発達トラウマ障害
発達トラウマ障害(はったつトラウマしょうがい、Developmental Trauma Disorder : DTD)は、ベッセル・A・ヴァン・デ・コーク(Bessel A. van der Kolk, M.D.)が提唱する重篤な心の病であると同時に,重篤な社会病理でもある。
概要[編集]
発達トラウマ障害は,ADHD(attention deficit/hyperactivity disorder 注意欠陥・多動性障害)などと誤診されやすく[1],日本では「発達障害」とされたり,時に「第4の発達障害」などと呼ばれたりすることがあるが,これは,杉山登志郎,友田明美らが,政治的に忖度した,意図的なミスリードであり,「生得的な生物学的理由による障害」を意味する「発達障害」ではない。育ちの環境要因に起因し,脳の発達やホルモンバランスなどが障害される社会病理であり,その点で,後天的に,前頭葉を委縮させるアルコール依存症,薬物依存症,ギャンブル依存症などに近いといえる。その環境要因,すなわち「トラウマの核心は,母親が赤ちゃんの目の前にいない」[2] [3]ということである。
ヴァン・デ・コークは,発達トラウマ体験とは,19時のNHKニュースに取り上げられるような,誰が見てもひどい,虐待やネグレクトによるよりも,一見しただけでは,当人も,周りの者も,ひどいことをしているという自覚を持てない関わり,すなわち,赤ちゃんに心響かせない,息を合わせない関わりなのに,自分が赤ちゃんと心を響かせない,息を合わせない関わりをし続けていることに,母親が気付かずに,その心響かせない,息を合わせない関わりを母親が日々続けることが,赤ちゃんにとって,発達トラウマ体験になる,という。[4]。
これは,日本でも核家族化が進み,地域社会が崩壊したのに,子育て支援,特に,税金で賄われる公的な赤ちゃん支援が乏しいために,母親に子育ての負担が集中しているためでもある。また,労働時間,通勤時間,サービス残業時間が長く,子育てをする親が心身ともに疲弊しているためでもある。さらには,社会の自己愛化が進行して,母親が赤ちゃんや子どもの気持ちよりも,自分の気持ちを優先しがちだからでもある[5][6][7]。 治療法のところでも述べるが,今の日本では,母親が安心して,赤ちゃんに心響かせ,息を合わせて,日々心地よい関係を楽しむ習慣を,毎日の生活の中で確立するのには,あまりにも過酷な生活を強いる政治の貧困が,発達トラウマ障害を,人々が知らぬうちにパンデミック(爆発的流行病)にしているのである[8]。
起因[編集]
発達トラウマ障害は,「子どものころに粗末に育てられた様々な体験 adverse childhood experiences : ACEs」[9]に起因するものである。日本の場合は,その「子どものころに粗末に育てられた様々な体験」に関するハッキリした統計はないが,現実に臨床をしていると,19時のNHKニュースに出てくるような,明らかにひどい虐待や育児放棄によるものよりも,「概要」のところでも記したように,0歳,1歳のころの養育時に,赤ちゃんの息に母親が息を繰り返し合わせる,心豊かな関わりを日々繰り返す時間が著しく制約されている,すぐにはひどい関わりとも思えない母子関係に起因する方が,圧倒的多数と考えられる[10]。すなわち,日本の場合,日本社会の歪,日本社会の構造的暴力による,と考えられるケースの方が,圧倒的な多数だと考えられる。換言すれば,一見「普通」に見える家庭の,一見「普通」に見える子どもが,青年が,大人が,実は,発達トラウマ障害である,という方が,圧倒的多数なのである。具体的に言えば,「子どものためだと思っている…過度の心理的支配や強制、押し付け」,すなわち,「親の過度な期待や支配が『善意の虐待』を生んでいる」ケースと,「母親が出産後早くから仕事をしていて,養父母や保育所などに養育を任せすぎてしまった」ケース(教員や看護師など,人を支援する人に多い)が,発達トラウマ障害になるケースの大半である[11]。 アメリカでも,発達トラウマ障害は,「hidden epidemic 隠れた流行病」[12]と呼ばれている。しかし,日本では,アメリカ以上に「隠れた爆発的流行病 hidden pandemic」だと,考えられる[13][14][15]。
発達トラウマ障害の診断名は,アメリカ精神医学会発行の精神障害の診断と統計マニュアル 第5版,DSM-Ⅴには,まだ採用されていない。ヴァン・デ・コーク教授による診断基準は,ヴァン・デ・コーク教授が2005年に発表したものがあるが,2015年発行の 「The body keeps the score : brain, mind, and body in the healing of trauma 身体はその心の傷を忘れない トラウマを治療するときの脳と心と身体」,邦題『身体はトラウマを記録する―脳・心・体のつながりと回復のための手法』の巻末に詳しい。
発達トラウマ障害は,「子どものころに粗末に育てられた様々な体験」のゆえに,脳の発達やホルモンバランスなどに,生まれた後に障害を受ける重篤な心の病であるが,自分が生きている実感が持てないところ[16],あるいは,見捨てられた深い孤独感があること[17]が,中核的な臨床像である。症状は,自分の気持ちを表情や言葉に出さない抑制タイプと,激しい怒りを断続的に爆発させる脱抑制タイプがある点では,愛着障害と重なる。
学校教育での問題点[編集]
発達トラウマ障害が,日本の学校教育で特に問題になる点は,次の点である。発達トラウマ障害は,赤ちゃんの時に養われるはずの安定的な愛着関係,一対一の二項関係が,できていない点である。今の日本の学校教育は,子ども‐教員‐課題(授業,時間割,ルール,年間予定,思い出,振り返り学習…)の三項関係の中で行われる活動がほぼ100%である。発達トラウマ障害は,一対一の二項関係が未成立であるのにも関わらず,学校では三項関係の中で活動をすることを強いられることになるが,それは土台不可能だ,ということである。すなわち,現行の日本の学校教育制度は,発達トラウマ障害がパンデミックである現状においては,制度崩壊しているのである。それは,現在盛んに言われているアクティヴ・ラーニングを取り入れても,制度崩壊の現状は打開できない。この現状を打開するのは,アメリカで実施しているような個別教育計画(individualized educational plan :IEP)に基づく学校制度の再生しかない,と考える。
学校で心理臨床をしていて気付くのは,発達トラウマ障害の病態が,小学生よりも中学生が重く,中学生よりも高校生がさらに重い,ということである。これは必ずしも,同じケースを追跡したものではない。しかし,これは,今のニッポンの学校の教員は,勤務評定で賞与や昇進や人事異動が決まること,教員も自己愛化が進んでいることなどから,教員にも忖度する生き方が瀰漫し,また,教員も発達トラウマ障害に無知であることがあまりにも多いため,子どもよりも管理職を見ている教員が多いからではないか,と考えられる。
すなわち,学校でも,日本の子どもらは,「粗末に育てられている」のである。その結果が,夥しい数の不登校と十代の自殺を招いているといえるだろう。
児童福祉制度改正での問題点[編集]
児童福祉法は,2012(平成24)年に改正されて,障害のある児童が,放課後や休日などに通園する施設,放課後等デイサービスなどの福祉施設が新たに創設された。しかし,杉山登志郎,友田明美らが,発達トラウマ障害の子どもらの苦しみを見て見ぬふりをして,政治的に忖度して,発達トラウマ障害を「発達障害」と意図的にミスリードしたために,放課後等デイサービスなどの福祉制度が,本来なら,発達トラウマ障害の子どものケアをすべきなのに,「発達障害」との前提で,発達トラウマ障害の子どもらに関わるようにしただけではなく,児童福祉法の精神に反し,発達を支援せず,単に母親から引き離す時間を長引かせ,発達トラウマ体験を上書きするだけの,初めから歪んだ制度ができてしまっている。しかも,そこで働く支援者もワーキングプアに貶める制度になっている。すなわち,小金を貯めた者が,発達トラウマ障害の子どもとその家族と,低賃金で働かざるを得ない者の弱みに付け込んで,一層小金を貯めるシステムにさえ,なっている。その結果,放課後等デイサービスなどの福祉施設は,発達トラウマ障害の子どもの,ケアではなく,間違った関わり=虐待を招来する制度設計になっていることが,大問題である。
一日も早く,発達トラウマ障害の子どもにあった福祉制度にするために,児童福祉法などを,再度改正する必要がある。
治療法[編集]
治療法として,ヴァン・デ・コーク教授は,要約的に言えば,サイコセラピーと,ボディーワークと,薬物療法の3つの組み合わせを推奨する[18]。発達トラウマ障害に治療効果が認められている薬は,MDMA(エクスタシー)と呼ばれる麻薬だけで,実際にはアメリカでも特別な場合以外処方できない[19]。したがって,発達トラウマ障害に効く薬はない,といった方が善い。サイコセラピーとボディーワークに参加できるように補助的に薬を用いるのが,薬物治療の定位置であるといえる。
治療の要は,治療法の個々の違いを超えて,セラピスト,支援者が,発達トラウマ障害の相手に,心響かせる,息を合わせる(emotional attunment)関わりを繰り返し,発達トラウマ障害の人が,発達トラウマ体験を安心して,能動的再体験をすることである。
そのポイントは以下の3点である。
1)同じことを、一貫して、繰り返し行うこと(rhythmicity)、バスケットボールの見応えのある試合みたいに。
2)息をピッタリ合わること(synchrony)、タンゴを踊るみたいに。
3)心から歓んで、調子を合わせながら応答すること(harmony)、コーラスを歌ったり、ジャズ演奏をしたり、室内アンサンブルの演奏をしたりするみたいに。
それは、毎日の生活の中で、同じ応答を、心から歓んで、息をピッタリと合わせて、一貫して、繰り返し応答する、毎日の心地良いやり取りをする習慣(ritual, the daily sensory rhythms)を作り出すことである。この心地良いやり取りをする習慣を,母親が赤ちゃんや子どもとの関係で作り出すことによって、あるいは,支援者・セラピストが,発達トラウマ障害の子ども・青年・大人との関係の中で,作り出すことによって,その子ども・青年・大人,にピッタリ合った,安全基地と安定的な安着関係を創造することができる[20]。
自殺との関連[編集]
日本では,1977(昭和52)年以降,毎年20,000人以上の人が自殺している。これは,非常に多い自殺者,非常に高い自殺率だといえる。エースACE(子どものころに粗末に育てられた様々な体験)研究によれば,エース得点(ACE score)が高くなるほど,自殺率が高まることが分かっている[21]。日本で自殺者が非常に多く,自殺率が非常に高いことは,エース得点が高い日本人が非常に多いこと,すなわち,発達トラウマ障害の日本人が非常に多いことを示唆しているものと,考えられる。
事件との関連[編集]
日本の場合,茨城県日立市家族6人皆殺し放火事件,津久井やまゆり園の事件,座間市の9人殺人事件,鹿児島の5人殺人事件,名古屋大女子大生殺人事件,新潟女児殺人事件,そして,
登戸でカリタス小学校の小学生ら20人が死傷した事件(5.28 火 2019)
また,
京都アニメーションの建物に放火した事件(7. 18 木 2019)
また,
八戸市で,男子中学生が女子小学生の首を切りつけた事件(11. 12 火 2019)
また,
宝塚市で,23歳の青年が弟や母親など家族4人をボーガンで死傷させた事件(6, 4 木 2020)
また,
八王子市で,15歳の少年が回転式拳銃で自分の頭を打って,自殺した事件(6, 8 月 2020)
また,
福岡市の商業施設「マークイズ 福岡ももち」で,15歳の無職の少年が,20代の女性を刺殺した事件(8, 28 金 2020)
また,
東京都立川市のホテルで,19歳の無職の青年が,包丁で70か所以上の傷を負わせて,風俗店で働く30台の女性を刺殺した事件(6, 1 火 2021)
また、
愛知県稲沢市の市営住宅で、25歳の無職の青年が、父親と姉を,台所にあった包丁で刺殺した事件(7, 17 土 2021)
また,
東京都世田谷区内を走る小田急線の車内で、36歳の無職の男性が「幸せそうな女性を殺してやりたいと思った」とのことで,包丁で女子大生など10人を傷つけた事件(8,6 金 2021)
また,
山梨県甲府市で、19歳の少年が夫婦とその娘を殺傷した後,家屋に放火した事件(10,12 火 2021)
また,
兵庫県尼崎市で、「黒っぽいスクータータイプのバイクで逃げた」「20代~30代の男性」が28歳の医療系事務員の女性を背後から複数回刺して刺殺した,と思われる事件(10,14 金 2021)
また,
東京都調布市内の国領駅付近を走る京王線の車内で、24歳の無職の男性が刃物を振り回し、17人の人に傷害を負わせて、電車内を放火した、と報じられている事件(10. 31 日 2021)
また,
北海道根室市のショッピングセンター「イオン根室店」の2階の書店で、14歳の中学三年生が57歳の女性書店員に,包丁で背後から切り付け、傷害を負わせ,現行犯逮捕された事件(11. 19 金 2021)
また,
愛知県弥富市の十四山中学校で、14歳の中学三年生が14歳の同級生を,包丁で腹を刺して刺殺し,現行犯逮捕された事件(11. 24 水 2021)
また,
群馬県大泉町の路上で、17歳の少年が小学生の女の子に,刃渡り18cmの包丁を持って襲い掛かり,女の子は無傷ではあったものの,少年が現行犯逮捕された事件(12. 7 火 2021)
また,
大阪の北新地で、61歳の男性患者が,西梅田こころとからだのクリニック|梅田堂島の心療内科に放火して,24人の人が亡くなった事件(12. 17 金 2021)
また,
三重県名張市の名張北中学校で、14歳の中学二年生が14歳の同級生を,刃渡り13cmkの包丁で,背後から首を切りつけ軽傷を負わせ,事件当日に逮捕された事件(2. 16 水 2022)
また,
神奈川県大和市の40台の女性が,2019年8月6日,自宅アパートで次男の7歳児を窒息死された疑いで逮捕された事件(他の3人の子どもも亡くなっている)(2. 20 日 2022)
また,
東京都渋谷区の京王井の頭線神泉駅近くの路上で、2022年8月20日 19時20分頃,埼玉県戸田市の中学三年生の女児が,通りがかりの 50代の母と10代の娘を,包丁で切りつけ,殺人未遂の疑いで逮捕された事件(8. 20 土 2022)
また,
東京都千代田区の 御徒町駅と秋葉原駅の間を走行中の山手線外回りの車内で,20台の女性が、「人を殺したいと思っていた」との理由から,乗客の男性4人に,刃物で切り付け,怪我を負わせ,現行犯逮捕された事件(1,3 水 2024)
また,
神奈川県相模原市南区の自宅マンションで、2024年2月10日午後1時半ごろ~13日午後7時半ごろ、自宅で父親を刃物で複数回突き刺すなどして殺害したとして、高校1年の長男(15)が殺人容疑で逮捕された事件で、長男が「殺そうと思って殺したことは間違いありません」「父親との関係性から殺した」と供述をしている、とされる事件(2,14 水 2024)
また,
札幌市北区のコンビニエンスストア「セイコーマート北31条店」で,2024年2月25日朝、男女3人の店員が刃物で刺され、40代の男性が死亡し、ほかの2人もけがをした事件で,殺人未遂容疑で逮捕された無職の男性(43)=北区=が入店後、レジのお金には手を付けず,店内を短時間歩いてから次々と3人を襲ったことが判明した事件(2,25 日 2024)
また,
横浜市西区南幸の路上で,2024年6月9日午後7時40分ごろ、近くに住むフィリピン国籍の礒崎 アリス ヒマオさん(57)が倒れているのが見つかり、病院に搬送されましたが死亡が確認された事件で,午後11時ごろに自称 東京 町田市の無職、安藤幸生容疑者(33)が近くの交番に自首し、警察は刃物で刺すなどして殺害した疑いで逮捕した事件(6,9 日 2024)
また,
大分県日田市の日田駅近くの商業施設「イオン日田店」で、2024年6月10日午前11時半頃、日田市内に住む日野初美さん(84)が、刃物で首を刺され、午後0時半過ぎ、搬送先の病院で死亡が確認された事件で,日田市田島の職業不詳、白土正博容疑者(55)を殺人未遂の疑いで現行犯逮捕された事件(6,10 月 2024)
また,
札幌市白石区に住む15歳の男子中学生が、2024年10月7日午前9時45分ごろ、自宅で同居する40歳の母親の首を圧迫して殺害した,と自ら110番通報し,殺人の疑いで逮捕された事件(10,7 月 2024)
など,猟奇的事件などを起こす少年や若者や中年の心理的背後に,発達トラウマ障害があるかどうか,との視点は,重要な視点である。
また,2017年6月,東名高速であおり運転の結果,無理やり停車させられた車が,追突されて,夫婦2人がなくなる痛ましい事件があり,容疑者に「死刑を」という厳しい意見がワイドショーを賑わせたことがあった。事件にならずとも,自分の怒りをコントロールすることができない人が,巷で多いが,このような人も,発達トラウマ障害である可能性がある,との視点も重要な視点である。
交通事故と解離の関連[編集]
発達トラウマ障害の人には,かなり多くの確率で,解離(dissociation)がある。ヴァン・デ・コーク教授は「解離はトラウマの最も重要な要素です」というほどである[22]。朝日新聞(4/23, 2019 3版 夕刊一面)によれば,「4月23日午前7時15分ころ,千葉県木更津市江川の県道交差点で,横断歩道を渡ってた登校時の小学3年の8歳の女児2人が軽自動車にはねられ,1人が全身を強く打って死亡,1人が重傷を負った」事件の,49歳の容疑者は「『ぼーっとしていて信号を見ていなかった』などと供述しているという」とある。この「ぼーっとして」いることが,解離の症状の1つの可能性がある。
重たいてんかんとの関連[編集]
日本の指定難病141は「海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん」である。難病情報センター[23]の情報では,原因は「不明」とされるものの,子どものころからの長期に繰り返される「粗末に育てられたこと」との関連があるかどうかも,重要な視点である。実際に,粗末な育ちをしている者の中に,「海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん」になっている者がある。
この難治性のてんかんの患者が,ニューロフィードバックを「週に2回,1回1時間,3か月」行うと,「発作がなくなる」効果であることが,分かっている[24]。
脚注[編集]
- ↑ ナディン・バーク・ハリス. “いかに子供時代のトラウマが生涯に渡る健康に影響を与えるのか”. TED2014. 2018年5月17日確認。日本語の字幕がありますから,ご心配なく。
- ↑ Fiser S.F., Neurofeedback in the Treatment of Developmental Trauma: Calming the Fear-Driven Brain. April 21, 2014. W W Norton & Co Inc (April 21, 2014). p.8,
- ↑ 岡田尊司,『発達障害と呼ばないで』,幻冬舎新書 p.82には「愛着障害のケースにともなって見られやすい問題としては,親の不在,養育者の交代…などである」と,「親の不在」が一番最初に挙げられている。この愛着障害と岡田がいうケースは,そのまま発達トラウマ障害に当てはまる。
- ↑ van der Kolk, The Body Keeps the Score: Brain, Mind, and Body in the Healing of Trauma. September 8, 2015, Penguin Books; Reprint edition (September 8, 2015)pp.111-122.
- ↑ 岡田尊司, 自己愛型社会. 2005.5.10,平凡社新書271
- ↑ 佐々木正美『はじまりは愛着から 人を信じ,自分を信じる子どもに』p.197には,「私たちは,豊かさや自由に恵まれた環境の中で,いつのまにか,少しずつ自己愛的で自分勝手な生き方に陥っているのかもしれません。そして,子どもが望んでいることに,心や手をかけてやるよりも,親や大人自身が希望し,期待することの方に,意を用いる傾向を強くしてきてしまったのではないでしょうか。その結果,いくらお金をかけて育てられていても,心の深いところで,子どもたちは,『親や大人の身勝手な気持ちで粗末に育てられている』という実感から逃れられないでいることが,本当に多いのです」とある。
- ↑ 佐々木正美は,既に13年前に,「はじめに ―子どもたちの精神保健に寄せて」『別冊・医学のあゆみ 児童精神医学 ―臨床の最前線』(6.3 ,2006)で,「自己実現などという命題をかかげて生きているうちに,われわれは健康な個人主義を大きく逸脱して,病的な利己主義に陥っている。…近年,脳科学の先端を歩む研究者が示唆してくれる,前頭前野の機能の衰退にも注目したい。想像力,創造力,コミュニケーション,衝動の抑制など,高度に人間的な機能の中枢として,人間にだけ特異的に発達が許されている前頭前野の機能が開発されなくなったということである。われわれは子どもたちに,真のコミュニケーションを通じてしか育ててやれないその機能を,豊かに開花させてやれなくなったのだろうか。人間が人間的な資質や特質を失いつつあるような現状に,思わず慄然とするものを覚える」と指摘している。
- ↑ Bessel van der Kolk M.D (September 8、 2015). The Body Keeps the Score: Brain、 Mind、 and Body in the Healing of Trauma. Penguin Books; Reprint edition (September 8、 2015). pp. 349-351.
- ↑ “[http;//acestudy.org/. The Adverse Childhood Experiences Study 子どものころに粗末に育てられた様々な経験]”. the ACE Study's co-principal investigators, Drs. Felitti and Anda.. 2018年5月20日確認。
- ↑ van der Kolk 『The Body Keeps the Score: Brain, Mind, and Body in the Healing of Trauma』 Penguin Books; Reprint edition (September 8, 2015)、2015年9月8日。「p.89-90には「日常的に子どもの気持ちを傷つけたり,子どもに心や手を掛けずにいることは,身体的な暴力や性的弄びに匹敵するほど,破壊的です」とある。」
- ↑ 岡田尊司,悲しみの子どもたち 罪と病とを背負って,集英社新書 pp.122-4, 岡田尊司, 愛着(アタッチメント)の大切さ. 地域保健 46(2)p.11.
- ↑ van der Kolk 『The Body Keeps the Score: Mind, Brain and Body in the Transformation of Trauma』 Penguin Books; Reprint edition (September 8, 2015)、2015年9月8日、150-170頁。「第10章のタイトルが「発達トラウマ : 隠れた流行病」。」
- ↑ 岡田尊司 『子どもが自立できる教育』 小学館、2013年3月11日、6頁。「「そもそも遺伝要因が強い「脳の障害」とされる発達障害が,これほど急増するというのは,どういうことだろう。海外でも発達障害は増加しているが,軽度発達障害のケースが,医療機関に殺到したり,大きな社会問題になっているのは,日本に特異な現象である。生まれつきの「脳の障害」という説明が ”印籠” のように使われているが,近年の研究では,環境要因の関与が大きいという結果が示されており,…」」
- ↑ 岡田尊司 『発達障害と呼ばないで』 幻冬舎新書、2012年7月30日、154-171頁。「第五章のタイトルは,「「発達障害」は社会を映し出す」である。」
- ↑ 岡田尊司 『愛着障害 子ども時代を引きずる人々』 光文社新書、2001年9月20日、4頁。「「昨今,「発達障害」ということが盛んに言われ,それが子どもだけでなく,大人にも少なくないことが知られるようになっているが,その発達の問題の背景には,実は,かなりの割合で愛着の問題が関係しているのである。実際,愛着障害が,発達障害として診断されているケースも多い」とある。実際は,岡田尊司さんが「愛着障害」とするケースも,ヴァン・デ・コーク教授が提唱する「発達トラウマ障害」とみなすと,臨床上,納得できるケースが非常に多いのである。」
- ↑ van der Kolk 『The Body Keeps the Score: Brain, Mind, and Body in the Healing of Trauma』 Penguin Books; Reprint edition (September 8, 2015)、2015年9月8日。「第6章のタイトルは「あなたの身体をなくすと,あなたの本当の自分をなくしているんですからね」というタイトルです。これは,簡単に言えば,自分が生きている実感を感じられない病態,臨床像を示します。同調圧力が日本でも猛烈ですし,加藤周一さんも述べているように,日本人には「個人がない」ので,発達トラウマ障害になりやすい民族性があるのかもしれない。」
- ↑ van der Kolk 『The Body Keeps the Score: Brain, Mind, and Body in the Healing of Trauma』 Penguin Books; Reprint edition (September 8, 2015)、2015年9月8日。「p.337, l.21には,「トラウマの本質とは,お母さんにも誠実に相手にしてもらえず,全人類からも見捨てられた,惨めで深い孤独感である」と言う。」
- ↑ van der Kolk 『The Body Keeps the Score: Brain, Mind, and Body in the Healing of Trauma』 Penguin Books; Reprint edition (September 8, 2015)、2015年9月8日。「p.3に,ヴァン・デ・コーク教授が,サイコセラピー,ボディーワーク,薬物療法の3つの組み合わせを推奨するところが出てくる。」
- ↑ van der Kolk 『The Body Keeps the Score: Brain, Mind, and Body in the Healing of Trauma』 Penguin Books; Reprint edition (September 8, 2015)、2015年9月8日、225-6頁。「MDMA(エクスタシーの別名のある覚せい剤)を服薬した研究協力者がサイコセラピーを受けると,著効を示すことが述べられている。」
- ↑ Bessel van der Kolk M.D (September 8、 2015). The Body Keeps the Score: Brain、 Mind、 and Body in the Healing of Trauma. Penguin Books; Reprint edition (September 8、 2015). p.86, pp.112-124.
- ↑ “子ども時代の重いトラウマが子どもと10台の自殺をいかに51倍にするのか”. ACES Too High. 2019年2月28日確認。
- ↑ van der Kolk, The Body Keeps the Score: Brain, Mind, and Body in the Healing of Trauma. September 8, 2015, Penguin Books; Reprint edition (September 8, 2015)p.66.
- ↑ http://www.nanbyou.or.jp/entry/4439 June 19, 2019 確認
- ↑ van der Kolk, The Body Keeps the Score: Brain, Mind, and Body in the Healing of Trauma. September 8, 2015, Penguin Books; Reprint edition (September 8, 2015)p.317.