リムジン謀議

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リムジン謀議(リムジンぼうぎ)は、オウム真理教による地下鉄サリン事件に関して、地下鉄にサリンを撒くことが決定されたとされる謀議。

概要[編集]

検察によると、1995年3月18日東京都杉並区高円寺にあった教団が経営する飲食店からの帰途のリムジン内で、想定されたオウム真理教に対する警察の強制捜査を阻止するために、地下鉄にサリンを撒くことが決定されたとする。CHS(諜報省)長官だった井上嘉浩による1996年の証言が唯一の根拠となっている。

教祖である麻原彰晃に地下鉄サリン事件に関与した事実・証拠はなかったが、この謀議が存在したと認められたことにより、麻原は地下鉄サリン事件の首謀者とされ、死刑判決を受けた。

このリムジンに乗車していた者は麻原彰晃、村井秀夫、井上嘉浩、遠藤誠一石川公一青山吉伸の6名。検察は、リムジン内で謀議が行われたとして麻原を起訴したが、同乗者だった石川、青山については「謀議において積極的に発言していない」として現在まで起訴していない。

謀議の内容[編集]

井上証言によると、リムジンで話された内容は以下の通り。

  1. 麻原が阪神・淡路大震災(麻原は「関西大震災」と呼んだ)の話とともに、三日前に失敗したアタッシュケース事件(営団地下鉄霞ヶ関駅でアタッシュケースに入ったボツリヌス菌トキシソを噴霧させようとした)が成功していたら強制捜査はなかったんじゃないか等と話した。
  2. 続けて、麻原が「マンジュシュリー(村井のホーリーネーム)、何かないのか」と言ったので、村井はボツリヌス菌トキシンではなくサリンならどうかと答えた。
  3. 井上が「禁煙地下鉄にサリンを撒けばいいじゃないか」と言った。
  4. 麻原が井上の意見に賛成。井上に「総指揮でやれ」と命じると、井上は、即座に了承した。
  5. 井上は、実行役として、正悟師昇格が内定していた林泰男広瀬健一横山真人豊田亨の四人の名前を挙げた。
  6. 麻原は、それを了承するとともに、同じく正悟師昇格内定の林郁夫を加えるよう指示した。林郁夫は、松本サリン事件では麻原の指示で実行犯から外れていた。
  7. 車内では、中川智正が隠匿していたジフロ(5工程あるサリン生成段階のうち、第4工程で製造される中間生成物)からサリンを製造する方法について話題が発展した。
  8. 麻原は、遠藤に対し「サリン造れるか」と問う。遠藤は「条件が整えば造れると思います」と答えた。
  9. 麻原は創価学会新進党の犯行に仕立て上げれば捜査を逃れられないかと考えたが、石川・井上はこれを否定した。
  10. サリン撒布の実行を前提として、教団の犯行を隠蔽するため、自作自演が話し合われ、青山の提案(島田裕巳教授宅爆破)と井上の提案(教団東京総本部爆破)を麻原が指示した。石川は自分の足を信者に狙撃させることを提案したが、「そこまでしなくて良い」と麻原が退けた。

このうち、1から7について触れているのは井上証言のみで、これらについて他の証人は否定している。

検察官論告での取扱い[編集]

井上証言の虚偽性は、検察官も認めていた。麻原公判における検察官の論告では、井上証言について以下のように述べられている。

本件当時の井上の地位、本件前後の井上の行動等からすると不自然で、既に死亡した村井に責任転嫁して、本件において村井に次ぐ現場指揮者という重要な立場にあった事実を隠蔽または歪曲化しようとしている感を否めない。

(井上の)証言中の不自然で信用できない部分は、①地下鉄サリン事件本体と自作自演事件とを分断し、前者は村井の担当であり、後者は井上の担当であり、地下鉄サリン事件本体には消極的な関与しかしていないとする点、②東京における実行役および運転手役の統率は林泰男の担当であって、井上自身は、村井の指示を受けて、渋谷アジトで実行役と運転手役の組合せを伝達したにすぎないとする二点に集約できる。

要するに、本件における自己の役割を矮小化して、死刑判決を回避するために、①については、すでに死亡して反論できない村井.に責任を転嫁し、②については、証言時点では逃亡中であった林泰男に責任を転嫁しようとしたもの。

引用元:検察官論告求刑

検察官はこのように述べながら、その他の井上証言は信用性が高いとし、リムジン謀議については井上証言を信用できるとしている。その検察官のご都合主義的姿勢について、第一審の弁護団長は、「その根拠は皆無であって、検察官論告は成り立たないのである」と述べている[1]

判決での取扱い[編集]

判決では、以下通り井上証言の信用性が高いとされ、それを根拠にリムジン内での麻原の共謀が認められた。

被告人が車内で、間近に迫っている強制捜査にどのように対応すればいいかについて意見を求めると(中略)井上は、ボツリヌス菌ではなくてサリンであれば失敗しなかったということなんでしょうかという趣旨の意見を述べ、井上もこれに呼応して地下鉄にサリンをまけばいいんじゃないかと発言し、地下鉄電車内にサリンを散布することを提案した。

被告人は、首都の地下を走る密閉空間である電車内にサリンを散布するという無差別テロを実行すれば阪神大震災に匹敵する大惨事となり、間近に迫った教団に対する強制捜査もなくなるであろうと考え「それはパニックになるかもしれないなあ」と言ってその提案をいれ、井上に、総指揮を執るよう命じた。

(中略)

信用性の高い井上証言及び遠藤証言によれば、被告人は、上九一色村に向かうリムジン車内で、村井、遠藤及び井上に対し、地下鉄電車内にサリンを散布する無差別大量殺戮を指示し、同人らとの間でその共謀を遂げたことは明らかである。

引用元:東京地方裁判所 平成16年2月27日判決

その後[編集]

2013年5月にNHKが放送した「NHKスペシャル 未解決事件 File.02 オウム真理教」では、「実はリムジンでは、たとえサリンで攻めても強制捜査は避けられないという点で終わったのです」との井上の手紙が紹介されており、ドキュメンタリー・ディレクターの森達也は「もし井上の手紙が真実であれば、麻原法廷だけではなく一連のオウム裁判を、根本からひっくり返すほどに重要な事実が明らかにされている」としている[2]。麻原に生存権を求める一部の勢力は、この手紙を根拠に裁判のやり直しを主張している。

とはいえ、仮にこの証言一つが嘘だったとしてもその他の事件を根拠に麻原に刑罰が科せられるのは不可避であった(オウム真理教死刑執行)。

出典[編集]

  1. 渡辺脩『麻原を死刑にして、それで済むのか?』三五館、2004年2月29日初版発行
  2. 森達也 地下鉄サリン事件 、一通の手紙が裁判を覆すかもしれない 週刊ダイヤモンド、2013年1月9日、2018年3月15日閲覧