電気指令式ブレーキ

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電気指令式ブレーキ(でんきしれいしきぶれーき)は、主に鉄道車両におけるブレーキ方式のうち、電気信号のみでブレーキの強さを制御する方式のことを指す。自動車で言えばブレーキ・バイ・ワイヤと同じである。

登場の経緯[編集]

鉄道車両では、自動空気ブレーキという、ブレーキ故障時のフェイルセーフが効く貫通ブレーキが100年以上にわたりイギリスを除く全世界で使用されてきた。

しかしこの自動空気ブレーキは編成が長大化するにつれて応答性が悪く、対策としてブレーキ弁の改良によりある程度改善されたが、逆にブレーキ弁が大型化してしまうという欠点も浮上した。

そこで電磁制御弁を付加して応答性を改善するという電磁自動空気ブレーキが採用されていった。その後、高加減速を要求される電車には構造の単純な直通ブレーキを基本として電気信号による制御装置を付加した電磁直通ブレーキが採用されるようになった。

電気指令式ブレーキは更に構造を単純化したもので、運転台から空気指令を完全になくして、電気信号だけで完全に制御するものを指す。

この方式は日本の大阪市交通局30系電車(当初の7000・8000形)での、三菱電機製のMBS(社内呼称OEC-1)において初めて採用され、以降北大阪急行電鉄にも普及し、この車両が逼迫する万博輸送を見事完遂したため、高い信頼性を確固たるものとした。

その後、ナブテスコ株式会社についてもHRDというブレーキを開発し、東急8000系電車を筆頭に採用を開始。新規開業路線では共に積極的に採用する例が多い。更には自動空気ブレーキが基本だった気動車や客車への採用例も増えた。

ただし、フェイルセーフの観点から非常ブレーキに自動空気ブレーキ機構を搭載したものも少なからず存在する。

仕組み[編集]

運転台のコントローラーから電気信号を送ることでブレーキの制御装置内の中継弁の開きを調節し、各車に設置された元空気ダメから空気を送り込むことでブレーキがかかる仕組みとなっている。

この仕組みは制御部が電気回路だけで仕上がっているため、応答性も極めて良く、空走時間も電磁直通ブレーキの約4分の1となった。

さらに空気ブレーキの強さや速度などから発電ブレーキや回生ブレーキなどの電制の強さを演算して制御する電空同期制御もスムーズに行え、遅れ込め制御も容易に行うことが可能となる。

ブレーキの指令線を3〜5本程度にして1本1本を二進法で制御するデジタル式と、1本だけにしてその1本に流れる電流を調節するアナログ式が存在する。なお、後者の方式であっても制御段数が設けられることが多い。いずれにせよコントローラーからの電気信号がなくなった場合はフェイルセーフを考慮して自動的に非常ブレーキがかかる仕組みとなっている。

利点[編集]

  • ブレーキを総括制御する際、もっとも単純な回路の場合、指令線と元空気管のみを繋げば2車間でも作動する
    • 信頼性の向上に繋がるのはこのためである
  • ブレーキ管を運転台に引く必要がなくなるため、運転台をコンパクトにまとめることが可能になる
    • これによりワンハンドルマスコンの導入が極めて容易になった
      • 電磁直通ブレーキでも導入事例はあるが、それでも途中までを電気信号で制御するという仕組みになっている
  • 電制を演算して制御することで制輪子の摩耗抑止にもつながる

欠点[編集]

  • 従来の空気指令式のブレーキとは全く互換性がなく、そのままでは併結ができない
    • このため、近鉄の一般車では3000系でMBSを採用したあと、1998年の新車である5800系までずっとHSC電磁直通ブレーキを採用し続けた
    • それでも併結の必要があれば読み替え装置を搭載するが、この装置は車両に電源が回っていないと作動しない
      • このため、甲種輸送の際は機関車側に読み替え装置を搭載するか、あえて被輸送側に空気指令式のブレーキを仮設置するなどの工夫がなされる
  • そもそもの仕組みが異なるため、電磁直通ブレーキなどで運転を慣らしてきた人が操作すると少々乗り心地を悪くする可能性がある。

その後[編集]

ATO区間ではきめ細かな制御を必要とするため、制御段数が31段にも及ぶブレーキが採用された。

また、近鉄や小田急などでは電気指令式ブレーキを採用するために読み替え装置を搭載するようになり、異種併結が開始された。

広島電鉄5000形電車では、電気指令式の油圧ブレーキを採用している。

余談だが、吊り掛け駆動方式と電気指令式ブレーキを同時に採用した例も少なからず存在し、以下の車両が該当する。

関連項目[編集]