オオシロピンノ
オオシロピンノ、学名 Arcotheres sinensisは、十脚目カクレガニ科のカニ。アサリに入っていることで有名。アサリに入れるくらいのサイズなので非常に小さく、甲長約6ミリ(杉浦 et al. 1960)、甲幅1.5cmほど(武田 et al. 2011)。太平洋側では九州から岩手県にかけて、日本海側でも九州から北海道にかけてと日本全国に広く分布し、日本でもっとも普通に見られるカクレガニの仲間である(小西 1996)。
生態[編集]
二枚貝の中に入って暮らし、貝が海水中から濾過して得た餌を横取りして生活している[1]。アサリの他にもハマグリ、カキやイガイ類(杉浦 et al. 1960)に入ることが知られており、外来種であるミドリイガイやムラサキイガイまで利用する(山田, 伊谷&浅間 2011)。寄生性の生物は宿主に対するより好みが激しいものが多い中、これほどいろいろな二枚貝に入るのは珍しいとも言える。とくにムラサキイガイについては、移入から間もない1939年の標本からすでにオオシロピンノが見つかっており(伊谷, 山田&渡部 2011)、彼らの流行への敏感さを感じさせる。
アサリの中に入っているオオシロピンノはほとんどがメス(杉浦 et al. 1960)。オスは普段外にいて、交尾のときだけ二枚貝の中に入るのではないかと考えられている[2]。メスについても、貝の中から出しても半年くらい生き延びるものもあり(杉浦 et al. 1960)、そこまで宿主への依存性は高くないようだ。もっとも、野外であんな弱々しいカニが下手に外に出れば、すぐに魚に食べられるだろう。
生活史[編集]
多くの他のカニと同様、浮遊幼生であるゾエア、メガロパを経て、稚ガニへと成長する。秋頃にふ化し、翌年の初夏にかけて甲長2~4mmの小型のカニが多く見られるようになる。それらは秋ごろまでには概ね5mm以上になり、抱卵するようになると考えられている(杉浦, 杉田&木原 1960)。カクレガニ科のカニ全般的に、「どのように宿主に入るのか」についての研究が少なく(小西 2010)、あまりよくわかっていない。今後の研究の結果に期待したい。
人間との関係[編集]
アサリの身入りが減ることが知られており(杉浦 et al. 1960)、漁業関係者からは注目されてきた。食感が気になるかもしれないが、アサリと一緒に食べて問題ない。オオシロピンノだけわざわざより分けて食べた人もいるようだ[3]。味はやはり普通にカニらしい。
脚注[編集]
- ↑ “佐々木希、アサリ料理したら「カニがいる」→どんな生態なの? 博物館に聞いてみた”. 2022年6月18日確認。
- ↑ “佐々木希、アサリ料理したら「カニがいる」→どんな生態なの? 博物館に聞いてみた”. 2022年6月18日確認。
- ↑ “寄生蟹であるピンノをまとめて食べてみる”. 2022年6月18日確認。
参考文献[編集]
- 伊谷, 行; 山田, ちはる; 渡部, 哲也 (2011), “1930年代におけるオオシロピンノによるムラサキイガイの利用 -京都大学瀬戸臨海実験所所蔵標本から-”, 黒潮圏科学 4 (2): 169-174
- 小西, 光一 (1996), “カクレガニ類の最近の話題”, Cancer 5: 15-21
- 小西, 光一 (2010), “カクレガニ類の話題ーその後の状況”, Cancer 19: 31-38
- 杉浦, 靖夫; 杉田, 昭夫; 木原, 正光 (1960), “アサリ養殖における有害動物としてのカクレガニの生態一I. アサリTapes japonicaに共生するオオシロピンノ Pinnotheres sinensisの生態とアサリの身入りにおよぼす影響について”, 日本水産學會誌 26 (2): 89-94
- 武田, 正倫; 古田, 晋平; 宮永, 貴幸; 田村, 昭夫; 和田, 年史 (2011), “日本海南西部鳥取県沿岸およびその周辺に生息するカニ類”, 鳥取県立博物館研究報告 48: 29-94
- 山田, ちはる; 伊谷, 行; 浅間, 穂高 (2011), “受賞論文「高知県浦ノ内湾における在来種オオシロピンノによる外来種ミドリイガイの利用」の紹介”, Cancer 20: 1-4