カジノ (書籍)
『カジノ――ラスベガスの愛と名誉』(原題:Casino: Love and Honor in Las Vegas)は、1995年にサイモン&シュスターから刊行されたニコラス・ピレッジによるノンフィクション作品。カジノ支配人のフランク・ローゼンタール(1929~2008)とマフィア構成員のアンソニー・スピロトロ(1938~1986)の2人を中心に、マフィアに支配されたラスベガスのカジノの裏舞台を描いた物語。
概要[編集]
『カジノ』はマフィアがラスベガスの一部のカジノを支配していた1970年代から80年代前半にかけての時代を対象にしている。現在、主要なカジノはマフィアの影響を受けていないと考えられている。1970年代以降、政府はマフィアをラスベガスのカジノから締め出すことに非常に厳しい態度で臨んでいる[1]。ピレッジはシカゴのギャンブラーとマフィアの下でブックメーカー(ノミ屋)をしていたフランク・"レフティ"・ローゼンタールと、彼の幼馴染でシカゴ・アウトフィットの構成員であったアンソニー・"トニー"・スピロトロの2人に焦点を当てている。ローゼンタールはベガスに移り住み、マフィアからカジノの運営を任され、ゴージャスなショーガール、ジェリー・マクギー(1936~1982)と結婚した。同時期にスピロトロもベガスに移り住み、宝石強盗の首謀者となり、彼の仲間は「壁の穴ギャング団」とあだ名されるようになった。ローゼンタールとスピロトロ、マクギーの3人の人間関係を軸に、全米トラック運転手組合年金基金によるカジノへの融資、マフィアやカジノ従業員による売上金の不法取得といったベガスのカジノの実態、そしてローゼンタールとスピロトロがもたらした混乱によりマフィアが「金の卵」「地上の楽園」を失う経緯を描いている。
評価[編集]
アメリカの書評誌『カーカス・レビュー』はこの本を「目が離せなくなるほど素晴らしい」と評し、「ピレッジは、1970年代に組織犯罪が沈黙しつつも致命的なパートナーとして支配していたカジノをいかに略奪していたのかを詳細に説明している」と述べている[2]。
書評家・作家のクリストファー・レーマン=ハウプトはこの本をラスベガスのカジノからマフィアが叩き出されるという「失敗の本質を描いた物語」だとし、「この本の語り口の信憑性は、物語の流れのぎこちなさを補って余りあるもので、ピレッジ氏が素材をフィクションにしなかったことに感謝している」と述べている[3]。
映画[編集]
この本は1995年に公開されたマーティン・スコセッシ監督の映画『カジノ』の原作となった。脚本はピレッジとスコセッシが共同で担当した。ピレッジは既に本を書き終えており、映画に先駆けての出版を希望していたが、スコセッシは通常の時系列での出版を見合わせ、映画公開後に本を出版するように説得を試みた。しかし、本は映画公開の前月に出版された[4]。
ローゼンタールとスピロトロの2人の主人公/敵役をサム・“エース”・ロススティーンとニコラス・“ニッキー”・サントロとして、ロバート・デ・ニーロとジョー・ペシが演じた。ジェリー・マクギーをジンジャー・マッケンナとしてシャロン・ストーンが演じ、ゴールデングローブ賞主演女優賞を受賞し、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。
日本語訳[編集]
- ニコラス・ピレッジ著、広瀬順弘訳『カジノ』ハヤカワ書房[ハヤカワ文庫 NF]、1996年1月。ISBN 978-4-150502-00-3。
訳者によると、タイプ原稿の段階から翻訳を始めたが、訳出中に「ある人物の生命が脅かされる恐れがある」という理由で「シンジケートのボスに関する記述のある箇所」の改訂が行われた。「四十年近く翻訳に携わってきた訳者にとって、初めての経験である」と述べている[5]。
出典[編集]
- ↑ ED GRABIANOWSKI. “How the Mafia Works”. people.howstuffworks. 2022年5月31日確認。
- ↑ “CASINO”. Kirkus Reviews. 2022年5月31日確認。
- ↑ Lehmann-Haupt, Christopher (1995年9月28日). “BOOKS OF THE TIMES; The Mob's Tale of Sorrow About Las Vegas (Published 1995)”. New York Times. 2022年5月31日確認。
- ↑ Baxter, John 『De Niro: A Biography』 London : HarperCollinsEntertainment、2003年、337。ISBN 0006532306。
- ↑ 広瀬順弘「訳者あとがき」、ニコラス・ピレッジ著、広瀬順弘訳『カジノ』ハヤカワ文庫、1996年、460頁