マンボウ属
マンボウ属 | |
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分類 | |
目 | フグ目 |
亜目 | フグ亜目 |
科 | マンボウ科 |
属 | マンボウ属 |
名称 | |
学名 | Mola (Kölreuter, 1766) |
和名 | マンボウ属 |
英名 | Sunfish |
保全状況 | |
ワシントン条約 | 附属書 II |
マンボウ属(Mola)は、フグ目マンボウ科の属の一つ。かつては33の種が記載されていたが、現在この属に含まれるのはマンボウ、ウシマンボウ、カクレマンボウの3種である[1]。マンボウについては当該項目参照。
概要[編集]
ヤリマンボウ属(Masturus)、クサビフグ属(Ranzania)と並んで、マンボウ科を構成する[2]。
マンボウ属は、ヨーゼフ・G・ケールロイターが1763年に発表した論文内で記載された[3]。属名の「Mola」はラテン語で『石臼』を意味する。
1951年に分類の見直しにより、33種のマンボウ属はマンボウ(Mola mola)とゴウシュウマンボウ(Mola ramsayiの2種に整理された。うち、日本近海に分布するのはマンボウのみとされた[4]。
2009年、日本近海のものも多く含む世界中のマンボウ属の標本122頭について、ミトコンドリアDNAのD-loop領域の分子系統解析を行ったところ、マンボウ属は少なくとも3種(group A/B/C)に分かれるという解析結果が得られた。日本近海ではgroup AとB(Mola sp. AとB)が見られ、group Bの形態がMola molaと一致するとされた [5]。これら分子系統解析の結果と用いられた標本の形態比較が並行して行われておらず、各グループの学名は特定できず更なる研究・比較検討が必要とされていたものの、2010年にM. sp. Bの標準和名をマンボウとすることが提唱された[6]。
その後、マンボウの未確定だった学名は2017年末にMola molaに確定されている[1]。
group Aにも2010年よりウシマンボウという和名がつけられたが、これは従来日本にいないとされていたゴウシュウマンボウ(Mola ramsayi)と考えられていた [7]。2017年にゴウシュウマンボウと同種であると確認したうえで、和名はウシマンボウで、学名はMola alexandriniとして確定[8][1]。
南半球にのみ見られるgroup Cは、2017年に新種カクレマンボウ(Mola tecta)として記載された[9]。
ウシマンボウ[編集]
ウシマンボウ | |
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分類 | |
目 | フグ目 |
亜目 | フグ亜目 |
科 | マンボウ科 |
属 | マンボウ属 |
種 | ウシマンボウ |
名称 | |
学名 | Mola alexandrini (Ranzani, 1839) |
和名 | ウシマンボウ (牛翻車魚) |
英名 | Giant sunfish Bumphead sunfish Ramsay's sunfish Southern sunfish Southern ocean sunfish Short sunfish Bump-head sunfish |
保全状況 | |
ワシントン条約 | 附属書II |
2017年にMola alexandriniの模式標本が再発見され、Mora sp. AがM. alexandriniと同種であることが判明した。現在ではゴウシュウマンボウ(M. ramsayi)は本種のシノニム(同物異名)であるとされる[1]。
分布[編集]
極圏をのぞく世界中の海に分布する。マンボウよりも暖かい海域を好むとされる[10]。日本では北海道以南に分布する[11]。
形態[編集]
最大の個体(アゾレス諸島産)で全長325cm、全高359cm、体重2.7トン。これより大型化する可能性もある。網地島沖で捕獲された全長332センチメートルのマンボウ属は本種であるという可能性も指摘されている。体高は全長の56-63%で、マンボウよりやや高い。頭部や顎は隆起する。鱗は長方形。舵鰭条数14 - 24。骨板数8 - 15。マンボウでは舵鰭の後縁に凹凸がみられるが、本種ではそれが見られない。体は全体が灰白色である。胸鰭より腹側の側面と、腹面はより淡い色になり、不規則な淡灰色の模様がみられる個体もいる。各鰭も淡灰色である。
生態[編集]
水深0 - 600 mでみられる[11]。
本種は大量のクラゲを捕食する。クラゲは栄養価に乏しいものの、個体数が非常に多く容易に捕食できる。本種は他にクモヒトデや小魚、プランクトン、藻類、サルパ(尾索動物の一種)、軟体動物なども捕食する。海面近くに横たわって日光浴をする姿がみられ、これには餌を求めて冷たい深海へ潜った後に体を暖めるため、体に酸素を供給するため、あるいはカモメを呼んで寄生虫を取り除いてもらうため、といった理由があると考えられている[10]。
人間との関係[編集]
日本の東北地方では夏に定置網によって漁獲される[11]。
和名は、東北の漁師が使っていた物で、マンボウと区別されていた。
カクレマンボウ[編集]
カクレマンボウ | |
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分類 | |
目 | フグ目 |
亜目 | フグ亜目 |
科 | マンボウ科 |
属 | マンボウ属 |
種 | カクレマンボウ |
名称 | |
学名 | Mola tecta Nyegaard, Sawai, Gemmell, Gillum, Loneragan, Yamanoue & Stewart, 2017 |
和名 | カクレマンボウ (隠翻車魚) |
英名 | Hoodwinker sunfish |
保全状況 | |
ワシントン条約 | 附属書II |
2017年、ニュージーランド産も含むMora sp. Cの27標本による形態比較とミトコンドリアDNAのD-loop領域・COI遺伝子の分子系統推定に基づき、新種として記載された[14]。種小名はラテン語の「tēcta」で、『隠された…、秘密にされた…』などの意。皮膚サンプルのDNA解析によって初めて別種の存在が判明したもので、外見ではマンボウとの区別が容易ではないため、従来はその存在が認知されなかった、いわゆる隠蔽種であることに由来する(初期の分類学者から関心を寄せられながらも、3世紀近く記載されていなかった)[14]。
同様の理由で、和名も「カクレマンボウ」と名づけられた[15]。
分布[編集]
オーストラリア南東部、ニュージーランド近海、南アフリカ共和国沖。
模式産地はニュージーランド北島西岸。チリ沖でも本種と思われる個体の撮影例があることから、南半球広域に分布することが示唆されている[14]。
形態[編集]
成体はマンボウよりスリムで、より洗練された形をしている。他のマンボウ属とは異なり、成体であっても舵鰭の一部が欠けている。全長50 - 242センチメートル。より大型化する可能性がある。マンボウ属他種と比較して体型は細い。頭部は隆起する。鱗は円錐形。舵鰭条数15 - 17。骨板数5 - 7。舵鰭末端部は丸みを帯び、切れ込みが1つだけ入る。鰭基部前には滑らかな帯模様が入る[14]。
生態[編集]
消化器官の内容物からは、オオサルパThetys vaginaやPyrosoma属などのサルパ類、クダクラゲ類などが検出されている[14]。
参考文献[編集]
- 『日本の海水魚』 岡村収, 尼岡邦夫(編・監修)、山と溪谷社、1997年。ISBN 4635090272。
- 澤井悦郎 『マンボウのひみつ』 岩波書店〈岩波ジュニア新書〉、2017年。ISBN 4-00-500859-3。
- 『以布利 黒潮の魚』 中坊徹次, 町田吉彦, 山岡耕作, 西田清徳、大阪海遊館、2001年。ISBN 493141804X。
- 『脊椎動物の多様性と系統』 松井正文、裳華房、2006年。ISBN 4785358300。
- 松浦啓一 『動物分類学』 東京大学出版会、2009年。ISBN 9784130622165。
出典[編集]
- ↑ a b c d e Sawai Etsuo; Yamanoue Yusuke; Marianne Nyegaard; Sakai Yoichi (2018-01-25). “Redescription of the bump-head sunfish Mola alexandrini (Ranzani 1839), senior synonym of Mola ramsayi (Giglioli 1883), with designation of a neotype for Mola mola (Linnaeus 1758) (Tetraodontiformes: Molidae)”. Ichthyological Research (Ichthyological Society of Japan) 65 (1): 142-160. .
- ↑ “Family Molidae - Molas or Ocean Sunfishes”. FishBase. 2020年7月23日確認。
- ↑ Koelreuter, J.G (1763). “Piscium rariorum e Museo Petropolitano exceptorum descriptiones. Novi Comment”. Acad. Sci. Imp. Petropo 8: 337-430.
- ↑ 澤井 2017, p. 58.
- ↑ Yukiko Yoshita; Yusuke Yamanoue; Kotaro Sagara; Kenji Gushima; Hisato Kuniyoshi; Tetsuya Umino; Yoichi Sakai; Hiroaki Hashimoto et al. (2009). “Phylogenetic relationship of two Mola sunfishes (Tetraodontiformes: Molidae) occurring around the coast of Japan, with notes on their geographical distribution and morphological characteristics”. Ichthyological Research (Springer Japan) 56: 232-244. .
- ↑ 山野上祐介、馬渕浩司、澤井悦郎、坂井陽一、橋本博明、西田睦「マルチプレックスPCR 法を用いた日本産マンボウ属2種のミトコンドリアDNAの簡易識別法」、『魚類学雑誌』第57巻第1号、日本魚類学会、2010年、 27-34頁、 。
- ↑ 澤井 2017, p. 98.
- ↑ 野口みな子 (2018年2月25日). “マンボウを襲った「バブル崩壊」 学名連発の挙げ句、10分の1に…”. withnews.jp (株式会社朝日新聞社). オリジナルの2018年2月26日時点によるアーカイブ。 2018年2月26日閲覧。
- ↑ Hannah Lang (2017年7月24日). “マンボウの新種発見、125年ぶり、カクレマンボウ”. natgeo.nikkeibp.co.jp (株式会社日経ナショナルジオグラフィック) 2020年7月23日閲覧。
- ↑ a b “Mola alexandrini (Ranzani, 1839)”. FishBase. 2020年7月23日確認。
- ↑ a b c d 松浦啓一 『日本産フグ類図鑑』 東海大学出版部、2017年、95頁。ISBN 9784486021278。
- ↑ 『小学館の図鑑Z 日本魚類館』 中坊徹次、小学館、2018年3月20日、485頁。ISBN 9784092083110。
- ↑ 澤井悦郎 (2022年10月13日). “現ギネス世界記録を破った2744kgのウシマンボウ、硬骨魚類王としてさらなる高みへ!”. lab-brains.as-1.co.jp (アズワン株式会社) 2023年2月23日閲覧。
- ↑ a b c d e Marianne Nyegaard et al (2017-07-19). “Hiding in broad daylight: molecular and morphological data reveal a new ocean sunfish species (Tetraodontiformes: Molidae) that has eluded recognition”. Zoological Journal of the Linnean Society 182 (3): 631-658. .
- ↑ 後藤一也 (2017年7月22日). “新種「カクレマンボウ」見つけた 日豪、捜索10年”. asahi.com. 株式会社朝日新聞社. 2017年7月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年7月22日確認。