差別動画大量通報騒動
差別動画大量通報騒動(さべつどうがたいりょうつうほうそうどう)とは、2018年5月、電子掲示板「5ちゃんねる」(旧2ちゃんねる)の利用者が、動画投稿サービス「YouTube」の規約に違反する可能性が高い動画について、同サービスの運営元に対し集団で「通報」を行うことで、該当する動画の削除やチャンネルの停止に至ったとされる騒動である[1][2]。なお、YouTubeにおける用語としては規約違反の動画の「報告」が正確な表現であるが、騒動の発端である5ちゃんねるや関連する報道等の表記に従い、本項目ではカッコつきの「通報」と表記する。ネトウヨ春のBAN祭りとも呼ばれている[3]。ヤマザキ春のパン祭りとは一切関係ない。
概要[編集]
「J-CAST」によると「通報」騒動は、2017年以降発生した、保守系のブログの呼びかけを受けた特定の弁護士への「大量懲戒請求騒動」が報じられたことに端を発しているという[2]。懲戒請求を巡る一連の動きを「面白がった」、5ちゃんねる「なんでも実況J板」の利用者が、保守系思想をもつ利用者が多い「ハングル板」に進出し、懲戒請求に関する事象と絡めて元々のハングル板利用者を煽る中で、2018年5月15日に「Youtubeのネトウヨ動画を報告しまくって潰そうぜ」とのタイトルのスレッドを立て、「愉快犯」的に動画の「通報」を繰り返し始めたとしている[4][2]。
「懲戒請求#特定の弁護士への大量懲戒請求」も参照
スレッドにおいては、「人種差別やヘイトを助長しているものや悪質なデマ」といったYouTubeの利用規約に抵触する可能性の高い動画を投稿しているチャンネルを狙い、該当する動画をスレッド内でまとめて「通報」を開始[3]。YouTubeでは、動画2件の削除で2週間投稿禁止、3件の削除でアカウント凍結の処分が行われる[5]が、「通報」の開始から4日後の5月19日にこの騒動で最初のアカウント凍結が行われた[3]。
凍結されたアカウントはチャンネル登録者数が5万人を超え、投稿動画数も900本以上という比較的規模の大きいチャンネルであったこともあり、5ちゃんねる利用者側の活動はさらに活発化し、秒単位で問題表現がある部分を特定して「通報」する手順などの情報がスレッド内で共有され、投稿数が多いチャンネルの「削除」を優先するようになった[3]。
こうした活動の結果、登録者数が17万人を超えていたチャンネル「某国のイージス」が5月22日朝に停止された[2]のをはじめ、5月30日時点における5ちゃんねる利用者のまとめによると、62チャンネルがアカウント停止や自主削除に至り、動画数としては10万本以上が削除されている[3]。
それから約半月後の2018年6月1日、5ちゃんねるで「ヘイトツイートをtwitterから追放するんだ」というスレッドも立てられ、「通報」はTwitterにも広がった。さらに、YoutubeやTwitter等における効果的な「通報」の方法が解説されたwiki「ネトウヨ春のBAN祭り(後に『ネトウヨ春のBAN祭り・夏のBAN祭り・秋のBAN祭り』に改名、以下『ネトウヨBAN祭りwiki』と記述)」も作られ、5ちゃんねるを閲覧しない一般のネットユーザーにも「通報」対象のアカウントや「通報」する手順などの情報が共有され、「通報」は広がりを見せた。チャンネルが削除されるたびに野球好きの多いなんJ民らしく、蛍の光(阪神タイガースの試合で相手投手が炎上して降板したときに歌われる)の歌詞や電車コール(関西に多かった私鉄傘下のパ・リーグチームのファン同士で使われた○○電車ではよ帰れという野次)、そして「靖国で会おう」をもじった「ニコニコで会おう」などの野次を書き込み削除を祝いつつ差別動画の投稿者を揶揄した。
ネトウヨBAN祭りwikiによると、7月31日時点で1100以上のチャンネルがアカウント停止や自主削除となり、動画は50万本以上が削除された[6]ほか、Twitterでも1500近くのアカウントが凍結されている[7]。2019年1月19日現在ではYouTubeにて1,920以上のチャンネルと60万本以上の動画が削除され[8]、Twitterにおいても1,740以上のアカウントが凍結されている[9]。
反応[編集]
社会学者で学習院大学法学部教授の遠藤薫は、「『(明らかな)ヘイトスピーチ』は、絶対ダメ、なのである」と述べ[10]、明らかなヘイトスピーチには言論の自由が適用されないとの見解を示した。
この騒動でユーチューブガイドライン違反のアカウントの停止を受けた、「旧皇族」を自称する作家の竹田恒泰はこの騒動を「姑息な言論テロ、ユーチューブの審査はザルである、自分は違反などしていない」と反発している[11]。
保守的言説を展開しているアメリカ人弁護士のケント・ギルバートは、「過激な差別表現を含む動画より、『日本軍の慰安婦強制連行はなかった』などの歴史的事実を伝える、普通の動画の方が多かったように思う」と、削除された動画の多くは差別的表現を行なっていなかったとの見解を示し、削除は不当であるとした[12]。
動画削除及びアカウント停止[編集]
ユーチューブの規約やコミュニティガイドラインに違反すると、上述のように投稿制限やアカウントの凍結といった処分が行われるが、違反が認定された回数が一定数に達するとチャンネル自体が制限され、規約やコミュニティガイドラインに違反していない動画も視聴不能となる[5]。
脚注[編集]
- ↑ “差別表現、ユーチューブが相次ぎ削除 利用者が通報”. 朝日新聞. (2018年7月6日) 2018年7月6日閲覧。
- ↑ a b c d “政治系YouTubeチャンネル凍結が相次ぐ 原因はなんJ民の「祭り」? | J-CASTニュース” (日本語). J-CASTニュース. (2018年5月22日) 2018年5月30日閲覧。
- ↑ a b c d e 安達夕 (2018-05-31). “ヘイト動画を消滅させた「ネトウヨ春のBAN祭り」はネット上の革命だったのか?”. ハーバービジネスオンライン (扶桑社) 2018年5月31日閲覧。.
- ↑ “日本の弁護士・ネットユーザーが「嫌韓動画」30万本削除”. 朝鮮日報. 2018年7月5日確認。
- ↑ a b “コミュニティガイドライン”. 2018年7月16日確認。
- ↑ ネトウヨBAN祭りwikiのYoutube通報対象・凍結済アカウント一覧ページ(現在は凍結)」
- ↑ ネトウヨBAN祭りwikiのTwitter通報対象・凍結済アカウント一覧ページ(現在は凍結)」
- ↑ 【YouTube】BAN済チャンネル・通報対象一覧
- ↑ 【Twitter】凍結・ロック済アカウント、通報対象一覧
- ↑ 遠藤薫. “「ネトウヨ夏のBAN祭り」ヘイト裁きをグーグルに訴える意味”. iRONNA. 産経新聞. 2018年7月17日確認。
- ↑ “姑息な言論テロ『竹田恒泰チャンネル』停止祭りの内幕”. 2018年7月17日確認。
- ↑ “ユーチューブの異変と現代版の「検閲」 背後に外国勢力の意向か… (2/2ページ)”. ZAKZAK. 夕刊フジ. 2018年7月17日確認。