(体育大会)等での上着の着脱については、各学校が実態に応じて設定することとしており、県教育委員会としては、一律の指導はしておりません。しかし、生徒等からの個別に配慮すべき事項への相談については、丁寧に対応する必要があると考えます。本件については、トランスジェンダーに関する内容をはじめ、個別に配慮すべき事項への相談として、生徒等に対し丁寧に対応するよう該当校に指導しております。」と回答した。県教委はこの相談を重く見ており、学校側に生徒の意見を聞くよう促したという。[11][2]
10月の新聞報道後、県教委は複数の方から意見を頂いたとしてインターネット上で「県立学校では、運動会や体育大会などの体育的行事をはじめ、学校で行う教育活動については、各学校が、それぞれの教育方針や伝統・文化など実態に応じて、活動の内容や方法を決定することとしております。県教育委員会としましては、各学校に対し、御指摘の内容を含め、十分な協議・検討を行うとともに、個別の配慮が必要な生徒に対して丁寧な対応をとるよう引き続き促してまいります。」と回答した[12]。
筑紫丘高校の対応[編集]
西日本新聞の取材に対し、筑紫丘高校側は県教委からの指導を受けて校内調査を行ったが不満の声は出なかったと述べている。しかし実際、校内調査は行われていなかったという学校関係者の証言もある。[2]
県教委は「直接言いにくい生徒もいるはずだ。相談しやすい環境を作るように」と指導したものの、山本博康学校長は炎上から2か月間、沈黙を貫いた。炎上から2か月以上たった12月16日に山本博康が筑高体操について言及したが、その後校内では筑高体操をめぐる議論は行われていない。(2023年1月時点)
脚注[編集]
- 注
- ↑ なお、新聞報道には筑紫丘高校と明記されていない。
- 出典
- ↑ a b INC, SANKEI DIGITAL (2018年12月8日). “【自慢させろ! わが高校】福岡県立筑紫丘高校(上)「ライバル校にないものつくれ」”. 産経ニュース. 2023年1月25日確認。
- ↑ a b c d “上半身裸で体操、厳しい応援団指導…高校運動会の伝統はあり?”. 西日本新聞me. 2023年1月24日確認。
- ↑ “ヒドすぎる実態を公開します#元教師 #先生 #ニュース”. TikTok. 2023年1月24日確認。
- ↑ “https://twitter.com/okazakitakuma/status/1581081506587344896”. Twitter. 2023年1月25日確認。
- ↑ “原田 まさみつ” (日本語). www.facebook.com. 2023年1月30日確認。
- ↑ “https://twitter.com/tobatoppers/status/1580891419673100288” (日本語). Twitter. 2023年1月30日確認。
- ↑ “https://twitter.com/hahaguma/status/1581098528025165825” (日本語). Twitter. 2023年1月30日確認。
- ↑ “https://twitter.com/ssimtok/status/1580881678376980480” (日本語). Twitter. 2023年1月30日確認。
- ↑ “https://twitter.com/FIFI_Egypt/status/1580786622056267776” (日本語). Twitter. 2023年1月30日確認。
- ↑ “https://twitter.com/Kaji_world/status/1580876785339990023” (日本語). Twitter. 2023年1月30日確認。
- ↑ “運動会時の体操の見直し - 県民の声のページ(福岡県)”. kvoice.pref.fukuoka.lg.jp. 2023年1月30日確認。
- ↑ “西日本新聞の報道についての御意見 - 県民の声のページ(福岡県)”. kvoice.pref.fukuoka.lg.jp. 2023年1月24日確認。