危険運転致死傷罪
危険運転致死傷罪(きけんうんてんちししょうざい)とは、酒や薬物の影響で正常な運転が困難な状態のほか、通行妨害行為、制御が難しい高速走行などで人を死傷させる事故を起こした場合に適用される罪である。法定刑の上限は死亡事故の場合は懲役20年、負傷の場合は懲役15年である。この罪は平成11年(1999年)に東名高速道路で飲酒運転していたトラックが追突して女児2人が死亡するという事故などを契機に新設が検討され始め、平成13年(2001年)に刑法に新設された。平成26年(2014年)5月に刑法から交通事故関連規定を分離した自動車運転処罰法の施行により、適用対象は拡大した。
居眠り運転と無免許運転による死亡事故、飲酒運転による死亡事故でも適用されないことで遺族から批判から改正を求める声が出ている[1]。
日本の市民は事故の当事者の処罰を強く望む傾向があり、危険運転致死傷罪の制定など交通事犯の厳罰化を求める被害者の署名運動では数多くの市民が署名したとされる。池田信夫は、交通事故の厳罰化を求める世論はマスコミの過剰報道によるものであると指摘している[2]。
本罪制定のきっかけは、前述のように「そもそも業務上過失致死傷罪はモータリゼーションが発達していない時代にできた古い法律で、自動車事故を想定して作られたものではない」との主張であり、一般には明治の刑法制定以来改正されていない、と考えている者も多い。
しかし、業務上過失致死罪は、1968年(昭和43年)に、それまで最高刑が「禁錮3年」だったものを「懲役5年」に引き上げる法改正(昭和43年法律第61号)がされている。
これは、モータリーゼーションの進行により、1959年(昭和34年)に交通死者が初めて1万人を突破し、1960年(昭和35年)に呼気に一定以上のアルコール分を含む酒気帯びでの運転禁止を定めた道路交通法の規定が制定されるという流れの中で、悪質な交通違反には刑が低すぎるとの理由により改正されたものである[3]。
したがって、「業務上過失致死罪の刑が低すぎる」という意見は事実誤認に基づくものであるとする考え方も見られる。
本罪を創設する案の審議中、すでに「ひき逃げが増える」との警告があったのにこの意見は顧みられなかった。厳罰化を求める世論に押されて冷静な判断がされなかったからである。実際、本罪制定後にはひき逃げの発生件数が増加している。