ムービング・ゴールポスト
ムービング・ゴールポスト(英:Moving the goalposts/shifting the goalposts)は、ゴールポストのあるスポーツの試合の最中にゴールポストの位置を移動させること。転じて、外交交渉等において、到達目標や合意ができたあとで、一方が合意を破棄したり、合意内容や合意の前提条件を一方的に変更してしまうことである。
動くゴールポストともいう。
語源[編集]
語源は英国にあるとされ、サッカーやハンドボールのようなゴールポストのあるスポーツで使われた。ゴールポストのあるスポーツで、試合が始まってから相手に不利になるようゴールポストを動かしてしまうような不公平さを意味する[1]。試合途中に相手に有利になるよう、途中で規則を変えることも含まれる。
外交交渉では一度合意したのに、合意自体を覆してしまうことも含まれる。これは国際法違反であるが、まれにみられる。そのほか企業間の交渉では契約書を交わしたあとから、新たな要求や新たな条件を追加する行為も含まれる。
日韓合意のゴールポスト[編集]
元慰安婦問題[編集]
慰安婦問題で「最終的かつ不可逆的な解決」を確認した2015年12月の日韓合意のあと、安倍晋三首相は「またゴールポストが動くことは絶対にあり得ない」と述べたが、現実には日韓合意に基づいて韓国で設立された「和解・癒やし財団」は登記上、解散してしまった。これはゴールポストが動いたと解釈できよう[2][3]。
多摩大学ルール形成戦略研究所のブラッド・グロッサーマン副所長は、日本は韓国が永遠にゴールポストを動かし続け、モラルと政治面での優位性を保持し続けようとしているとみており、韓国とは最終合意に至らないような取引には応じないと述べている[4]。
旧朝鮮半島出身労働者問題[編集]
次に徴用工訴訟問題(日本政府の用語で「旧朝鮮半島出身労働者」問題)がある。1965年の日韓請求権協定では、その第二条で「両国は請求権問題が完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」[5]と書かれている。さらに2005年韓国政府の組織する「韓日会談文書公開後続対策関連民官共同委員会」は、元徴用工の未払い賃金は請求権協定による無償資金として受領した3億ドルには、韓国国民の個人財産権・韓国政府が国家として有する請求権が含まれるとの解釈を明らかにした(韓国国務調整室報道資料、2005年8月26日)。日韓請求権協定の交渉過程において、徴用被害個人に対して日本政府が直接賠償する案を日本政府は提案したが、韓国政府側は個人に対しては韓国国内で処理し、賠償金を日本から受けたあと被害国民に補償金を分配すると主張したため、その方向で妥協が図られた[6]。それにも関わらず、韓国大法院は日本製鉄(旧新日鉄住金)に元徴用工への賠償を命じた判決を2019年に出して、ゴールを動かしてしまった[7]。
2022年5月に発足した尹錫悦政権は再び政治解決に舵を切り、翌年1月には韓国企業出資の財団による肩代わり案の公開討論会を開いたが、元徴用工側の原告の一部および支援者はあくまで判決に基づく資産売却の完遂および日本政府の直接謝罪を求めている。
日本の最大の不満[編集]
日本国際問題研究所の野上義二理事長(元外務次官)は、2014年12月、日本政府の韓国政府への最大の不満はゴールポストが動くことだとし、日本側がどこまで誠意を見せれば韓国側が受け入れるのかボトムライン(最低基準)が全く見えないことであるとした。日本政府として何をすれば韓国憲法裁判所の判決を満たすかが分からないが、一方、韓国政府は日本が可能なことと不可能なことを十分に判っている。一方で、韓国政府の立場は「日本政府が先にカードを出すべき」だとして、具体的な対案を出さない。いつまでも解決しない最大の要因となっている[8]。
関連項目[編集]
注[編集]
- ↑ On Language; Moving the GoalpostsThe New York Times、1990年10月28日
- ↑ 「ゴールポスト動くことは絶対にあり得ない」産経新聞、2017年8月15日
- ↑ 「政府、慰安婦合意履行を改めて要求 韓国が支援財団解散」産経新聞、2019年7月5日
- ↑ Japan Plans to Curb South Korea Exports Over Colonial-Era Claims
- ↑ 財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定外務省
- ↑ 徴用被害補償問題、これまでの韓国政府の立場中央日報日本語版、2018年10月30日
- ↑ 日本製鉄の資産売却、早くても12月 元徴用工訴訟朝日新聞、2019年7月2日
- ↑ 韓国と慰安婦交渉する日本、最大の不満はゴールポストが動くこと(1)中央日報日本語版、2014年12月18日