五感の機能不全がトリックに使われているミステリー作品

出典: 謎の百科事典もどき『エンペディア(Enpedia)』
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「目が見えない」「耳が聞こえない」など、五感の機能不全がトリックに使われているミステリー作品を紹介する。

作品名を目にしただけでネタバレになってしまう可能性が高いため、各々の責任で読んで下さい!







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一覧[編集]

小説作品[編集]

作品名 年代 ポイントとなる五感
(いちおう伏せ字)
詳しい解説(いちおう伏せ字)
エラリー・クイーン『ギリシャ棺の謎』 1932年 視覚 (以下伏せ字)「色盲トリック」が色んな意味で非常に有名な作品。探偵のエラリーが、登場人物のデミーは「赤緑色覚異常」であったという前提に立って推理するシーンがある。しかし、その解説は「赤が緑に、緑が赤に、逆に見えていた」というものであり、医学的な「色盲」の解説としてはまったく正しくない。(2つの色を区別できないのが色盲である。区別できているなら色盲ではなく、単に言葉を逆に憶えているだけの奇妙な人である。)
マージェリー・アリンガム『見えないドア』 1945年 視覚 評論家の飯城勇三が「世界一スマートな密室」と称したシンプルなトリック。あらすじ:とある社交クラブで会員のフェンダーソンが殺される。動機の面で最も怪しいのはマートンという人物だが、唯一の出入り口を見張っていた警備員は「被害者とチェッティ以外は出入りしていない」と証言した。警備員は「一度見た顔は忘れない」と評されているベテランであり、しかもマートンと揉めた過去があるの庇っているとも考えられない。しかし不思議なことに、チェッティ本人は社交クラブに入っていないと否定した。一体犯人は誰なのか? (以下伏せ字)マートンは加齢により視力が衰えていたがそのことを周囲に隠し、音によって人物を区別していた。そのことに気付いたマートンは、足の悪いチェッティの足音を真似しながら堂々と警備員の前を通って入り、殺害後にまた堂々と出ていったのだ。
トマス・フラナガン『北イタリア物語』(別題『玉を懐いて罪あり』) 1949年 視覚、聴覚 1949年に『エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン』の第4回年次コンテスト最優秀新人賞を受賞した古典的名作。15世紀の北イタリアを舞台に、お城の宝物庫から宝石が盗まれる事件が起きる。唯一生き残った警備員ノフリーオは、耳が聞こえず、しゃべることもできない聾唖であった。(以下伏せ字)城主モンターニョは、事件当時の状況を推理した3種類のイメージ図をノフリーオに見せ、その反応から彼自身が犯人であると断定して処刑する。しかし! 実際にはノフリーオは耳が聞こえており、その代わりに目が見えない障害者であった。彼には、眼の前に広げられている絵はまったく見えておらず、城主モンターニョの声だけを聞いて首をふって反応していた。この事件は、事情を知らない他国からの大使の目を騙して、無辜の障害者に罪をかぶせた上で、宝石を不当に手に入れるという城主モンターニョの策略であったのだ。
ジョン・スラデック『見えないグリーン』 1977年 視覚 (以下伏せ字)第二の殺人事件において、ダンビの目が見えなかったという意外な真相が用意されている。(筆者は未読のため、これ以上詳しく説明できません。加筆できる方、募集中です。)
有栖川有栖『双頭の悪魔』 1992年 嗅覚 (以下伏せ字)被害者の一人・小野博樹は、洞窟のなかで香水にまみれた状態で殺されていた。なぜ犯人はこんなことをしたのか? じつは小野は、周囲の匂いがまったく分からない「無嗅覚症」であった。犯人は、真っ暗な洞窟のなかで照明を使わずにこっそり小野を尾行できるように、小野が使う傘に香水を振りまいておいたのだった。
城平京『名探偵に薔薇を』 1998年 味覚 (以下伏せ字)山中冬美は、味覚障害による「無味覚症」であった。そのため、普通の人なら一瞬で気づく強い苦みをもった猛毒「小人地獄」が入った紅茶を、それと気づかずに飲み干して命を落としてしまう。なぜ犯人はそんな毒薬を使ったのか。無味覚症のことは知っていたのか...?
大山誠一郎「Cの遺言」
(短編集『アルファベット・パズラーズ』所収)
2004年 嗅覚 (以下伏せ字)クルーズ船上で殺害された会社社長。現場のテーブルクロスには、アルファベットの「C」のような形の焼け焦げが残っており、被害者が今際のきわでライターを使って残したダイイングメッセージではないかと思われた。しかし実際には、ガラスの花瓶が太陽の光を集める「収斂火災」によって作られた焼け焦げだった。被害者は嗅覚が悪かったため、焼け焦げに気づかなかったのだった。
赤川次郎「地獄へご案内」
(短編集『悲しみの終着駅』所収)
2005年 視覚 トリックというほどのものではないが。(以下伏せ字)田舎町のN町の警察署長・村内は、K国大統領のパレードをオートバイで先導する係を務めたものの、途中で曲がるべき道を間違えてしまった。一世一代の晴れ舞台で失態を犯した彼は、その夜に首吊り自殺を遂げた。しかし何十年も暮らし慣れた町で、なぜ道を間違えてしまったのか...? これが物語のキーとなる。じつは彼は白内障が進んでいて、ほとんど目が見えなかった。事前にパレードの道を何度も通り、合図があれば正しく曲がれるように練習していた。しかし当日、合図を出す係の人は自分の役目の少なさに恨みを抱いて合図を出さなかったのだ。
城平京『虚構推理』 2011年 触覚 準主人公の桜川九郎が「無痛症」という設定。ただ、事件のトリックそのものに直接的な関係はない。
小林泰三『アリス殺し』 2013年 視覚、嗅覚 『不思議の国のアリス』の世界を舞台とした推理小説。(以下伏せ字)白兎の証言が「密室」の鍵となる。しかし、じつは彼は目が悪く、嗅覚で他人を判別していた。これが状況の取り違えを生んでいた。(賢明なる読者諸君は、上で紹介した海外某古典のバリエーションであることを了解したことだろう。)
倉知淳「片桐大三郎最後の季節」
(短編集『片桐大三郎とXYZの悲劇』所収)
2015年 聴覚 (以下伏せ字)現場に割れた灰皿が残されていたのは、犯人が耳が聞こえなかったから。
大山誠一郎「時計屋探偵と死者のアリバイ」
(短編集『アリバイ崩し承ります』所収)
2018年 聴覚 主人公の「僕」は目の前で交通事故に遭遇した。事故に遭った推理作家は、実は人を殺してきた帰りであることを自白して死亡する。しかし後々警察が調べてみると、この作家には殺人が不可能なアリバイが成立していた。一体どういうことなのか? (以下伏せ字)実は、この作家は耳が聞こえなかった。罪を自白するときも、主人公からの質問は耳ではなく読唇術で判断していた。しかし事故で負った体の痛みのためところどころ目を瞑ってしまっており、質問を正しく読み取れていなかった。質問内容を勘違いして答えたために、まるで完全犯罪のようなアリバイが成立してしまったのだ。作家はこのまま死亡してしまったため、後から勘違いに気づくこともなかった。探偵の名推理がなければ、完全に迷宮入りになっていた事件である。
阿津川辰海『録音された誘拐』 2022年 聴覚 人並み外れた聴覚の良さをもつ探偵助手・山口美々香が主人公のミステリー小説。(以下伏せ字)しかし! じつは、物語が始まった直後に美々香は「突発性難聴」を起こし、何も聞こえない状態で推理を進めていたのだった。
白井智之『名探偵のいけにえ 人民教会殺人事件』 2022年 視覚など 第23回「本格ミステリ大賞」小説部門、「2023本格ミステリ・ベスト10」(原書房)国内編 第1位を獲得した作品。(以下伏せ字)かなり異色の特殊設定ミステリ。南米・ガイアナにある宗教団体が物語の舞台になっている。そこの信者たちは、自分には加護が与えられており体が傷つくことなどないと信じているがゆえに、自分たちの体の機能不全を認識することができない。その「集団幻覚」は非常に強固なもので、視覚や痛覚さえねじ曲げてしまう。この歪んだ世界の認識が、特殊なミステリ状況を作り上げる。(京極夏彦『姑獲鳥の夏』などの影響下にある作品といえよう。)
斜線堂有紀「鳥の密室」
(短編集『ミステリー小説集 脱出』所収)
2024年 触覚 中世ヨーロッパを舞台に、魔女狩りで捉えられた少女がいかに塔から脱出するかを描く。(以下伏せ字)少女は「無痛症」であることを活かした脱出計画を立てる。