ドル三部作
ドル三部作(ドルさんぶさく、イタリア語:Trilogia del dollaro、英語:Dollars Trilogy)は、クリント・イーストウッド主演、セルジオ・レオーネ監督、エンニオ・モリコーネ音楽のマカロニ・ウエスタン3作品『荒野の用心棒』(1964年)、『夕陽のガンマン』(1965年)、『続・夕陽のガンマン』(1966年)の通称。名無し三部作、名無しの男三部作(イタリア語:Trilogia dell'uomo senza nome、英語:Man with No Name Trilogy)とも。ドル三部作の呼称は『荒野の用心棒』と『夕陽のガンマン』の原題に「ドル」が入っていることによる[1]。日本ではドル箱三部作と呼ばれることが多く、多額の興行収入を上げたことによると説明されることがある。
レオーネが意図したわけではないが、3作品ともイーストウッド演じる通称「名無しの男」が主人公であるため、3部作とみなされるようになった。アメリカの映画配給会社ユナイテッド・アーティスツが3作品を3部作としてアメリカの映画市場に売り込むため、「名無しの男」のコンセプトを考案した。「名無しの男」は『荒野の用心棒』では「ジョー」、『夕陽のガンマン』では「モンコ」、『続・夕陽のガンマン』では「ブロンディ」とそれぞれ呼ばれている。
3作品のストーリーや登場人物に繋がりはないが、『続・夕陽のガンマン』は前日譚であると解釈されることがある。『続・夕陽のガンマン』は南北戦争(1861-1865)下が舞台であること、主人公が前2作で着ていた青いシャツ・ベスト・テンガロンハットやポンチョを入手していること、『夕陽のガンマン』の登場人物ダグラス・モーティマー大佐(リー・ヴァン・クリーフ)が元南軍兵士であること、『荒野の用心棒』に1873年と刻まれた墓石が登場すること、前2作ではコルト・シングル・アクション・アーミー(1873年製造開始)が使用されていることによる。
『荒野の用心棒』は20万ドルという低予算で製作されたにもかかわらず[1]、世界的に大ヒットし、マカロニ・ウエスタン(欧米ではスパゲッティ・ウエスタン)の一大ブームを巻き起こした[2]。1972年までに400本以上のマカロニ・ウエスタンが量産された[2]。マカロニ・ウエスタンはフロンティアスピリットや勧善懲悪を無視したストーリー、ニヒルであったり悪党であったりする主人公、過激な暴力描写、現実離れした設定、娯楽性の重視などを特徴としている。ドル三部作はイタリア製西部劇をマカロニ・ウエスタンという一つのジャンルとして確立した作品、西部劇およびマカロニ・ウエスタンの代表的な作品として知られる。
レオーネがドル三部作の後に監督した『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』(1968年)、『夕陽のギャングたち』(1971年)、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(1984年)の3作品は「ワンス・アポン・ア・タイム三部作」と呼ばれる。娯楽性の高いドル三部作に対し、「ワンス・アポン・ア・タイム三部作」はガンマンやギャングを通してアメリカの歴史を描いた叙情詩的な作品である。セルジオ・コルブッチ監督の『続・荒野の用心棒』(1966年)、ジュリオ・ペトローニ監督の『新・夕陽のガンマン/復讐の旅』(1967年)は日本の配給会社がつけた邦題であり、ドル三部作とは無関係の作品である。
- 伊題:Per un pugno di dollari(一握りのドルのために)、英題:A Fistful of Dollars(一握りのドル)
- 脚本:ヴィクトル・A・カテナ、ハイメ・コマス、セルジオ・レオーネ
- 出演:クリント・イーストウッド、ジャン・マリア・ヴォロンテ、マリアンネ・コッホほか
- 上映時間:96分(カット版)、99分(完全版)
- 製作国:イタリア、スペイン、西ドイツ
- 公開日:イタリア:1964年9月12日、日本:1965年12月25日、アメリカ:1967年1月18日
- 備考:黒澤明監督の『用心棒』(1961年)のリメイク作品。
- 伊題:Per qualche dollaro in più、英題:For a Few Dollars More(もう数ドルのために)
- 脚本:ルチアーノ・ヴィンチェンツォーニ、セルジオ・レオーネ
- 出演:クリント・イーストウッド、リー・ヴァン・クリーフ、ジャン・マリア・ヴォロンテ、クラウス・キンスキーほか
- 上映時間:130分(イタリア版)、132分(アメリカ版)
- 製作国:イタリア、スペイン、西ドイツ
- 公開日:イタリア:1965年12月18日、日本:1967年1月20日、アメリカ:1967年5月10日
- 伊題:Il buono, il brutto, il cattivo、英題:The Good, the Bad and the Ugly(「善玉、悪玉、卑劣漢」または「善い奴、悪い奴、汚い奴」。伊題は2番目と3番目の順番が入れ替わっている)
- 脚本:フリオ・スカルペッリ、セルジオ・レオーネ、ルチアーノ・ヴィンチェンツォーニ
- 出演:クリント・イーストウッド、リー・ヴァン・クリーフ、イーライ・ウォラックほか
- 上映時間:162分(国際版)、178分(完全版)
- 製作国:イタリア、スペイン、西ドイツ
- 公開日:イタリア:1966年12月23日、日本:1967年12月23日、アメリカ:1967年12月29日
- 備考:日本初公開時のタイトルは『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』。VHS発売時に『続・夕陽のガンマン』に改められた。
出典[編集]
- ↑ a b 中村聡史「名無しのガンマン,俳優クリント・イーストウッドの相貌 : 「ドル3部作」と『荒野のストレンジャー』を中心に」『人文論究』第57巻第1号、2007年
- ↑ a b 改訂新版 世界大百科事典 「マカロニウェスタン」の意味・わかりやすい解説 コトバンク