発達トラウマ障害

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発達トラウマ障害(はったつトラウマしょうがい、Developmental Trauma Disorder : DTD)は、ベッセル・A・ヴァン・デ・コーク(Bessel A. van der Kolk, M.D.)が提唱する重篤な心の病であると同時に,重篤な社会病理でもある。

概要[編集]

 発達トラウマ障害は,ADHD(attention deficit/hyperactivity disorder 注意欠陥・多動性障害)などと誤診されやすく[1],日本では「発達障害」とされたり,時に「第4の発達障害」などと呼ばれたりすることがあるが,これは,杉山登志郎,友田明美らが,政治的に忖度した,意図的なミスリードであり,「生得的な生物学的理由による障害」を意味する「発達障害」ではない。育ちの環境要因に起因し,脳の発達やホルモンバランスなどが障害される社会病理であり,その点で,アルコール依存症,薬物依存症,ギャンブル依存症などに近いといえる。その環境要因,すなわち「トラウマの核心は,母親が赤ちゃんの目の前にいない」[2] [3]ということである。

 ヴァン・デ・コークは,発達トラウマ体験とは,19時のNHKニュースに取り上げられるような虐待やネグレクトによるよりも,赤ちゃんに心響かせない,息を合わせない関わりなのに,自分が赤ちゃんと心を響かせない,息を合わせない関わりをし続けていることに,母親が気付かずに,その心響かせない,息を合わせない関わりを母親が日々続けることが,赤ちゃんにとって,発達トラウマ体験になる,という。[4]

 これは,日本でも核家族化が進み,地域社会が崩壊したのに,子育て支援,特に,税金で賄われる公的な赤ちゃん支援が乏しいために,母親に子育ての負担が集中しているためでもある。また,社会の自己愛化が進行して,母親が赤ちゃんや子どもの気持ちよりも,自分の気持ちを優先しがちだからでもある[5][6][7]。 治療法のところでも述べるが,今の日本では,母親が安心して,赤ちゃんに心響かせ,息を合わせて,日々心地よい関係を楽しむ習慣を,毎日の生活の中で確立するのには,あまりにも過酷な生活を強いる政治の貧困が,発達トラウマ障害を,人々が知らぬうちにハンデミック(爆発的流行病)にしているのである[8]

起因[編集]

 発達トラウマ障害は,「子どものころの様々な辛い体験 adverse childhood experiences : ACEs」[9]に起因するものである。日本の場合は,その「子どものころの様々な辛い体験」に関するハッキリした統計はないが,現実に臨床をしていると,19時のNHKニュースに出てくるような,虐待や育児放棄によるものよりも,「概要」のところでも記したように,0歳,1歳のころの養育時に,赤ちゃんの息に母親が息を繰り返し合わせる,心豊かな関わりを日々繰り返す時間が著しく制約されていることに起因する方が,圧倒的多数と考えられる[10]。すなわち,日本の場合,日本社会の歪,日本社会の社会的な構造的暴力による,と考えられるケースの方が,圧倒的な多数だと考えられる。換言すれば,一見「普通」に見える家庭の,一見「普通」に見える子どもが,青年が,大人が,実は,発達トラウマ障害である,という方が,圧倒的多数なのである。具体的に言えば,「親の過度な期待や支配が『善意の虐待』を生んでいる」ケースと,「母親が出産後早くから仕事をしていて,養父母や保育所などに養育を任せすぎてしまった」ケース(教員や看護師など,人を支援する人に多い)が,発達トラウマ障害になるケースの大半である[11]。 アメリカでも,発達トラウマ障害は,「hidden epidemic 隠れた流行病」[12]と呼ばれている。しかし,日本では,アメリカ以上に「隠れた爆発的流行病 hidden pandemic」だと,考えられる[13][14][15]

 発達トラウマ障害の診断名は,アメリカ精神医学会発行の精神障害の診断と統計マニュアル 第5版,DSM-Ⅴには,まだ採用されていない。ヴァン・デ・コーク教授による診断基準は,ヴァン・デ・コーク教授が2005年に発表したものがあるが,2015年発行の 「The body keeps the score : brain, mind, and body in the healing of trauma 身体はその心の傷を忘れない トラウマを治療するときの脳と心と身体」,邦題『身体はトラウマを記録する―脳・心・体のつながりと回復のための手法』の巻末に詳しい。

 発達トラウマ障害は,「子どものころの様々な辛い体験」のゆえに,脳の発達やホルモンバランスなどに,生まれた後に障害を受ける重篤な心の病であるが,自分が生きている実感が持てないところ[16],あるいは,見捨てられた深い孤独感があること[17]が,中核的な臨床像である。症状は,自分の気持ちを表情や言葉に出さない抑制タイプと,激しい怒りを断続的に爆発させる脱抑制タイプがある点では,愛着障害と重なる。

学校教育での問題点[編集]

 発達トラウマ障害が,日本の学校教育で特に問題になる点は,次の点である。発達トラウマ障害は,赤ちゃんの時に養われるはずの安定的な愛着関係,一対一の二項関係が,できていない点である。今の日本の学校教育は,子ども‐教員‐課題(授業,時間割,ルール,年間予定,思い出,振り返り学習…)の三項関係の中で行われる活動がほぼ100%である。発達トラウマ障害は,一対一の二項関係が未成立であるのにも関わらず,学校では三項関係の中で活動をすることを強いられることになるが,それは土台不可能だ,ということである。すなわち,現行の日本の学校教育制度は,発達トラウマ障害がパンデミックである現状においては,制度崩壊しているのである。それは,現在盛んに言われているアクティヴ・ラーニングを取り入れても,制度崩壊の現状は打開できない。この現状を打開するのは,アメリカで実施しているような個別教育計画(individualized educational plan :IEP)に基づく学校制度の再生しかない,と考える。


児童福祉制度改正での問題点[編集]

 児童福祉法は,2012(平成24)年に改正されて,障害のある児童が,放課後や休日などに通園する施設,放課後等デイサービスなどの福祉施設が新たに創設された。しかし,杉山登志郎,友田明美らが,政治的に忖度して,発達トラウマ障害を「発達障害」と意図的にミスリードしたために,放課後等デイサービスなどの福祉制度が,本来なら,発達トラウマ障害の子どものケアをすべきなのに,「発達障害」との前提で,発達トラウマ障害の子どもらに関わるように,初めから歪んだ制度ができてしまっている。その結果,放課後等デイサービスなどの福祉施設は,発達トラウマ障害の子どもの,ケアではなく,間違った関わり=虐待を招来する制度設計になっていることが,大問題である。

 一日も早く,発達トラウマ障害の子どもにあった福祉制度にするために,児童福祉法などを,再度改正する必要がある。

治療法[編集]

 治療法として,ヴァン・デ・コーク教授は,要約的に言えば,サイコセラピーと,ボディーワークと,薬物療法の3つの組み合わせを推奨する[18]。発達トラウマ障害に治療効果が認められている薬は,MDMA(エクスタシー)と呼ばれる麻薬だけで,実際にはアメリカでも特別な場合以外処方できない[19]。したがって,発達トラウマ障害に効く薬はない,といった方が善い。サイコセラピーとボディーワークに参加できるように補助的に薬を用いるのが,薬物治療の定位置であるといえる。

 治療の要は,治療法の個々の違いを超えて,セラピスト,支援者が,発達トラウマ障害の相手に,心響かせる,息を合わせる(emotional attunment)関わりを繰り返し,発達トラウマ障害の人が,発達トラウマ体験を安心して,能動的再体験をすることである。

そのポイントは以下の3点である。

1)同じことを、一貫して、繰り返し行うこと(rhythmicity)、バスケットボールの見応えのある試合みたいに。

2)息をピッタリ合わること(synchrony)、タンゴを踊るみたいに。

3)心から歓んで、調子を合わせながら応答すること(harmony)、コーラスを歌ったり、ジャズ演奏をしたり、室内アンサンブルの演奏をしたりするみたいに。

 それは、毎日の生活の中で、同じ応答を、心から歓んで、息をピッタリと合わせて、一貫して、繰り返し応答する、毎日の心地良いやり取りをする習慣(ritual, the daily sensory rhythms)を作り出すことである。この心地良いやり取りをする習慣を,母親が赤ちゃんや子どもとの関係で作り出すことによって、その子どもにピッタリ合った,安全基地と安定的な安着関係を作ことができる[20]


自殺との関連[編集]

 日本では,1977(昭和52)年以降,毎年20,000人以上の人が自殺している。これは,非常に多い自殺者,非常に高い自殺率だといえる。エースACE(子どものころの様々な辛い体験)研究によれば,エース得点(ACE score)が高くなるほど,自殺率が高まることが分かっている[21]。日本で自殺者が非常に多く,自殺率が非常に高いことは,エース得点が高い日本人が非常に多いこと,すなわち,発達トラウマ障害の日本人が非常に多いことを示唆しているものと,考えられる。

事件との関連[編集]

 日本の場合,津久井やまゆり園の事件,座間市の9人殺人事件,鹿児島の5人殺人事件,名古屋大女子大生殺人事件,新潟女児殺人事件など,猟奇的事件などを起こす若者の心理的背後に,発達トラウマ障害があるかどうか,との視点は,重要な視点である。

 また,あおり運転など,自分の怒りをコントロールすることができない人が,事件にならずとも,巷で多いが,このような人も,発達トラウマ障害である可能性がある,との視点も重要な視点である。

脚注[編集]

  1. ナディン・バーク・ハリス. “いかに子供時代のトラウマが生涯に渡る健康に影響を与えるのか”. TED2014. 2018年5月17日確認。日本語の字幕がありますから,ご心配なく。
  2. Fiser S.F., Neurofeedback in the Treatment of Developmental Trauma: Calming the Fear-Driven Brain. April 21, 2014. W W Norton & Co Inc (April 21, 2014). p.8,
  3. 岡田尊司,『発達障害と呼ばないで』,幻冬舎新書 p.82には「愛着障害のケースにともなって見られやすい問題としては,親の不在,養育者の交代…などである」と,「親の不在」が一番最初に挙げられている。この愛着障害と岡田がいうケースは,そのまま発達トラウマ障害に当てはまる。
  4. van der Kolk, The Body Keeps the Score: Brain, Mind, and Body in the Healing of Trauma. September 8, 2015, Penguin Books; Reprint edition (September 8, 2015)pp.111-122.
  5. 岡田尊司, 自己愛型社会. 2005.5.10,平凡社新書271
  6. 佐々木正美『はじまりは愛着から 人を信じ,自分を信じる子どもに』p.197には,「私たちは,豊かさや自由に恵まれた環境の中で,いつのまにか,少しずつ自己愛的で自分勝手な生き方に陥っているのかもしれません。そして,子どもが望んでいることに,心や手をかけてやるよりも,親や大人自身が希望し,期待することの方に,意を用いる傾向を強くしてきてしまったのではないでしょうか。その結果,いくらお金をかけて育てられていても,心の深いところで,子どもたちは,『親や大人の身勝手な気持ちで粗末に育てられている』という実感から逃れられないでいることが,本当に多いのです」とある。
  7. 佐々木正美は,既に13年前に,「はじめに ―子どもたちの精神保健に寄せて」『別冊・医学のあゆみ 児童精神医学 ―臨床の最前線』(6.3 ,2006)で,「自己実現などという命題をかかげて生きているうちに,われわれは健康な個人主義を大きく逸脱して,病的な利己主義に陥っている。…近年,脳科学の先端を歩む研究者が示唆してくれる,前頭前野の機能の衰退にも注目したい。想像力,創造力,コミュニケーション,衝動の抑制など,高度に人間的な機能の中枢として,人間にだけ特異的に発達が許されている前頭前野の機能が開発されなくなったということである。われわれは子どもたちに,真のコミュニケーションを通じてしか育ててやれないその機能を,豊かに開花させてやれなくなったのだろうか。人間が人間的な資質や特質を失いつつあるような現状に,思わず慄然とするものを覚える」と指摘している。
  8. Bessel van der Kolk M.D (September 8、 2015). The Body Keeps the Score: Brain、 Mind、 and Body in the Healing of Trauma. Penguin Books; Reprint edition (September 8、 2015). pp. 349-351.
  9. “[http;//acestudy.org/. The Adverse Childhood Experiences Study 子どものころの様々な辛い経験]”. the ACE Study's co-principal investigators, Drs. Felitti and Anda.. 2018年5月20日確認。
  10. van der Kolk 『The Body Keeps the Score: Brain, Mind, and Body in the Healing of Trauma』 Penguin Books; Reprint edition (September 8, 2015)、2015年9月8日。「p.89-90には「日常的に子どもの気持ちを傷つけたり,子どもに心や手を掛けずにいることは,身体的な暴力や性的弄びに匹敵するほど,破壊的です」とある。」
  11. 岡田尊司, 愛着(アタッチメント)の大切さ. 地域保健 46(2)p.11.
  12. van der Kolk 『The Body Keeps the Score: Mind, Brain and Body in the Transformation of Trauma』 Penguin Books; Reprint edition (September 8, 2015)、2015年9月8日、150-170頁。「第10章のタイトルが「発達トラウマ : 隠れた流行病」。」
  13. 岡田尊司 『子どもが自立できる教育』 小学館、2013年3月11日、6頁。「「そもそも遺伝要因が強い「脳の障害」とされる発達障害が,これほど急増するというのは,どういうことだろう。海外でも発達障害は増加しているが,軽度発達障害のケースが,医療機関に殺到したり,大きな社会問題になっているのは,日本に特異な現象である。生まれつきの「脳の障害」という説明が ”印籠” のように使われているが,近年の研究では,環境要因の関与が大きいという結果が示されており,…」」
  14. 岡田尊司 『発達障害と呼ばないで』 幻冬舎新書、2012年7月30日、154-171頁。「第五章のタイトルは,「「発達障害」は社会を映し出す」である。」
  15. 岡田尊司 『愛着障害 子ども時代を引きずる人々』 光文社新書、2001年9月20日、4頁。「「昨今,「発達障害」ということが盛んに言われ,それが子どもだけでなく,大人にも少なくないことが知られるようになっているが,その発達の問題の背景には,実は,かなりの割合で愛着の問題が関係しているのである。実際,愛着障害が,発達障害として診断されているケースも多い」とある。実際は,岡田尊司さんが「愛着障害」とするケースも,ヴァン・デ・コーク教授が提唱する「発達トラウマ障害」とみなすと,臨床上,納得できるケースが非常に多いのである。」
  16. van der Kolk 『The Body Keeps the Score: Brain, Mind, and Body in the Healing of Trauma』 Penguin Books; Reprint edition (September 8, 2015)、2015年9月8日。「第6章のタイトルは「あなたの身体をなくすと,あなたの本当の自分をなくしているんですからね」というタイトルです。これは,簡単に言えば,自分が生きている実感を感じられない病態,臨床像を示します。同調圧力が日本でも猛烈ですし,加藤周一さんも述べているように,日本人には「個人がない」ので,発達トラウマ障害になりやすい民族性があるのかもしれない。」
  17. van der Kolk 『The Body Keeps the Score: Brain, Mind, and Body in the Healing of Trauma』 Penguin Books; Reprint edition (September 8, 2015)、2015年9月8日。「p.337, l.21には,「トラウマの本質とは,お母さんにも誠実に相手にしてもらえず,全人類からも見捨てられた,惨めで深い孤独感である」と言う。」
  18. van der Kolk 『The Body Keeps the Score: Brain, Mind, and Body in the Healing of Trauma』 Penguin Books; Reprint edition (September 8, 2015)、2015年9月8日。「p.3に,ヴァン・デ・コーク教授が,サイコセラピー,ボディーワーク,薬物療法の3つの組み合わせを推奨するところが出てくる。」
  19. van der Kolk 『The Body Keeps the Score: Brain, Mind, and Body in the Healing of Trauma』 Penguin Books; Reprint edition (September 8, 2015)、2015年9月8日、225-6頁。「MDMA(エクスタシーの別名のある覚せい剤)を服薬した研究協力者がサイコセラピーを受けると,著効を示すことが述べられている。」
  20. Bessel van der Kolk M.D (September 8、 2015). The Body Keeps the Score: Brain、 Mind、 and Body in the Healing of Trauma. Penguin Books; Reprint edition (September 8、 2015). p.86, pp.112-124.
  21. 子ども時代の重いトラウマが子どもと10台の自殺をいかに51倍にするのか”. ACES Too High. 2019年2月28日確認。