アニエス・バルダ
アニエス・バルダ(Agnès Varda、1928年5月30日 – 2019年3月29日)は、ベルギー生まれでフランス映画の監督、写真家、芸術家。1950年代、1960年代のフランスで映画の革新を目指す運動「ヌーベルバーグ」の中心で活動し、多大な影響を与えた。ドキュメンタリ風のリアリズムを基調としており、社会から取り残された人々を描いている。ベネチア国際映画祭金獅子賞、ベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞。「ヌーベルバーグの祖母」と言われる。「アニエス・ヴァルダ」とも表記される。
夫は映画「シェルブールの雨傘」の監督であるジャック・ドゥミ。息子のマチュー・ドゥミは俳優。映画衣装デザイナーの娘のロザリーらがいる。
代表作は『5時から7時までのクレオ』『幸福』『冬の旅』『落穂拾い』『アニエスの浜辺』。『百一夜』『5時から7時までのクレオ』などのフィクション映画と、『顔たち、ところどころ』『落穂拾い』などのドキュメンタリー映画の両方を製作している。またテレビ向けの作品も製作した。
概要[編集]
1928年5月30日、ベルギーのブリュッセルに生まれる。出生名はアレッテ・バルダ(Arlette Vard)である。父親のユージン・ジャン・バルダはギリシャ難民(アナトリア)のエンジニア、母親のクリスティアヌ・バルダはフランス人であった。5人の兄妹の3番目であった。1939年から第2次世界大戦が始まると、家族と共にフランスに移住する。
18歳の時合法的に、名前を「アニエス」に変更した。
ソルボンヌ大学で、心理学と文学の学士号を得たが、教える内容は時代遅れで抽象的であったとバルダは語る。その後は博物館の学芸員になるためルーブル美術館大学で美術史を学び、写真家になるためエコール・ナシオナル・スュペリウール・ルイ・ルミエールで学び、職業写真師の資格を得た。ヌーベルバーグ運動とリブ・ゴーシュ(パリのセーヌ川南岸地区)で主要な地位を確立するまでバルダはスチルカメラマンとして過ごした。アヴィニョン演劇祭に写真記録係として参加したことがきっかけとなり、1951年、親友の俳優ジャン・ヴィラールはフランス国立民衆劇場が監督に就任すると、バルダを公式写真家として招いた。1951年から1961年まで10年間を演劇祭などの写真家として過ごした。その間にジェラール・フィリップの舞台写真で全ヨーロッパにバルダの名声が広まった。
1955年、映画の経験を持たないまま、長編劇映画『ラ・ポワント・クールト』(La Pointe Courte)を監督として作品発表し、女流監督としての地位と名声を獲得した[1]。後に写真の経験だけで映画を撮ったと語るように、フランス映画界の常識から隔絶した作品であった。異論もあるがフランス映画で新たな潮流となる「ヌーベルバーグ」の最初の作品と言われる。バルダはソルボンヌ大学で教えを受けたガストン・バシュラールの哲学の影響を受けている。1958年にジャック・ドゥミに出会い、翌年に結婚した(1990年にドゥミが亡くなるまで夫婦であった)。
癌の診断結果を待ちながらパリをさまよう女性の2時間を描いた映画『5時から7時までのクレオ』(1961)は高い評価を得た。『幸福』(1964年)などを送り出した後、1968年にアメリカに渡り短編を撮った。『幸福』はベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞している。1985年の映画『冬の旅』はベネチア国際映画祭最高賞の金獅子賞を受賞した。2000年のドキュメンタリー『落穂拾い』はセザール賞特別名誉賞を受賞した。
2015年、第68回カンヌ国際映画祭で「名誉パルム・ドール」を受賞した[2]。2019年には自伝的ドキュメンタリー『ヴァルダ・バイ・アニエス』を製作した。 2017年に第90回アカデミー賞で長年の功績を称え名誉賞が授与された[3]。アカデミー賞名誉賞を女性が受賞するのは初めてであった。ドキュメンタリー『顔たち、ところどころ』は第70回カンヌ国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を獲得した。
2019年3月29日、がんのため自宅で死去した[4]。90歳没[5]。
2019年カンヌ映画祭のポスター[編集]
2019年5月14日から5月25日にかけて行われるカンヌ国際映画祭のポスターは『ラ・ポワント・クールト』の撮影中にアニエス・バルダ監督が前かがみになった男性スタッフの背中の上に立ちながらカメラを回すところを撮影した写真をポスターにした[6]。
主要作品リスト[編集]
- 『ラ・ポワント・クールト』(1955) LA POINTE-COURTE
- 『5時から7時までのクレオ』(1961) CLEO DE 5 A 7
- 『幸福』(しあわせ)(1964) LE BONHEUR HAPPINESS
- 『ベトナムから遠く離れて』(1967) LOIN DU VIETNAM
- 『ダゲール街の人々』(1975) DAGUERREOTYPES
- 『歌う女・歌わない女』(1977) L'UNE CHANTE, L'AUTRE PAS
- 『壁画・壁画たち』(1982)
- 『冬の旅』(1985) VAGABOND (『さすらう女』の題名もあり)
- 『カンフー・マスター!』(1987) KUNG-FU MASTER LE PETIT AMOUR
- 『アニエスv.によるジェーンb.』(1987) JANE B. PAR AGNES V.
- 『ジャック・ドゥミの少年期』(1991) JACQUOT DE NANTES
- 『百一夜』(1994) LES CENT ET UNE NUITS
- 『落穂拾い』(2000) LES GLANEURS ET LA GLANEUSE
- 『落穂拾い・二年後』(2002) LES GLANEURS ET LA GLANEUSE... DEUX ANS APRES
- 『アニエスの浜辺』(2008) THE BEACHES OF AGNES
- 『顔たち、ところどころ』(2017) FACES PLACES
- 『ヴァルダ・バイ・アニエス』(原題)(2019) VARDA PAR AGNES