ダイハツ工業による不正認証事件
ダイハツ工業による不正認証事件とは、2023年4月以降にダイハツ工業による自動車の型式認証において多くの不正が明らかになった事件である。きっかけは2023年における側面衝突試験の不正であり、第三者委員会の調査の結果25の試験項目における174の不正が判明した。ダイハツはトヨタ自動車の完全子会社であり、同社から受諾生産車やOEM車を多数製造しているほか、トヨタ自動車の関連会社であるSUBARUにもOEM供給しているため不正があった車種・車両は相当数に上ると見込まれている。
概要[編集]
2023年4月、ダイハツが海外向けに生産していた3車種と開発中の1車種について、衝突安全性にかかわる側面衝突試験についての不正があったと外部機関へ内部通報があった。外部機関から指摘があったダイハツが社内調査を行った結果、ドアトリムを不正に加工していることが判明。衝突の衝撃でドアトリムが破損した場合でも鋭い突起などが発生しないという基準があったものの、衝突試験に確実に合格できるようドアトリムに切り込みを入れるなどの加工を行い試験を受けたものである。いわゆる型式認定は量産車と同様の車両で行うものであり、量産状態とは異なる状態で認証を受けることは不正申請に該当するものである。
このドアトリム不正を受け、事態を重く見たダイハツが第三者委員会を設置。並行して行われた社内調査にて日本国内向けに販売されていたダイハツ・ロッキーHEVとOEMであるトヨタ・ライズHEVの2車種において新たな不正が発覚した。ポール側面衝突という電柱を模したポールに試験車両を側面から衝突させる試験であり、助手席側と運転席側の両方で試験を実施する必要があるものである。しかし、助手席側は試験を実施したものの運転席側の試験を実施せず、助手席側のデータを提出したものであった。これを受けてダイハツは2023年5月に同車種の側面衝突試験を実施。基準に合った衝突性能であることを確認して公表した。
相次ぐ不正発覚を受け、ダイハツから第三者委員会に対して不正の事実確認に加えて調査範囲を拡大しその他の不正がないか調査されるに至った。
2023年12月20日、第三者委員会からの調査報告書が公開され、認証にかかる25の試験で174個の不正が発覚。現行生産車種と開発中の自動車を含む全車種と一部の生産終了車で不正があったことが明らかになった。なお、142の不正行為のうち141件については基準や諸元に適合していることがダイハツの検証により確認された。1件については不適合の虞があり原因が調査されている。これを受けた国土交通省はダイハツに対し出荷停止の指示を行ったほか、ダイハツへの立ち入り検査を決定。ダイハツは同日付で国内外における全車種の出荷を一時停止した。
不正の種類[編集]
調査委員会によると今回の不正は3つの類型に分類されるとしている。
- 不正加工・調整類型
- 虚偽記載類型
- 元データ不正操作類型
いずれにしても認証試験に合格するために行われたものであり、不正を行わなくても試験に合格できるものもあったとされている。一方で短い開発期間や硬直したスケジュールにおける合格へのプレッシャーはすさまじいものであり、スケジュールを乱す要因はすべてNGとされている風潮があったといわれている。
- 不正加工・調整類型
試験合格や諸元値の再現のため、試験車両に特別な加工や調整を行ったものである。 本調査が行われるに至った契機であるドアトリム不正などが含まれているほか、本来はECUにより展開するエアバッグをタイマーにより展開していたという不正もある。 1994年にはポート研磨・シリンダーヘッド面研磨・スロットル大径化・専用カムシャフト・ハイオクガソリン仕様化・専用ECU装着など、まるでチューニングカーのような不正も行われていた。むしろこの仕様で販売してほしかったという声も聞かれたほどである。
- 虚偽記載類型
実験報告書から試験成績書へ虚偽の転記を行い、試験に合格できる性能であることを証明できるような書類を作成して認証を受けたものである。前述のポール側面衝突不正などが該当する。
- 元データ不正操作類型
試験に行われるデータを都合のいい結果にするため改ざんしたりする行為である。衝突における衝撃を計測する加速度計の校正値を操作し、実際の数値よりも少なく見せることなどが行われていた。
原因[編集]
大きな原因としては前述の短い開発期間とそれを遵守しなければいけないという風土が大きいとされている。短い開発期間は他社との差別化であったものの、過度なプレッシャーにもつながっていたとされる。特にダイハツ・ミライースは短期間で開発しヒットしたことからダイハツ内部での成功体験になっていたとされ、短期開発が至上であるという風土の醸成につながったとされている。また、現場サイドと管理側の分断(現場サイドへの過度なプレッシャー)も一つの要因であるとされている。