ナンヨウマンタ
ナンヨウマンタ | |
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分類 | |
界 | 動物界 Animalia |
門 | 脊索動物門 Chordata |
亜門 | 脊椎動物亜門 Vertebrata |
綱 | 軟骨魚綱 Chondrichthyes |
亜綱 | 板鰓亜綱 Elasmobranchii |
目 | トビエイ目 Myliobatiformes |
科 | トビエイ科 Myliobatidae |
属 | オニイトマキエイ属 Mobula |
種 | ナンヨウマンタ M. alfredi |
名称 | |
学名 | Mobula alfredi Krefft 1868[1] |
和名 | ナンヨウマンタ |
英名 | Reef manta ray Reef manta Alfredi Manta |
保全状況 | |
IUCNレッドリスト | VU [1] |
ワシントン条約 | 附属書II |
ナンヨウマンタ(Mobula alfredi)は、トビエイ目トビエイ科に属する(分類は特に断らない限り[2])軟骨魚。
分布[編集]
印度洋(紅海、南アフリカ)、太平洋(タイから西オーストラリアにかけて。北は八重山諸島、南はニューサウスウェールズ州Solitary Islands。東はフランス領ポリネシアとハワイ諸島まで)の熱帯・亜熱帯海域。サンゴ礁周辺に広く分布する[3]。
形態[編集]
体盤幅が平均的なサイズで2.5m〜4mあり、FishBaseによると最大で5.5mに達するという。毒針はなく扁平な菱形で頭部先端の両側にはイトマキエイと同様頭鰭がありプランクトン食に対応している為口は頭の正面に開く。
基本的に背中は白色と黒色で鰭先が白く背中全体に模様があり腹側は白色で斑点模様がある[4][5]。
背中の模様が曲線的(Y字型)で口元は白く鰓を含めた腹部全体に様々な無彩色の斑点模様があり、この腹部の模様で個体識別が可能である。また歯並びは細くまばらに並んでいる[6]。
体盤幅3mを超える個体が多く大型のエイのため天敵は少なく捕食される心配は殆どないが、大型のサメや鯨類に襲われヒレが欠けた個体も稀に目撃されている[7][8]。
稀に全身黒色の個体が見られ、ブラック・マンタと呼ばれている。オーストラリアのグレート・バリア・リーフでは全身ピンク色の体盤幅3.4mほどのオスのナンヨウマンタが目撃されている。全身ピンク色で映画「ピンクパンサー」に登場するクルーゾー警部に見立てて「クルーゾー警部」と呼ばれる。遺伝子変異が原因と見られており、おそらく全世界で唯一ピンク色の個体とされる[9]。
分類[編集]
ナンヨウマンタはかつてオニイトマキエイ(Manta birostris)と混同されていたが、2009年12月、和名オニイトマキエイと呼ばれていた種は実は2種に分類できるという研究論文が発表され、それぞれの種に「Manta birostris」「Manta alfredi」の学名が与えられた[5]。
これを受け、沖縄美ら海水族館、海遊館、エプソン品川アクアスタジアム(現:アクアパーク品川)がそれぞれの飼育個体について調査した結果、飼育している種は「Manta birostris」ではなくそれまでシノニムとされてきた「Manta alfredi」と判明し、この種の和名に「ナンヨウマンタ」を用いることとした。この種の和名としては「ナンヨウマンタ」のほかに「リーフオニイトマキエイ」が提唱されたが[10]、日本魚類学会によって「ナンヨウマンタ」が標準和名とされた[11]。
また近年、ナンヨウマンタ含むオニイトマキエイ属(Manta)はイトマキエイ属(Mobula)に再分類された為、学名が「Mobula alfredi」に変更され、それまで使われていた学名はシノニム「Manta alfredi」とされた[3]。
生態[編集]
食性は濾過食で、口を開けて海水と一緒にプランクトンを吸い込み、宙返りのように上下の旋回行動で濾しとって食べる。またこの方法以外にも集団で大きな円を描き食事する、ペアのマンタが重なり合って食事する[12]といったが行動などが確認されており、プランクトンの捕食の仕方には様々なパターンがあるとされる[13]。
ニューカレドニア大学などの調査では、餌を求めて水深672メートルまで潜った個体が観察されている[14]。
体についた汚れや食べ残しや、寄生虫などを食べもらう為数匹のホンソメワケベラやコバンザメやブリモドキなどの小魚を従えていることが多い。また、鰭に噛み付いたり群れの中でメスをオスが追いかけ回して求愛行動をするため鰭先にマンタの噛み跡があるメス個体も多く確認されている。
脳化指数が非常に高く、脳の質量と体重の比率は魚類の中で最大級である[15]。さらにオーストラリアの研究でナンヨウマンタは相互関係のある個体同士で友情を築き、そうした個体同士で集まってグループをつくることが明らかになった[16]。インドネシアのラジャ・アンパット海洋公園にて研究チームが複数の群れを追跡調査した結果、グループは偶然出くわした個体と群れている訳ではなく知っている個体と付き合い、そうした個体との集団を作り行動するものと判明した。これは擬人化して例えると「友達を作り集団で行動する」という、魚類の中でも複雑で特異な社会性を持つことを示してる[17]。また、豪州沖で目の下に釣り針が引っかかったナンヨウマンタがダイバーを認識し助けを求めた事例が報告されている[18]。
卵胎生で、妊娠期間は12ヶ月前後、仔魚は子宮内で未受精卵(弟か妹)や脂質子宮液「子宮ミルク」を栄養源に成長し、総排出腔から一度に1 - 2尾の仔魚を産む。仔魚は産まれたときすでに体盤幅1m以上あり、美ら海水族館で産まれた第1仔は体盤幅がおおよそ1.9mあった[19][20]。10年前後で成熟し、寿命は40年前後とされているが調査によると50歳以上生きると言う説もあり、詳しくは分かっていない[21][22]。
人との関わり[編集]
ナンヨウマンタのような大型魚類を飼うにはかなりの広いスペースが必要となり、飼育例も多くはないが大型水槽が普及するにつれ、長期の飼育・展示することも可能になってきている。 現在ナンヨウマンタは日本国内では沖縄美ら海水族館と、アクアパーク品川で[23]飼育されている。沖縄美ら海水族館では2015年にナンヨウマンタの黒化個体である「ブラックマンタ」の飼育展示を開始した[24]。
過去には海遊館と大分マリーンパレス水族館(うみたまご)でも飼育されていた。うみたまごでは2012年に飼育を開始したが運搬時の傷が原因で展示から18日で死亡した[25]。海遊館は1994年からナンヨウマンタの飼育を開始したが1999年から長期間飼育されていた個体が2013年に病死して以降搬入記録はない[26]。
2007年6月17日、沖縄美ら海水族館で飼育されていたマンタが、第1仔であるメスの赤ちゃんを出産した。飼育環境下での出産は世界初といわれ、生態の研究が進むものと期待されていたが、父親個体の鰭による接触の打撲や追いかけられた際水槽の壁にぶつかり生じた傷などが原因で衰弱し、海上生簀に移されたが4日後の6月21日の朝に死亡が確認された[27]。なお、同水族館では2008年6月17日、2009年6月24日、2010年6月26日、2011年6月24日[28][29][30]と第2仔から第5仔の出産を立て続けに成功しているが2012年5月13日に第6仔を死産した。翌年の2013年にも妊娠が確認されたが2013年5月31日に容体が急変、異常な遊泳の後着底し子宮ミルクを大量に排泄し始めた。出産間近だったこともあり第7仔は人為的に取り上げられたが母親個体は当日心停止が確認された。その後海上生簀にて第7仔の治療に専念したがその甲斐なく三日後に死亡が確認された[31]。
性格はおとなしく好奇心旺盛で人懐っこいためダイバーからの人気は非常に高い[32]。
ナンヨウマンタの肉や鰭、肝臓が東洋医学など特定の分野のマーケティングに用いられることから人間よる乱獲で過去20年間で大幅に減少しIUCNの絶滅危惧種のレッドリストで絶滅危惧Ⅱ類 (VU)にランクされておりワシントン条約の附属書IIにも掲載されている。さらに妊娠期間が長く一回の産仔数が少ない為繁殖率が低く数は回復せず特定の地域では減少傾向にあり、このまま個体数が減り続けると自然に個体数が増えることは困難と思われる[33]。
脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
- ↑ a b A. Marshall; T. Kashiwagi; M. B. Bennett; M. Deakos; G. Stevens; F. McGregor; T. Clark; H. Ishihara et al. (2011). “Mobula alfredi”. IUCN Red List of Threatened Species 2011.
- ↑ “Manta alfredi (Krefft, 1868) ナンヨウマンタ”. BISMaL. 国立研究開発法人海洋研究開発機構. 2021年1月6日確認。
- ↑ a b “Mobula alfredi (Krefft, 1868)”. fishbase.se. 2021年1月6日確認。
- ↑ “Manta Ray Anatomy”. mantaray-world.com. BioExpedition Publishing. 2021年1月6日確認。
- ↑ a b 佐藤圭一、内田詮三、西田清徳、戸田実、小畑洋、松本葉介、北谷佳万、三浦晴彦「南日本におけるオニイトマキエイ属(Genus Manta)2種の記録と分類,同定および標準和名の提唱」、『板鰓類研究会報』第46号、日本板鰓類研究会、2010年、 11-19頁。
- ↑ “Redescription Of The Genus Manta With Resurrection Of Manta Alfredi (Krefft, 1868) (Chondrichthyes; Myliobatoidei; Mobulidae)”. Zootaxa (Magnolia Press) (2301): 1-28. (2009). .
- ↑ Anthony J Richardson; Asia Armstrong; Amelia Armstrong (2019). “Rapid wound healing in a reef manta ray masks the extent of vessel strike”. PLoS ONE 14 (12): 5. .
- ↑ A. D. Marshall; M. B. Bennett (2010). “The frequency and effect of shark-inflicted bite injuries to the reef manta ray Manta alfredi”. African Journal of Marine Science 32 (3): 573-580. .
- ↑ “ピンクのマンタが撮影される、世界でおそらく唯一 ピンク色は本物、遺伝子変異エリスリズムが原因か”. natgeo.nikkeibp.co.jp. 日経ナショナルジオグラフィック社 (2020年2月13日). 2020年2月13日確認。
- ↑ 伊藤隆、柏木努「日本産オニイトマキエイManta birostrisとリーフオニイトマキエイ(新称)M. alfredi:形態と遺伝的同定の報告と新標準和名の提唱」、『板鰓類研究会報』第46号、日本板鰓類研究会、2010年、 8-10頁。
- ↑ 遠藤広光 (2013年2月26日). “日本産魚類検索全種の同定 第三版の情報”. fish-isj.jp. 一般社団法人日本魚類学会. 2021年1月6日確認。
- ↑ こうした捕食行動はナンヨウマンタにのみ確認されている
- ↑ “MOBULID BEHAVIOURAL ECOLOGY”. mantatrust.org. The Manta Trust. 2021年1月6日確認。
- ↑ “ナンヨウマンタ、最深記録 ニューカレドニアで672メートル ―夜に餌探しか”. jiji.com. 株式会社時事通信社 (2020年4月4日). 2021年1月6日確認。
- ↑ “Manta Rays”. nationalgeographic.com. 2021年1月6日確認。
- ↑ “マンタも友情を築く、実は海の社交家? 3400回のマンタとの遭遇を記録、600匹の個体を識別し、データベース化”. natgeo.nikkeibp.co.jp (2019年9月2日). 2021年1月6日確認。
- ↑ “仲良しグループが集まってわいわいガヤガヤ。まるで人間のようなマンタの生態が明らかに(オーストラリア研究)”. news.nicovideo.jp (2019年9月9日). 2021年1月6日確認。
- ↑ “釣り針の刺さったマンタ、ダイバーに助け求める 豪州沖で撮影”. CNN.co.jp (2019年7月13日). 2019年7月13日確認。
- ↑ 報道ではオニイトマキエイとなっているが、当時は本種と混同されていた
- ↑ “美ら海水族館でマンタの赤ちゃん誕生、飼育下では世界初”. afpbb.com. 株式会社クリエイティヴ・リンク (2007年6月20日). 2021年1月6日確認。
- ↑ Tomita, T.; Toda, M.; Ueda, K.; Uchida, S.; Nakaya, K. (2012). “Live-bearing manta ray: how the embryo acquires oxygen without placenta and umbilical cord”. Biology Letters 8 (5): 721–724. .
- ↑ Marshall, A. D.; Bennett, M. B. (2010). “Reproductive ecology of the reef manta ray Manta alfredi in southern Mozambique”. Journal of Fish Biology 77 (1): 185–186. .
- ↑ “館内のご案内”. aqua-park.jp. 株式会社横浜八景島. 2021年1月6日確認。
- ↑ “日本初!『ブラックマンタ』展示開始!!”. churaumi.okinawa. 沖縄美ら海水族館 (2015年12月21日). 2021年1月6日確認。
- ↑ 『海に魅せられた50年 「マリーンパレス」の40年と「うみたまご」の10年』 マリーンパレス50周年記念誌編纂委員会、株式会社マリーンパレス、2015年、57頁。
- ↑ 西田清徳「やわらかい骨を持つ魚の話(軟骨魚類博物誌)【7】」、『かいゆう』第27号、株式会社海遊館、2016年3月30日、 27頁、 。
- ↑ “沖縄のマンタの赤ちゃん、5日足らずで死亡”. br.reuters.com (2007年6月22日). 2021年1月6日確認。
- ↑ “美ら海水族館 マンタの赤ちゃん生まれる”. qab.co.jp. 琉球朝日放送株式会社 (2008年6月17日). 2021年1月6日確認。
- ↑ “美ら海水族館 3年連続でマンタ出産”. qab.co.jp. 琉球朝日放送株式会社 (2009年6月25日). 2021年1月6日確認。
- ↑ 『沖縄美ら海水族館年報』第8号、一般財団法人沖縄美ら島財団、2012年、 4-7頁。
- ↑ 『沖縄美ら海水族館年報』第10号、一般財団法人沖縄美ら島財団、2014年、 22頁。
- ↑ “Are Manta Rays Dangerous ?”. mantarayisland.com. The Mantaray Island Resort (2017年8月4日). 2021年1月6日確認。
- ↑ “Gill Plate Trade”. The Manta Trust. 2016年6月25日確認。