ウイルス
ウイルス(Virus)は動植物の細胞や細菌に入り込み、増殖する生化学物質である。
概要[編集]
細菌は生物界に属す生物であるが、ウイルスが生物か非生物かは解釈に差がある。「玉子が先か鶏が先か」みたいな話があり、「発現していない遺伝子は生物とは謂わない」となればウイルス核は無生物ということになる。しかし、「ウイルスに感染された生物の細胞は、元の細胞と同じ生物であると謂えるか?」を考えると悩ましい問題になり、いずれにせよ生物の存在に深く関わるため、ウイルス学、生命科学で扱われている[1]。細菌は「細菌学」で扱う。
ウイルスの大きさは、約 1~5 μmの細菌より小さく、数十nm~数百nmである。電子顕微鏡でなければ見えない。インフルエンザウイルスの大きさは80nmから120nmの大きさである。
ウイルスの構造[編集]
DNAまたはRNAいずれか一種類の遺伝子とそれを包むたんぱく質の殻(カプシド)で構成される。外側にたんぱく質のついたエンベロープと呼ばれる脂質の膜をもつものがある。コロナウイルスではエンベロープにスパイク状のたんぱく質をもつ。
他の生物との構造比較表[編集]
一般的な細菌 | マイコプラズマ | リケッチア | クラミジア | ファイトプラズマ | ウイルス | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
細胞構造 | あり | なし | |||||
核酸 | DNAとRNAの両方を持つ | どちらか片方 | |||||
増殖様式 | 対数増殖(分裂や出芽) | 一段階増殖 暗黒期の存在 | |||||
細胞壁 | ある | ない | あるが、ペプチドグリカンを欠く | ない | |||
単独で増殖 | できる | できない(偏性細胞内寄生性) | |||||
エネルギー産生 | できる | できない |
ウイルスの増殖[編集]
ウイルスは代謝系を持たないので、単独では増殖できない。動物、植物、或いは細菌など他生物の細胞内に入り込み、その遺伝子の一部を借りて増殖する。細菌の増殖は指数関数的であるが、あるウイルスは1個の細胞から約200のウイルスが増殖するので、数個のウイルスがわずかの時間で大増殖する「一段増殖」を示す。
ウイルスの不活性化[編集]
ウイルスの感染性をなくすには、脂質二重膜、カプシド、RNAのいずれかを破壊すればよい。界面活性剤は、脂質二重膜の破壊に有効である。ウイルス構成要素のいずれかは破壊されると、ウイルスは感染力をもたなくなり、増殖することができない。すなわち消毒できたことになる。しかし、カプシドを界面活性剤では破壊できない。
コロナウイルスではスパイクと呼ばれる突起状の糖修飾タンパク質がある。これは宿主細胞のレセプターとの結合に必要である。スパイクが不活性化剤により変性すると感染性が失われる[2]。
ウイルス性の病気[編集]
ウイルス性の肺炎の場合は抗ウイルス剤を使うことがあるが、多くのウイルスに対する治療薬はまだ確立していない。その場合、対症療法を行うことになる。また、一度感染したら、生涯二度と感染しない強力な免疫を持つものも多いが、何回でも感染するものも多い。
名称について[編集]
「ウイルス」か「ウィルス」か「ビールス」か。
古い百科事典や専門書では「ビールス」と書かれていたが、「エイズウイルス」が広く知れ渡るようになってから「ウイルス」の呼び方が広く広まった。「ビールス」はドイツ語(正確にはヴィラス)で語源はラテン語である。英語「ウイルス」(vīrus)の語源も同様にラテン語であり原義は「毒液」、あるいは「毒」「透過性毒素」とも呼ばれた。ラテン語の読みは「ヴィーラス」である。「ウイルス」か「ウィルス」かは表記割れが起きている。英語での日本語表記は「ヴァイラス」と発音される。本稿では「ウイルス」で統一する。
関連項目[編集]
参考文献[編集]
E・ローゼンバーグ、I・R・コーエン(1985)『入門現代生物学』培風館