光免疫療法

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光免疫療法(ひかりめんえきりょうほう、英語Photoimmunotherapy)は、がん細胞に近赤外線を照射して消滅させるがんの治療法である。「がん光免疫療法」あるいは近赤外光線免疫療法Near infrared photo-immunotherapy, NIR-PIT)とも呼ばれる。人体に無害な光(近赤外線)と免疫療法を組み合わせた新しいがんの治療法である。

概要[編集]

2011年11月6日米国立がん研究所NCI)の主任研究員・小林久隆らは米科学誌「ネイチャー・メディシン」で、「光免疫療法」の開発を論文発表した[1]2012年バラク・オバマ大統領(当時)が議会で行った一般教書演説で、健康な細胞に触れずにがん細胞だけを殺す新たな治療法が開発されつつあると称賛したことで知られている。

治療法[編集]

がん細胞にのみ結合する抗体と、抗体に接合された光吸収体(IR700)の薬剤を静脈注射する。この抗体薬剤が血流を通りがん腫瘍部のがん細胞表面のEGFR(上皮成長因子受容体)と結合する。そこにランプや内視鏡で近赤外線を照射すると、IR700は特定の波長の近赤外光が当たると瞬時に水に溶けなくなり、抗体抗原を巻き込んで丸まる。 この抗体等の急激な変形によりがん細胞の細胞膜に傷がつく。大量の傷ができることによりがん細胞の細胞膜に穴が開き、外から水が流れ込み、最後は焼き餅のように細胞が破裂して死ぬ。すなわち選択的にがん細胞の細胞膜を破壊する。破壊されたがん細胞の残骸に含まれる「がんの特異的抗原」に対しても免疫反応が引き起こされるため、近赤外光線を照射した患部以外のがん細胞や転移したがん細胞にも効果がある[2]。光吸収として、RM1929が開発されている。RM1929は、光免疫療法で使われるセツキシマブと近赤外色素の複合体で頭頸部扁平上皮、食道、肺、結腸、膵臓などのがんにおいて多種の固形腫瘍で発現する上皮成長因子受容体(EGFR)を標的とする。抗体が腫瘍に結合した後、結合色素は赤色光に反応し、迅速な抗腫瘍効果を発揮する。

日本では2018年3月14日国立がん研究センター東病院で頭頸部がんの治験が開始されている[3]

副作用[編集]

使用する薬は、人の細胞に害はなく、がん細胞だけに選択的に作用する。光免疫療法は光によってポイントを絞りこんで治療するため、抗体療法に比べると非常に少ない投与量で済む。また近赤外光は、テレビのリモコンの信号などに使われる目に見えない光で、人体に無害のため安全である。そのため副作用が少ない治療法である。

開発状況[編集]

米国ではすでにフェーズ2が終了している。2018年中に米・日・その他地域でフェーズ3に進む予定となっている。米食品医薬品局(FDA)は承認審査を迅速に進める方針を発表しているため、はやければ2020年までにに実用化される可能性もある。米国のフェーズ2は、再発頭頸部がんを対象に複数の病院で計30例の治験が行われ、うち15例が公表されている(Gleysteen)。15例のうち14例はがんが30%以上縮小し、うち7例は画像上がん細胞が確認できなくなった。

2018年6月2日のASCO年次総会でのジョーンズカレーらは、手術、化学療法、放射線療法で治癒しなかったrHNSCC患者の多施設オープンラベル第2a相試験の実施結果を発表した。30例のrHNSCC患者がこの第2a相試験に登録され、28人の被験者からの結果データが評価された。客観的奏功率は28%(8/28)であり、完全奏効率は14%(4/28)であった。28名の評価可能な患者の無増悪生存期間中央値は173日(5.7ヶ月)、30人の患者集団全体の中央生存期間は278日(9.1ヵ月)であった。rHNSCCを有する患者におけるRM1929を用いた光免疫療法は、安全で十分に許容されると結論づけられている[4]

現在の治験は再発頭頸部がんなど)であるが、肺がん大腸がん乳がんすい臓がん前立腺がんなどに拡大する予定である。

参考文献[編集]