名古屋刑務所受刑者放水死事件

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名古屋刑務所受刑者放水死事件(なごやけいむしょじゅけいしゃほうすいしじけん)とは、2001年12月に名古屋刑務所で起きた、受刑者が放水により死亡したとされる事件である。受刑者処遇法が制定されるきっかけとなった事件。

概要[編集]

2001年12月14日午後2時頃、愛知県西加茂郡三好町にある名古屋刑務所の保護房で、男性受刑者が死亡する事件が発生。その後の捜査で、当時の副看守長Bが男性受刑者の肛門に消防用ホースで放水したために、肛門直腸に傷を負わせて死亡させたとして、Bが逮捕された。元副看守長A、元看守部長Cも、受刑者のズボンを下ろすなどしたとして逮捕された。その後、副看守長Bは特別公務員暴行陵虐致死罪、看守部長は特別公務員暴行陵虐致死ほう助罪で起訴された。副看守長Aも、ズボンを下ろすなどして放水をしやすくするように手助けをしたとして起訴されている。

裁判経過[編集]

A[編集]

Aは放水の事実について認めており、別件の名古屋刑務所受刑者暴行死傷事件にも関わっていることも認めた。そのため、別件の事件と合わせて審理となり、BとCとは別審理となった。Aの詳しい裁判経過については名古屋刑務所受刑者暴行死傷事件#Aの裁判参照。

B、C [編集]

2005年11月4日に名古屋地裁柴田秀樹裁判長)の判決があった。元副看守長Bに懲役3年、執行猶予4年(求刑・懲役4年)、元看守部長Cに懲役1年2月、執行猶予3年(求刑・懲役1年6月)の有罪判決を言い渡された。判決では「放水直後の出血や傷の形状から、死因は放水による直腸裂開と強く推認できる」と述べて放水との因果関係を認定。一方で、検察側が懲罰目的だったと主張していたが、「体に付着した汚物を除去する目的で直接放水をした」として懲らしめ目的の放水であったとは認められないとした。弁護側がこの決定に控訴した。

控訴審で弁護側は、傷は受刑者が自らプラスチックでつけたもので、一審で認定されたホースの水圧は温水洗浄便座とほぼ同じ水圧で肛門や直腸に傷を負うはずはないとして無罪を主張した。2008年10月の名古屋高裁では、一審判決を破棄したうえで改めて元副看守長Bに懲役3年、執行猶予5年、元看守部長Cに懲役1年6月、執行猶予3年の有罪判決を言い渡した。判決では、検察側による放水実験などから死亡と放水の因果関係を認定した。一審判決で証拠として採用された検察側の放水実験で弁護側は「実験を録画したビデオから『圧力あげろ』という声が聞こえた後に水圧が明らかに上がっている」として証拠から外すように求めていたが棄却された。この判決に弁護側は上告した。

2011年6月28日に最高裁第三小法廷は2人の上告を棄却して有罪判決が確定した。

賠償請求[編集]

死亡した男性の遺族は、国に慰謝料などの計約8800万円の賠償を求めた提訴。2006年11月30日、京都地裁山下寛裁判長)は、国に約3900万円の支払いを命じる判決を言い渡した。判決では、被告の主張するように、放水が洗浄目的だったとしても違法行為だったと指摘したうえで、「刑務官らは故意に違法な放水をし、受刑者を死亡させた」と認定した[1]

2008年1月30日、大阪高裁若林諒裁判長)も、一審判決を支持。判決では、衰弱していた受刑者の状態や放水の水圧の高さから考えて、放水でけがをした可能性は否定できないと指摘。刑務官側の受刑者自身の行為でけがをしたという主張を退けた。

2008年11月27日、 最高裁第一小法廷(宮川光治裁判長)は、国には賠償額分を請求できる「求償権」がないことの確認を求めたA、Bの上告を受理しない決定をする。これによって、1、2審の遺族に慰謝料など約3900万円の支払いを国に命じた判決と、国が2人に3900万円の支払いを請求できるという判決が確定した[2]

再審請求[編集]

弁護団の北口雅章弁護士などが会見を開き、2012年3月2日に元副看守長と看守部長の二人が名古屋高裁に再審請求したことを明らかにした。河村たかし名古屋市長や杉浦正健弁護士(元法務大臣)も同席している[3]。弁護団は新証拠として放水時の水圧で傷がつかないことを示す専門家の鑑定書、受刑者がプラスチック片で自ら傷つけた事を示す刑務所職員が作成した書類などを提出した。

2014年3月27日、名古屋高裁(石山容示裁判長)は再審支給を棄却。3月28日、弁護側は再審請求棄却決定について名古屋高裁に異議を申し立てた[4]

退職金請求[編集]

BとCは、不支給となった退職手当など計約4900万円の支払いを国に請求する訴えを名古屋地裁に起こした。2012年1月11日に第1回口頭弁論で、国側は「違法性はない」として請求の棄却を求めている。

関連項目[編集]

脚注[編集]