リヒャルト・ヴァーグナー
リヒャルト・ヴァーグナー(ドイツ語: Wilhelm Richard Wagner, [ˈʁɪçaʁt ˈvaːɡnɐ]、1813年5月22日 - 1883年2月13日)は、19世紀ドイツ浪漫派音楽の作曲家である。長大なオペラや楽劇を多数作曲し、「歌劇王」の異名で知られる。歴史的、国際的、文化的影響力から、浪漫派音楽における最大の作曲家であると見做されている。
概要[編集]
金管群の活躍する扇情的で重厚な管弦楽法と、『トリスタンとイゾルデ』に代表される革新的にして官能的、幻夢的和声法(ハーモニー)は聞き手を陶酔の境地に巻き込み、また自身が台本を作成した伝説の騎士や英雄が剣を振るう厨二病的世界との相乗効果で聴衆を異世界に転生させた。このようなヴァーグナー作品世界の厨二病オタク的傾向は、同時代のジュゼッペ・ヴェルディのような中高年向けの低俗テレビドラマを思わせる内容のイタリアオペラとは対称的であった。
しかし19世紀においてオペラの先進国であったイタリアやフランスの作曲家たちもヴァーグナーの圧倒的作品の影響からは逃れることはできず、ヴァーグナーの50年近く後に生まれたイタリアのジャコモ・プッチーニの諸作品、フランスのクロード・ドビュッシーの『ペレアスとメリザンド』も明らかにヴァーグナーの影響が見られただけでなく、ヴァーグナーと同い年でイタリアオペラの対抗馬であったヴェルディでさえ音楽面ではヴァーグナーの素晴らしさには頭が上がらず、晩年の作品には明らかにヴァーグナーの影響が見られる。
当時の全ヨーロッパにおいて圧倒的影響力を示したヴァーグナーは、ましてはドイツ、オーストリアにおいては横綱のような存在であり、オペラを聴かず交響曲や管弦楽曲ばかり聴いている日本のクラオタどもが絶賛するアントン・ブルクナ、グスタフ・マーラー、リヒャルト・シュトラウスは、欧州においては横綱ヴァーグナーの手下の大関や関脇のような存在と見做されている。
危険性[編集]
このように、ヴァーグナーは作曲家としては圧倒的な天才であり、その作曲作品の偉大さは誰にも否定しようがない。ヴァーグナー自身は自分を同時代の最高の作曲家であると自負し、「自分を上回るのはベートーヴェンだけだ」と語っていたが、伝説の英雄が伝説の剣や槍によって世界を支配するというヴァーグナーの楽劇の世界はファシズムの思想であり、人種や民族を超えた博愛と民主共和政を求めたベートーヴェンとは異なっている。
ヴァーグナーは思想的にはユダヤ人を差別するレイシストであり、人間的には他人の妻を娶るなど邪悪であった。ヴァーグナー自身が書いた楽劇の台本にも、『ニュルンベルクのマイスタージンガー』『ニーベルングの指環』などで民族差別思考が見られることが指摘されている。ナチスはヴァーグナーの音楽の圧倒的洗脳力と差別的思考の邪悪さを利用し、自らの宣伝にヴァーグナーの音楽を利用した。アメリカ映画『地獄の黙示録』においてはベトナム戦争における米軍の爆撃のシーンで楽劇「ヴァルキューレ」の一場面である「ヴァルキューレの騎行」が大音量で流され、ロシアにおいてはウラジーミル・プーチンの手先であった民間軍事会社がヴァーグナーのロシア語読みである「ヴァグネル」を名乗った。