晴れる日が多く、且つ温暖であるため、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候

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晴れる日が多く、且つ温暖であるため、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候[1](はれるひがおおく、かつおんだんであるため、アスリートがさいこうのじょうたいでパフォーマンスをはっきできるりそうてきなきこう、英語: "With many days of mild and sunny weather, this period provides an ideal climate for athletes to perform at their best."[2][注釈 1]フランス語: "Avec des températures douces et de nombreux joursensoleillés, cette période offre aux athlètes un climat idéal et propice aux meilleures performances."[2][注釈 1])とは、2013年1月7日2020年東京オリンピック並びに2020年東京パラリンピック立候補ファイルとして東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会から国際オリンピック委員会に提出されたものの第1巻の「テーマ2-大会の全体的なコンセプト」の第1節「2020年東京大会の理想的な日程」の第2段落1文目において、東京オリンピック・パラリンピックの開催期間[注釈 2]東京の気候を説明するために用いられた表現である。しかし、実際の東京の当該時期の気候とはかけ離れた表現となっていたため、各方面から批判が出た。

背景[編集]

オリンピックは1984年ロサンゼルスオリンピック以降商業化が進み、放映権料も膨大なものとなっていた。その大部分をアメリカ合衆国の放送局が占めていたため、開催時期はアメリカ合衆国の放送局の言うとおりにせざるを得なくなってしまった。アメリカ合衆国では、春や秋にはナショナルリーグの大きな大会が行われるため、オリンピックの中継に専念するには、オリンピックの開催時期は盛夏が望ましくなった。それまでのオリンピックは春や秋に行われることもあったが、このために1984年ロサンゼルスオリンピック以降、オリンピックは7月から9月の間に行われるようになった。2020年のオリンピックでも立候補都市の条件として、7月15日から8月31日までに開催できることが定められた。そこで、東京も盛夏期に開催することを前提として立候補した。しかし、素直に「猛暑である」「高温多湿のため熱中症の危険性が極めて高い」などと記入したら、落ちることは自明であった。そのためにこのような真っ赤な嘘が書かれたわけである。なお、同じく2020年のオリンピックに立候補していたトルコイスタンブールスペインマドリードも、夏の気候は決して快適とはいえない。しかし、両都市は地中海性気候であり、夏季は乾燥しているため、東京よりは凌ぎやすい気候である。そもそも、IOCの立候補要件には「IOC理事会がその他の日程に合意した場合」にはこれ以外の時期にも開催できる旨が記載されていた。しかし、アメリカの放送局は反対したことだろう。要は、真夏にしか開催できないオリンピックを東京で開催しようとしたこと自体が間違いであったのである。

そして、2013年の段階でも、Googleで「東京 気候」(Tokyo climate)と検索すれば、「理想的な気候」など大嘘であることはすぐにわかっただろう。IOCはこれが嘘であることに気づけなかったのか、それとも嘘であると気づいていながら見逃したのか。いずれにせよ、商業主義に走ったオリンピックの負の遺産の一つであると言えるだろう。そもそも、1964年東京オリンピックは10月に実施された。当時のオリンピックは商業主義でなかったためにこれが可能であったのだが、この際7-8月の開催は真っ先に除外された。その理由は、高温多湿で、競技・観戦には向かないためという、極めて妥当なものであった。常識ある判断ができていた50年前から気候は温暖化しているのにもかかわらず、商業主義になったことで退化してしまったのである。

「理想的な気候」の実際[編集]

実際のこの時期の東京の気候はどうであるのか。気象庁の東京管区気象台(東京都千代田区)の1981年から2010年の平年値のデータによれば、7月下旬の平均気温は26.2℃、8月上旬は26.7℃である。平均最高気温は7月下旬が30.6℃、8月上旬が31.1℃である。さらにこの立候補ファイルが提出される直前の10年間、すなわち2003年から2012年までの10年間に絞って平均すると、8月上旬の平均最高気温は32.1℃に達する。32.1℃といえば、環境省の基準では「激しい運動は中止」に相当する。また、32.1℃というのは直射日光の当たらない芝生の上で計測したものであり、直射日光の当たる場所や、アスファルトの上ではさらに暑くなる。このことだけでも、「理想的な気候」など虚構であることは直ちにわかるだろう。また、立候補ファイルが提出される3年前の2010年には東京23区だけで210人が熱中症により死亡しており、2011、2012年も数十人が死亡している。暑さで何百人も死ぬ気候を理想的とはお世辞にも言えない。

評価[編集]

この文言は、立候補ファイルの提出当時はあまり話題にならなかった。しかし、2014年6月には米国の作家ロバート・ホワイティングがジャパン・タイムスの記事でこの表現に言及している[3]。2018年7月の記録的猛暑以降、オリンピックでの暑さ対策は深刻な問題の一つとなった。翌2019年8月には、オリンピック開催反対派の武田砂鉄が、この文言は「明らかなウソ」であるとツイートし、7000件以上リツイートされた[4]。同年9月に中東はカタールドーハで開催された世界陸上の大会のマラソンで、深夜の開催にもかかわらず暑さのために途中棄権する選手が続出したことから、IOCは競歩とマラソンのみ札幌市で開催することとした。この際に立候補ファイルのこの文言は大きな批判を浴びることになった。しかし招致当時の東京都知事猪瀬直樹は「プレゼンテーションはそういうもの」「東京は熱帯ではなく温帯だから間違っていない」などと苦しい言い訳に終始した。そもそも私たちはプレゼンテーションで言われたことは本当だと思うし、温帯と熱帯は冬の気温で区別するものである。なお、COVID-19の流行により東京五輪は1年延期された。しかし、これはあくまでも結果論である。実際に、本来東京五輪が開催される予定だった期間には、東京でも猛暑日が続いた。もしCOVID-19の流行がなく、予定通り東京五輪が開催されていた場合、選手や観客、ボランティア、スタッフに熱中症で搬送される者が多数出ていたことは想像に難くない。万一死者が出ていたら、このような文章を書いた招致委員会、それを黙認したIOCの責任は確実に問われたことだろう。

注釈[編集]

  1. a b 日本語との構文の違いから、当該語句を含む文全体を引用している。
  2. 当初の予定では東京オリンピックは2020年7月24日から同年8月9日、東京パラリンピックは2020年8月25日から同年9月6日。その後、COVID-19の影響により延期され、東京オリンピックは2021年7月23日から同年8月8日、東京パラリンピックは2021年8月24日から同年9月5日の開催予定となった。

関連項目[編集]

  • 女性は話が長い - 同様に、東京五輪に大きな疑義を投げかけた、五輪関係者(森喜朗、当時五輪組織委員会委員長)による舌禍。

脚注[編集]

  1. 大会の全体的なコンセプト 東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会(2013年1月7日)、2021年4月20日閲覧、p.13
  2. a b Overall concept of the Olympic Games / Concept général des Jeux Olympiques 東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会(2013年1月7日)、2021年4月20日閲覧、p.13
  3. Holding 2020 Games in August dangerous
  4. 武田砂鉄(@takedasatetsu)の午前9:44 · 2019年8月17日のツイート Twitter、2021年4月20日閲覧