美人局
美人局(つつもたせ、筒持たせ)とは、男女が共謀して行う恐喝または詐欺行為の一種である[1]。妻が「かも」になる男性を誘って姦通し、行為の最中または終わった途端に夫が現れて、妻と関係したことに因縁をつけ、金銭を脅し取ることを指す。夫婦関係にない男女が夫婦を名乗って同様の行為を行った場合もこの名で呼ばれることがある。馴れ合ひ間男[2]。出来合ひ間男[3]。
概要[編集]
現代における美人局の典型的なパターンは、
といったものである。また、
というケースもある。
加害者の女が18歳未満である場合、被害者の男性は、淫行条例、児童福祉法、児童買春・児童ポルノ禁止法(児童買春)などの法律に違反する可能性がある。そのため、被害届や告訴状が出せず、泣き寝入りになりやすい。加害者側もそれを見越して、18歳未満の女を用意することがある。
いわゆるおやじ狩りなどに代表される青少年犯罪の一形態として同種事件が起こる事例も報告され、強盗や殺人に発展したり、脅し取った金が暴力団を始めとした反社会的勢力等の資金源になる事例もある。
被害を受けないための対策・被害を受けた際の対処法[編集]
- 出会い系サイトやツーショットダイヤルを使わない。
- 不用意に羽目を外さない。知らない女に声をかけられても簡単に相手をしない。
- 行きずりの相手の指定した店、ホテルには行かない。
- 被害届や告訴状が出せなくても、民事上、加害者に損害賠償を請求できるので、泣き寝入りせずに毅然とした態度で対応する。弁護士を介入させる。
歴史[編集]
姦通が文化的タブーとして扱われた歴史は古く、御成敗式目第三十四条にすでに不倫についての罰則規定が見られる。
一、密懷他人妻罪科事右不論強姧和姧、懷抱人妻之輩、被召所領半分、可被罷出仕、無所帶者可處遠流也、女之所領同可被召之、無所領者又可被配流之也、次於道路辻捕女事、於御家 人者百箇日之間可止出仕、至郞從以下者、任右大將家御時之例、可剃除片方鬢髮也、但於法師罪科者、當于其時可被斟酌
(口語?訳)強姦・和姦を問わず、人妻と不倫をなしたる者はその所領の半分を召し上げ、所領なき場合は遠流に処す。相手方となった人妻も同じ。路上で女性を略取した者は、御家人にあっては100日間出仕を禁じ、郎従以下の武士にあっては源頼朝以来の先例に従い片側の頭髪を剃り、僧侶にあってはその時々の状況に応じて適宜罰する。 — [4]
男女とも所領半分没収(無ければ遠流)と、武家の家門にとって致命的な処罰が規定されている。したがって、武家社会においては美人局が恐ろしい罠であった。
「つつもたせ」という日本語が現在と同じような意味で使用された用例は、『信長公記』巻十四(1610年頃)にみられる[5]。
語源[編集]
本来は漢語の「美人局」と日本語の「つつもたせ」では意味が異なる。呉自牧による南宋の地理書『武林旧事』巻六(1290年までに成立)に、美人局という言葉が出てくる。ここでは、美人を雇って若い男に対し、妻や妾を斡旋すると持ち掛け、手数料という名目で金を取って消えるという詐欺の手段を意味する。「局」はだます手口のこと。中国の俗語辞典『通俗篇』巻十一でも美人局の説明のために『武林旧事』を引用しているが、『通俗篇』は江戸時代の日本にも入ってきている。当時の漢学者たちは、美人を使って金を取るという共通点があることから、「美人局」に「つつもたせ」という熟字訓を与えたと考えられる[5]。
日本語の「つつもたせ」は元々「筒持たせ」と書き、博打用語だったと考えられる。平安時代に流行した盤双六の一種に、二個のサイコロを筒に入れて振るものがあった。博打から生まれた用語で「偽物を掴ませる」ことを「つつもたせ」と呼んだ。なお、「筒」を男性器と解釈する説もある[6]。
参考文献[編集]
- 米川明彦 『俗語百科事典』 朝倉書店、2021年7月1日、初版第1刷。ISBN 978-4-254-51068-3。
脚注[編集]
- ↑ 佐々木保博 (2020年2月9日). “美人局で脅迫されたら警察は動いてくれるのか 会社や家族に知られたらと恐れる必要はない”. 東洋経済オンライン. 2021年11月2日確認。
- ↑ 『広辞苑 第七版』 新村出、岩波書店、2018年1月12日、1954頁。ISBN 978-4-00-080131-7。
- ↑ 『古語大辞典』 中田祝夫, 和田敏政, 北原保雄、小学館、1989年4月1日、1096頁。ISBN 4-09-501221-8。
- ↑ “不倫も女性拉致もダメ!反逆者の対応はその場の空気で…鎌倉幕府のルール「御成敗式目」51か条を紹介!”. news.nicovideo.jp (2018年11月9日). 2021年10月31日確認。
- ↑ a b 米川 2021, p. 152.
- ↑ 米川 2021, p. 151.