名古屋刑務所受刑者暴行死傷事件

出典: 謎の百科事典もどき『エンペディア(Enpedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動

名古屋刑務所受刑者暴行死傷事件(なごやけいむしょじゅけいしゃぼうこうししょうじけん)とは、2002年に名古屋刑務所で起きた刑務官による受刑者暴行死事件である。刑務所における革手錠廃止や「刑事施設・受刑者処遇法」成立のきっかけとなった事件。

概要[編集]

2002年11月8日、名古屋地検特捜部は、本事件に関わったとされる名古屋刑務所の副看守長M被告等の刑務官5人が特別公務員暴行陵虐致死傷の疑いで逮捕される。

副看守長Mと看守Oは2002年5月27日に名古屋刑務所において、懲らしめ目的で男性受刑者の腹部を革手錠で強く締め付け、外傷性腸間膜裂傷で死亡させたとされた。また2002年9月25日には、5人の刑務官副看守長M、看守O、看守S、看守長W、看守Iが、副看守長Aと共謀して全治70日の外傷性腸管膜損傷などの重傷を負わせた。この2件の容疑により、検察は、特別公務員暴行陵虐致死傷及びほう助罪で刑務官らを起訴した。

裁判経過[編集]

Aの裁判[編集]

A被告は、革ベルトの事件について大筋で起訴事実を認めて、懲らしめ目的だったことについてのみ、職務上のことだったと否定。また、別件で起訴されていた放水をしやすくするために手助けをして受刑者を死亡させたとする放水死事件に関しては、受刑者のズボンは脱がせたが、放水があったとは思わなかったとして、共謀や死亡との因果関係について争った。これに対して検察側は、暴行に関して懲らしめ目的であり、放水についても事前に知っていたと主張した。

2004年3月31日、名古屋地裁石山容示裁判長)は、懲役2年執行猶予3年(求刑・懲役2年)の有罪判決を言い渡した。判決では、2002年9月の革ベルトにより受刑者が死亡させたた公務員暴行陵虐致傷罪と、2001年12月に起きた放水死事件での公務員暴行陵虐致致死ほう助罪について認定。動機が懲らしめ目的だったことも認定した。その後、A被告は有罪判決が確定した。

5人の裁判[編集]

Aとは別日程で裁判が行われていた特別公務員暴行陵虐致傷罪と特別公務員暴行陵虐致傷ほう助罪で起訴された5人は無罪を主張。弁護側は、死傷原因について、受刑者が転倒したことで金具が腹に食い込んだためとして、革ベルトとの因果関係を否定。また、革ベルトは受刑者から暴行を受けないためで、ベルトのきつさも問題なかったとして、職務行為だったと主張した。

2007年3月30日、名古屋地裁伊藤納裁判長は、)刑務官4人を執行猶予付きの有罪判決を言い渡し、S被告には無罪判決を言い渡した。Mは懲役3年執行猶予5年(求刑懲役5年)、Oは懲役2年執行猶予3年(求刑懲役3年6カ月)、Wは懲役2年執行猶予3年(同懲役2年6カ月)、Iが懲役1年執行猶予3年(同懲役1年6カ月)とされた。判決では、革手錠のベルトをきつく締めたこといよって死傷したと認定。苦痛により受刑者を従わせて規律を維持するために革手錠を使用したとして、違法性を認めた。S被告に対しては、関与はしたが、経験の浅さから職権だと認識していた可能性を認めた。この判決に対して、有罪判決を受けた被告らは控訴した。S被告に対しては、検察が控訴を断念して無罪判決が確定した。

2010年2月26日、名古屋高裁下山保男裁判長)は、刑務官4人の控訴を棄却。

2012年5月23日、最高裁第3小法廷寺田逸郎裁判長)は、上告を棄却。被告の有罪判決が確定した。

民事裁判[編集]

元受刑者2人と死亡した受刑者の遺族の3人は国家賠償法に基づき、国と刑務官等の計11人に計約1億8000万円の損害賠償を求めて提訴。2010年5月25日、名古屋地裁戸田久裁判長)は、革手錠のベルトで締め付けた行為の違法性と、革ベルトによる死傷との因果関係を認定して、刑務官5人と国の責任を認めて計8910万円の支払いを命じる判決を言い渡した。遺族らが求めた元刑務官らへの賠償については棄却して、賠償責任は国が負うとした。その上で国は一部の元刑務官に賠償額を請求できる求償権を認めた。刑事裁判では起訴されていなかった2001年から2002年にかけて受刑者をPTSDにさせた容疑についての責任も認めた。

2012年1月24日、名古屋高裁(中村直文裁判長)は、1審判決を支持して国と刑務官5人の控訴を棄却した。 この判決に国は上告を断念、元刑務官らは、革手錠と死亡には因果関係がないとして上告した。

2012年10月5日、最高裁第2小法廷(須藤正彦裁判長)は、元刑務官らの上告を棄却[1]。この判決で、1、2審の、国の賠償責任・元刑務官個人への賠償請求の棄却と国が一部の元刑務官に賠償金の請求ができる求償権を認めた判決が確定した。

再審[編集]

有罪判決確定後、有罪判決を受けた元刑務官4人は再審請求した。4人は新証拠として「傷はベルトを締め上げただけではできず、転倒した際に、手錠の部分が、腹にくいこんでできたものだ」とする医師の鑑定結果を提出した。

2013年12月10日、名古屋地方裁判所(松田俊哉裁判長)は、再審請求を棄却[2]。判決では新証拠として提出された医師による鑑定結果は、上告審の最高裁判所に提出されていたとして、新証拠としては認められないとした。

再審請求棄却となった4人は11日付で、名古屋地裁決定を不服として名古屋高裁に即時抗告した[3]

関連項目[編集]

脚注[編集]