異名同音
異名同音(いめいどうおん、英:enharmonic)とは、同じ黒鍵に2通りの呼び方がある音名で、例えば、「ソ#」と「ラb」というように、同じ音を#系とb系で読んだ音名で、音名と記譜法の見かけは異なっても、平均律・実音では同じ音同士で、音的に鍵盤上の位置が同じになる関係である。鍵盤の音名の呼び方である。
概要[編集]
黒鍵は、2つの白鍵の真ん中の音になる。鍵盤楽器の黒鍵1つに対して、白鍵の右隣の黒鍵・右上の音(右上の黒鍵)になる#(シャープ)、白鍵の左隣の黒鍵・左上の音(左上の黒鍵)になるb(フラット)という2つの名前が付くもの。隣り合う白鍵の音名を元にして、#かbのどちらかを付けて呼ぶ。実は、白鍵にも異名同音があり、白鍵の音名の書き表し方は1つではないので、黒鍵・白鍵両方とも、全ての音に異名同音がある。
ダブルシャープ(x)やダブルフラット(bb)を入れることにより、かなりの数・複数の異名同音が存在する。一組だけ2つ、他は3つの音である。白鍵の異名同音を説明する場合は、異名同音を呼ばなくても、例えば、「シ#(シのシャープ)」は「ド」の鍵盤、「シbb(シのダブルフラット)」は「ラ」の鍵盤、と言っただけで、異名同音であるとすぐわかる。理由は、#やbが付いたからといって、必ず黒鍵であるとは限らないからである。#、bが白鍵の位置は、白鍵を#,bを付けて呼ぶものである。「ミ#=ファ」「ファb=ミ」「ドb=シ」「ファx=ソ」になる。「ミ#」といえば、ピアノの鍵盤を見ると、ミとファの間は黒鍵が無いので、つまり「ファ」と異名同音である。ただし、ピアノ弾きにとって、#,bを付けて白鍵になる音符は譜読みに苦労する。
♯、b、x、bbは、どんな音にも付けられる。白鍵の呼び方を普通に「ド.レ.ミ.ファ.ソ.ラ.シ.ド」という幹音で呼ぶものは、ナチュラル(♮)の日本語訳である「本位記号」の「本位」の意味から来ている。ナチュラルは、変化記号の効力を消し、白鍵に戻す。白鍵は幹音、黒鍵は派生音という。幹音は、自然音ともいう。黒鍵だけの呼び方は、例として、「ソ#」の場合、#の代わりにbを利用するに設定すると、「ラb」になる。異名同音読み替えの場合、例えば、「ソ#→ラb」の場合、楽譜上では、音符の位置を一音上げて、フラットを付ける。
ピアノの鍵盤の最低音が「ド」の鍵盤の場合、これを異名同音の「シ#」では、説明できない場合がある。
ノートナンバーや、88鍵ピアノの最低音と最高音に異名同音使用は、できる場合もある(?)。ノートナンバーは、最低音0番をシ#、最高音127番をラ♭♭。88鍵ピアノでは、最低音をソx、最高音をレ♭♭。
オクターブ表記における異名同音は、黒鍵のみ用い、白鍵には用いない。オクターブ表記には、ダブルシャープ(x)、ダブルフラット(bb)も用いない。オクターブ表記で、白鍵に異名同音を用いたり、ダブルシャープ(x)、ダブルフラット(bb)を用いると、混乱を招くことがある。
鍵盤だけで見た場合は、見やすさ優先で、近い調性のみで出しやすい。
役割[編集]
異名同音の役割は、基本的に五度圏の調性・調号の説明から来ている。調性は、#系、b系があり、異名同音は、ある調(キー)やスケール(音階)に属することによって呼び名が変わる。異名同音は、調性の役割を示すためである。時と場合によって使い分ける。例えば「ド#/レb」の音の使い分けは、ニ長調だと「レ.ミ.ファ#.ソ.ラ.シ.ド#.レ」の並びで、ニ長調の第7音はシとレの間になるのでド#として扱うが、変イ長調だと「ラb.シb.ド.レb.ミb.ファ.ソ.ラb」の並びで、変イ長調の第4音はドとミbの間になるのでレbとして扱う。五度圏で、時計で言う6時の位置は、#系の調とb系の調が重なり合うので、調号#6個の調「嬰ヘ長調/嬰ニ短調」、調号b6個の調「変ト長調/変ホ短調」である。なお、#7個「嬰ハ長調/嬰イ短調」やb7個「変ハ長調/変イ短調」は、実質b5個や#5個と同じであるが、「全ての音に#やbが付く」という利便性が理由で使われることもある。
白鍵の異名同音で、例えば、「シ#」が出現する理由は、嬰ハ短調(C#ハーモニックマイナー)において、第7音=導音が「シ#」である。第7音は、主音の「ド#」に向かう音である。もし、嬰ハ短調(C#ハーモニックマイナー)に当たる第7音(導音)を普通に「ド♮」と書くと、主音を臨時記号で半音下げた音=主音の増1度(#1度)下の音を第7音(導音)として扱うことを意味してしまい、「ド♮」と「ド#」の増1度が五線譜の音符の同一の位置に存在し、階名では1度音程が2つ同居し、五度圏では主調からb(フラット)系の調性にだいぶ進んだ調性感の音を第7音とするので、音符の形が「ド.レ.ミ.ファ.ソ.ラ.ド.ド」になり、第7音の音符が飛ばされ・抜かされ、全て2度ずつの音程にならず、音階・音符のバランスが崩れた並びになり、進行が正しく書けないからである。嬰ハ短調の第7音を「ド♮」と書くと、音階上の位置にはならない。ド#から長7度上の音は「シ#」になる。嬰ハ短調のドは、イ短調に移動すると、イ短調のラ♭になり、ソ#ではなくなる。増1度(#1度)及び半音については、下欄の「異名同音程」を参照。
五度圏で、異名同音変換無しで♭系に進むと、C→F→Bb→Eb→Ab→Db→Gb→Cb→Fb→Bbbとなり、ダブルフラットを使用しなければならず、複雑な記譜となってわかりにくくなる。
異名同音転換は、転調、移調楽器に利用される。
異名同音程[編集]
音程の場合は、「異名同音程」という。例えば、ルート(根音)がCの場合の長6度「ド~ラ」を、7度音程の考え方で書くと、「ド~シbb」or「シ#~ラ」となり、音程はbb7度(ダブルフラットした形の7度)、つまり、答えは減7度となる。これは、ある音程の度数で、異名同音程の考え方である。異名同音程の例は、他に、増4度「ド~ファ#」と減5度「ド~ソb」などがある。半音の場合は、増1度「ド♮~ド#」と短2度「ド~レb」である。増1度の音程は、臨時記号で半音上下に変化した音。「#=半音上げる」「b=半音下げる」という、変化記号の「半音」は、あくまで「増1度」である。変化記号の半音は、幹音を半音上げ下げする記号。
「ラ♭」に対する短2度音程に相当する上下の音は、下は「ソ」、上は「シ♭♭」であり、普通の「ラ」ではない。
そのほかの用途[編集]
異名同音程、異名同音調、異名同和音がある。異名同和音は、構成音が同じである複数のコードといえる。
異名同音の組み合わせ[編集]
下表に異音同音の組み合わせを示す。左端の周波数は、440Hz=A3とした時の、C3~B3までのアルトオクターブの周波数。
周波数[Hz] | 異音同音の組み合わせ | ||
---|---|---|---|
261.63 | シ# | ド | レbb |
277.18 | ド# | シx | レb |
293.66 | ドx | レ | ミbb |
311.13 | レ# | ファbb | ミb |
329.63 | レx | ミ | ファb |
349.23 | ミ# | ファ | ソbb |
369.99 | ファ# | ミx | ソb |
392 | ファx | ソ | ラbb |
415.3 | ソ# | ラb | |
440 | ソx | ラ | シbb |
466.16 | ラ# | ドbb | シb |
493.88 | ラx | シ | ドb |
「ソ#」「ラb」のピッチのみ、唯一の2つだけの組み合わせになっている。
黒鍵の音名を単体で説明する場合、bで統一する音はBb,Eb,Abの3つで、#で統一する音はF#,C#の2つで表すのが一般的である。